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「健康にいい趣味」は何に効くのか。日本の4.8万人の追跡から
健康的な趣味の「健康」は、何を指すのか。65歳以上の4.8万人の追跡では、体を動かす活動や集まって行う活動をしている人は死亡のリスクが低く、文化的な活動や一人の活動では有意な関連が出なかった。
「健康のために何か始めたいけれど、激しい運動は続かない」「お金をかけずに、心も体もスッキリする方法はないか」——そんな悩みへの定番の答えは「健康にいい趣味ランキング」だ。運動、瞑想、園芸、サウナ。選択肢を40個並べれば、きっと自分に合うものが見つかるはずだ、という発想である。
この発想の裏には、選択肢さえ広げれば「自分に合うもの」に出会えるはずだという前提がある。だが、身も蓋もない目安がある。構造化された運動プログラムを始めた人のおよそ半数は、6か月以内にやめてしまう、というものだ。この「半数が半年で離脱する」という数字は、運動心理学者ロッド・ディッシュマンの研究以来、運動継続の研究で繰り返し引かれてきた(出どころとされる論文の中身は、私は確認できていない)。続かない理由は、意志の弱さや種目の相性だけでは説明しきれないのかもしれない。
この発想を支えているのが、選択肢が多すぎると人は決められなくなる、という「選択のパラドックス」の直感だろう。心理学者シーナ・アイエンガーとマーク・レッパーが2000年に発表した、スーパーでジャムの試食台を使った実験がその代表格として繰り返し引用されてきた。24種類のジャムと6種類のジャムの陳列を、2回の土曜日に1時間ごとに入れ替えて比べると、試食台に立ち寄った人のうち、購入したのは6種類で約30パーセント、24種類で約3パーセントだった、という結果である。話としてはよくできている。「選択肢が多すぎるから決められない、だから選択肢を絞ってあげよう」という筋書きは、健康にいい趣味を勧める記事の構造そのものと相性がいい。
効能の欄に、いま書けること
「健康的な趣味」「健康にいい趣味」で検索すると、候補を並べた一覧が、いくらでも出てくる。この記事は、その一覧をもう一つ増やすつもりはない。かわりに、ひとつ手前の問いを置く。「健康にいい」の「健康」は、何を指しているのか。
薬でいえば、効能書きの「効能」の欄が、空白のまま売られているようなものだ。寿命に効くのか、気分に効くのか、十年後の介護に効くのかで、書く中身が変わる。日本のデータを中心に、その欄に書けることと、まだ書けないことを分けてみる。私はここで、どの趣味も勧めない。欄が埋まっているかどうかを、見るだけだ。
身体の活動量には、物差しがある。厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」は、成人に、歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を1日60分以上、歩数にして1日約8,000歩以上に相当する量を推奨している。内訳を読むと、60分の歩行がおよそ6,000歩で、残りの約2,000歩は、家事などの生活活動である。8,000歩は、散歩だけで満たす数字ではない。
歩数と寿命の関係を調べた国際的な統合分析(15のコホート、47,471人、追跡の中央値7.1年)では、歩数を4つの群に分けると、いちばん多い群(中央値で1日約10,900歩)は、いちばん少ない群(約3,600歩)より、調整後の死亡のハザード比が0.47だった。リスクの低下が頭打ちになる歩数は、60歳以上で1日6,000〜8,000歩ほど、60歳未満で8,000〜10,000歩ほどとされる。論文の序文は、広く知られた「1日1万歩」について、根拠に基づくものではなく、日本のマーケティングキャンペーンに由来すると書いている。ただし、観察研究である。著者自身が因果は言えないとしていて、追跡が6年未満の研究では差がいっそう大きく出ている(最も多い群と最も少ない群のハザード比が、6年未満の研究で0.32、6年以上で0.57)。健康な人ほどよく歩く、という逆向きの説明とも、矛盾しない形だ。
では、「趣味」で見るとどうか。65歳以上の48,216人を平均5.6年追った、日本の大規模なコホート(JAGES、13自治体)がある。25種類の趣味・習いごとの数と死亡の関係を調べたもので、何もしていない人を基準にすると、活動が6つ以上ある人の死亡のハザード比は0.61、活動が1つ増えるごとに0.93だった。数が多いほど長生き、と読みたくなる。ところが、種類で分けると景色が変わる(種類別の数字は、その種類の活動をしていない人を基準にしている)。体を動かす活動の数が2〜8個の群は0.80、集まって行う活動の数が2〜5個の群は0.85と、差が出た(この二つの分類は一部重なり、ゴルフやダンスは両方に入る)。文化的な活動の数(2〜8個)は1.00、一人で行う活動(2〜7個)は0.96で、有意な差は出なかった。著者が個別の例に挙げたのは、ゴルフ、運動・太極拳、ダンス、工芸が低いリスクと関連し(工芸は区間の上限がちょうど1.00の境界例)、書道、写真、園芸、釣りは関連しなかった、というものだ。読書は、死亡の側ではむしろ有意に高い方向(ハザード比1.11)に出ていた。
アウトカムを認知機能に替えると、様子がまた変わる。同じ JAGES の44,985人を約6年追った研究で、介護保険の認定調査で、認知機能の障害が一定以上(level 2 以上)と判定される人が少なかったのは、趣味としての読書(ハザード比0.75。趣味ではないが読む人も0.72)、工芸(0.71)、絵画(0.80)の人たちだった。俳句、書道、茶道・華道には有意な関連が出なかった。死亡では関連の見えなかった文化的な活動の一部が、認知機能の側では関連している。読書は、認知機能の研究では低い方向、死亡の研究では高い方向と、向きが分かれた。二つは別の研究で、読書の定義も調整した変数も同じではない。工芸は、どちらでも低い方向に出ている。「趣味が体にいい」という一文は、どの趣味が、何に対して、という二つの欄を埋めないと、書けないのだ。
書いておくべき留保がある。ここまでの数字は、すべて観察研究から出ている。歩数の研究で見たのと同じ、活力のある人ほど多くの活動をする、という逆向きの説明を、著者たちは除外できていない。趣味そのものを、健康な人に無作為に割り当てた試験は、少ない。運動をうつ病の人に割り当てた218の試験(14,170人)の統合分析では、ウォーキングやジョギングが対照より症状を下げた(標準化平均差は約−0.6)が、確実性はウォーキング・ジョギングでは「低い」、ほかの運動では「非常に低い」と評価され、対象は健康な人ではなく、治療を要する人である。園芸を無作為に割り当てた試験(区画の順番待ちリストにいた291人)では、食物繊維の摂取と中高強度の身体活動で、時間と介入の組み合わせの有意な効果が出たが、秋(収穫期)の時点の群間差の区間はゼロをまたぎ、差があるとも、ないとも言い切れない幅だった。果物・野菜、座位時間、BMIなどには有意差がなかった。ストレスと不安は、副次的な結果として、両群とも下がり、介入群のほうが大きく下がった(どちらも自己申告で、不安は当初の試験登録に含まれていなかった)。
日本で、実際に多い趣味はどうか。2021年の社会生活基本調査(10歳以上、この1年に一度でもした人の割合)で、「趣味・娯楽」の区分で最も多いのは音楽鑑賞の53.5%、映画館以外での映画鑑賞(テレビやDVDなど)の52.7%、ゲームの42.9%で、体を動かす趣味ではない。体を動かすほうは別の「スポーツ」の区分で、ウォーキング・軽い体操が44.3%と、いちばん多い。この調査の期間は、コロナ下の2020年10月から2021年10月だ。一方、1回30分以上の運動を週2回以上、1年以上続けている運動習慣者は、2024年の国民健康・栄養調査で、20歳以上の34.6%である。「一度でもやった」と「続けている」では、数字の意味が違う。44.3%は一つの種目の数字で、34.6%は運動全般の数字であり、調査も年も対象の年齢も違うので、引き算はできない。それでも、この記事の主題は、二つの物差しのあいだにある。
並べ直すと、「健康にいい趣味」は、少なくとも三つの顔を持つ。体を動かすこと、人と集まること、手を使い、読むこと。最初の二つは一部重なっていて、どちらが効いているのかは切り分けられていない。体を動かす方向には、活動量という物差しがあり、死亡との関連も見える。読む方向は、アウトカムによって向きが変わり、手を使う活動は、種類によって関連が出たり出なかったりする。どれが一番という話ではなく、「何に対して」を決めないと、順位の付けようがない、という話だ。種類によって変わるのは、何と関連するかであって、続くかどうかは、別の問いである。
どの方向を選ぶにしても、ここまでの関連は、その活動をしている人たちについての数字だ。そして、冒頭で触れたディッシュマンの目安では、構造化された運動プログラムを始めた人のおよそ半数が、半年以内にやめるとされる。その理由として語られがちなのが、選択肢の多さだ。24種類のジャムを並べたときより、6種類だけ並べたときのほうが売れた、というスーパーの試食の実験が、その話の定番として引かれてきた。次に、その説明から確かめる。
「選択肢が多いと決められない」は、本当だろうか
ところが、アイエンガーとレッパーのジャムの実験と同じ効果は、後続の研究で必ずしも再現されなかった。2010年には、ベンジャミン・シャイベヘンネ、ライナー・グライフェネダー、ピーター・トッドの三人が、50件の実験・63条件・被験者5,036人分のデータを統合したメタ分析を発表した。結果は、平均すると効果はほぼゼロ(0.02)だった。選択肢の多さそのものが購買や満足度を下げるという主張は、単独の実験としては再現されることもあるが、無条件の形では安定した現象とは言えない、というのが現時点での評価に近い。
つまり「40個の選択肢が人を迷わせている」という説明そのものが、最も頑健な形では支持されていない。もちろん個々の状況によっては選択肢が多いことが負担になる場合もあるだろうし、2010年の論文自身が、専門知識や事前の好みの有無で効果の出方が変わることを見つけており、条件次第で効果が出るという議論はその後も続いている。ただし、それを「健康にいい趣味が続かない理由」の主犯に据えるのは、根拠として心もとない。選択肢を減らせば人は動き出す、というのは、直感には合うが検証には弱い説明だった。皮肉なのは、この説明自体が「もっともらしいが、無条件には支持されない通説」の一例になっている点だ。
だとすれば、「健康にいい趣味を40個知っている」ことと「そのうち一つを実際に続けられている」ことの間には、選択肢の数では説明できない別の断絶があることになる。この記事が追いたいのは、その断絶の正体であって、41個目の候補を探すことではない。
意図と行動の間には、もっと単純で、もっと頑固な溝がある

では、選択肢の数が主犯でないとしたら、何が「決めたのに続かない」を説明するのか。健康心理学が長年扱ってきたのは、選択肢の多さではなく、意図と行動の間にある溝そのものである。心理学者パスカル・シーランが2002年に行った(原典は開けず、のちの総説による)、10本のメタ分析・422件の研究を束ねた大規模な統合分析によれば、「やろうと思っている」という目標意図が実際の行動のばらつきを説明する割合は、平均して3割弱(相関0.53を2乗して、およそ0.28)にとどまる。2016年にシーランとトーマス・ウェッブがまとめた総説は、この結果を引いたうえで、さらに踏み込んでいる。意図そのものを実験で変えても、行動の変化は小〜中程度(意図の変化d=0.66に対して、行動の変化はd=0.36)にとどまった、というメタ分析(ウェッブとシーラン、2006年)を挙げているのだ。
言い換えると、「本気でやろうと思った」という自己申告は、実際に体を動かすかどうかの決め手として、思っているほど強くない。これは「意志が弱いから続かない」という個人の資質の話というより、意図というもの自体が持つ構造的な限界に近い。人は自分の未来の行動を、実際よりも楽観的に見積もる傾向があり、「今度こそ続けられる」という感覚自体が、その後の継続を保証してくれるわけではない。40個の選択肢の中から「これだ」と決めた瞬間の高揚感は、翌週以降の行動をさほど保証してくれないということである。
この溝の厄介なところは、意図の強さを高めれば高めるほど埋まる、という単純な関係にもなっていない点だ。「絶対にやる」と強く誓っても、日々の疲労や予定の変更、他の目標との競合といった要因が割り込んでくれば、行動は簡単に先送りされる。健康にいい趣味を選ぶ場面で語られる「モチベーションを上げる」系のアドバイスの多くは、この意図の強度を上げることに焦点を当てているが、シーランらの総説が示しているのは、意図が実行に移るかどうかは、意図の安定性や、意図を具体的な状況に結びつける手立てに左右される、という点である。
「いつ」「どこで」を決めることには、確かに効果がある——ただし種目によって差がある
この溝を埋める手立てとして最も研究が蓄積しているのが、心理学者ピーター・ゴルヴィツァーが1990年代初めに提唱し、1999年の総説でまとめた「実行意図(implementation intention)」である。「運動する」という漠然とした目標意図ではなく、「もし夕食が終わったら、15分歩く」というように、いつ・どこで・何をするかをあらかじめ具体的な文の形で決めておくと、実際の行動に結びつきやすくなるという考え方だ。あらかじめ状況と行動を結びつけておくことで、その場になったときに「やるかどうか」を毎回考え直す必要がなくなり、行動の開始そのものが半ば自動化される、というのがこの効果の仕組みだとされている。ゴルヴィツァーとシーランが2006年に発表した94件の研究をまとめたメタ分析では、目標達成に中〜大程度(d=0.65)の改善効果が確認されている。専門用語を抜きにしても、経験的に納得しやすい話だろう。
では、94件の研究を束ねたこの効果は、運動にもそのまま当てはまるのだろうか。運動という行動に絞って効果を検証した2013年のアリアーヌ・ベランジェ=グラヴェル、ガストン・ゴダン、スティーヴ・アミローらのメタ分析では、実行意図の効果量は小〜中程度(介入直後で0.31、追跡時で0.24)と、先の94件全体の効果より控えめな数値にとどまっている。運動は「歯磨きをしながらつま先立ちをする」といった一瞬で終わる行動と違い、時間・体力・場所の確保という追加のコストがかかるからかもしれない。「いつ」「どこで」を決めておく効果自体は本物だが、それだけで意図と行動の溝がきれいに埋まるわけでもない。実行意図は、効く手立てのひとつではあっても、万能の処方箋ではない。
それでも、既にある習慣に新しい行動を接ぎ木する方法——「お風呂が沸くまでの間にストレッチをする」のような形——は、この実行意図の考え方を日常に落とし込んだものとして、新しく時間を確保するより意志力への依存を減らせる点で理にかなっていると思う。「何を選ぶか」で悩んでいた時間を、「いつやるか」を決める作業に振り替えれば、効果が小〜中程度とされる手立てに時間を使うことにはなる。
「21日」でも「66日」でもなく、幅は18日から254日まである
習慣化にまつわる俗説の中でも根強いのが「21日続ければ習慣になる」という話だが、これには確かな出典がない。よく引用されるのは2010年、フィリッパ・ラリーらが『ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ソーシャル・サイコロジー』に発表した研究で、96人の参加者に「昼食にフルーツを一切れ食べる」「15分走る」といった行動をそれぞれ一つ選んでもらい、同じ状況下で12週間、毎日続けてもらいながら、その行動が「考えなくても自動的にできる」感覚を毎日自己評価してもらい、その推移に曲線を当てはめて、頭打ちに近づくまでの日数を一人ずつ見積もったものだ。よく紹介される数字は中央値66日だが、それ以上に注目すべきなのは幅の広さである。見積もりの範囲は18日から254日、14倍あまりの開きがあった。254日は12週間の観察期間を超えた先の推定値で、66日も18〜254日も、分析した82人のうち曲線がよく当てはまった39人の数字である。
つまり「66日」という数字自体、一つの目安として便利ではあっても、それを万人に当てはめられる基準として扱うのは、そもそも元の研究の趣旨に反している。運動のように負荷の高い行動のほうが時間がかかる傾向は見られたが、有意とは言えなかったと紹介されている(二次情報による)。それよりも、個人差の大きさそのものが、この研究の一番の含意だろう。ついでに言えば、たまに1日サボったところで自動化の度合いへの影響はごくわずかだったことも、この研究では示されている。「まだ習慣になっていない」という焦りも、「1日サボったから振り出しに戻った」という自責も、この研究の範囲では、失敗の兆候とは言えない。
「誰かと一緒にやる」ことの効果も、思ったほど単純ではない
もう一つ、健康にいい趣味の続け方としてよく語られるのが「一人でやらず、誰かと一緒にやる」というアドバイスである。これにも一定の裏付けはある。スポーツ心理学者ショーナ・バークとアルバート・キャロンらが2006年に発表した44件の研究・214の効果量を統合したメタ分析では、標準的な運動教室より、グループダイナミクスの原理を意図的に取り入れた「本物の集団(true group)」——お互いの存在を認識し合い、一体感を感じられるように設計された集団——のほうが、継続率で上回る傾向があった。ただし、後で触れるクリッツらの紹介によれば、本物の集団を扱った研究は9件と少なく、比べられたのは継続に関する指標だけだった(バークらの原典は、私は抄録しか確認できていない)。
研究者クリッツらは2026年に『ネイチャー・ヒューマン・ビヘイビア』誌で、この問いを更新した。71件の研究・523の効果量を統合し、オンライン参加も含めて再検証したメタ分析では、身体活動について、集団形式が個人形式を上回る効果は小さく、統計的に有意ではなかったと報告されている(効果量g=0.086、95%信頼区間はマイナス0.061からプラス0.233)。「みんなでやれば続く」という話も、実行意図の話と同様、一枚岩の真実ではなく、条件によって効いたり効かなかったりする類の手立てらしい。
ここで面白いのは、2006年の結果が覆されたわけではない、という点だ。クリッツらの分析では、対面の集団とオンラインの集団とのあいだに効果の差はなかった。対面の標準的な集団と比べると、一体感を意図的に作った「本物の集団」は、健康面の指標でだけわずかに効果が大きく(クリッツらの分析で、この条件の研究は14件と少ない)、著者たち自身も、これを2006年の結果と整合すると書いている。以前の知見が誤りだったというより、集団かどうかという形式よりも、集団の作り方が、一部の指標でだけ効いている、と読むほうが近い。
「どの趣味を選ぶか」だけでは決まらない、という見方
健康にいい趣味を、体を動かす系・心を整える系・人とつながる系のように大まかに分けて考える発想自体は自然だ。強度の合い方(きつすぎない運動から始める、など)が継続を左右する、という見方もよく聞くが、この記事が参照した研究には、それを直接確かめた数字はなかった。
一方、心理学者エドワード・デシとリチャード・ライアンが体系化した自己決定理論に基づく研究群は、種目そのものよりも動機の性質——自律的な動機(楽しいからやる、自分の価値観に合っているからやる)か、統制的な動機(罪悪感や外からの圧力でやる、周囲の目が気になる)か——が、長期的な継続や適応と結びつくと整理している。この理論では、「健康のために運動する」ことも、本人が納得していれば自律的な動機(同一化)の例に数えられる。続く力を左右するのは健康という理由そのものではなく、罪悪感や義務感に押されているかどうかのほうだ、というのが理論の見立てである。
この理論が厄介なのは、外から見ただけでは自律的な動機か統制的な動機かを判別できない点にある。同じ「毎朝ジョギングする」という行動でも、走ること自体が楽しくて続けている人と、健康診断の数値が気になって義務感で走っている人とでは、負荷が高まったときの粘り強さにも差が出るかもしれない、というのが私の推測だ。「健康にいいらしい」という理由は、それ自体では動機の質を決めない。
形から入ることと、記録をつけることの、それぞれの理にかなった部分

お気に入りのウェアや道具を買うことを無駄遣いだと感じる人もいるが、「せっかく買ったのだから」という気持ちは、続ける理由になることもあれば、サンクコストへのこだわりに変わることもある。どちらに転ぶかは、動機の質次第だろう。道具を買うこと自体が「これは自分が選んで始めたことだ」という感覚——自律性の実感——を強めるなら続ける理由になりうるが、道具を揃えることが義務感の演出に変わってしまえば、統制的な動機を強めるだけに終わるかもしれない。最初は安価なものから試すという手は、失敗したときの損失を小さくするだけでなく、道具への投資が目的化するのを防ぐ面もあるだろう。
記録をつけて小さな達成を可視化することも、実行意図と組み合わせて語られることの多い手法だ。カレンダーに印をつける、歩数を記録する。「これだけ続いた」という事実そのものが続ける理由になる、という理屈は、行動科学者スーザン・ミシーらが2009年に発表した、運動と食習慣に関する行動変容技法のメタ回帰分析とも部分的に整合する。では、記録さえつけていればそれだけで効くのか。この研究が実際に示したのは、そう単純な話ではない。26の技法のなかで、効果の差を最もよく説明していたのが記録(セルフモニタリング)だった。そして、セルフモニタリングに、目標設定やフィードバックなどの自己調整の技法を少なくとも一つ組み合わせた介入は、そうでない介入より効果が大きかった(効果量0.42対0.26)。比べられたのは、組み合わせた介入と、記録を使わない介入を含む残りの介入全体で、「記録だけ」の介入との比較ではない。記録を目標や見直しとセットにするとよい、とまでは言えない。
加えて、記録が「サボった日を可視化して自分を責める道具」に変わってしまうと、これも統制的な動機の一種に転じるのかもしれない。同じ行為でも、何のためにやっているかで効き方が変わりうる。歩数計のアプリを入れただけで安心してしまい、目標も見直しもないまま数字だけ眺めている状態は、この研究で効果が大きかった組み合わせからは外れている。
誘惑を利用する手もある——ただし効果は続かなかった
意図と行動の溝を埋める、もう一つの実験的な手立てとして、行動経済学者ケイティ・ミルクマン、ジュリア・ミンソン、ケビン・ヴォルプらが2014年に『マネジメント・サイエンス』誌に発表した「テンプテーション・バンドリング」がある。ジムの会員で、iPodを持ち、ふだん有酸素マシンを使う大学の学生・教職員226人(86パーセントが学部生)を対象に、続きが気になるオーディオブックをジムでしか聴けないようにする、という条件を設定した実験だ。結果、この制限を課された群は、始めた直後の週に、対照群よりジムへの来訪回数がおよそ51パーセント多いと推定された。感謝祭の休みまでの7週間の合計では、差は約27パーセント(7.79回対6.11回)だった。実験終了後、参加者の61パーセントが、「ジムでしか聴けない」制限つきの端末に0ドルを超える金額を払ってもよいと答えた(平均は月6.91ドルで、39パーセントは0ドルだった)、という追加の結果も報告されている。自分を縛る仕組みに、対価を払ってもよいと考える人が一定数いる、ということだ。
ただし、この効果にも留保がつく。効果は時間とともに目減りしており、とりわけ11月の感謝祭の連休のあとは、論文自身が「効果が消えた」と書いている(第8・9週は、ジムでしか聴けない条件の群が対照群を平均で下回った)。誘惑を使った仕掛けは強力だが、永続的に効くわけではなく、行動が一度崩れる区切り——長期休暇や環境の変化——を境に効力を失うのかもしれない(実験で確かめられたのは感謝祭の休みの1回だけだ)。テンプテーション・バンドリングは「聴きたい本を我慢して、運動できたときだけのご褒美にする」という日常的な工夫として応用できるが、これも銀の弾丸ではなく、効果の持続時間まで含めて割り引いて考えたほうがいい類の手立てである。
この実験が示しているのは、意志力を鍛えることと、意志力に頼らずに済む環境を作ることは別物だ、ということでもある。参加者の6割が制限つきの端末に対価を払ってもよいと答えた結果は、人が自分の弱さを自覚していて、それに対処する仕組みに対価を払う場合がある、ということを示している。健康にいい趣味を続けるための工夫として語られる小道具の多くは、この「自分を縛る仕組みを、自分で選んで作る」という構造を持っている点で共通している。
見えてきたのは、万能な手立てが一つもないという事実だ
ここまでの話を整理すると、いくつかの層が重なって見えてくる。まず、選択肢の多さを、健康にいい趣味が続かない主犯とする根拠は弱い。次に、本当に効いているのは「やろうと思った」という意図と実際の行動の間にある、昔から知られていて今も埋まっていない溝である。実行意図という手立てはこの溝を埋める効果を持つが、運動という行動に限れば効果は控えめで、万能ではない。習慣が定着するまでの日数の見積もりには14倍あまりの個人差があり、「誰かと一緒にやる」という定番のアドバイスでさえ、最新の大規模なメタ分析では、身体活動について、集団形式が個人形式を上回る効果は、はっきりとは示されなかった。道具や記録といった補助線も、動機の質によって効き方が変わるかもしれない、というのが私の推測だ。テンプテーション・バンドリングのような強力な仕掛けでさえ、休暇のあとには効果が消えた。
並べてみると、健康にいい趣味をめぐる助言のほとんどは、部分的には正しく、部分的には過大に語られている。どの手立ても、単体で意図と行動の溝を完全に埋めてくれるわけではない。実行意図は行動の開始を助けるが、身体活動での効果は小〜中程度にとどまる。記録に他の技法を組み合わせた介入は、効果の大きい側に入っていた。集団で行うことの優位性は、対面でもオンラインでも、大きくは見えない。むしろ見えてくるのは、それぞれの手立てが効く条件と効かない条件が入り組んでいるという事実であり、リストの数を増やしたところでその入り組み自体はほどけない。
実行意図も、テンプテーション・バンドリングも、記録も、集団形式も、それぞれ固有の限界を抱えたまま検証の俎上に乗っている。効果が出る条件と出ない条件が少しずつ見えてきただけで、迷いなく効く手立てが新たに見つかったわけではない。個人差の幅もまた大きく、見積もりで18日ほどで軌道に乗る人もいれば、254日かかる人もいる(中央値は66日)という事実は、どの手立てを選んでも消えない前提として残る。40個の選択肢を41個に増やしたところで、この溝の性質自体は変わらない。
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