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古着を切る前に、何を壊しているのかを考える

古着を切る前に、何を壊しているのかを考える

国内で年間に手放される衣類のうち、リユースもリサイクルもされず焼却・埋め立てに回る分だけで47万トン——環境省の推計による数字だ。その桁と、自分の手元の一着との距離を測りながら、古着リメイクの手順とメンテナンスの工夫を書いた。

TOMOAKI··趣味

かつてお気に入りだった服が、サイズが合わなくなったり、なんとなく時代遅れに見えてきたりして、クローゼットの奥で眠っている。捨てるほどでもないが、着るあてもない——その中途半端さのまま、季節が何度も過ぎていく。

先に数字を一つ置いておく。環境省が2022年度に行った衣類のマテリアルフロー調査によれば、国内で家庭や事業所から年間に手放される衣類はおよそ73万トン。そのうち64.3パーセントにあたる47万トンが、リユースもリサイクルもされないまま焼却・埋め立てに回るという。リユースされる分は18.1パーセント、リサイクルされる分は17.4パーセントにとどまる。焼却・埋め立てに回る量だけで、大型トラック130台分を毎日燃やしているのと同じ計算になる、という試算もある。手放される衣類の三分の二近くが、直接その先へ運ばれている。

この数字を眺めて、自分の古着リメイクが世界を救っていると考えるのは、さすがに図々しい。一着や二着を作り替えたところで、47万トンという桁には誤差にも満たない。それでも、少なくとも自分のクローゼットの中では、その一着が焼却炉行きの列に並ばずに済む。世界規模の話と、自分の手元の話を、うっかり同じ大きさで語らないようにだけは気をつけたい。

壊すところから始まる

古着リメイクは、まず服を壊すことから始まる。ハサミを入れる前の一瞬、ためらいのようなものが必ずある。大学時代に着ていたチェックシャツや、初めてのデートで着たワンピース——そういう服には、着ていた頃の記憶がそのまま縫い込まれている。形を変えるということは、その記憶を消すことではなく、記憶を今の生活サイズに縫い直すことに近い。着なくなった理由と、手放せない理由が同じ服の中に同居しているのは、よくあることだ。

できあがったものの仕上がりについても、あらかじめ基準を下げておいたほうがいい。ミシン目が多少曲がっても、それは自分の手が実際に動いた記録であって、失敗ではない。均一に美しく仕上げることを目指すなら、新品を買うほうがよほど確実だ。歪みや不格好さをそのまま残しておくことの利点は、あとで見返したときに、それが既製品ではないと一目でわかる点にある。

実際にそういう服を何着か手放さずに残していると気づいたのは、引っ越しで段ボールを詰めていたときだった。着る予定のない服だけを集めた箱が、思いのほか大きくなる。中身を一枚ずつ広げてみると、着なくなった理由はそれぞれ違うのに、手放せない理由のほうはだいたい似通っている——誰かと出かけた日、失敗した面接、ただ気に入って何年も着倒した一枚。服を分類しているつもりで、実はこちらの記憶のほうを分類していたのだと、途中で気づいた。

選ぶ服、選ぶ道具

すべての古着がリメイクに向いているわけではない。滑りにくく、アイロンがしっかりかかる綿100パーセントの生地は、初心者が最初に選ぶ相手として無難だ。Tシャツやシャツが代表格になる。デニムは丈夫で、切りっぱなしのまま放置してもフリンジとして様になるので、バッグや小物への転用に強い。迷ったら、「もう着ないけれど捨てるのは忍びない」という服から手をつけるのがいい。失敗しても惜しくないという安心感が、最初のハサミを軽くしてくれる。

道具は最初から揃えすぎないほうがいい。布専用の裁ちばさみと、糸切りに使う小さなはさみ、針と糸、20センチ以上の定規とメジャー、洗うと消えるタイプのチャコペン——このあたりがあれば、たいていのアイデアは形にできる。そして意外と見落とされがちなのがアイロンだ。縫製よりも折り目の正確さのほうが、仕上がりの印象を左右することが多い。こまめに当てるだけで、素人の手仕事がぐっとそれらしく見えてくる。

ジーンズの背面ポケットを切り取り、上部にファスナーを付けて作るミニポーチ。

小さな部位を仕立て直す

ジーンズでいちばんデザイン性が高いのは、背面ポケットだと思う。ブランドのアイデンティティがそこに集約されている。このポケットだけを切り取り、上部にファスナーを縫い付ければ、手縫いでも30分ほどでカードケースやアクセサリー入れになる。裏地に、古いスカーフのような場違いなくらい鮮やかな端切れを使うと、開けるたびに少し得をした気分になる。ただし柔らかい生地のジーンズだと、開閉のたびにファスナー周りがヨレやすい。硬めのデニムを選ぶのがコツだ。

デニムジャケットの袖も、すでに筒の形をしているぶん、裁断の手間がほとんどかからない。20センチほどでカットし、片方を閉じてもう片方にファスナーを付ければ、40分ほどでペンケースになる。キャンプ用のカトラリーケースとしても使える。使い込むほどにデニム特有の色落ち(アタリ)が出て、道具として育っていくのも楽しい。ただし厚手の生地は針が通りにくく、家庭用ミシンでは針が折れることもあるので、手縫いか丈夫な針を使うほうが無難だ。

針も糸も使わずに済ませたいなら、Tシャツからトートバッグを作る方法がある。袖と襟ぐりを切ってタンクトップのような形にし、裾に細かく切り込みを入れて、前後の布を固結びしていくだけだ。ハサミだけで15分もあれば終わる。お気に入りのプリントTシャツが袋物に化けるのは単純に面白い。ただし結び目だけで持たせている分、耐荷重はそれほど高くない。本や瓶詰めのような重いものは避けたほうが安心だ。

古いスカーフを細長く切って筒状に縫い、中にゴムを通すだけでシュシュにもなる。30分ほどの作業だが、端に長めのリボン部分を残しておくと、髪を結んだときに少し凝った表情が出る。シルク素材は滑りやすくて縫いにくいので、最初はポリエステルのスカーフのほうが扱いやすい。デニムの端切れなら、三つ折りにしてスナップボタンとキーリングを付けるだけで、60分ほどでキーケースになる。端をあえて切りっぱなしにして糸を少しほぐすと、ラフな印象になる。厚みのある生地はボタンを付ける位置の生地が割れやすいので、力布を一枚挟んでおくと長持ちする。

一着まるごと作り替える

大きめのメンズシャツを自分サイズのワンピースに仕立て直す途中の様子。

小物と違って、一着まるごとの作り替えは所要時間が跳ね上がる。パーツ単位の工作から、シルエット全体の設計に頭を切り替える必要があるからだ。大きめのメンズシャツを一着分、自分のサイズのワンピースに仕立て直すには2時間ほどかかる。裾に別のシャツの端切れを継ぎ足して丈を伸ばし、ウエストの内側にトンネルを作って紐かゴムを通す。このとき、ウエスト位置を実際のくびれより3センチほど高く設定すると、古着特有の野暮ったさが消えて見えることが多い。ただし元のシャツの肩幅が大きすぎる場合、ウエストだけ絞っても肩周りの野暮ったさは残る。全体のバランスは、部分の工夫だけでは限界がある。採寸を一箇所直すたびに、離れた場所のシルエットが崩れる——このいたちごっこは、型紙のない手作業ではほぼ避けられない。何度か仮縫いをして、着てみては直す、を繰り返すくらいの気長さがちょうどいい。

Tシャツのバスト下でカットし、そこにギャザーをたっぷり寄せた別布——チェック柄やレースなど——を縫い合わせれば、2時間半ほどでティアードワンピースになる。カジュアルなTシャツとエレガントな布のコントラストを強調するほど、印象はモダンに寄っていく。ただし異素材を組み合わせる分、洗濯表示がバラバラになりやすい。仕立てる段階で、次の洗濯のことまで考えておいたほうがいい。

長持ちさせるための地味な作業

リメイク品は、元の縫い目を解いたり新しい布を継ぎ足したりしている分、特定の場所に負荷が集中しやすい。縫い始めと終わりを3回以上往復して返し縫いすることと、ボタンやポケットの角の裏側に小さな力布を一枚挟んでおくこと——このふたつだけで、破れにくさはかなり変わる。洗濯は洗濯ネットを必ず使い、中性洗剤で摩擦を減らし、重みで形が崩れやすいワンピースなどは平干しにする。素材が異なるものを縫い合わせている以上、いちばん扱いに気を遣う素材の洗濯表示に合わせておくのが結局は無難だ。

穴が空いたら、あえて目立つ色の糸で刺繍のように縫い潰す「ダーニング」という技法もある。修繕の跡そのものが新しい模様になる。デニムや天然素材は色落ちや薄くなりも早いので、直す前提で持っておくくらいの気持ちのほうが、長く付き合いやすい。

洗濯のあとにアイロンをかける、というだけの工程を、わざわざ「敬意」という言葉で語るのは大げさかもしれない。それでも、シワを伸ばす数分をかけるかどうかで、同じ一着の見え方はかなり変わる。既製品なら誰かがすでにやってくれていた工程を、リメイク品では自分で引き受け直す必要がある——面倒だが、その面倒さの分だけ、その服との距離は近くなる。

数字と手元のあいだ

冒頭の数字に戻る。47万トンという焼却・埋め立て分と、目の前の一着との間には、埋めようのない距離がある。それでも、リユースが18.1パーセント、リサイクルが17.4パーセントというデータの中に、家庭でのリメイクがどこまで含まれているかは、正直なところよくわからない。おそらく統計としては、リユースにもリサイクルにも綺麗には分類されない、名前のない領域に落ちている。

だとすれば、これは環境活動というより、統計に載らない趣味だと思っておくくらいがちょうどいい。それで構わない。手を動かした結果がどこかの集計表に載るかどうかより、クローゼットの中の一着が、もう一度着られる形になったかどうかのほうが、少なくとも自分にとっては確かめようのある事実として残る。

出典

  • 環境省 令和4年度循環型ファッションの推進方策に関する調査業務 -マテリアルフロー-(2023年3月、実施:株式会社矢野経済研究所、2022年実績推計)