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標高1,800mの温泉で、何もない時間を過ごす

標高1,800mの温泉で、何もない時間を過ごす

コンビニもスーパーもない万座温泉。硫黄の匂いと四季の変化、そして山の歴史を辿りながら、不便さについて考えてみる。

TOMOAKI··趣味

万座温泉へ続く万座ハイウェーを登り切ると、木々が姿を消し、白茶けた岩肌とハイマツの緑、そして強い硫黄の匂いに変わる。標高1,800m、車で通年到達できる温泉地としては日本でも数少ない高さだという。夏でも25度を超える日は少なく、冬は氷点下15度まで下がる。

温泉街にコンビニもスーパーもない。夜になれば街灯は消え、星空だけが残る。この不便さが、自分にとっては案外心地よかった。

万座の湯は硫黄の含有量が高く、湧き出た瞬間は透明でも、空気に触れると乳白色に変わっていく。一晩浸かると翌日まで肌に匂いが残り、身につけていた銀のアクセサリーが黒く変色するほど濃い。古くからさまざまな効能が言い伝えられてきたようだが、そのあたりは伝聞の域を出ない話として聞いておく方がいいと思う。強い酸性の湯であることは確かで、露天風呂から立ち上る噴煙を眺めていると、地面の下で何かが今も動いているのを肌で感じる。

季節ごとの表情もはっきりしている。5月の万座ハイウェーには、まだ数メートルの雪の壁が残っていて、その足元からフキノトウが顔を出す。夏は平地が猛暑でもここは20度前後で、志賀草津高原ルートを走れば国道最高地点から雲海が見える。9月下旬には山肌が一気に色づき、一週間単位で景色が変わっていく。冬は湯から出た髪が凍りつくほどの寒さの中、首から下だけが温かい湯に包まれる。この温度差の中で見上げる星空は、ちょっとした瞑想に近い。

温泉のすぐ近くには、かつて「東洋一の硫黄鉱山」と呼ばれた小串硫黄鉱山の跡がある。大正から昭和にかけて標高1,600mの山中に2,000人以上が暮らす町があったが、1937年の大規模な地すべりで多くの命が失われた。今は立ち入りが制限されている場所も多いが、この土地が観光地である以前に、命がけの労働の現場だったことは覚えておきたい。

行くなら、麓の嬬恋村や草津町で食料とガソリンを済ませておく必要がある。冬季はスタッドレスタイヤが必須で、坂も急だ。バスと特急を乗り継ぐ経路なら、運転の不安なく雪道を越えられる。

不便さを我慢するというより、不便さごと引き受けに行く場所なのだと思う。