ficus.life
目次▼
秘境に行かなくても、休める場所はあるかもしれない

秘境に行かなくても、休める場所はあるかもしれない

休暇の効果は1週間で消えるのか。二つのメタ分析の答えが割れている。都内の銭湯は2,687軒から417軒に減った。遠さの代わりを都市に探して、確かめ直した。

TOMOAKI·

疲れがたまると、どこか遠くに行きたくなる。秘境の温泉、電波の届かない山小屋、長期休暇でしか行けないような場所。そういう場所を想像すると、それだけで少し楽になる気がする。ただ、現実には移動には時間と費用がかかり、そう頻繁に実行できるものではない。休みたいと思う頻度に対して、遠出できる回数のほうが圧倒的に少ない。

そこで考えたのは、自分が本当に必要としているのは「遠さ」そのものなのか、それとも遠さによって結果的に得られる何か別のものなのか、ということだ。この記事の以前の版は、後者だろうと見当をつけて、銭湯やホテルのデイユース、感覚遮断タンクのような都市の設備に、遠さの代わりを探していた。今回は、その見当を、休暇、休憩、入浴、静けさについての研究に当て直してみた。見当は、一部は当たり、一部は外れ、思わぬ場所に別の問いが見つかった。

休暇の効果は、一週間で消えるのか、思ったより長くもつのか

遠くへ行く価値を測るなら、まず、長い休暇そのものが何をもたらすのかを確かめておくのが筋だろう。ところが、この分野の結論は、拍子抜けするほど揺れている。

2009年に、デ・ブルームらが7件の研究をまとめたメタ分析(Journal of Occupational Health)がある。抄録によれば、休暇のあとのウェルビーイングは小さく上向き(d=0.43)、仕事に戻ると消えた(d=−0.38)。ただし、何週間で消えたのかは抄録に書かれていない。翌2010年の同じ研究者らの研究(Work & Stress)は、オランダの労働者96人を、冬のスポーツ休暇の2週間前から、仕事に戻って4週間後まで追った。休暇中は健康状態、気分、緊張、エネルギー、満足の5つが改善し、仕事に戻った最初の1週間のうちに、おおむね休暇前の水準に戻った。論文の副題は「Lots of fun, quickly gone」、楽しかったが、すぐに消えた、である。

教員131人を追ったキューネルとゾンネンターグの2011年の研究は、休暇後にワークエンゲージメントが上がり、バーンアウトが下がったが、1か月以内に消えた、と報告している。注目したいのは、消える速さを分けたものだ。休暇のあとの仕事の要求が高いほど早く消え、休暇のあとの余暇にくつろぎの体験があると、消えるのが遅くなった。休暇の効き目は、休暇の中身だけでなく、戻った先の日常の条件にも左右される、という読み方ができる。

そして、問題の二本が出る。スペスらの2023年のメタ分析(European Psychologist)は、13研究・1,428人を対象にした。休暇の長さは平均11日(4〜23日)。休暇でウェルビーイングは上がる(d=0.25)ものの、生活満足度は上がらず(d=0.10)、仕事に戻って最初の1週間を過ぎると、休暇前と有意な差がなくなる(d=0.12以下)。しかも、休暇の長さは効果を調整しなかった。著者らは、休暇を長くしても効果は最大にならないとして、短い休暇を年に何度も取るよう勧めている。

その2年後に出たグラントらの2025年のメタ分析(Journal of Applied Psychology)は、32研究・256の効果量を対象にして、逆の方向に読める結論を出した。抄録によれば、休暇のウェルビーイングへの効果は「大きく」、これまで考えられていたほど早くは消えない。そして、休暇の長さ、国の文化、法定の休暇日数が、効果を調整する。英国心理学会のリサーチダイジェストによれば、仕事に戻って21日後でも、ウェルビーイングは休暇前より高く、効果は最大で43日続く可能性があるという推定だった。この21日と43日は、私は原典の本文で確かめておらず、二次情報の紹介による。紹介記事は、長い休暇ほど休暇中の上がり幅は大きいが、戻ったあとの落ち方も急だとも書いている。

二つを並べると、奇妙な光景になる。同じ問いに、13研究のメタ分析は「1週間を過ぎれば休暇前と差がない」と答え、32研究のメタ分析は「これまで考えられていたほど早くは消えない」と答えている。後者は、紹介記事によれば、3週間たってもまだ高いとされる。ひとつ書き添えると、後者の紹介記事は、自宅と遠方を組み合わせた休暇のほうが、すべて遠方の休暇より効果が大きかったと書いているが、抄録は「場所の役割ははっきりしない」としていて、二つの書き方は食い違う。私はどちらが正しいとは言えない。言えるのは、「遠くの長い休暇を取れば、深く回復する」という図が、少なくとも、研究者の間で決着していない、ということだ。「長い休暇を待つこと」そのものを検証した研究は、探した範囲では見当たらなかった。

十分間の休憩に、何が期待できるか

休暇が遠いなら、逆の極端も見ておくべきだろう。仕事の合間の、ごく短い休憩だ。アルブレスクらの2022年のメタ分析(PLoS ONE)は、10分以下の中断を「マイクロブレーク」と定義して、19件・22の独立サンプル(2,335人)をまとめた。休憩の長さは8秒から10分だった。

結果は、控えめだ。活力は上がり(d=0.36)、疲労は減った(d=0.35)。ただし、いずれも小さい効果だ。肝心のパフォーマンスへの効果は、全体では有意でなかった(d=0.16、p=0.116)。休憩の前の作業別に見ると、認知課題のあとでは、効果はほぼゼロ(d=−0.09)。創造的課題では d=0.38、事務作業では d=0.56だが、後者は研究が2件しかなく、著者は慎重な解釈を求めている。休憩が長いほどパフォーマンスへの効果が大きい、という傾向も出た(b=0.07)。著者らは、消耗の大きい作業からの回復には、10分を超える休憩が必要かもしれない、と結論している。

電池にたとえるなら、マイクロブレークで持ち直すのは、主に活力と疲労感の表示のほうで、満充電にはほど遠い、というのが私の読みだ。成績に表れた効果は、作業の種類によってばらついた。

「離れる」ことが効く、と言えるのはどこまでか

遠くへ行く価値の中心にあるのは、日常の役割から切り離される感覚だった。これは研究では「心理的離脱」と呼ばれ、仕事から頭を離す体験を指す。ゾンネンターグとフリッツが2007年に作った回復体験の質問紙(Journal of Occupational Health Psychology)は、回復の体験を、心理的離脱、リラックス、熟達、コントロールの4つに分けた。

ヴェンチェとローマン=ハイスラーの2017年のメタ分析(Frontiers in Psychology)は、86文献・91サンプル・38,124人をまとめて、離脱との相関を並べている。離脱できている人ほど、消耗(バーンアウト)が低く(r=−0.36)、ウェルビーイングが高く(r=0.32)、睡眠がよく(r=0.30)、生活満足度が高い(r=0.32)。仕事の要求が高い人ほど、離脱しにくい(r=−0.25)。相関の大きさは中程度で、研究のあいだのばらつきも大きく、相関である以上、離脱するから元気なのか、元気だから離脱できるのかは分からない。ベネットらの2018年のメタ分析(54サンプル・26,592人)は、疲労との関係では離脱がリラックスやコントロールより強く、活力との関係ではコントロールが離脱やリラックスより強い、という違いを報告している。

離れすぎることの、落とし穴もある。フリッツらの2010年の研究(Journal of Applied Psychology)は、離脱が大きいほど、配偶者などが評価した生活満足度は高く、情緒的消耗は低いことを示した一方で、同僚が評価した職務遂行と積極的な行動に対しては、曲線の関係を見つけた。中くらいの離脱が最も良く、離脱が大きすぎると、「仕事モード」に戻るのに時間がかかるのではないか、と著者らは推測している。完全に離れる人が、仕事でも最もうまくいくわけではない。

もうひとつ、「完全に忘れる」ことだけが回復ではない、という手がかりもある。フリッツとゾンネンターグの2005年の研究(救急サービスの労働者87人、3時点)では、週末の私生活の面倒ごとや、社会的活動の少なさと並んで、「仕事を前向きに振り返ること」がないことが、週末のあとの消耗と低いウェルビーイングを予測した。仕事のことを、きれいに頭から消すのではなく、前向きに折り合いをつけて終わらせる、というやり方もあるらしい。

遠くの秘境が与えてくれる「切り離される感覚」は、この意味では、役に立つ。だが、離れれば離れるほど良い、とも言えない。ここで、以前の版が少し触れていた問いに戻る。

効いているのは場所か、それとも決め事か

以前の版は、銭湯やホテルの部屋そのものより、「今からこの数時間は休むと決めた」という区切りのほうが効いているのかもしれない、と書いた。遠さが特別に見えるのも、距離が強制的に作る「戻れない区切り」のせいで、都市の中で同じことをしようとすれば、区切りを自分で作る意志の弱さが結果に出る、とも書いていた。後半の「意志の弱さ」は、確かめてみると、言いすぎだった。

アシュフォースらの2000年の論文(Academy of Management Review)は、役割を「分離」から「統合」までの連続体の上に置いた。分離が強いと、役割が混ざらない代わりに、切り替えの落差が大きく、境界を越えるのが難しい。それを助けるのが、通過儀礼だ。統合が強いと、切り替えは楽だが、境界がにじむので、境界を作って保つ作業が要る。クライナーらの2009年の論文(Academy of Management Journal)は、その作業の戦術を、行動的、時間的、物理的、コミュニケーション的の4つに分けた。区切りを作るには、いくつもの道具がある。

では、区切りを作れるかどうかは、本人の意志の強さで決まるのか。パークらの2011年の研究(Journal of Occupational Health Psychology)は、フルタイムで働く大学の卒業生431人を調べ、本人の分離志向が強いほど、また職場で分離の規範が強いほど、離脱できていると報告した(英国心理学会の紹介による)。夜に同僚へ連絡するのが普通かどうか、という職場の空気が、本人の好みと並んで効く。ベッカーらの2021年の研究(Journal of Management、3つの研究)は、さらに踏み込んでいる。勤務時間外のメールを見ているべきだ、という組織の期待が、不安を通じて、従業員本人と、その配偶者の健康や関係満足度を損なっていた(抄録による)。大学の紹介では、実際にメールに対応した時間に関係なく、期待があるだけで不安が生じる、とされる。

ヤヒモヴィッツらの2021年の研究(Organization Science、3つのフィールド研究・1,736人)は、通勤という「移行の時間」に注目した。長い朝の通勤は、セルフコントロールが低い人とワークファミリー葛藤が高い人では、職務満足の低下と離職の増加につながった。一方、通勤中にこれから始まる仕事の役割を思い描く人は、その悪影響を受けにくかった。境界の方略を使えるかどうかは、個人の資質だけでなく、移行の時間があるかどうかという構造にも絡む。在宅勤務で通勤が消えると、この移行の時間もなくなる、という論点は著者側の解説にあるが、在宅勤務と離脱を直接調べたメタ分析は、私が探した範囲では見つからなかった。

区切りを自分で作れないことを、意志の弱さだけに帰すのは、確かめてみると根拠が弱かった。距離が自動で作ってくれる区切りを、近場でも作れるかどうかは、職場の規範と、移行の時間の有無にも左右される。以前の版の「意志の弱さが、そのまま結果に出る」は、書き直したほうがよい文だった(セルフコントロールの高さも関係するので、意志が無関係とも言えない)。

銭湯の数は減り、1軒あたりの利用は(計算上)増えている

都市の設備の筆頭に挙げていた銭湯に、数字で当たってみる。東京都の資料によれば、都内の銭湯は、1968年の12月末に2,687軒(戦後最多)あった。1988年には2,043軒、2008年には879軒、2025年末には417軒(区部382、市部35)で、1968年を100とすると15.5まで減っている。区別では、大田区が33軒で最多、千代田区と港区が4軒だった。

ところが、1軒あたりの1日の利用人員は、1968年の530人から、1988年の230人、2008年の124人まで減ったあと、2017年の132人、2020年の143人、2023年の154人、2024年の163人と、増えている。ただし、これは実際に数えた人数ではなく、入浴料金の収入額から割り戻した計算値だと、資料に注記がある。大人の入浴料金(統制額)は、2014年の460円から、2022年の500円、2024年8月の550円に上がっているので、収入から割り戻した数字が、そのまま「客が増えた」を意味するかどうかは、私は確かめていない。都内全体の1日あたりの利用者は、同じ計算値で見るとむしろ減っている(2008年の879軒×124人は約10.9万人、2024年の430軒×163人は約7.0万人。私の計算)。残った店に客が集まっている、という図は成り立ちそうだが、料金の値上げと計算方法との関係までは、確認できていない。

全国で見ると、厚生労働省の令和6年3月末の資料では、公衆浴場の営業許可施設は23,673施設、そのうちいわゆる一般公衆浴場(普通の銭湯)は2,847施設で、減少が続いている。スーパー銭湯は「その他の公衆浴場」に含まれ、その数だけは確認できなかった。自宅に風呂がある住宅は、住宅・土地統計調査の2008年の値で、全国で95.5%、都内で97.6%にのぼる(厚生労働省と東京都の資料による)。多くの人にとって、湯船に浸かるだけなら、銭湯に行く必要はもうない。銭湯に行く理由は、湯船以外のところにあるはずだ。

銭湯に通う人は、本当にしあわせなのか

銭湯の利用と幸福感を調べた日本の研究がある。早坂らの2020年の研究(日本健康開発雑誌)は、2018年9月のインターネット調査で、週1回以上の利用者を「習慣的利用者」とした。「非常にしあわせ」(10点満点で8〜10点)と答えた割合は、習慣的利用者で73.3%(22人/30人)、そうでない人で43.1%(214人/497人)で、有意な差だった。数字だけを見れば、銭湯に通う人はしあわせ、になる。

しかし、習慣的利用者は30人しかいない。距離、入浴時間、所得などの交絡因子は調整されておらず、著者らも限界として挙げている。男女に分けると、男性では差が有意だが、女性では有意でなかった。60代以上に限ると、むしろ習慣的でない人のほうが、「非常にしあわせ」の割合が高かった(55.4%対44.4%)。研究費は、厚生労働省の、生活衛生関係営業(銭湯を含む業界)の振興のための補助金だった。それ自体が問題というわけではないが、出どころとして書いておく価値はある。

同じ早坂らの2022年の研究(日本健康開発雑誌)は、70歳以上26人が、週2回程度、4週間銭湯に通った結果を報告している。上体起こしは4.0回から4.9回に、開眼片足立ちは36.7秒から51.2秒に改善した(p=0.048、p=0.013)。ただし、対照群はなく、銭湯に加えて簡単な運動も促していたので、銭湯の効果と運動の効果は分けられない。

私が確かめられた範囲では、「銭湯そのものが、遠くの温泉の代わりになる」と言えるだけの根拠は、まだ揃っていなかった。入浴の効果についての信頼できる研究は、むしろ「体を温める」ことの側にある。

体を温めること自体は、何をするか

ハガイェグらの2019年のメタ分析(Sleep Medicine Reviews)は、5,322件の候補から17研究を選び、そのうち13研究が分析可能なデータを持っていた。就寝前に40〜42.5℃の温かいシャワーか入浴で体を温めると、主観的な睡眠の質と睡眠効率の改善と関連し、就寝の1〜2時間前に、わずか10分でも、入眠までの時間が有意に短くなった。ここでいう「10分」は体を温める時間の下限で、入眠が10分早まるという意味ではない。報道では「10分早く眠れる」とされることがある。入眠が何分早まったのかは、本文が有料で、私は確認できなかった。仕組みの説明は、手のひらや足の裏の血流が増え、体の熱が逃げやすくなって、深部体温が下がる、というものだ。

日本の高齢者を追った研究もある。八木らの2019年の研究(Journal of Epidemiology、JAGES)は、日常生活が自立した13,786人(平均73.4歳)を3年追跡した。浴槽入浴が週0〜2回の人に比べて、週7回以上の人は、新たな要介護認定の調整ハザード比が、夏で0.72(0.60〜0.85)、冬で0.71(0.60〜0.84)だった。ただし、健康な人ほどよく入浴する、という逆の因果を排除できないと著者らは書いている。また、この研究は自宅の風呂と銭湯を区別しておらず、シャワーやサウナも測っていない。銭湯の効果の根拠にはならない。

入浴には、リスクもある。東京都監察医務院の資料によれば、東京23区で入浴中に亡くなった人は、2022年に1,704人で、全検案数16,276件の1割以上だった。ここでの「入浴中」は、脱衣所や洗い場を含み、湯船に浸かっているかどうかを問わない。直近5年(2018〜2022年)の平均は年1,478人。1日あたりの件数は、1月が8.8人、2月が7.7人、12月が6.8人であるのに対し、7月・8月は1.7人、9月は1.6人だった。65歳以上が占める割合は、5年平均で、男性が87.6%、女性が94.1%。自宅の風呂か公衆浴場かの内訳は、この資料にない。「湯に浸かれば休まる」と簡単に言ってしまうには、1月に1日あたり8人を超える数字は、重い。

ホテルのデイユースは、どれくらい使われているのか

ビジネスホテルのデイユースを、以前の版は「数千円で、家でも職場でもない、誰にも呼ばれない数時間を買うことができる」と紹介した。その利用の実態を示す公的なデータが、あるかどうか調べた。結論から書くと、見当たらなかった。観光庁の宿泊旅行統計調査は「宿泊者」を数える設計で、日帰りの客室利用の扱いは明記が見つからない。日本ホテル協会や予約サイトの、デイユースの件数や利用目的の公表データも、見つけられなかった。

見つかったのは、ホテルのテレワーク向けプランの発表(たとえば、ホテルニューオータニ大阪の「デイユース サブスクリプション」、2021年2月、30日間・毎日最大12時間)と、テレワーク需要の減少で撤退する事業者がある中でアパホテルがデイユースを続けている、という経済誌の記事だけで、前者は事業者の宣伝、後者は有料部分の数値が確認できない二次情報だ。デイユースが、休息に使われているのか、仕事に使われているのかも、私には分からない。ここに書けるのは、利用の実態を示すデータが見当たらない、というところまでである。

感覚を遮断すると、何が起きるのか

感覚遮断タンク(フロートタンク)は、皮膚温に近い35℃前後のエプソム塩の高濃度の湯に、暗い個室で浮く装置だ。研究には、効果が非常に大きく見えるものと、控えめなものがある。

ファインスタインらの2018年の研究(PLoS ONE)は、不安・ストレス関連障害の治療を求める成人50人を対象に、1回60分(最長)のフロートを行った。状態不安は50人全員で下がり、効果量は d=2.15と、非常に大きかった。ところが、これは対照群のない1回きりの前後比較で、著者自身が、期待効果や要求特性を排除できないと書いている。1回だけで、持続も反復の効果も分からない。有害事象は重いものがなく、1人が浮き始めにパニック様の発作を起こし、1人が皮膚の刺激で途中終了した。

対照のある試験は、控えめだ。ヨンソンとシェルグレンの2016年の試験(BMC Complementary and Alternative Medicine)は、質問紙で全般性不安障害の基準に該当した人を、フロート群と待機群に割り付けた。約45分を12回、7週間。非盲検で、フロート群24人中9人(37%)が、「完全寛解」の目安とされる値を下回ったのに対し、待機群は22人中3人(14%)だった。6か月後の追跡は、フロート群のみで、24人中19人が回答した。症状の改善は維持されたが、抑うつは治療直後より有意に悪化した。シェルグレンとウェストマンの2014年の試験(同誌)は、健康な65人を、フロート群37人と待機群28人に無作為に割り付けた。45分を12回、7週間で、フロート群では、ストレス、不安、抑うつが下がり、睡眠の質が上がったが、待機群に有意な変化はなかった。ただし、脱落者数や分析人数がはっきりせず、表と本文で数値の一部が食い違い、対照が待機群だけで、盲検化と期待効果への言及もない。

ファン・ディーレンドンクとテ・ナイヘンハイスの2005年のメタ分析(Psychology & Health)は、25本の論文から27研究、計449人をまとめて、コルチゾールや血圧の低下などに好ましい効果を見つけた。効果は「比較的強い」とされるが、数値は確認できていない。参加者の平均年齢は29歳と若い。d=2.15と、37%対14%という二つの数字を並べるのは、本当は乱暴だ。d=2.15は、1回のフロート前後の状態不安の変化で、37%対14%は、12回のフロートのあと、寛解の目安を下回った人の割合だ。測っているものが違う。非盲検で待機群と比べる試験では、期待効果が残っていれば、効果は実際より大きく見える。私は、対照のある試験の数字を、見積もりの出発点に置きたい。

静けさは七割で足りる、と言ってよいのか

以前の版は、「七割くらいの静けさを頻繁に使うほうが、結果的には体に残るものが多い気がしている」と書いた。この「七割」に、根拠はあるのか。完全な静寂が最も回復に良い、と直接示した研究は、探した範囲では見当たらなかった。逆に、七割で足りる、と示した研究も見つからない。関連する研究から、わかることだけを拾う。

アルヴァルソンらの2010年の実験(International Journal of Environmental Research and Public Health)では、大学生40人が、2分間の暗算でストレスを受けたあと、4分ずつ4種類の音を聞いた。自然の音(噴水と鳥の声)50 dB(A)、道路交通の騒音80 dB(A)、同じ交通騒音50 dB(A)、静かな裏庭の環境音(換気の音)40 dB(A)。皮膚コンダクタンスの回復の半減期の推定は、自然が101秒、交通騒音50 dBが111秒、環境音40 dBが121秒、交通騒音80 dBが160秒で、半減期の個々の値は統計的に検定できなかった。検定できたのは平均の皮膚コンダクタンスの水準で、自然は80 dBの騒音より低かった(p=0.045)。意外なのは、半減期の推定値で、いちばん音の小さい40 dBの環境音が、50 dBの自然音より、回復が遅かったことだ。著者らは、発生源のはっきりしない音が、頭の活動を増やした可能性を挙げている。

ブクストンらの2021年のメタ分析(PNAS、18論文)は、自然の音がストレスと不快感を下げる(g=−0.60)ことを示した。健康とポジティブ感情の改善の g=1.63は、信頼区間が0.09〜3.16と非常に広く、含まれた研究の61%は実験室か病院で行われている。米国の国立公園68か所・221地点のうち、人工音が少なく自然音が多い地点は11.3%(25地点)だった。人工の音から離れられる場所は、自然の中でも、多くない。

最後に、よく引かれる別の研究を、はっきり区別しておく。メータらの2012年の実験(Journal of Consumer Research)では、中くらいの騒音(70 dB)が、低い騒音(50 dB)より創造的な課題の成績を上げ、高い騒音(85 dB)は下げた。「ほどほどの雑音が良い」という話の出どころだが、これは創造性の研究で、回復の研究ではない。「七割の静けさ」の裏づけに使うには、ずれがある。

静けさの「量」について、七割で足りるという根拠は、私には出せなかった。分かるのは、音の種類と発生源で、回復の速さが変わりうる、ということだ。銭湯の話し声や、ホテルの外の車の音が、頭を休めるか疲れさせるかは、音の大きさだけでは決まらないのかもしれない。

自然に身を置く時間は、都市の中でも効くのか

都市の中にも、自然はある。ハーティヒらの2003年の研究(Journal of Environmental Psychology)は、112人の若い成人を無作為に割り付けた。木の見える部屋で座ると、窓のない部屋より、拡張期血圧が早く下がった。自然保護区を歩くと、歩き始めは、都市を歩くより大きなストレス低下を示す血圧変化があった。注意課題は、自然では歩行の中間で少し改善し、都市では低下して、その差は歩行後も残った。ただし、都市のコースは、1日最大24,000台が通る道路沿いの歩道だった。

ブラットマンらの2015年の研究(PNAS)は、有名な「自然の中を90分歩くと反芻が減る」の出典だ。健康な成人38人(各群19人)を無作為に割り付け、5.3 kmの90分の一人歩きを、自然(草地とオークのある場所)か、交通量の多い道で行わせた。肝心の反芻の質問紙では、群と時間の交互作用が p=0.07で、有意ではなかった。自然群の中では前後で下がった(d=0.34)が、都市群は変化がなかった。脳の血流(膝下部前頭前野)の交互作用は有意だった。限界として、標高差が違う(自然155 m、都市4 m)、自然と都市がそれぞれ1か所だけ、1回だけで追跡なし、都市のコースにも木はあった、という点がある。

日常の中での測定もある。ハンターらの2019年の研究(Frontiers in Psychology)は、都市に住む成人36人が、8週間、週3回以上・10分以上の自然体験を、時間も場所も長さも自分で選んで行った。唾液コルチゾールが最も効率よく下がったのは21〜30分で、日内の自然な低下を除いて1時間あたり18.5%だった(7〜14分は8.3%で有意でなく、15〜20分は3.7%で有意でなかった)。30分を超えても下がり続けたが、ペースは落ちた(11.4%/時)。ただし、参加者の92%が女性で、条件を本人が選ぶ設計であり、測定のばらつきも大きい。

スティーブンソンらの2018年の系統的レビュー(抄録による)は、42論文をまとめて、自然に触れたあと、作業記憶、認知的柔軟性、注意の制御が、小〜中程度に改善したとした。実際の環境のほうが映像などの仮想環境より効果が大きいかもしれないが、接触時間の違いによる可能性もある。

都市の自然は、効かないわけではない。だが、効き方は、時間、場所、人によって大きく揺れる。公園を5分歩けば、遠くの森を90分歩いたのと同じになる、とは言えない。

遠さの代わりを探す、という問いの置き方

以前の版は、「都市を敵視する必要はないし、逃げ込む先として理想化する必要もない」と結んだ。確かめた今も、その結論は大きくは変わらない。ただ、中身が少し違ってきた。

休暇の効果は、長さでは決まらないかもしれない。決まるのは、戻った先の日常かもしれない、という読みも成り立つ。長さが効くとした研究もあり、ここは決着していない。区切りは、意志だけの問題ではなく、職場の期待と、移行の時間の有無にも左右される。銭湯は数を減らし、研究もまだ、銭湯そのものの効果を示せていない。ホテルのデイユースは、データがない。感覚遮断タンクは、測っているものが違う数字をどう読むかで、見え方が変わる。静けさの「七割」には、根拠を出せなかった。

遠さが運んでくるもの、と最初に考えたものの多くは、遠さそのものより、「戻れない区切り」と「日常の要求からの切断」だったのかもしれない。その二つは、距離がなくても、手に入るのかもしれない。ただ、周りの期待が変わらないままでは、近場の設備だけでは区切りにならないのかもしれない。これは、研究から私が引き出した仮説であって、確かめられた結論ではない。

出典

  • de Bloom J, Kompier M, Geurts S, de Weerth C, Taris T, Sonnentag S (2009). Do we recover from vacation? Meta-analysis of vacation effects on health and well-being. Journal of Occupational Health, 51(1), 13–25.(抄録による)/ de Bloom J, Geurts SAE, Taris TW, Sonnentag S, de Weerth C, Kompier MAJ (2010). Effects of vacation from work on health and well-being: Lots of fun, quickly gone. Work & Stress, 24(2), 196–216.(抄録による)
  • Kühnel J, Sonnentag S (2011). How long do you benefit from vacation? A closer look at the fade-out of vacation effects. Journal of Organizational Behavior, 32(1), 125–143.(抄録による)
  • Speth MM, Wendsche J, Wegge J (2023). We continue to recover through vacation! Meta-analysis of vacation effects on well-being and its fade-out. European Psychologist, 28(4), 274–287.(抄録による)
  • Grant, Buchanan, Shockley (2025). I need a vacation: A meta-analysis of vacation and employee well-being. Journal of Applied Psychology, 110(7), 887–905.(抄録による。21日・43日・自宅と遠方の比較は、英国心理学会 Research Digest の紹介による二次情報)
  • Albulescu P, Macsinga I, Rusu A, Sulea C, Bodnaru A, Tulbure BT (2022). "Give me a break!" A systematic review and meta-analysis on the efficacy of micro-breaks for increasing well-being and performance. PLoS ONE, 17(8), e0272460.
  • Sonnentag S, Fritz C (2007). The Recovery Experience Questionnaire: Development and validation of a measure for assessing recuperation and unwinding from work. Journal of Occupational Health Psychology, 12(3), 204–221.(抄録による)
  • Wendsche J, Lohmann-Haislah A (2017). A meta-analysis on antecedents and outcomes of detachment from work. Frontiers in Psychology, 7, 2072.
  • Bennett AA, Bakker AB, Field JG (2018). Recovery from work-related effort: A meta-analysis. Journal of Organizational Behavior, 39(3), 262–275.(抄録による)
  • Fritz C, Yankelevich M, Zarubin A, Barger P (2010). Happy, healthy, and productive: The role of detachment from work during nonwork time. Journal of Applied Psychology, 95(5), 977–983.(抄録による)/ Fritz C, Sonnentag S (2005). Recovery, health, and job performance: Effects of weekend experiences. Journal of Occupational Health Psychology, 10(3), 187–199.(抄録による)
  • Ashforth BE, Kreiner GE, Fugate M (2000). All in a day's work: Boundaries and micro role transitions. Academy of Management Review, 25(3), 472–491.(抄録による)/ Kreiner GE, Hollensbe EC, Sheep ML (2009). Balancing borders and bridges: Negotiating the work-home interface via boundary work tactics. Academy of Management Journal, 52(4), 704–730.(抄録による)
  • Park Y, Fritz C, Jex SM (2011). Relationships between work-home segmentation and psychological detachment from work: The role of communication technology use at home. Journal of Occupational Health Psychology, 16(4), 457–467.(英国心理学会 Research Digest の紹介による二次情報)
  • Becker WJ, Belkin LY, Conroy SA, Tuskey S (2021). Killing me softly: Organizational e-mail monitoring expectations' impact on employee and significant other well-being. Journal of Management, 47(4), 1024–1052.(抄録による)
  • Jachimowicz JM, Cunningham JL, Staats BR, Gino F, Menges JI (2021). Between home and work: Commuting as an opportunity for role transitions. Organization Science, 32(1), 64–85.(抄録による)
  • 東京都生活文化スポーツ局「都内公衆浴場数の推移及び入浴料金統制額の改定状況」(公衆浴場対策協議会資料)/ 厚生労働省「公衆浴場について」(令和6年3月末現在)
  • 早坂信哉・樋口善英・野々村雅之・栗原茂夫 (2020). 銭湯利用頻度と主観的幸福感の関連:インターネット・リサーチによる横断研究. 日本健康開発雑誌, 41, 17–22. / 早坂信哉ほか (2022). 高齢者における一般公衆浴場(銭湯)通所による体力・運動能力の改善. 日本健康開発雑誌, 43, 45–49.(抄録による)
  • Haghayegh S, Khoshnevis S, Smolensky MH, Diller KR, Castriotta RJ (2019). Before-bedtime passive body heating by warm shower or bath to improve sleep: A systematic review and meta-analysis. Sleep Medicine Reviews, 46, 124–135.(抄録による)
  • Yagi A, Hayasaka S, Ojima T ほか (2019). Bathing frequency and onset of functional disability among Japanese older adults: A prospective 3-year cohort study from the JAGES. Journal of Epidemiology, 29(12), 451–456.
  • 東京都監察医務院「東京都23区における入浴中の死亡者数の推移」(令和5年11月15日)
  • Feinstein JS, Khalsa SS, Yeh H, Wohlrab C, Simmons WK, Stein MB, Paulus MP (2018). Examining the short-term anxiolytic and antidepressant effect of Floatation-REST. PLoS ONE, 13(2), e0190292.
  • Kjellgren A, Westman J (2014). Beneficial effects of treatment with sensory isolation in flotation-tank as a preventive health-care intervention – a randomized controlled pilot trial. BMC Complementary and Alternative Medicine, 14, 417. / Jonsson K, Kjellgren A (2016). Promising effects of treatment with flotation-REST as an intervention for generalized anxiety disorder (GAD): a randomized controlled pilot trial. BMC Complementary and Alternative Medicine, 16, 108.
  • van Dierendonck D, te Nijenhuis J (2005). Flotation restricted environmental stimulation therapy (REST) as a stress-management tool: A meta-analysis. Psychology & Health, 20(3), 405–412.(抄録による)
  • Alvarsson JJ, Wiens S, Nilsson ME (2010). Stress recovery during exposure to nature sound and environmental noise. International Journal of Environmental Research and Public Health, 7(3), 1036–1046. / Buxton RT, Pearson AL, Allou C, Fristrup K, Wittemyer G (2021). A synthesis of health benefits of natural sounds and their distribution in national parks. PNAS, 118(14), e2013097118. / Mehta R, Zhu RJ, Cheema A (2012). Is noise always bad? Exploring the effects of ambient noise on creative cognition. Journal of Consumer Research, 39(4), 784–799.(抄録による)
  • Hartig T, Evans GW, Jamner LD, Davis DS, Gärling T (2003). Tracking restoration in natural and urban field settings. Journal of Environmental Psychology, 23, 109–123. / Bratman GN, Hamilton JP, Hahn KS, Daily GC, Gross JJ (2015). Nature experience reduces rumination and subgenual prefrontal cortex activation. PNAS, 112(28), 8567–8572. / Hunter MR, Gillespie BW, Chen SY (2019). Urban nature experiences reduce stress in the context of daily life based on salivary biomarkers. Frontiers in Psychology, 10, 722. / Stevenson MP, Schilhab T, Bentsen P (2018). Attention Restoration Theory II: a systematic review to clarify attention processes affected by exposure to natural environments. Journal of Toxicology and Environmental Health B, 21(4), 227–268.(抄録による)
  • ホテルのデイユースについて: ホテルニューオータニ大阪「デイユース サブスクリプション」(2021年2月、事業者の発表)/ 東洋経済の記事(記事名と掲載年月は確認できていない。アパホテルがデイユースを続けているという内容。有料部分は未確認の二次情報)/ 観光庁「宿泊旅行統計調査」(デイユースの扱いの明記は見つからなかった)
XはてなブックマークLINEFacebook