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古着を切る前に、何を壊しているのかを考える
環境省の令和4年度推計を開くと、リユースの約半分は海外輸出、リサイクルの過半はウエスと反毛だった。古着を切る前に、手元の一着に残る道を並べる。
手放される衣類は、国内で年に約73万トンある。そのうち約47万トンが、リユースにもリサイクルにも回らず、焼却か埋め立てへ向かう。環境省が2022年の実績として推計した数字だ。気になるのは、47万トンという桁の大きさではない。残りの約26万トン、つまり「ちゃんと行き先がある」と数えられている側の中身が、名札から思い浮かべる姿とだいぶ違う、という方である。
古着にハサミを入れる前に、その一着が統計の中でどう数えられているのかを見ておきたい。切るという行為が何を壊すのかは、服の側の事情と、切る側の事情の両方で決まる。後者は、自分が作ったものに自分だけが高い値をつける、という心理の話になる。どちらも、思ったより地味で、思ったより曖昧だった。
「リユース」と「リサイクル」という名札の中身
環境省が2023年3月に公表した令和4年度の調査(実施は矢野経済研究所)によると、2022年に国内で新たに供給された衣類は79.8万トンで、使用後に手放されたのは73.1万トンだった。内訳は家庭が69.6万トン、事業所が3.5万トンである。行き先は、廃棄が47.0万トン(64.3パーセント)、リサイクルが12.7万トン(17.4パーセント)、リユースが13.3万トンで、サマリーでは18.1パーセントと表記されている。同じ報告書の比較ページでは18.2パーセントとあり、原典の側で表記が揺れているが、気にするほどの差ではない。
焼却と埋め立ての47万トンについて、環境省のサイトは近年の推計(約46万トン)を、大型トラック約130台分を毎日焼却・埋め立てしている計算だと換算している。この換算は令和4年度の報告書には出てこない。後年の推計に付いた説明である。数字の桁がつかみにくいとき、トラックの台数に直すのはよくある手だが、台数に直した途端に「毎日」という言葉が効いて、量のイメージが定着する。便利なぶん、数字の出どころは見えにくくなる。
さて、問題はリユースとリサイクルの方だ。報告書の概要版には、算出方法の表が載っている。その数字を足し合わせると(以下は報告書の言葉ではなく、表からの私の算術である)、家庭から出るリユース13.0万トンのうち、約6.0万トンは故繊維事業者を経由した海外輸出にあたる。リユースと聞いて、近所で誰かがもう一度着ている姿を思い浮かべたとき、その半分近くは国外の誰かの手に渡っている計算になる。同じように、家庭のリサイクル10.8万トンのうち、約6.0万トンはウエス(工場などで使う拭き取り用の布)と反毛(繊維をほぐして詰め物などに使い直したもの)だ。衣類から衣類へ戻る流れは、この表からは量として確認できない。家庭のリサイクルの約2.5万トンは、家庭ごみとして出された衣類が、ごみ処理の過程で再資源化された量として置かれた数字である。ごみとして出した服の一部も、リサイクルに数えられている。
さらに、この内訳は実測ではない。国内の故繊維事業者が引き取った古着の行き先は、ヒアリングに基づく推定値で、海外輸出45パーセント、ウエス・反毛45パーセント、廃棄10パーセントとされている。店頭回収された分については、報告書が注記で「全てリサイクルされると定義」している。観測した結果ではなく、置き方の積み重ねである。数字が悪いと言いたいのではない。誰にも全体が見えない領域で、統計は仮置きを重ねて作るしかない、という事情が見えるだけだ。
海外のデータも、同じ方向を向いている。エレン・マッカーサー財団が2017年にまとめた報告書は、衣類の製造に使われる素材のうち、新しい衣類へ再生されるのは1パーセント未満だと述べている。使用後の衣類に限れば、専門家へのインタビューなどから、0.1パーセントを下回る可能性があるとも書く。素材が何らかの形でリサイクルされる割合は13パーセントだが、その大半は断熱材やウエス、マットレスの詰め物といった、価値の低い用途へ段階的に落ちていく使い方だという。日本の「リサイクル17.4パーセント」を、この文脈で読むと、数字の見え方が変わる。リサイクルという名札は、服が服に戻ることを約束してはいない。
捨てられる服は、着られ尽くした服ではなかった
衣類が捨てられる理由を、人は「ぼろぼろになったから」だと思いがちである。ノルウェーのオスロメトロポリタン大学の研究グループが、衣類の廃棄理由を扱った17の研究(延べ約2万人)をまとめた分析では、摩耗など品質に関する理由は、その他・不明を除くと37パーセントで、単独では最大の区分だった。体に合わなくなったという理由が28パーセント、時代遅れや不要、収納場所がないといった価値の認識に関する理由が35パーセントである。およそ3分の2は、布が持ちこたえられなかったからではなく、持ち主の側の事情で手放されている。
環境省の現行サイトも、似た姿を示している。家庭の衣類のうち、使われているのが55パーセント、しまい込まれているのが45パーセント。一人が1年間に購入する衣類は約19枚、手放すのは約11枚、そして1年間に一度も着られていない服が約24枚ある。令和7年度のマテリアルフローは、家庭から手放される衣類のおよそ85パーセントを、しまい込まれていた服に由来するものとして置いている(リユース向けに売られる分だけなら90パーセント)。これは実測ではなく、ストック調査に基づく係数である。とはいえ、捨てられる服の多くが、着られ尽くしたのではなく着られなかった服だ、という見立てには、複数の資料が揃っている。
英国のWRAP(廃棄物・資源行動プログラム)が2012年に公表した調査は、英国の成人7,950人を対象にしていた。世帯の衣類の約30パーセントは、少なくとも1年は着られていない。その最も多い理由は、「サイズが合わなくなった」である。成人の5人に4人が、サイズやお直しが必要という理由で着ていない服を持っていた。「飽きたから」が首位ではないところが、いかにもありそうで意外だ。これは英国の2012年のデータなので、日本にそのまま当てはめることはしない。
この数字の並びを見ると、古着リメイクの入り口は、服が壊れたことではなく、服が合わなくなったことにあるらしい。そして、もう一つの入り口が、気持ちの上での飽きである。前者は、お直しという手段で足りることが多い。リメイクが必要になるのは、お直しでは解けない場合、つまり、形そのものを変えたい場合である。ここを混同すると、お直しで済む服を、わざわざ別の物にしてしまうことが起こる。
切る前に、その一着に残っている道
ここから先は、順位をつけない。手元の一着について、リメイクを含む複数の道があり、それぞれに利点と、見えにくい欠点がある。どれが正しいかは、服と、持ち主と、使える時間によって変わる。以下は、数字で言えることと言えないことを分けて並べたものである。
そのまま着る、または直して着る
最も地味な道だが、試算の上では効果が大きい。WRAPの試算では、衣類の着用期間を9か月延ばすと、炭素排出が27パーセント、水の使用が33パーセント、廃棄物が22パーセント減る。調査時点の英国の衣類の平均寿命が2.2年とされているので、およそ3分の1延ばす計算になる。脚注には、寿命を延ばすことが製造の負荷を増やす場合は削減が小さくなる、とも書かれている。
日本の環境省の統計には、「リペアした衣類」という項目がある。算出式は、消費者アンケートで答えられたリペアの枚数に、1枚あたりの重量と人口を掛けたものだ。リペアの量は、2009年に手放される衣類の1.7パーセントに相当する量、2020年に14.3パーセント、2022年に6.3パーセントと動いている。2年で半分以下になった理由について、令和4年度の報告書は、リペアが環境保護に貢献するという認知が十分に広まっていないことなどが考えられる、と書く。これは検証された理由ではなく、報告書の推測である。そもそも、家庭の手仕事を、アンケートの回答から重量に直して推計している以上、数字の動きは細かく読まないほうがよい。
実践の意向は、これとは別の設問で聞かれている。環境省の令和7年度のアンケートでは、衣服が壊れたときに自分でリペア(修繕・リメイク)する人が、実践している人と今後したい人を合わせて57.0パーセントだった。意向と実践のあいだに距離があるのは、あらゆる調査の常である。
売る、譲る
手放し方の内訳を重量ベースで見ると、令和7年度の推計では、可燃・不燃ごみとして廃棄が55パーセント、古着として販売が18パーセント、行政回収・資源回収が19パーセント、店頭等での回収が5パーセント、譲渡・寄付が3パーセントである。ごみにする理由として最も多いのは、「処理に手間がかからないから」で76パーセント(令和6年度のアンケートに基づく記載)。手間のかからなさで、ごみ箱が選ばれている。
売る道の利点は、服が服のまま次の持ち主へ行くことだ。欠点は、売れるかどうかが服の側の条件(状態、ブランド、季節)で決まり、売れなかった服がまた手元に戻ってくることがある点である。そして、売れた先が国内とは限らない。令和4年度の推計では、家庭のリユースの半分近くが海外輸出にあたる。令和7年度版は推計の方法が違い、リユースに占める輸出の割合はこれより小さい(3分の1あまり。概要版の表からの私の算術で、輸出の項目にはリサイクル向けも含まれうる)が、輸出が一定の割合を占める点は変わらない。環境省のページも、古着の海外輸出は輸出先の現地産業への影響が懸念されるため、国内のさらなるリユース推進が課題だと注記している。
回収に出す
店頭回収や行政回収に出すのは、手間が最も小さい部類の手放し方である。先に述べたように、店頭回収の分は統計上「全てリサイクルされる」と定義されている。実際にどこへ行き、何になるのかは、この定義からは見えない。回収に出すことが悪い選択だという意味ではない。ごみ箱に入れるよりは、少なくとも行き先の可能性が増える。出したあとの服について、確かなことを言える人はほとんどいない。
切って作り替える
リメイクは、ここまでの道と性質が違う。服が服でなくなる。小物に化けた服は、古着市場に出せないし、回収に出しても、服としては扱われにくいだろう。つまり、切るという行為は、リユースの道を閉じる行為である。この閉じられた価値の大きさを、金額や量で扱った統計や研究は、今回調べた範囲では見つからなかった。環境省の調査にも、WRAPにも、家庭のミシンや布端の廃棄量にも、数字は出てこない。確かめられないことを、確かめられないまま書いておく。
リメイクが統計にどう載るかについても、同じ種類の曖昧さがある。環境省の算出方法に「リメイク」や、家庭のアップサイクルという分類は見当たらない。あるのは「リペアした衣類」で、それにリメイクが含まれるのかは、調査票そのものを確認できなかったので、わからない。別の設問では「リペア(修繕・リメイク)」とまとめて聞いているが、算出に使う定義が同じかどうかは確認できていない。「統計に載らない」と言い切るのは不正確で、「載るかどうか、確かめられなかった」が正しい。
長く着るという算術は、リメイクにも当てはまるか
前の節のWRAPの試算は、「着用期間が延びたら」という仮定の上に立っている。リメイクした服が、リメイク前の服より長く着られるのか。そこが肝心のところだが、自作やリメイクした服と、購入した服の着用期間を比べた統制された研究は、今回探した範囲では見つからなかった。愛着と使用期間の関連を扱った小規模な調査はあるが、自作やリメイクした服の寿命を実測したものではない。
環境負荷の側の算術にも、注意が要る。環境省の令和2年度の報告書によれば、国内に供給される衣類の1着の生産にともなう負荷は、CO2が25.5キログラム、水が2,368リットルで、ライフサイクルのCO2の94.6パーセントは、輸送までの上流の段階で出ている。つまり、手元の一着を切る時点で、その服の環境負荷の大半は、すでに使われている。切ることで取り戻せるのは、使用後の処理の側だけだ。切った服が、切る前より長く着られるなら、上流の負荷を「割り算で薄める」効果が出る。長く着られないなら、薄まらない。リメイクの環境的な意味は、作り替える行為ではなく、そのあとの使われ方で決まる。
もう一つ、素材の話がある。エレン・マッカーサー財団の報告書は、混紡の素材がリサイクルでの素材価値の回収を難しくすると書いている。同じ報告書は、「綿100パーセント」の服でも、縫い糸がポリエステルのことがある、とも指摘している。縫い糸は、強度のためにポリエステルが一般的だという。つまり、手元の綿のシャツを切って縫い直したとき、そこに足されるのは、新しいポリエステルの糸であることが多いだろう。それが問題だと言いたいのではない。素材の純度を気にするなら、その気にし方は服の一着よりも、糸のスケールまで降りていく、ということだ。
自分で作ったものは、自分にだけ高く見える
リメイクが続く理由として、よく語られるのは「愛着が湧くから」である。この言葉には、行動経済学の側に裏づけらしいものがある。ノートン、モコン、アリエリーが2012年に発表した「IKEA効果」の研究だ。自分で組み立てたものに、人は高い値をつける。
この論文の実験は、拍子抜けするほど単純である。IKEAの収納箱を自分で組み立てた大学の参加者(52人)の支払意思額は平均0.78ドルで、組み立て済みの箱を提示された群の0.48ドルより、63パーセント高かった。折り紙の実験(106人)では、折った本人が自分の作品につけた額は0.23ドル、折っていない人が同じ作品につけた額は0.05ドルで、ほぼ5倍の開きがあった。専門家が折った作品に、折っていない人がつけた額は0.27ドルである。素人が自分で折った作品に、本人は専門家の作品並みの値をつけ、他人は5分の1しか認めなかった。
ここまでなら、「作れば愛着が湧く」というよくある話の確認で終わる。意外なのは、その先だ。同じ論文の実験で、IKEAの箱を最後の2手順を残して中断させられた群の評価額は0.59ドルで、完成させた群の1.46ドルの4割ほどしかなかった。レゴを自分で組んだあと、すぐにばらしてしまった群では、自分の作品と他人の作品への評価の差が消えていた。愛着の条件は、作ることではなく、完成することだった。
これを古着に当てはめるとどうなるか。この研究は衣類を使っておらず、以下は私の推論である。ハサミを入れた服が、途中で手に負えなくなって放置されたとき、その一着は、IKEA効果が働かない側に入る。元の服を切ってしまっているので、リユースの道にも戻れない。完成しなければ愛着は増えず、元にも戻れない。リメイクの失敗が重いのは、材料が減ったからではなく、この二重の行き止まりのせいかもしれない。
この効果自体は、頑丈なほうだ。2025年にオンラインで公開されたメタ分析は、55の研究、5,454人を統合して、効果量d=0.57(中程度)としている。2017年には、別の研究者が概念的な追試を行い、元の効果を支持する結果を報告した。今回の調査では、追試の失敗例は見つからなかった。ただし、メタ分析の抄録からは、完成の有無を調整変数として検証したかどうかはわからない。原論文は、課題は完成できなくなるほど難しいものであってはならない、とも注記している。「手の込んだものほど愛着が湧く」とは読めない。
所要時間を書かないことにした理由
手芸の入門記事には、たいてい所要時間が書いてある。「30分ほどで作れる」「午後いっぱいあれば」。この記事には書かない。理由は二つある。一つは、私がそれらを実際に測っていないこと。もう一つは、この種の見積もりは、うまくいく場合を思い浮かべて立てられやすいと考えられるからだ。
心理学者ビューラーらが1994年に発表した研究は、カナダの大学で卒業論文に取り組む心理学専攻の学生(37人、完了を確認できたのは33人)で、この癖を測っている。学生に、論文が完成する日を予測させると、平均で33.9日後という答えが出た。実際にかかったのは、平均55.5日である。予測した日までに終えた学生は、29.7パーセントだった。「すべてがうまくいったら」という条件の予測は平均21.4日で、そこまでに終わった学生は10.8パーセントしかいない。では「すべてが最悪だったら」はどうか。そこで出した予測は平均48.6日で、それでも間に合ったのは約半数(48.7パーセント)だった。最悪を見積もっても、半数あまりは超えてしまう。
この研究は手芸やリメイクを扱っておらず、学生の課題に限った結果である。リメイクの初心者が、どれくらいの割合で完成させ、どれくらい予定を超えるのかを示した実証は、確認できなかった。入門記事の所要時間にも同じ癖が出ていると考えるのは、学生の課題で観察された結果を延長した推論にすぎない。それでも、時間表記を鵜呑みにしない理由にはなる。先ほどのIKEA効果の話とつなげれば、見積もりより長引いて中断したとき、愛着の条件である完成が遠のく。時間を多めに見る理由は、効率ではなく、完成のためにある。
素材と道具、地味な話
ここからは、研究よりも手仕事の一般論になる。以下に書くことは、特定の出典に基づく数値ではなく、裁縫の入門でよく言われる範囲のことだ。
素材は、綿の単一素材で、ある程度張りのあるものが扱いやすい、と言われる。薄くて滑りやすい生地、伸びる生地は、初めての相手としては難しい。Tシャツやシャツやデニムは、切って縫い直す素材として定番になっている。混紡かどうかは、ラベルを見ないとわからない。EMFの報告書によれば、混紡は素材価値の回収を難しくするので、混紡の服は、作り替えたあとに回収へ出しても素材としての価値が低くなりやすい。それは作り替えをやめる理由というより、あとの行き先についての予告である。
道具は、布用のはさみ、糸切り用の小さなはさみ、針と糸、定規とメジャー、洗うと消えるチャコペン。このあたりがあれば、小さな工作はたいてい形になる。見落とされがちなのはアイロンだ。縫う前に折り目をつけておくだけで、仕上がりの印象が変わることが多い。
仕立て直す部位と難しさを、並べておく。難しさの順であって、おすすめの順ではない。
針も糸も使わない方法として、Tシャツを袖と襟ぐりで切り、裾に細かく切り込みを入れて前後の布を結ぶトートバッグがある。道具はハサミだけで足りる。その代わり、結び目だけで持たせているので、耐荷重は小さい。重いものを入れる使い方には向かない。
手縫いでできるものとして、デニムの背面ポケットを切り取り、上部にファスナーを付けるカードケースやアクセサリー入れがある。ポケットには、すでに形ができているので、設計の手間が小さい。欠点は、柔らかいデニムだと、開け閉めのたびにファスナーの周りが歪みやすいことだ。厚手の硬い生地のほうが向くが、厚すぎると針が通りにくく、家庭用のミシンでは針が折れることがある。

デニムジャケットの袖は、すでに筒の形をしている。切って片方を閉じ、もう片方にファスナーを付ければ、ペンケースやカトラリーケースになる。使い込むと、色落ちが部位によって違ってくる。
古いスカーフを細長く切って筒に縫い、ゴムを通すとシュシュになる。シルクのように滑る素材は縫いにくい。ポリエステルのスカーフのほうが、最初の相手としては扱いやすい。デニムの端切れを三つ折りにして、スナップボタンとキーリングを付ければキーケースになる。厚い生地は、ボタンを付ける位置が裂けやすいので、裏に小さな力布を一枚当てておくと長持ちする。
一着まるごとの作り替えは、小物とは別の種類の仕事になる。大きめのシャツを自分の体に合うワンピースにするなら、肩幅、丈、ウエスト位置を同時に決める必要がある。一箇所を直すと、離れた場所のシルエットが崩れる。型紙のない手作業では、避けにくい性質である。肩幅が大きすぎる場合は、ウエストを絞っても肩周りの印象は残る。仮縫いをして、着てみて、直すという往復を前提にするのが現実的で、この往復は、見積もりより長引く原因の一つになりうる。

長持ちさせる工夫は、地味で、効果がわかりにくい。縫い始めと終わりを数回往復して返し縫いにすること、ボタンやポケットの角の裏に小さな力布を当てること。洗濯ネットを使い、素材の異なる布を縫い合わせたものは、最も気を遣う素材の洗濯表示に合わせること。穴が空いたとき、目立つ色の糸で刺し子のように縫って塞ぐ「ダーニング」という修繕もある。修繕の跡が模様になり、直した事実が見える。直す前提で持つと、服との付き合い方が変わることがある。
作る時間は、気分に効くのか
手を動かすこと自体の効用も、一応は確かめておく。ここも強く言える話ではない。
コナーらが2018年に発表した研究は、若年成人658人に13日間、日記をつけてもらった。創造的な活動をいつもより多くした日の翌日には、活性化した肯定的な感情と、満たされた感覚の得点が高かった。逆の向き、つまり肯定的な感情が翌日の創造的な活動を予測する、という関係は支持されなかった。時間の順序がそろっているぶん、因果の向きを考える材料にはなる。とはいえ日記調査であり、因果の証明ではなく、「創造的な活動」の内訳は服の加工に限られない。
フィンランドの研究者Pöllänenが2015年に発表した研究は、テキスタイルの工芸を趣味にする女性59人の自由記述を分析した質的研究だ。素材に触れること、達成感、技能が伸びる感覚などが、幸福感に関わる要素として語られていた。効果量はない。書き手は、すでに工芸を続けている人たちで、体験を誇張した可能性を、論文自身が認めている。続けている人だけが語る体験は、始めようとして挫折した人の体験を含まない。
この二つを足しても、「リメイクをすると気分がよくなる」とは言えない。言えるのは、創造的な活動をした日の翌日に気分が高いという関連がありそうだ、というところまでだ。続かなかった人の側の記録は、どちらの研究にも入っていない。
名前のつかない行き先
ここまでの話を、手元の一着に戻す。切る前に確かめたいことは、数としては少ない。その服は、いま、直せば着られる服なのか、形を変えないと着られない服なのか。着ない理由は、体に合わなくなったことなのか、気持ちが離れたことなのか。前者ならお直しで足りることもあるだろうし、後者ならリメイクは気持ちの整理を兼ねるかもしれない。どちらが先に来るかで、手の入れ方は変わる。
切ったあとのことも、同じ程度にあいまいだ。リメイクした品が長く使われるのかはわからない。統計に載るのかもわからない。リユースの道を閉じる価値がどれだけなのかもわからない。EMFの数字を信じるなら、回収に出したところで衣類に戻る見込みも小さい。どの道を選んでも、確かなことを言える領域は狭い。それでも、手元に一着ある。
この記事は、リメイクを勧める記事でも、止める記事でもない。47万トンの横に自分の一着を置いたとき、その差が大きすぎて何もできなくなるのも、小さすぎて何をしても同じだと思うのも、どちらも数字の読み方としては雑だ、と書いておきたかっただけである。令和4年度の推計では、リユースの名札の半分近くは海外へ向かう荷札で、リサイクルの名札の過半はウエスと反毛へ向かう荷札だった。リメイクした服の荷札は、統計のどこにも貼られていない。その行き先は自分のクローゼットの中にあって、使われているかどうかを確かめられるのは、自分しかいない。
出典
- 環境省『令和4年度 循環型ファッションの推進方策に関する調査業務 マテリアルフロー』概要版(実施:矢野経済研究所), 2023年3月(概要版を確認。内訳の足し算は筆者)
- 環境省 サステナブルファッション(ウェブサイト。令和6・7年度のマテリアルフローと消費者アンケートの記載を確認)
- 環境省『令和7年度 循環型ファッションの推進方策に関する調査業務 報告書概要版(マテリアルフロー)』(実施:三菱UFJリサーチ&コンサルティング), 2026年3月(2025年版のフロー)(家庭の手放し方の内訳、しまい込み由来の係数、リユースに占める輸出の割合の算術に使用)
- 環境省『令和2年度 ファッションと環境に関する調査業務』報告書概要版(実施:日本総合研究所), 2021年
- WRAP, "Valuing Our Clothes: the true cost of how we design, use and dispose of clothing in the UK", 2012(要約版を確認)
- Ellen MacArthur Foundation, "A New Textiles Economy: Redesigning fashion's future", 2017(全文を確認。ただし公式サイトではなく、第三者のコース教材に載ったコピーから)
- Laitala K, Klepp IG, "Review of clothing disposal reasons", OsloMet 衣類研究グループ, 2022(ウェブ掲載の分析)
- Norton MI, Mochon D, Ariely D, "The 'IKEA effect': When labor leads to love", Journal of Consumer Psychology, 22(3), 453-460, 2012(数値は著者最終稿のワーキングペーパー版で確認。刊行版の本文は照合できていない)
- Sarstedt M, Neubert D, Barth K, "The IKEA Effect: A Conceptual Replication", Journal of Marketing Behavior, 2(4), 307-312, 2017(抄録)
- Pelled A, Demetriades SZ, Walter N, "Labor Leads to Love, Right? A Meta-Analysis of the IKEA Effect", Psychology & Marketing, 43(2), 388-400(2025年10月にオンライン公開。抄録)
- Buehler R, Griffin D, Ross M, "Exploring the 'planning fallacy': Why people underestimate their task completion times", Journal of Personality and Social Psychology, 67(3), 366-381, 1994
- Conner TS, DeYoung CG, Silvia PJ, "Everyday creative activity as a path to flourishing", Journal of Positive Psychology, 13(2), 181-189, 2018(抄録)
- Pöllänen S, "Elements of crafts that enhance well-being: Textile craft makers' descriptions of their leisure activity", Journal of Leisure Research, 47(1), 58-78, 2015
