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冬の趣味と季節性感情障害——光と寒さ、研究はどこまで言えるか
冬の趣味を、光・体・寒さ・手の四つの入口から考える。散歩、ヨガ、寒中水泳、編み物を、研究がどこまで支えているかとともに比べる。北緯69度の調査では、精神的な苦痛に有意な季節差は出ず、冬に増えていたのは眠れないという訴えだった。
冬になると、決まって同じ話を読む。日が短くなるとセロトニンが減り、気分が落ち込み、それを「季節性感情障害」と呼ぶ。だから光を浴びろ、体を温めろ、冬なりの過ごし方を見つけろ——という筋書きである。この説明は広く流通しているぶん、検証済みの事実であるかのように扱われがちだ。しかし、季節と気分の関係を大規模に調べた研究をたどっていくと、話はそこまで単純ではない。
結論を先に言ってしまうと、「冬に気分が落ちる人がいる」という現象そのものは否定されていない。疑われているのは、それを季節性感情障害という独立した診断カテゴリーとして扱えるかどうかという、もう一段階抽象的な部分である。この区別を曖昧にしたまま「冬はつらい季節だから」と話を進める記事は多い。まずそこから解きほぐしたい。もう一つ、寒さそのものが体に及ぼす効果という、日照とは別系統の話も混ざりやすいので、両者を分けて追ってみる。
あらかじめ断っておくと、ここでやりたいのは「冬の不調は気のせいだ」という話でも、「冬にはこれをすれば元気になる」という話でもない。両方とも、証拠が支えている範囲を超えて結論を先取りしている点では同じだ。むしろ関心があるのは、なぜこの季節をめぐる説明がこれほど頑丈に見えて、実際には内部で意見が割れているのか、という構造のほうである。
冬の趣味を、光・体・寒さ・手の四つに分けて考える
「冬の趣味」を探してここにたどり着いた人には、先に見取り図を一枚渡しておきたい。この記事の本筋は、冬の不調を「季節性感情障害」という一語で説明し切れるのかという検証で、その途中で見えてくるのは、冬に起きていることが少なくとも二つの別の領域——日照の減少と、気温の低下——に分けて研究されているという事実である。入口の四つのうち、光は前者に、寒さは後者に当たる。体を動かすことと、屋内で手を動かすことは、どちらの回路にも直接は触れない別の入口で、冬という季節をどう捉えるかという見方は、これらとは別の変数になる。冬に始める趣味を選ぶときも、この分け方は手がかりになる。どれが「効く」かを探すより、自分が日照と気温のどちらの話をしているのかを分けて考えるほうが、少なくとも研究の現状には近い。
先に一つ、数字を置いておく。北極圏の内側、北緯69度のトロムソで30歳から87歳の住民8951人が、7月を除く1年あまりのあいだに、各人が一度だけ質問票に答えた調査では、精神的な苦痛の申告に季節による有意な差は出なかった。冬に増えていたのは、眠れないという訴えのほうだった。その理由までは、この調査からは分からない。各人が一度だけ答えた調査なので、一部の人に毎年繰り返す落ち込みを拾えているわけでもない。
一つ目の入口は、朝の光を浴びる活動である。散歩、早朝のジョギング、写真を撮りに出かけること。スイス・バーゼルのヴィルツ=ユスティスらは1996年、季節性感情障害の患者を対象に、毎朝1時間の屋外散歩を1週間続けるやり方と、弱い人工光(2800ルクスを30分)を浴びるやり方を比べた。医師が評価する抑うつ尺度で寛解に至ったのは、散歩のほうが50%、弱い光のほうが25%。比べた相手の弱い光は、著者自身が「主にプラセボと考えられる」と書く程度のもので、市販の光療法器具と比べたわけではない。期間も1週間と短く、対象は診断を受けた患者で、不調のない人の趣味として同じ変化を期待する根拠にはならない。早起きが苦にならず、目的地のない移動に退屈しない人には合う。夜型で朝に時間を取れない人には、続けること自体が重荷になりやすい。
二つ目は、体を動かす活動。ヨガ、筋トレ、ランニング、ジム通い。屋内でも成り立つ点で、天候に左右されにくい。2024年に英国医師会雑誌(BMJ)に載ったノエテルらのネットワーク・メタ分析は、うつ病の基準を満たす人を対象にした無作為化比較試験218件、参加者1万4170人を束ね、ウォーキングやジョギング、ヨガ、筋力トレーニングに中程度の改善を見ている。季節性に絞ると、ロシア・ノボシビルスクのピンチャソフらが2000年に、冬季うつの女性が1週間のあいだ昼に1時間エアロバイクをこいだ群と、明るい光を2時間浴びた群とで、同程度の反応を報告した。光の代わりにペダルを回しても似た場所にたどり着く可能性がある、ということだ。根拠の厚みは見た目ほどではない。ノエテルらの分析でバイアスのリスクが低いと判定された研究は1件だけで、確信度は歩行・ジョギングで「低い」、ヨガや筋力トレーニングを含むほかは「非常に低い」とされ、ピンチャソフらの比較は1群9人にすぎない。記録で進み具合が見えるのは利点だが、数字で自分を追い込みがちな人にとっては、その記録が新しい義務になる。
三つ目は、寒さそのものに身を置く活動。冬山、雪中キャンプ、そして寒中水泳や冷水浴。冬山や雪中キャンプの危険はここでは扱わず、研究のある冷水への浸水に絞る。後の節で見るとおり、寒冷曝露が代謝や自律神経を急に大きく動かすことは確かめられているが、それを数日から数週間続けた効果は小さな研究の段階にあり、気分の改善についてもまだ予備的な研究しかない。そしてここには、他の三つにない危険がある。冷たい水に入った最初の数分には、あえぎ、過呼吸、心拍の急上昇を伴う「寒冷ショック反応」が起き、溺水や不整脈の引き金になりうる。冷水に沈んで息止めを解いたとき、健康な志願者でも不整脈が高い頻度で起きることが報告されており、シャトックとティプトンは、交感神経と副交感神経が同時に強く働く「自律神経の衝突」がその一因ではないかと論じている(QT延長症候群のような素因があると特に危険だとも述べている)。そのあとには、手足が冷えて泳ぐ力が落ちる段階が来て、長く浸かれば低体温症の危険が加わる。寒中水泳の利益と危険をまとめたクネヒトレらの総説は、すでに分かっている心疾患も、まだ見つかっていない心疾患も、不整脈や急性の心血管イベントのもとになりうるとし、経験を積んだ人でも死亡の危険はゼロではないとして、段階的な慣らしと適切な見守りのもとで行うよう書いている。総説の言う見守りを、私は「一人で入らない」ことだと読む。まだ見つかっていない心疾患もありうるからだ。持病のある人が事前に医師に相談しておくという選択肢もある。ここまでは私の考えで、研究の話に戻ると、慣れは起きる。2024年のバーウッドらのメタ分析によれば、浸水を繰り返すと寒冷ショック反応は小さくなり、先行研究ではおよそ4回で慣れが見られるとされる。ただし慣れは同じ水温に対するもので、より冷たい水でも同じだけ慣れているとは限らない。反応が小さくなれば溺れる危険も下がりうる、とバーウッドらは見ているが、それで危険が消えるわけではない。シャトックらは、反応が少し弱まることがかえって自律神経の衝突を招きうる、という仮説まで立てている。非日常の刺激そのものを味わえて、手順を守ることを面倒がらない人だけが選ぶ趣味だろう。
四つ目は、屋内で手を動かす活動。編み物、料理、楽器、模型、絵。光にも寒さにも直接は触れないので、この記事の二つの回路から見ると遠回りに見えるし、根拠も最も間接的だ。コナーらが2018年に報告した、若い成人658人による13日間の日記調査では、いつもより創作的な活動に時間を使った日の翌日に、活気のある肯定的な気分と充実感が高かった。逆向き、つまり気分のよい日の翌日に創作が増えるという関係は見られなかった。季節とは無関係の調査で、相関の域も出ない。それでも、外に出る理由が減る季節に、家の中で完結し、進み具合が目に見える作業を一つ持っておくことには、効能とは別の意味がある。同じ動作の繰り返しが苦にならない人、完成品より途中を楽しめる人に向く。人と会う機会がさらに減ることが気になる人には、教室や集まりを伴う形のほうが続きやすいかもしれない。
どれを選ぶかの手前に、もう一つ変数がある。心理学者のカリ・レイボウィッツとヨアル・ヴィッテルソは2020年、ノルウェーのオスロ周辺、トロムス県、北極圏のスバールバル諸島で無作為に選んだ住民に質問票を郵送し、回収率15.9%で238人から回答を得た。冬を「楽しめることの多い季節」と捉える傾向は北に住む人ほど強く、その傾向が強い人ほど生活満足度も高かった。暗さが最も厳しい土地の人が、冬を最も好意的に見ていたことになる。もっとも、生活満足度などの指標そのものは、緯度によって違わなかった。横断調査なので、冬を好む見方が満足を生んだのか、もともと満ち足りた人が冬を好意的に見るのかは区別できないと、著者ら自身が書いている。冬を好む人が北へ移り住んだ可能性も、著者らは挙げている。冬の趣味を選ぶことは、冬にどんな見方を与えるかを選ぶことでもあるのかもしれない。見方を変えれば元気になる、と言える段階にはまだないにしても。
なお、落ち込みが長引いて生活に支障が出ているなら、趣味で何とかしようとする前に、専門家に相談するという選択肢がある。このあと、日本の数字を一度当ててから、見取り図のうち光と寒さの部分の元になった研究を、季節性感情障害という概念の出発点からたどっていく。
「冬の趣味」は、日本の統計ではどう見えるか
入口の四つのうち、統計で見える範囲に、日本の数字を一度当てておく。冷水浴は、この調査の分類にない。運動のうち、冬と結びつけて語られやすいスキー・スノーボードだけを取り上げる。総務省統計局の令和3年社会生活基本調査は、2020年10月20日からの1年間に、自由時間にその活動を1回でもした人が、10歳以上の人口の何%にあたるかを、行動者率として出している。季節は聞いていないので、「冬にした人」の数字はここからは出ない。見えるのは、冬と結びつけて語られやすい活動の、年間を通した増減である。
スキー・スノーボードの行動者率は、1996年の14.0%から、2016年の5.4%、2021年の3.2%へ下がった。2021年の調査期間には緊急事態宣言が二度含まれているので、2016年からの低下には感染症の影響が混ざっている。ただ、1996年から2011年にかけての下がり方(14.0%から5.3%)は、感染症より前に起きていた。都道府県別では、北海道が8.3%、長野が7.8%、新潟が6.3%、富山が6.2%で、東京は4.4%と青森と同じ率だった。長崎・鹿児島・沖縄は0.2%である。東京が雪国の県と並ぶのは、雪のある場所に住んでいることより、出かけていくことで成り立つ活動だからだろう、というのは私の推測で、表が示すのは率だけだ。
室内の側では、趣味としての料理・菓子作りの行動者率が、男性で1996年の3.7%から2016年の6.6%、2021年の9.0%へ上がり、女性は27.2%から28.5%でほぼ横ばいだった。男性の上昇の半分あまりは、感染症より前の20年間に起きている。2016年から2021年の増加分は、在宅時間が延びた影響と切り分けられない。編み物・手芸は2016年の10.6%から2021年の8.8%へ下がり、2021年は女性が16.5%、男性が0.8%と性差が大きい。どれも季節を聞いた数字ではないので、「冬の趣味の人気」として読むことはできない。
暗さの側にも、数字がある。気象庁の平年値(1991〜2020年)では、1月の日照時間(月合計)は、東京が192.6時間、札幌が90.4時間、金沢が62.3時間、新潟が56.4時間、秋田が39.0時間だった。東京と秋田で約4.9倍の差がある。内陸の長野は128.4時間で、同じ雪国の新潟の2倍以上あり、那覇は93.1時間で札幌とほぼ同じだった。東京では、1月のほうが6月(124.2時間)より日照が長い。日照時間は日光が地表を照らした時間の観測値で、昼の長さとは別のものだ。この記事では、観測された日照時間を「日照時間」、昼の長さが短いことを「日の短さ」、光の側の話をまとめて指すときを「日照」と書き分ける。同じ冬でも、日本の中で日照時間は5倍近く違う(地表に届く日射量で見ると、東京と秋田の差は約2倍にとどまる)。そこで、冬に気分が落ちる人がいるとして、それを日の短さや日照の差で説明できるのかが、次の問いになる。観測された日照時間を直接扱った研究は少なく、あとの節では日の長さを使った研究が中心になる。
季節性感情障害という説明はどこから来たか
季節性感情障害という概念を臨床の場に持ち込んだのは、米国立精神衛生研究所の精神科医ノーマン・E・ローゼンタールらである。ローゼンタールらは1984年、毎年決まった時期——多くは秋から冬——に抑うつ症状が現れる患者29名を報告した。そのうち11名に人工の強い光を浴びせる治療を試したところ、抗うつ効果らしきものが見られたという。過眠、過食、炭水化物への渇望といった、いわゆる典型的なうつ病とは異なる症状の組み合わせも、この報告の中で記述されている。
この論文が出発点になって、「日の短さが引き金になる抑うつ」という考え方が広まった。理屈としては筋が通っている。網膜が受け取る光の量が減れば、体内時計を司る視交叉上核の働きが変化し、セロトニンやメラトニンの代謝に影響が及ぶ——というのが典型的な説明である。夜になると分泌が増えるメラトニンは眠気を引き起こすホルモンで、日が短い季節はその分泌される時間帯そのものが後ろにずれたり長引いたりする。この体内時計のずれが、日中の眠気や倦怠感として体感される、というのがもう一段具体的な仕組みの説明になる。オーストラリアのフィットンらが2026年に報告した調査(76人で、半数が抗うつ薬のSSRIを服用していた)では、装着型のセンサーで測った光のうち、朝の光を多く浴びている人ほど、抑うつ症状とストレスの得点が低かった。日中の光の指標と関連したのは抑うつだけで、朝型の人ほど朝の光を多く浴びてもいた。横断的な関連なので、光が気分を変えたのか、気分のよい人が朝に外へ出るのかは分からないと、著者らも書いている。量だけでなく、いつ浴びるかという軸がありそうだ、というところまでの話である。冬に不調を感じやすい人と感じにくい人がいるとして、その差には、同じ土地でも人によって違う浴びる光の量や、朝型か夜型かといった体内時計の違いが入り込むのかもしれない。光そのものが脳の働きに関与するという知見自体は、この40年でかなりの蓄積がある。だが、蓄積があることと、それが季節性感情障害という診断名の妥当性を保証することとは、実のところ別の問題である。
3万人を調べたら、集団では季節と抑うつは関係しなかった
この前提に本格的な疑問符を打ったのが、心理学者のメーガン・トラファンステッド、シーラ・メータ、スティーブン・ロベロが2016年に発表した研究である。彼らは米国疾病対策センターが毎年実施している大規模電話調査、行動危険因子監視システムの2006年データを使い、18歳から99歳までの3万4千人あまり(34,294人)の抑うつ症状を、調査時点の緯度・季節・日の長さ(日の出から日の入りまで)と突き合わせた。
結果は、抑うつの重さは緯度とも季節とも日の長さとも関連しなかった、というものだった。冒頭で見た北緯69度のトロムソの調査でも、精神的な苦痛に有意な季節差は出ていない。北に住む人ほど冬に落ち込みやすい、というありがちな予想は支持されず、季節性感情障害という診断修飾語の妥当性そのものに疑問が投げかけられた。ローゼンタールらの最初の報告からおよそ30年を経て、数十人規模の臨床観察から出発した考え方が、数万人規模のデータで問い直された格好である。
この研究が調べたのは、集団全体で、冬に抑うつ症状が重くなるかどうかである。そこに季節差は見えなかった、というのがデータの示したことだ。一部の人に毎年同じ時期に繰り返す季節性のうつを、集団の断面から拾えるのかは別の問題で、調べていないのは、むしろそちらのほうになる。著者らは、季節性の抑うつという通俗的な考え方に批判的な立場を取っている。この区別を読み飛ばすと、「季節性感情障害は嘘だった」という雑な要約に流れてしまう。
反論もまた、検証を必要とする
もっとも、この研究がそのまま最終結論というわけでもない。心理学者マイケル・A・ヤングは翌2017年、同じ学術誌に反論の論文を寄せ、同じ号に載ったロベロの再反論と応酬になった。ヤングの本文は読めなかったので、ここは再反論の抄録による紹介にとどまるが、批判の中心は、毎年繰り返す季節型のうつと、誰にでもある冬の気分の落ち込みとを取り違えているのではないか、という点にあるらしい。測定の側にも不確かさはある。トラファンステッドらが使ったPHQ-8は過去2週間の症状を尋ねる尺度で、年をまたいで繰り返すパターンを拾う設計ではない。疫学研究で広く使われてきたSPAQという質問票は、逆に季節性を高めに見積もりやすいとの指摘もある(メーステルスらの総説)。どちらを使うかで結果の見え方が変わりうるので、季節と抑うつの関係を測る道具の精度は、まだ決着していない。
有病率の推定値の幅は広く、そこには緯度の違いと測り方の違いの両方が混ざっている。メーステルスとゴーダインの総説は、有病率を1〜10%とし、北米は欧州の約2倍と整理している。よく引用される1.4%から9.7%は、同じ質問票を緯度の違う四つの地点で使ったローゼンらの1990年の報告の数字として紹介されるものだ(地点別の値は、私は原文で確かめられていない)。この報告は、抄録によれば北の地点ほど多いという、季節性の仮説を支える向きの結果である。欧州の1.3〜3.0%やアジアで1%に満たないという数字は、二次情報でしか確認できなかったので、ここでは採らない。日本では、SPAQで推定した冬季型が、名古屋市の公務員1,276人で0.86%(尾崎ら、1995年)、勤労者4,858人で0.45%(今井ら、2003年)と報告されている。今井らの調査では高校生の冬季型が0.91%で、分母が公務員、勤労者、高校生と違うので、一つの「日本の有病率」にはまとめられない。大学病院のうつ病外来53施設を調べた坂本ら(1993年)は、季節性感情障害の多さが、緯度や12月の気温より日照時間と強く関連していたと報告している。ただし分母はうつ病の外来患者で、一般住民の割合ではない。東京と秋田の差のような日本の中の日照の差と重ねたくなる材料だが、そのまま当てはめることはできない。さきの問いに対して、観測された日照時間を使った材料は、いまのところこの程度である。
看護学者シェリ・メルローズによる2015年のレビューは、女性であること、若年であること、赤道から離れた地域に住んでいること、気分障害の家族歴があることを、季節性感情障害のリスクを高める要因として挙げている。ただし、これらの要因自体、季節という単一の軸だけで説明がつくものではない。女性のほうが気分の不調を医療者に相談しやすい傾向があるとすれば、それだけでも報告される有病率に差が出る。つまりリスク要因のリストは、季節性感情障害という現象の実在を補強する材料であると同時に、その測定の難しさを補強する材料にもなっている。
ここで急いで付け加えておきたいのは、これは「季節性感情障害という言葉自体が無意味だ」という主張ではないということだ。トラファンステッドらの研究にヤングが投げた疑問は、集団の断面と毎年繰り返すパターンの区別という、先に述べた点とも重なるので無視できず、片方の研究だけを取り上げて「これで決着した」と言うのは、根拠のない断定をからかうはずのこの記事自体が、性急さという同じ罠に落ちることを意味する。同じ学術誌の上で研究と反論がやり取りされているという事実そのものが、この分野がまだ決着していないことを物語っている。妥当なのは、この診断カテゴリーがまだ論争の途中にある、という事実を事実のまま置いておくことだろう。
診断名の是非と、光そのものの効果は別の話
ややこしいのは、季節性感情障害という診断カテゴリーの妥当性が揺らいでいるからといって、光を浴びる治療自体の効果まで無効になるわけではない、という点だ。精神科医ロバート・N・ゴールデンらが2005年に発表したメタ分析は、明るい光の治療について、寛解のオッズ比を2.9(95%信頼区間1.6〜5.4)と報告している。使えた試験は4件で、結果のばらつきも大きい。季節性感情障害への明るい光の効果量は0.84で、抗うつ薬の試験と同程度の大きさだったという。夜明けを模した光を浴びる治療でも改善が見られたが、その5件はいずれも同じ研究グループによるもので、著者ら自身が他の場所での確認を求めている。メーステルスらの総説は、マルテンソンらが2015年に、より厳しい基準で選んだ試験を分析して効果量を0.54と見積もり、ゴールデンらの0.84は研究の選び方によるものだと批判したことを紹介している。光の効果も、一つの数字では言い切れない。
「診断名としての季節性感情障害には疑問が出ているが、光を浴びると気分の指標が改善する人がいる」という、二つの主張が同時に成り立ちうる。矛盾ではない。ある治療に反応する症状群が観察されることと、その症状群が季節という単一の原因に紐づく独立疾患として整理できることとは、論理的に別の階層にある主張だからだ。光を浴びてみる理由は、診断名とは別に残る。ただし、それを「季節性感情障害だから」という一言で説明し切るのは、現状の研究が支えている以上の確信度を借りていることになる。
同じ整理は、冬の不調への対処としてよく名前が挙がるビタミンDにも当てはまる。日照が減る季節はビタミンDの体内合成も落ちるため、補うという発想は自然に見える。だがフランセンらが2014年に行った二重盲検の無作為化比較試験では、季節性の抑うつ症状を訴える医療従事者34人にビタミンD(1日70マイクログラム)と偽薬のどちらかを3か月間投与しても、症状の評価尺度に群間の差は出なかった。人数が少なく、差を検出する力が足りなかった可能性も、著者らは挙げている。理屈が通っていることと、実際に効くことは別だという、この記事の中で何度も繰り返している構図が、ここでも同じ形で現れている。
寒さそのものが動かしている、別の回路
日照とは別の角度から冬を見ると、寒さへの曝露そのものが体に及ぼす生理学的な効果という、もう一つの研究領域がある。こちらは気分よりも代謝や自律神経系の話が中心だ。研究者ファン・デル・ランスらは2013年、健常な成人に10日間の寒冷順化プログラム(冷水ではなく、15〜16℃の部屋で過ごすもの)を課し、褐色脂肪組織——熱を産生することに特化した脂肪細胞——の活動が高まり、熱を作る反応(ふるえによらない熱産生)が増えることを示した。褐色脂肪組織は暖かい環境ではほとんど働かないが、寒さにさらされると熱を作る。ただし、この研究では褐色脂肪の糖の取り込み速度は有意には増えなかった。研究者ハンセンらは2015年に、同様の10日間の寒冷順化を2型糖尿病患者8名に課した研究を発表した。末梢のインスリン感受性はおよそ4割向上した。ここで興味深いのは、その改善を起こしていた主役が褐色脂肪組織ではなかったという点である。骨格筋の細胞では、糖を取り込む輸送体GLUT4が細胞膜へ移動する量が目立って増えており、これが糖処理能力の向上を主に説明していた一方、褐色脂肪組織そのものによる糖の取り込み増加はごくわずかにとどまっていた。褐色脂肪の働きを期待して始まった研究だったが、改善の主役は別の組織だった、ということになる。同じグループが2021年に、ふるえが出ないよう室温を16〜17℃にした同様の10日間で調べ直したところ、2型糖尿病の9人のインスリン感受性は改善しなかった(レミーら、Nature Communications)。数日間の寒さが糖の処理を変えうることは示されたが、その仕組みも、再現性も、まだ固まっていない。
寒さへの反応がどれほど劇的かは、生理学者シュラメクらが2000年に報告した実験からも読み取れる。若い男性が実験室で14度の水に1時間浸かったところ、血中のノルアドレナリン濃度は平常時のおよそ6.3倍、ドーパミン濃度はおよそ3.5倍にまで跳ね上がり、代謝率も4.5倍近くに達したという。数字だけを見ると、これは瞑想的な落ち着きというより、体が総動員をかけている状態に近い。これは実験の条件で、真似るための目安ではない。測ったのは血中の濃度で、これが気分や覚醒の感覚とどうつながるかは、この研究からは分からない。
ここでつい飛びつきたくなるのが、「ノルアドレナリンが増えるなら、うつに効く薬の一部と似た経路が働いているのではないか」という連想である。実際、一部の抗うつ薬はノルアドレナリンの再取り込みを阻害することで効果を発揮する。だが、薬が数週間かけて受容体の感受性そのものを変化させていくのに対し、冷水浴で起きているのは、浸かっているあいだの急性の反応だ。同じ神経伝達物質が関与しているからといって、同じ仕組みで気分に作用しているとは限らない。この飛躍は、しばしば話を短絡させる。この反応は本来、寒さに対する防御反応であって、気分をよくするために体が用意した仕組みではない。効果として観測される感覚と、その反応が本来何のために存在するのかは、切り分けて考えたほうがいい。
自律神経系についても、興味深い実験がある。集中治療医学の研究者マタイス・コックスらが2014年に発表した研究では、過呼吸と息止めを繰り返す呼吸法、瞑想、寒冷曝露を組み合わせた短期の訓練を受けた被験者に大腸菌由来の内毒素を投与したところ、訓練を受けていない対照群に比べて、炎症性のサイトカインの放出が抑えられ、体調不良の自己申告も少なかったと報告されている。交感神経系と自然免疫系は、意識的にはコントロールできないとされてきた系統だが、この研究は訓練によってある程度まで働きかけられる可能性を示した。ただし、効果の中心に置かれているのは寒さではない。コックスらは、呼吸法でアドレナリンが大きく増えたことを、炎症が抑えられた理由として挙げている。訓練は三つの要素の組み合わせだったので、寒さだけの効果は切り出せていない。要素を分けて調べた後続の予備的な研究(ツヴァーグら、2022年)では、寒冷訓練だけでは炎症反応はほとんど変わらず、効いたのは呼吸法で、寒冷訓練はその効果を強める役回りだったという。
この寒冷順化がどこまで習慣の差によるものかを示す、変わった研究もある。ヴォッセルマンらは2014年、一卵性双生児の一方が長年にわたって毎日のように冷たい水で泳いだりシャワーを浴びたりする習慣を持ち、もう一方は持っていないという珍しい組み合わせを調べた。「長年の習慣がある側の体は、褐色脂肪組織も熱産生の反応もより発達しているはずだ」というのが、この研究デザインが素直に導く予想だろう。ところが結果はその予想を裏切るものだった。褐色脂肪組織の活動量にも、寒冷刺激に対する熱産生の反応の大きさにも、二人のあいだに目立った差はなかったのである。一組の双子なので統計的な検定はできないと、著者ら自身が書いている。むしろ目を引いたのは、習慣の有無にかかわらず、両者とも熱産生の反応そのものがかなり高かったという事実だ。著者らはこの共通点について、二人がともに実践していた特定の呼吸法に由来するのではないかと推測している。また、短く極端な寒さと、長く穏やかな寒さとでは、体の応じ方が違うのかもしれない、という解釈も示している。先に見たファン・デル・ランスらの10日間の順化で褐色脂肪の活動が高まったことと、長年の習慣で差が出なかったことは、そのように並べると矛盾しない。対象は一組の双子だけなので一般化はできないが、「寒さに繰り返しさらされた体ほど褐色脂肪組織が発達する」という直感的な図式を、少なくともこの一組では支持しない結果だった。
こうして見ると、「冬」という一つの季節の中に、まったく異なる二つの生理学的な話が同居していることがわかる。一つは日照の減少を起点にする神経伝達物質の話、もう一つは気温そのものを起点にする代謝・自律神経の話だ。両者を「冬の不調」あるいは「冬の効能」という一つの言葉でまとめてしまうと、どちらの機序で語っているのかが見えなくなる。
寒中水泳への期待は、研究より一歩先を行っている
この代謝・自律神経系の話が広まった結果、冷水浴や寒中水泳が気分の落ち込みにも効くという語られ方を、最近はよく見かける。研究者タラ・ケインらが2025年に発表した系統的レビューとメタ分析は、冷水への浸水が健康と幸福感に及ぼす効果を集めて評価した。対象は健康な成人の無作為化比較試験11本で、1本を除いて男性だけだった。炎症・ストレス反応・免疫・睡眠の質・生活の質に、時間に依存した変化が見られた項目はあるが、浸かった直後に炎症の指標が増えるなど、よい方向とは限らない。気分については、改善を見いだせなかった。気分を調べた試験は、男性20人の1本だけだった。レビュー自身が、試験の数が少なく、サンプルサイズも小さく、対象者にも偏りがあると、限界を明記している。
個別の研究を見ても、ケリーとバードが2022年に報告した研究は、大学生42人が13.6℃の海に最長20分ほど浸かり、その直後に気分の尺度が改善した、というものだ。無作為化はされておらず、自分で群を選んだ浸からなかった22人が比較に使われた。事前の回答は屋内、事後は屋外の浜辺で集められている。参加者は自分が何をするかを知った上で冷水に入っているため、寒さそのものの効果と、「体にいいことをしている」という期待の効果とを、この設計だけで切り分けるのは難しい。なお、ケインらのレビューは、無作為化されていないこの研究を対象から除いている。
冷水浴ではないが、抑うつの治療に屋外での水泳を使えるかを探った英国の実行可能性試験(OUTSIDEと呼ばれる。水温は13〜22℃で、ウェットスーツの着用も認められていた。3か所で行われた)では、通常のケアだけを受けた対照群に比べて、水泳群の抑うつ・不安・幸福感の推定値が改善した(効果量は0.58〜0.97)。ただしこれは、検定をしていない探索的な推定値で、差を検出する力もない。著者らは、まだ勧められる段階ではなく、大規模な無作為化比較試験で確かめる必要があるとしている。前の節の寒冷生理の研究と、ここまでの三つの研究を並べると、冷水への急な反応という生理学的な側面は測りやすく確かめられている一方、数日から数週間続けた効果は小さな研究の段階にあり、「気分がよくなる」という主観的で測りにくい効果については、研究がさらに追いついていない。この段差を無視して両方を同列に語る言説は、根拠の厚みが違う二つの主張を無理やり並べていることになる。
体感として気分が上がることと、それが再現性のある治療効果として確立していることの間には、まだ距離がある。前者を否定する必要はないが、それを後者の言葉——「うつに効く」「メンタルが改善する」——で語ってしまうのは、手元の証拠より少し大きな主張をしていることになる。
この距離が生まれる理由の一つは、単純に研究のコストと難易度にある。褐色脂肪組織の活動量は画像検査で数値化できるが、気分の改善は結局のところ自己申告に頼らざるを得ない。自己申告には期待効果が混ざりやすく、「体にいいことをした」という満足感そのものが気分のスコアを押し上げてしまう可能性がある。プラセボと区別のつく形で気分の変化を測るには、対照群の設計に相応の工夫がいる。気分を測る研究がその水準に達しにくいのは、測ろうとしている対象そのものが手強いからだ。この種の研究不足を「まだ証明されていないだけで、いずれ証明される」と先取りして語るのも、「証明されていないから効果がない」と切り捨てるのも、どちらも今のデータが許す以上に踏み込んでいる。
冬を、効能のどちらの物語にも譲り渡さない
ここまでをまとめると、冬をめぐる科学的知見は、少なくとも三つの階層に分けて扱う必要がある。第一に、季節性感情障害という診断カテゴリー自体の妥当性は、大規模な疫学研究によって疑問視され、その疑問自体にも、一部の人に繰り返すパターンを断面で捉えられるのかという反論があるという、決着のついていない論争である。第二に、光を浴びる治療そのものの効果は、診断名の是非とは独立に、メタ分析で報告されている。ただし別の分析ではより小さく見積もられていて、根拠は一義的ではない。第三に、寒冷曝露は、寒さにさらされているあいだの代謝や自律神経の反応を大きく動かすことは確かめられているが、数日から数週間続けた効果は小さな研究の段階にあり、結果が割れてもいる。気分の改善に及ぶかどうかは、まだ予備的な段階に留まっている。
「冬は耐える季節だ」という見方も、「冬にしかできないことがあるから前向きに捉えよう」という見方も、研究を根拠に掲げて語られるときには、つまり効能の物語として語られるときには、同じ弱点を抱えやすい。複数の異なる研究領域の結論をひとまとめにし、都合のいい階層だけを取り出して一つの結論に仕立ててしまう点だ。冬を好意的に見ることと生活満足度が結びついていたレイボウィッツらの結果は、そうした効能の物語を支える証拠というより、因果の分からない一つの関連にとどまる。冬の見方を持つことと、それを研究で裏付けられたものとして語ることは別だ。冬に気分が落ちると感じるなら、それを季節性感情障害という診断名で説明し切る必要はない。逆に「そんなものは存在しないから気のせいだ」と切り捨てる必要もない。日照の話と気温の話は、研究領域として別に動いていて、それぞれについて研究がどこまで分かっていて、どこから先がまだ分かっていないかを、階層ごとに見ておくほうが実情に近い。
もう一つ気づくのは、これらの研究のほとんどが「冬という季節全体」を対象にしていないという点だ。トラファンステッドらが調べたのは特定の一時点の抑うつ症状であり、寒冷順化の実験が調べたのは数日から数週間、冷水の実験は1時間ほどの生理反応である。実際の冬は数か月続き、その間に日照も気温も休みなく変動し続ける。個々の研究が捉えているのは、その連続した変化のごく一部を切り取った断面に過ぎない。断面をいくら集めても、それだけで季節という連続した経験全体を語り尽くすことはできない。研究が明らかにしているのは、冬という現象の一部の側面についての、比較的確からしい知見であって、冬そのものの意味ではないということだ。
意味を求めたくなる気持ち自体は理解できる。寒くて日が短い数か月をただ過ごすより、そこに何らかの説明や効能を見出すほうが気が楽になる。しかし、その説明を急いで確定させることと、説明がまだ確定していないという状態をそのまま受け止めることの間には、思っている以上に大きな違いがある。前者は物語として心地よいが、後者のほうが、少なくとも今の研究が示している実情には近い。宙ぶらりんのまま次の季節を迎えるのは落ち着かないかもしれないが、落ち着かなさを埋めるために研究にない確信を借りてくるのは、結局のところ話を盛っているだけだ。
冬の趣味という入口に戻ると、光・体・寒さ・手のどれについても、冬の気分への効きを確かめた研究は少ない。光は診断を受けた患者の1週間の散歩の比較と光療法のメタ分析があるものの効果量の見積もりが割れ、運動は確信度の低いメタ分析、寒中水泳は急な生理反応と危険、気分については予備的な研究、手を動かす活動は季節と無関係の日記調査というのが、それぞれの根拠の厚みだ。だからこの記事は、どれが冬に効くかを決めない。決められないことを、研究の側から確かめただけである。
答えを一つに畳んでしまわないこと。それが、この季節について今言える、いちばん誠実な立場のように思う。
出典
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