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定年後、趣味が見つからないのは「何をするか」から考えているから
定年後の時間の使い方に悩む人へ。ランキングで趣味を選ぶ前に、「初期費用」や「人気」より先に確かめておきたいことがある。老後の余暇と孤独、健康の関係を考えた。
「定年退職を迎えて自由な時間が増えたけれど、毎日何をして過ごせばいいのかわからない」「現役時代は仕事一筋だったから、これといった趣味がない」——そんな戸惑いを抱える人は珍しくない。
こういう悩みへの定番の答えは「老後の趣味ランキング」だ。旅行、ウォーキング、ガーデニング、料理教室。人気順に並べれば選びやすくなる気がするが、実際にはランキングの上から順に試しても、なぜかしっくりこないことがある。理由は、選択肢の質ではなく、「何をするか」を先に決めようとする順番そのものにあるのではないかと思う。
リタイア後に変わるのは、時間ではなく制約

現役時代、私たちの時間の使い方は仕事によってかなりの部分が決まっていた。趣味とは、その隙間を埋める選択にすぎない。定年でその制約が外れると、埋めるべき隙間ではなく、時間そのものが主役になる。ここで多くの人がつまずくのは、体力や気力の問題より先に、「役割抜きで何を選ぶか」を久しぶりに自分に問い直さなければならないことだ。
だとすれば、まず必要なのは人気の趣味を知ることではなく、「自分が心地よいと感じる制約の形」を確かめることだ。人と話しながら手を動かしたいのか、一人で静かに没頭したいのか。体を動かして発散したいのか、座って考え事をしたいのか。この軸のほうが、個別の趣味名より長持ちする。
「健康にいい」より「誰かと会う理由になる」を優先する
ウォーキングでもガーデニングでも、健康効果を謳う趣味の紹介はよく見かける。ただし、多くの趣味に共通する本当の効能は、運動量や脳トレ効果そのものより、「人と顔を合わせる理由ができること」にあるのではないかと思う。
社会的なつながりの乏しさが健康リスクと結びつくことは、複数の大規模研究で示されている。心理学者ジュリアン・ホルト=ランスタッドらが2015年に発表したメタ分析(約300万人、70研究を統合)では、社会的孤立・孤独感・独居という三つの指標が、それぞれ早期死亡リスクを29%、26%、32%押し上げるという結果が出ている。喫煙に匹敵する影響として引用されることの多いデータだ。
この観点で見ると、一人で完結する趣味より、地域のサークルや教室のように「同じ場に定期的に居合わせる」形式のもののほうが、副次的な効果は大きいかもしれない。囲碁や手芸のような趣味が根強い人気を保っているのは、活動そのものの魅力に加えて、この構造のおかげでもあるだろう。
迷ったら、まず体験してみる
選択肢が多すぎて決められない場合、有効なのは机上で選ぶことをやめて、体験コースのある教室やサークルに一度足を運んでみることだ。頭の中で想像するのと、実際にその場の空気を感じるのとでは、印象がまったく違うことがよくある。合わなければ、すぐにやめて次を探せばいい。「せっかく道具を揃えたのだから」という気持ちは、続けること自体を目的に変えてしまうので、最初は低コストで試せるものから始めるのが無難だ。

子供の頃に好きだったことは何だったか。現役時代、やりたかったのに時間がなくてできなかったことは何か。この二つの問いに答えを出すほうが、ランキングを上から順に試すより、たぶん近道だ。
結局、決めるのは自分の制約の形
老後の趣味探しにおいて一番大切なのは、「いつでもやめていい」という気楽さだと思う。合わなければ次に行けばいい。人生の後半戦は、誰かに評価されるためのものではなく、自分の機嫌を自分で取るためのものだ。
「趣味がない」というのは、欠陥ではなく、久しく立てていなかった問いの表れにすぎない。
出典
Holt-Lunstad, J., Smith, T. B., Baker, M., Harris, T., & Stephenson, D. (2015). "Loneliness and Social Isolation as Risk Factors for Mortality: A Meta-Analytic Review." Perspectives on Psychological Science, 10(2), 227–237.
