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大人になってから楽器を始めるということ

大人になってから楽器を始めるということ

才能がない、今さら遅い、マンションだから音が気になる——大人が楽器を始めない理由はだいたい決まっている。その理由がどこまで本当か、静かな楽器の選び方とあわせて考えてみる。

TOMOAKI··趣味

街には多くの音があふれている。通知音、ニュースの音声、隣の部屋のテレビ。その中に「自分のための音」がどれくらいあるだろうか、とときどき思う。

子どもの頃に楽器を諦めた人や、「自分には向いていない」と思い込んできた人は多い。ただ、大人になってから楽器を趣味にすることは、プロの演奏家を目指すこととは別の話だ。うまくなることより先に、自分の内側にある感情を整える時間として楽器を使う、という選択肢がある。

音楽の効果について、少し慎重に

音楽を聴く、あるいは奏でることでストレスホルモンが減るという報告はよく見かける。「好きな音楽を10分聴くだけで血圧が安定する」といった具体的な数値が添えられていることもあるが、研究によって幅がありすぎて、額面通りには受け取れない。それでも、受動的に聴くより自分で音を出すほうが達成感につながりやすい、という点は複数の研究で繰り返し確認されているようだ。

楽器演奏が「脳の全身運動」と呼ばれることもある。楽譜を読み、指で弦や鍵盤に触れ、自分の出した音を確認し、左右で違う動きを制御する。これを同時にこなす作業が認知機能の維持に役立つ可能性を示唆する観察研究はあるが、因果関係が証明されているわけではない。過度に期待せず、単純に「新しいことを覚えるのは大体において悪くない」くらいに捉えておくのがちょうどいいと思う。

大人が楽器を始めない理由

「才能がないと上達しない」という思い込みはよく聞くが、才能とは上達の速さの別名にすぎず、楽しむこと自体に才能は要らない。「今さら始めても遅い」という不安もあるが、脳の可塑性は年齢だけで失われるものではないし、経験を積んだ大人だからこそ、一つの音に込められるものもあるはずだ。

もう一つ、現実的な壁として「マンションだから音が気になる」がある。これは解決策がすでに確立されている問題で、ヘッドホンで練習できる電子楽器や、生音を大きく抑えた楽器を選べば、夜間でも気兼ねなく音を出せる。

生活のどこに音楽を置くか

楽器を選ぶ基準は、ピアノかギターかという種類の話より、自分の生活のどこに音楽を組み込みたいかだと思う。

夜、静かな時間に自分と向き合いたいなら、デジタルピアノやサイレントギターが向いている。共鳴胴を持たないサイレントギターは生音がささやき声程度で、ヘッドホンを通せば十分な音量で弾ける。電子ドラムも、打撃音そのものを抑えたメッシュヘッド仕様のモデルが増えている。

移動が多く、コンパクトさを優先したいなら、ウクレレやカリンバがいい。ウクレレは弦が4本しかなく、20分ほどでコードを一つ覚えられる手軽さがある。カリンバはオルゴールに似た音で、楽譜が読めなくても感覚的に旋律を紡げる。

旋律よりリズムに惹かれるなら、カホンという選択肢もある。木の箱に座って叩くだけの構造だが、叩く位置でバスドラムからスネアに近い音まで出し分けられる。

「聴く」を趣味にする

楽器を持たなくても、音楽との関わり方を変える方法はある。サブスクリプションで何千万曲も聴ける時代に、あえてレコードという不便を選ぶのもその一つだ。盤を取り出し、針を落とすという一連の動作が、意識を今鳴っている音に引き戻してくれる。メロディーや歌詞だけでなく、楽器の鳴っている空間の広がりやボーカルの息遣いに耳を澄ませてみると、これまで気づかなかった音の層が見えてくることもある。

続けるための工夫

大人が楽器を途中でやめてしまう理由の多くは、完璧主義にある。1時間の練習を自分に課すと億劫になるので、「楽器に触るだけでいい」くらいの低いハードルにしておくほうが続きやすい。変な音が出たときも、失敗というより新しい発見として面白がるくらいの距離感がちょうどいい。演奏を録音してSNSに短く上げてみるといった小さな発表の場を持つと、音楽が単なる練習作業から少し違うものに変わることもある。

Simply PianoやYousicianのようなアプリは、演奏をマイクで聴き取ってその場で反応を返してくれる。GuitarTunaのようなチューニングアプリは、かつて面倒だった音合わせを数秒で済ませてくれる。こうしたツールは、孤独な反復練習という大人の楽器学習で一番つらい部分を、いくらか軽くしてくれる。

指先に伝わる弦の振動や、耳元をかすめるフルートの音色は、凝り固まった一日を少しだけ解きほぐしてくれる。楽器を持たない選択も、静かに聴く選択も、どちらも音楽との関わり方の一つだと思う。