ficus.life/趣味
目次▼
「集中が戻るまで23分」の出どころは、インタビュー記事だった

「集中が戻るまで23分」の出どころは、インタビュー記事だった

「通知で途切れた集中は23分で戻る」の数字は2006年のインタビュー発言で、論文の値は別だった。机のスマホの追試、SNS断ち実験の割れた結果、日本の利用時間を、原典にたどった。

TOMOAKI··趣味

「23分」は、私が当たった論文に出てこない数字だった

通知で途切れた集中力は、元に戻るまで23分かかる。スマホ関連の記事で、これほどよく見かける数字も少ない。出どころとして挙がるのは、カリフォルニア大学アーバイン校の情報科学者、グロリア・マークの名前だ。名前がついているぶん、数字は査読論文の裏づけがあるように見える。

数字の出どころは、私が当たった2本の論文(2005年と2008年)ではなく、2006年6月にGallup Business Journalに載った、マークへのインタビュー記事だった。そこで「23分15秒」という数字が語られている。インタビューでは、中断された作業が同じ日のうちに再開された割合を81.9%とも述べている。同じ著者の論文には、よく似た数字が別の形で出てくる。2005年にCHI(人間とコンピュータの相互作用の学会)で発表した、24人・700時間を超える情報労働者の観察研究では、同じ日のうちに再開された割合が77.2%で、再開までの平均は25分26秒、標準偏差は54分48秒だった。インタビューでマークは、36人を3日間追跡した研究だと説明していて、論文の24人とは人数が違う。数字がずれる理由は、確認できなかった。マークがこの別の分析を、ほかの論文にまとめている可能性は残る。

数字の中身にも注意がいる。これは「集中が元に戻るまでの時間」ではなく、「中断された作業を、同じ日のうちに再開するまでの経過時間」だ。標準偏差は平均の2倍以上あり、平均はあまり典型的な値ではない。同じ研究で、作業の領域は平均およそ11分で切り替わり、57%が中断されていた。中断された作業に戻るまでに、平均2.26個の別の作業が挟まる。数字はあくまで、忙しい職場の断片的な働き方の記述で、通知を一回受けたときの回復時間の測定ではない。

通知やメールの後の復帰時間を、もう少し直接に測った研究もある。2007年にイクバルとホルヴィッツが、マイクロソフト社内の27人のコンピューターに記録ツールを入れて、2週間、2,267時間を追った。メール通知のあと、中断されたアプリに戻るまでが平均9分33秒(インスタントメッセージは8分)。そこから、メールに即応した場合の、中断前の状態に戻るまでの時間が、さらに16分33秒だった。記事の側で単純に足すと、おおよそ26分になる。論文自身は、合計を出していない。通知で離れた作業の27%は、2時間以上再開されなかった。「戻る」の定義が論文ごとに違うので、23分とは単純に比べられない。

では、中断によって、仕事の中身は悪くなるのか。2008年のマークらの実験が、意外な結果を出している。48人が、人事担当という設定でメール12通に返信する。約2分おきに電話やメッセージで「上司」から質問が入る条件と、入らない条件を比べた。作業時間(中断対応を除く)は、中断なしで22.77分、中断ありで20.31分と20.60分。中断された条件のほうが、速かった。代わりに、ストレスの自己評価(20点満点)が、6.92から9.46と9.13に上がった。中断に対して、人は速く書くことで埋め合わせ、そのぶんストレスを払う。集中が切れて遅くなる、という通俗的な像とは、逆の形をしている。

「注意の残留」という名前をつけたのは、経営学者のソフィー・ルロワだ。2009年にOrganizational Behavior and Human Decision Processesに発表した論文で、ある作業から別の作業へ移っても、注意の一部が前の作業に残り、次の作業の成績が下がる、と報告した。2つの実験による、というところまでは確認できたが、人数と効果量は確かめられていない。2018年のルロワとグロムの4つの研究では、元の作業に戻るときの時間の切迫を予想すると、中断した作業に注意が残り、成績が下がる。「戻るためのメモ」を短く書くと、その影響が和らぐという。ここで測られているのは、次の課題の成績で、回復に何分かかるかではない。

机の上のスマホは、本当に頭を使わせているのか

もう一つ、よく引用される実験がある。2017年のウォードらの「Brain Drain(頭脳の流出)」だ。スマホの電源を切って、触らず、通知も来ていなくても、そこにあるだけで、使える認知資源が減る、という主張になる。実験は2つで、実験1が520人、実験2が275人、合わせて795人(この人数は二次情報による)。スマホを別室、バッグ、机の上に置く条件を比べた。

別室の条件が机の上の条件より11.2%高い成績で、ポケットやバッグとの差が2.3%、という百分率も見かける。この二つの数字は、私が探した範囲では、どの資料にも見つからなかった。原論文の平均値の表で確かめるまで、数字としては書かない。二次情報では、バッグやポケットの条件は、別室とも机の上とも有意差がなかったとされる。75.9%の参加者は、スマホの場所が成績に影響したと思わなかったと回答した、という報告もある。

この実験は、その後、追試が重ねられた。2022年のActa Psychologicaに載った、ルイス・パルドとミンダの事前登録の再現研究は、ウォードの実験2と同じ課題と条件(6条件)で行われ、作業記憶の課題でも、反応抑制の課題でも、場所による差はなかった。人数は、メタ分析の付録から約511人と読めた。2020年のハルトマンらは302人で、差なし(p=.676)。2022年のシュヴァイガーとタヒルは154人で、単純な課題では差がなく、複雑な注意課題ではスマホがあると難しくなった、という二次情報がある。

全体を束ねたメタ分析は、割れている。2023年のベットガーらは22の研究、43の効果量をまとめて、全体で小さな負の効果(g=−0.14)を見つけたが、有意なのは記憶の領域だけ(−0.23)で、注意の領域は有意ではなかった(−0.07)。2024年のハルタントらは33の研究、4,368人で、効果量d=−0.02と、ほぼゼロだった。大規模な共同追試は見つからなかった。

通知だけで、人は間違えやすくなる、という研究もある。2015年のストザートらは、スマホに通知を受けた群が、課題でより多く間違えたと報告した。二次情報では、166人、間違いの確率は3倍と伝えられているが、その数字が何を指すのかは、原論文で確かめていない。通知や中断が作業を乱すことは、実測と実験の両方で報告されている。ただ「机に置いてあるだけで落ちる」とは、別の問題になる。

止めてみたとき、何が変わったのか

では、実際にSNSやスマホを止めたり減らしたりすると、どうなるのか。介入研究は、割れている。

代表的なのは、2020年のアルコットらの実験だ。2018年のアメリカの中間選挙の前に、Facebookを4週間止めた。広告経由で募集し、「いくらなら4週間やめるか」を先に聞いた。提示額を102ドルと0ドルに無作為に振り分け、効果の推定は、102ドル未満でやめると答えた1,661人による。幸福度の総合指標は0.09標準偏差よかった。人生満足度は0.12、不安は0.10、抑うつは0.09。論文の著者らは、これを心理的な介入(ポジティブ心理学のメタ分析)の効果の約25〜40%の大きさ、と見積もっている。元の単位に戻すと、地味な数字になる。幸福感は7点満点で、対照群が4.47、停止群はそれより0.12高い。人生満足度は21点満点で、対照群が12.26、停止群は0.56高い。統計的には有意で、実験としては大きな規模だが、日常の感覚で気づく大きさかどうかは、別の問題になる。

時間の数字も出ている。停止群は、1日あたり約60分が空き、そのぶんテレビを一人で見る、家族や友人と過ごす時間が増えた。代わりに、ニュースの知識は0.19標準偏差下がった。政治的な意見の分極も、0.16標準偏差下がった。そして、実験が終わって9週間後も、停止群の5%はアカウントを停止したままだった(対照群でも2.5%いた)。数週間後の自己申告では、Facebookの利用も、対照より約11分(22%)少ないままだった。ただし、iPhoneの設定アプリの記録を書き写して報告した人に絞ると、減少は半分未満で、有意ではなかった。論文は、幸福度の数字より、やめた後の使い方の変化のほうが大きいと評価している。今後の利用予定やアカウント再開の速さを含む総合指標は、0.61標準偏差低かった。

一方で、同じ種類の実験が、別の結果も出している。2018年のハントらは、ペンシルベニア大学の学部生143人を、Facebook、Instagram、Snapchatを各10分、合計約30分に制限する群と、普段どおりの群に割り付けた。3週間後、制限群で孤独感と抑うつが減った。ところが、不安と取り残される不安(FOMO)は、制限群だけでなく、対照群でも減っていた。測られていること自体の効果、つまり自己観察の効果かもしれない、と著者は読んでいる。

2021年のホールらは、130人を5条件(変更なし、1〜4週間の停止)に割り付けて、日記で孤独感やウェルビーイングを測った。停止の主効果はなく、停止期間の長さも結果と関係しなかった。2022年のランバートらは、154人を、SNS(Facebook、Instagram、Twitter、TikTok)を1週間止める群と普段どおりの群に分け、ウェルビーイングが+4.9点、抑うつが−2.2点、不安が−1.7点という群間差を報告した。ウェルビーイング、抑うつ、不安の尺度は、それぞれWEMWBS、PHQ-8、GAD-7だ。利用時間は、自己申告のベースラインで週500分前後あった。アプリで実測できた人では、介入の1週間の利用が、介入群(52人)で週28分、対照群(41人)で週580分だった。ほぼ全部やめていたことになる。ただ、休止を嫌がる人は参加していない可能性があると、著者自身が書いている。

止める代わりに、少し減らすだけの介入も試されている。2020年のブライロフスカヤらは、ドイツのFacebook利用者を、1日20分減らす群140人と、対照群146人に分け、2週間続けてもらった。5つの時点で測ると、減らした群は人生満足度が上がり、抑うつ症状が下がり、運動の頻度が増え、1日の喫煙本数も減った。効果は3か月後も続いていた、と報告されている。自己申告のオンライン調査で、参加者は自分で「減らす」ことを引き受けた人たちだ。メタ分析の中にも、減らす介入のほうが、断つ介入の約2倍の効果量だった、というものがあるが、その差は有意ではなかった。

悪い方向に動いた指標もある。2018年のヴァンマンらは、Facebook利用者138人を、5日間停止する群と通常利用の群に分けた。唾液のコルチゾールは停止群で下がった(d=0.41)。ところが、人生満足度は、対照群が上がり、停止群は横ばいからやや下がって、群間で差がついた(d=0.54)。本人が感じるストレスの尺度には、条件による差がなかった。体の指標は楽になったのに、本人の感覚にはそれが現れず、満足度は停止群のほうが低かった。

こうした研究を束ねた2022年のラトケらのレビューは、21の研究、3,625人、うち無作為化比較試験は12。効果は研究によってばらつき、良い効果、効果なし、ウェルビーイングへの悪影響まで混在していた。質が高いと評価されたのは、21研究のうち6つだった。その後のメタ分析も、結論が割れている。2025年のメイらは、RCT 10本、1,491人で、抑うつ症状の軽減がg=0.25と報告した。同じ年のルマイユらは、10の研究、4,674人で、肯定的感情、否定的感情、人生満足度のいずれにも有意な効果がなかった。止めると良くなる、という話は、どの指標で測るか、どの研究を含めるかで、結論が変わる。

さらに、そもそも止められるのか、という問題もある。2025年のカステロらは、467人を無作為化し、2週間、モバイルインターネットを遮断した(電話とSMSは使える)。画面時間は1日314分から161分に減り、持続的な注意(d=0.24)、メンタルヘルス(d=0.57)、主観的なウェルビーイング(d=0.46)の指標も改善した。睡眠は、両群を合わせた前後比較で、7.10時間から7.39時間に延びた。これらは前後比較の効果量で、群間の効果量とそのまま並べることはできない。そして、規定どおりに遮断できたのは、467人のうち119人、25.5%にとどまる。止められない、ということも、結果の一部に入っている。

ドーパミンやDMNの言説に、実験の裏づけは見つからなかった

「デジタルデトックス」の記事は、ドーパミンやデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)といった脳科学の言葉を伴うことが多い。ドーパミン・デトックス(ドーパミン断食)という言い方は、2019年8月に、カメロン・セパが書いたLinkedInの記事で広まったとされる。この記事の原文は、私は取得できなかった。ハーバード・ヘルスなどの二次資料によると、セパ自身の主張は、ドーパミンを下げることではなく、認知行動療法に基づいて、衝動的な行動を抑えることにある。「名前は誤解を招く」という趣旨の発言もしている。

神経科学の側から言うと、ドーパミンは「快楽の物質」ではない。1997年のシュルツらの研究は、霊長類のドーパミン神経が、予想した報酬と実際の報酬のずれ、つまり予測誤差を符号化していることを示した。2016年のベリッジとロビンソンの総説は、「欲しがること」と「好むこと」が別の回路で、後者はドーパミンに依存しないと論じる。2012年のサラモンとコレアは、側坐核のドーパミンを「報酬ニューロン」と呼ぶのは一般化しすぎで、努力や接近行動などの動機づけに関わる、と整理している。

スマホやSNSの利用中にドーパミンが出ているかどうかを、直接測った人間の研究は、私が探した範囲では見つからなかった。間接的な研究はある。2025年のシュミットゲンらは、25人(18〜30歳)の72時間のスマホ利用抑制の前後に、スマホの画像を見せて脳活動を調べた。抑制後に、前部帯状皮質と側坐核の反応が強まった。ただし、ドーパミンとの関連は、受容体の確率マップとの照合によるもので、ドーパミンを直接測ったものではない。対照群もない。

DMNについては、デジタルデトックスでDMNが活性化することを、無作為化試験で示した研究は、見つからなかった。DMNは、2001年のライクルらの論文で、課題をしていないときに活動が相対的に高い脳領域の集まりとして示された概念だ。「何もしないと活性化する」という通俗の理解を、そのまま支える論文ではない。「ないことの証明」ではない。ただ、出典を辿れない、という点は変わらない。

通知、寝室、色を抜く、という小さな工夫

止めるのではなく、使い方を変える介入もある。2015年のクシュレフとダンの実験は、124人が、1週間はメールの確認を1日3回までに制限し、別の1週間は無制限に過ごした。制限した週のほうが、1日ごとのストレスが低かった(d=.37)。メールに気を取られる感覚の差は、d=.51だった。これは学生でだけ見られ、地域住民では差がなかった。ストレスの差は、両者で変わらなかった。1週間を振り返ったストレスには、差がなかった。2019年のフィッツらのフィールド実験は、237人を、通知が普段どおり、1日3回にまとめる、まったく通知なし、の3条件に割り付けた。まとめる群は、注意力、気分、スマホを自分で制御できている感覚がよく、ストレスも低かった。通知を完全に切った群は、そうした利点があまりなく、不安と取り残される不安が高かった。「切る」より「まとめる」のほうが、少なくともこの実験ではよかった。

通知を切って端末を遠くに置いた週と、通知をつけて手元に置いた週を比べた2016年のクシュレフらの実験もある。190人の分析で、不注意の自己評価は、通知オフの週が2.27、オンの週が2.38だった。効果量はd=.44とされるが、生の差は約0.1点にすぎない。非臨床の自己申告で、ADHDの診断を意味しないことは、著者自身が書いている。

寝室にスマホを持ち込まない介入は、2018年のヒューズとバークの1週間の研究がある。幸福感、生活の質、スマホ依存の尺度のうち3つが改善したが、効果は小さい。改善は、介入群の前後比較によるものだ。睡眠そのものは測っていない。睡眠を客観的に測った無作為化試験は、見つからなかった。

画面をグレースケールにする介入は、2023年にオンライン公開されたデッカーとバウムガルトナーの研究が、84人で1週間試した。画面時間は1日あたり20分減ったが、ロック解除の回数は変わらなかった。スマホを自分で制御できている感覚は増し、ストレスは減ったが、生産性と睡眠の質には影響がなかった。対照群はない。色を抜いても、確認する癖は残る。

日本の数字は、何を測っているのか

日本のデータも、見ておく。総務省情報通信政策研究所の令和6年度の調査(13〜79歳1,800人、2024年12月の日記式調査)では、ネットの利用時間が平日181.8分、休日183.7分だった。休日は、ネットの利用時間が、リアルタイムのテレビ視聴(182.7分)を1分ほど上回った。10代の平日の動画投稿・共有サービスは116.0分。ネット依存傾向(8項目のうち5項目以上)に当てはまる人は、全年代で5.7%、10代で23.6%だった。

久里浜医療センターの令和6年度の全国調査(10〜80歳、有効回答4,650票)では、ネットの病的使用の疑いが、全体で6.2%、10〜29歳で14.5%だった。10〜29歳では、2018年度の6.2%から14.5%に増えているが、報告書自身が、調査の方法の違いから、年度の単純な比較に注意を促している。もう一つ意外な数字がある。疑いに該当した人の約1割は、平日のネット利用が2時間未満だった(1時間未満と1〜2時間の合計が9.8%)。時間の長さだけでは、問題は決まらない。

NHKの「メディア利用の生活時間調査2021」では、スマホ・携帯の利用が、1日平均1時間18分だった。5時間を超えるヘビーユーザーは全体の5%で、その内訳を年代別に見ると、10代から50代まで各年代が1〜2割ずつを占め、若者に偏っていない。20代では、23時30分から24時でも、29%がスマホを使っていた。こども家庭庁の令和7年度の調査(10〜17歳、3,060人)で、平日のインターネット利用は平均326.6分だったが、この数字は、学校配布のタブレットやゲーム機を含む、すべての機器の合計だ。スマホだけの時間ではない。

令和8年度(2026年4月実施)の全国学力・学習状況調査では、SNSや動画を平日に3時間以上見る中学3年生が49.1%(小学6年生は37.3%)。中学校の数学の平均正答率は、SNS・動画を4時間以上見る生徒で48.7%、30分未満で69.6%と、20.9ポイントの差があった。相関係数は−0.2前後と、弱い。報告書は因果ではなく傾向と書いている。スマホなどを持っていない層の平均正答率は57.5%で、30分未満の層より低い。使いすぎの問題と、持っていないことの問題が、同じ図の中に並んでいる。家庭の状況などの背景も、この数字には混ざっているはずだ。

日本には、SNSやスマホの使用を無作為化して減らし、効果を測った査読研究が、私が探した範囲では見つからなかった。近い研究として、高校生5,312人のクラスター無作為化試験(大塚ら、2023年)が、教育型の介入でネット依存のスコアを調べたが、有意な改善はなかった。「断つ」介入ではない点に注意がいる。「デジタルデトックス」という言葉の認知は、民間の調査会社の二つの調査(対象も設問も違うので、推移としては読めない)が示している。2018年の調査(15〜59歳のスマホ所有者)は「知らない、聞いたこともない」が74%、2023年の調査(20〜79歳)は名称も内容も知っている人が14%、名称だけ聞いたことがある人が19%、内容を示したうえでの、直近1か月の実施経験はおよそ1割だった。

言葉が運んでくるもの

ここまで、数字を中心に見てきた。もう一つ、言葉そのものの話がある。「デトックス」という語は、体に毒素が溜まっていて、排出する処置が必要だ、という前提を連れてくる。スマホを置くという、それだけの行為に、治療めいた響きがつく。

シーヴェルツェンとエンリは、2020年に、デジタルデトックスを勧める20のテキスト(自己啓発書、回想録、企業のサイト)を質的に分析した。時間の過負荷、空間への侵入、心身への害、といった主題で語られていること。個人に自己調整の責任を負わせる「自己規制社会」の表れであること。「本物らしさ」やノスタルジーが商品になっていること。これは効果の有無を検証した研究ではなく、言説の分析だ。言葉の大きさが、行為の小ささを埋め合わせているのではないか、という疑いと、無関係な話ではない。

「置く」ことで、何を取り戻そうとしているのか

数字を並べ直すと、こうなる。「23分」は、論文の値ではなく、インタビューでの発言だった。机の上のスマホの効果は、直接の追試ではほとんど見えず、二つのメタ分析も、小さな負の効果と、ほぼゼロとに割れている。SNSを止める実験は、幸福度が上がったり、変わらなかったり、満足度が下がったりと、割れている。ドーパミンやDMNの言説は、直接の根拠が示されていない。通知をまとめる、色を抜く、といった小さな工夫は、効果が小さい。

では、何も変わらない、ということでもない。作業が通知や中断で乱れることは、いくつかの研究が報告している。小さな介入にも、小さな実験的証拠がある。小さいことは、無意味ということと違う。ただ、その小ささに釣り合った言葉で語れているか、という問題は残る。

スマホを置いたとき、空いた時間に何が入ってくるのかについて、研究が答えてくれるのは、ほんの一部だ。アルコットの実験では、浮いた60分は、テレビや家族や友人との時間に流れていった。あなたがスマホを置くとしたら、空いた時間は、何で埋まるのだろう。

出典

  • Robison, J. (2006年6月8日). "Too Many Interruptions at Work?" Gallup Business Journal.(全文で確認。グロリア・マークへのインタビュー)
  • Mark, G., Gonzalez, V. M., & Harris, J. (2005). "No Task Left Behind? Examining the Nature of Fragmented Work." Proceedings of CHI 2005, 321–330.(全文で確認)
  • Mark, G., Gudith, D., & Klocke, U. (2008). "The Cost of Interrupted Work: More Speed and Stress." Proceedings of CHI 2008, 107–110.(全文で確認)
  • Iqbal, S. T., & Horvitz, E. (2007). "Disruption and Recovery of Computing Tasks: Field Study, Analysis, and Directions." Proceedings of CHI 2007, 677–686.(全文で確認)
  • Leroy, S. (2009). "Why Is It So Hard to Do My Work? The Challenge of Attention Residue When Switching between Work Tasks." Organizational Behavior and Human Decision Processes, 109(2), 168–181.(書誌と要旨のみ確認。実験の人数と効果量は未確認)
  • Leroy, S., & Glomb, T. M. (2018). "Tasks Interrupted: How Anticipating Time Pressure on Resumption of an Interrupted Task Causes Attention Residue and Low Performance on Interrupting Tasks and How a 'Ready-to-Resume' Plan Mitigates the Effects." Organization Science, 29(3), 380–397.(書誌と要旨のみ確認)
  • Ward, A. F., Duke, K., Gneezy, A., & Bos, M. W. (2017). "Brain Drain: The Mere Presence of One's Own Smartphone Reduces Available Cognitive Capacity." Journal of the Association for Consumer Research, 2(2), 140–154.(書誌のみ確認。人数と結果は二次情報。原論文の平均値の表は未確認)
  • Ruiz Pardo, A. C., & Minda, J. P. (2022). "Reexamining the 'Brain Drain' Effect: A Replication of Ward et al. (2017)." Acta Psychologica, 230, 103717.(書誌と要旨、メタ分析の付録による。人数は本文では未確認)
  • Hartmann, M., Martarelli, C. S., Reber, T. P., & Rothen, N. (2020). "Does a Smartphone on the Desk Drain Our Brain? No Evidence of Cognitive Costs Due to Smartphone Presence in a Short-Term and Prospective Memory Task." Consciousness and Cognition, 86, 103033.(二次情報)
  • Schwaiger, E., & Tahir, R. (2022). "The Impact of Nomophobia and Smartphone Presence on Fluid Intelligence and Attention." Cyberpsychology, 16(1).(検索結果の要約のみ)
  • Böttger, T., Poschik, M., & Zierer, K. (2023). "Does the Brain Drain Effect Really Exist? A Meta-Analysis." Behavioral Sciences, 13(9), 751.(全文で確認)
  • Hartanto, A., et al. (2024). "The Effect of Mere Presence of Smartphone on Cognitive Functions: A Four-Level Meta-Analysis." Technology, Mind, and Behavior, 5(1).(要旨レベル)
  • Stothart, C., Mitchum, A., & Yehnert, C. (2015). "The Attentional Cost of Receiving a Cell Phone Notification." Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 41(4), 893–897.(書誌のみ確認。人数と「3倍」の定義は二次情報で、原論文では未確認)
  • Allcott, H., Braghieri, L., Eichmeyer, S., & Gentzkow, M. (2020). "The Welfare Effects of Social Media." American Economic Review, 110(3), 629–676.(全文で確認)
  • Hunt, M. G., Marx, R., Lipson, C., & Young, J. (2018). "No More FOMO: Limiting Social Media Decreases Loneliness and Depression." Journal of Social and Clinical Psychology, 37(10), 751–768.(抄録で確認)
  • Hall, J. A., Xing, C., Ross, E. M., & Johnson, R. M. (2021). "Experimentally Manipulating Social Media Abstinence: Results of a Four-Week Diary Study." Media Psychology, 24(2), 259–275.(抄録で確認)
  • Brailovskaia, J., Ströse, F., Schillack, H., & Margraf, J. (2020). "Less Facebook Use – More Well-Being and a Healthier Lifestyle? An Experimental Intervention Study." Computers in Human Behavior, 108, 106332.(抄録で確認)
  • Lambert, J., Barnstable, G., Minter, E., Cooper, J., & McEwan, D. (2022). "Taking a One-Week Break from Social Media Improves Well-Being, Depression, and Anxiety: A Randomized Controlled Trial." Cyberpsychology, Behavior, and Social Networking, 25(5), 287–293.(本文で確認)
  • Vanman, E. J., Baker, R., & Tobin, S. J. (2018). "The Burden of Online Friends: The Effects of Giving Up Facebook on Stress and Well-Being." The Journal of Social Psychology, 158(4), 496–508.(本文で確認)
  • Radtke, T., Apel, T., Schenkel, K., Keller, J., & von Lindern, E. (2022). "Digital Detox: An Effective Solution in the Smartphone Era? A Systematic Literature Review." Mobile Media & Communication, 10(2), 190–215.(本文で確認)
  • May, W., Malouff, J. M., & Meynadier, J. (2025). ソーシャルメディアの使用を減らす介入と抑うつ症状のメタ分析. European Journal of Investigation in Health, Psychology and Education, 15(11), 222./Lemahieu, L., et al. (2025). ソーシャルメディアからの離脱とウェルビーイングのメタ分析. Scientific Reports.(いずれも抄録で確認)
  • Castelo, N., Kushlev, K., Ward, A. F., Esterman, M., & Reiner, P. B. (2025). モバイルインターネット遮断の無作為化比較試験. PNAS Nexus, 4(2), pgaf017.(本文で確認)
  • Schultz, W., Dayan, P., & Montague, P. R. (1997). "A Neural Substrate of Prediction and Reward." Science, 275, 1593–1599./Berridge, K. C., & Robinson, T. E. (2016). "Liking, Wanting, and the Incentive-Sensitization Theory of Addiction." American Psychologist, 71, 670–679./Salamone, J. D., & Correa, M. (2012). "The Mysterious Motivational Functions of Mesolimbic Dopamine." Neuron, 76, 470–485.(総説。要旨で確認)
  • Schmitgen, M. M., et al. (2025). 72時間のスマホ利用抑制とfMRI. Computers in Human Behavior, 167, 108610.(抄録で確認。本文は未読)
  • Raichle, M. E., et al. (2001). "A Default Mode of Brain Function." PNAS, 98, 676–682.(デフォルト・モード・ネットワークの概念の出どころとして)
  • Grinspoon, P. (2020年2月26日). ドーパミン断食についての解説. Harvard Health Blog./Sepah, C. (2019年8月). LinkedIn の記事.(セパの主張と発言は Harvard Health、Mic、New York Times の引用などの二次資料による。LinkedIn の原文は取得できなかった)
  • Kushlev, K., & Dunn, E. W. (2015). "Checking Email Less Frequently Reduces Stress." Computers in Human Behavior, 43, 220–228./Kushlev, K., Proulx, J., & Dunn, E. W. (2016). "'Silence Your Phones': Smartphone Notifications Increase Inattention and Hyperactivity Symptoms." Proceedings of CHI 2016, 1011–1020.(本文で確認)
  • Fitz, N., Kushlev, K., Jagannathan, R., Lewis, T., Paliwal, D., & Ariely, D. (2019). "Batching Smartphone Notifications Can Improve Well-Being." Computers in Human Behavior, 101, 84–94.(抄録で確認)
  • Hughes, N., & Burke, J. (2018). "Sleeping with the Frenemy: How Restricting 'Bedroom Use' of Smartphones Impacts Happiness and Wellbeing." Computers in Human Behavior, 85, 236–244.(抄録で確認)
  • Dekker, C. A., & Baumgartner, S. E. (2024). グレースケール化とスマホ利用. Mobile Media & Communication, 12(3), 688–708.(抄録で確認。オンライン公開は2023年)
  • Syvertsen, T., & Enli, G. (2020). "Digital Detox: Media Resistance and the Promise of Authenticity." Convergence, 26(5–6), 1269–1283.(抄録で確認。本文は未読)
  • 総務省情報通信政策研究所「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」令和6年度.(報告書の本文で確認)
  • 久里浜医療センター「ネット・ゲーム使用と生活習慣に関する実態調査(2024)」(令和6年度ゲーム依存・ネット依存の全国調査、令和7年度研究報告書).(報告書で確認)
  • NHK放送文化研究所「メディア利用の生活時間調査2021」.(NHK公式サイトのコラムで確認)
  • こども家庭庁「青少年のインターネット利用環境実態調査」令和7年度.(報告書で確認。全機器の合算)
  • 国立教育政策研究所「令和8年度 全国学力・学習状況調査 報告書(質問調査 概要)」.(PDFで確認)
  • Otsuka, Y., Kaneita, Y., Itani, O., & Matsumoto, Y. (2023). "A School-Based Program for Problematic Internet Use for Adolescents in Japan." Children, 10(11), 1754.(本文で確認)
  • 株式会社クロス・マーケティング「スマホ疲れに効果あり?話題のデジタルデトックスとは」(2018年11月)、目に関する調査(2023年、調査は11月、公開は12月).(民間調査会社の公開ページで確認)
XはてなブックマークLINEFacebook