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「当たり」の贈り物では、手間をかけたかどうかは評価に出なかった——博物館来館者の実験
博物館の来館者が実際に贈り物を交換した実験では、友人や家族の組で、当たりの贈り物に手間は効かず、見劣りしたときだけ効いた。贈り手と受け手の食い違いを数字で読む。
贈り物にかけた手間は、受け取った人に届いているのか。贈る側は、高いものを選べば、あるいは時間をかけて探せば、喜ばれると考えやすい。ところが、博物館の来館者が実際に贈り物をやりとりした実験では、相対的に「当たり」に見える贈り物で、贈り手が丁寧に選んだかどうかは、受け手の評価に出なかった。
この記事は、贈り物をめぐる研究から、贈る側と受け取る側のあいだの食い違いを集めて、数字で読んでいく。おすすめの品は出てこない。確認の程度(全文、要旨、著者の原稿、紹介記事)は、出典の欄に書いた。
気配りが効いたのは、見劣りした贈り物のときだけだった
ヤン・チャンとニコラス・エプリーが2012年に発表した論文に、代表的な実験がある。シカゴの科学産業博物館の来館者三百三十六人が、友人か家族(知り合い)、または見知らぬ人と組み、実際に贈り物をやりとりした。贈り物は、トートバッグ、トランプ、大きなペンといった、博物館の売店で買える程度の品だ。見本の品(小さな木の定規など)と並べると相対的に良く見え、別の見本(ニュートンのゆりかご)と並べると見劣りして見える。そう仕組んだうえで、贈り手は、丁寧に選ぶように言われるか、あまり考えずにランダムに選んでも構わないと言われた。
知り合いからの、相対的に良い贈り物では、受け手の感謝の評定は、丁寧に選ばれた場合が7.07、雑に選ばれた場合が7.47で、差はなかった。差が出たのは、見劣りする贈り物のときだけで、丁寧な場合が7.38、雑な場合が5.74だった。見知らぬ人からの贈り物では、丁寧さは、どちらの場合も効かなかった。
この結果は、人々の予想と逆向きにある。事前に、四十四人の来館者に四つの場面を想像してもらった調査では、感謝の予想は、好きな贈り物で7.51、嫌いな贈り物で4.38、丁寧に選んだ場合で7.44、雑に選んだ場合で4.45だった。手間の効果は、品物の質と同じくらい大きいと信じられていた(効果の大きさを表す偏イータ二乗は、質が0.76、手間が0.71)。別の四十七人の観察者に、丁寧に選ばれた贈り物と雑に選ばれた贈り物の評価を予想してもらうと、8.28と6.76で、やはり手間は効くと見られていた。実際の贈り物の実験は、その信念を支えなかった。
外した贈り物の側にも数字がある。来館者九十九人が、過去にもらった贈り物を思い出した実験では、受け手が推測した「贈り手の手間」と、その贈り物への評価の相関は、外れた贈り物で0.80、気に入った贈り物でマイナス0.14だった(二十五人の受け手)。外したときだけ、手間と評価がつながっていた。
気配りは、保険に近いのかもしれない。何も起きなければ、保険料を払ったことは、誰の目にも見えない。贈り物が見劣りするという事故が起きたときにはじめて、「この人は私のことを考えて選んでくれたのだ」という契約書が、取り出されて読まれる。
贈り手は、感謝を少なく見積もっている
同じ論文に、贈る側の見積もりの数字もある。贈り手に、受け手がどのくらい感謝するかを予想してもらうと、知り合いの組で6.11、受け手の実際の評定は6.90だった。雑に選んだ、よい贈り物で見ると、贈り手の予想は5.82で、受け手は7.47だった。見知らぬ人どうしでも、予想は5.64で、実際は6.78と、同じ向きにずれていた。贈り手は、自分の贈り物の受け取られ方を、控えめに見積もる。
もう一つの実験(百五十人)は、気配りの効果が誰に及ぶのかを調べた。全員が見知らぬ人と組んだ設定で、気配りをしたときの贈り手自身の「つながり」の感覚は3.70と、気配りをしなかったときの2.62より高かった。受け手のつながりは、3.31と3.41で、ほとんど変わらなかった。贈り手は、丁寧に選んだほうが受け手の評価は高くなる、と予想していた(6.23と5.06)。受け手の実際の評価は、7.22と7.39で、差はなかった。著者らは、友人や家族の組では、すでに近いので効果が見えにくいと考えて、見知らぬ人にしたと書いている。手間をかけたことで、距離が縮まったと感じたのは、贈り手のほうだった。
贈り物に込めた手間は、渡した相手にではなく、渡した自分のほうに、先に届いているのかもしれない。それは、悪いことではない。ただ、見知らぬ人どうしの実験なので、友人や家族にも同じことが言えるのかは、この結果からはわからない。
高い贈り物は、喜ばれるのか
手間と並んで、贈る側の直感になっているのが、値段だ。フランシス・フリンとガブリエル・アダムズが2009年に発表した論文は、贈り手が、高い贈り物ほど感謝されると予想するのに対し、受け手の感謝は価格と関連しなかったと報告している。三つの実験の結果だという。この論文は全文を読めず、設計は、要旨と紹介記事で確認した範囲にとどまる。
この結果が、どこでも成り立つわけではない。2022年にニン・リウらが、中国の大学生百二十人でイヤホンの価格を操作した想像課題を行った。贈り手は、高いほうの贈り物を魅力的だと評価した(4.84と3.12)。受け手は、反対に、安いほうを魅力的だと評価した(5.31と4.33)。効果の大きさは、贈り手で1.43、受け手で0.74だった。受け手の評価は、価格と無関係ではなく、反対向きに出た。
パクらの論文は、値段と「お返しの負担」のつながりを示している。友人の誕生日の贈り物を想像してもらった中国の大学生四百三十一人の課題で、期待より高い贈り物をもらったときの「お返しをしなければ」という負担(七点満点)は5.09、期待どおりのとき3.76、期待より安いとき4.00だった。感謝は、期待どおりが6.09、高いものが5.77、安いものが5.46で、逆U字を描いた。感謝が最も高いのは、期待どおりの価格のときだった。高いものは、安いものより感謝は大きいが、返す負担は増えた。同じ論文の、北米の参加者(二百五十三人)の調査では、逆U字は出ず、高いほど感謝が高かった(高いものが6.52、期待どおりが6.19)。値段の効き方は、対象によって形が変わる。いずれも想像課題で、数字は2021年の作業文書で確かめたものである。
値段と価値の関係は、経済学でも測られている。ジョエル・ウォルドフォーゲルが1993年に発表した論文は、イェール大学の学部生に、もらった贈り物の価値を尋ねた。一つ目の調査(中級ミクロ経済学の履修者86人)では、贈り手が払ったと推定される額が438ドルだったのに対し、本人が払ってもよいと答えた額は313ドルで、一人あたりの合計の歩留まりは66パーセントだった。二つ目の調査(58人、278個の贈り物)では、贈り手が払ったと推定される額が509ドル、本人の評価が462ドルで(約91パーセント)、現金を含む全体の平均は約87パーセント、現金を除いた贈り物の平均では約84パーセントだった。集計の仕方で、数字は動く。論文は、贈り物が価値の一割から三分の一を無駄にしている、と結論した。
贈り手との関係別に見ると、祖父母が約63パーセント、おじ・おばが約64パーセント、恋人が約92パーセント、友人が約99パーセントだった(友人は、300パーセントを超える二件の外れ値に引かれている)。祖父母は、現金で贈る割合も43パーセントと高かった。もらった贈り物を、あとで他の物と交換した割合は、おじ・おばで約21パーセント、祖父母で約13パーセントだったのに対し、恋人では0パーセントだった。ただし、現金を除く贈り物の数は、恋人で八個、祖父母で十五個と少ない。
この数字には、限界がある。質問は、思い入れを除いた価値を尋ねるもので、学生の仮想の評価だった。仮想の質問は偏りやすいと指摘したジョン・リストとジェイソン・ショグレンは、1998年に、学生を相手に実際のお金を賭けた入札で、贈り物の価値を測り直した。結果は、価値は費用の121〜135パーセントという、反対のものだった。「贈り物は無駄が多い」という話は、測り方次第で、向きまで変わる。
値段をめぐる結果を並べると、「無関係」「安いほうが魅力的」「高いと返す負担が増える」「質問の仕方で価値が下がったり上がったりする」と、向きがばらばらに見える。ここから先は、私の読みになる。値段は、品物そのものの価値としてではなく、「相手が自分に何を期待しているか」「お返しをどのくらい求められているか」という、関係についての合図として読まれているのかもしれない。そうだとすれば、同じ値段でも、関係や状況によって、感謝にも、負担にも、無関心にもなりうる。
贈り手は開ける瞬間を、受け手は持ち続ける時間を見る
食い違いは、どこから来るのか。アーネスト・バスキンらが2014年に発表した論文は、贈り手は「望ましさ」を、受け手は「実現可能性」を重く見る、という整理を示している。この論文は要旨までしか読めなかった。紹介記事によれば、たとえば、評判のよい遠くの店の券と、評判はやや落ちるが近い店の券のうち、贈り手は前者を、受け手は後者を選びやすい。
2016年に、ジェフ・ガラク、ジュリアン・ギヴィ、エラナー・ウィリアムズが書いた総説は、これを別の言葉で整理した。贈り手は、贈り物を開ける瞬間の価値に注目し、受け手は、手元に置いて使う間の価値を見る。総説に新しい実験はなく、著者らも、さらなる検証が必要だと書いている。私が読めたのは、掲載確定後の著者原稿である。
料理に置き直すと、料理人は、皿を出す瞬間の湯気と彩りを見ている。客は、その晩の満足に加えて、翌日に冷蔵庫に残った分をどうするかまで、一続きで受け取る。ここから、この記事での言い方を一つ決めておく。置き場所を決めなければならない物、使い方を覚えなければならない物、手入れを続けなければならない物のように、開けた瞬間の喜びとは別に、持ち続ける間の手間を受け手に渡す贈り物を、「宿題つきの贈り物」と呼ぶ。研究の用語ではなく、私の言い換えである。たとえば、大きなドライフラワーは、置き場所を決め、色あせたあとの始末まで考える宿題を、相手に渡す。本格的な調理キットは、材料を買い足し、時間をつくる宿題を渡す。贈り手は、その宿題の存在に、渡した瞬間には気づきにくい。宿題の重さを直接測った実験は、見つけられなかった。
親しい人ほど、欲しいものを外す
相手が何を欲しがっているかを、受け手が先に書いておけば、食い違いは減りそうに思える。けれども、モーガン・ウォードとスーザン・ブロニャルチクが2016年に発表した論文は、親しい贈り手ほど、受け手の登録した品を外すと報告している。大学生八十八人の実験では、親しい贈り手の61パーセントが登録品以外を選び、親しくない贈り手では23パーセントだった。受け手の満足度(十点満点)は、登録品が8.4、登録外が6.6だった。
親しさを意識させる課題(言葉探し)をした参加者(百五十三人)では、登録品を選んだ割合が、親しい場合は36.4パーセントで、親しくない場合の60.5パーセントより低かった。贈り主が分かる場合の外し方は45.2パーセントで、匿名では27.5パーセントだった。見られているときほど、相手の希望より、自分の気持ちを示す品を選びたくなる、と著者らは説明する。新築祝いを設定した実験(百五十五人)でも、親しい人が登録品を外した割合は48.6パーセントで、親しくない人の25.7パーセントを上回った。場面を比べた数字もあり、結婚祝いで登録品を外した割合は13.1パーセント、新築祝いでは37.1パーセントだった。著者らは、結婚祝いのほうが登録の作法が強いと考えてこの二つの場面を選び、事前調査(五十三人)でも、そう確認された。差は、その作法の強さと合う。場面ごとの違いを測った、数少ない例である。ただし、想像課題で品物はランプなど、数字は著者の原稿のもので、最終版との違いは確認していない。
もらった物は、どうなるのか
贈り物は、受け取ったあとに、使われ、しまわれ、ときには別の人に回る。ガブリエル・アダムズ、フランシス・フリン、マイケル・ノートンが2012年に発表した、再贈与についての論文は、ここにも食い違いを見つけた。受け手に、贈り物を別の人に回したら贈り手がどのくらい不快になるかを予想してもらうと、再贈与で3.50、捨てた場合で3.66と、ほぼ同じだった。ところが、贈り手の側に、自分ならどのくらい不快かを想像してもらうと、再贈与されたとき(2.60)より、捨てられたとき(3.39)のほうが不快だった。
この論文には、再贈与を後押しする実験もある。「全国再贈与の日」だと告げると、実際に再贈与する人が、9パーセントから30パーセントに増えた(七十一人)。受け手は、贈り手の不快さを、実際より大きく見積もっていた。贈り手は、渡した物が使われずに捨てられることのほうを、気にしている。受け手は、回してしまったら不快に思われると考えて、しまい込む。双方が、相手の気持ちを読み違えたまま、贈り物が棚の奥に残る、という筋書きは想像できる。もらった物を使わず、しまい込んでいる人が何割いるのか、その実態を調べた研究は、見つけられなかった。
体験を贈ると、関係は強まるのか
物ではなく、体験を贈る、という考え方もある。シンディ・チャンとキャシー・モギルナーが2017年に発表した論文は、体験の贈り物が、物の贈り物より、関係を強めたと報告している。友人ペアの実験(五十九組、回答は四十四人)では、関係の強さの変化は、体験で+0.08、物でマイナス0.54だった(p=.05、効果の大きさ0.61)。別の研究(五百三十四人)では、0.66と0.40で、効果は小さかった(0.30)。
もう一つの実験は、同じマグカップに、「my coffee time」と刻むかどうかを比べた。刻んだほうが、関係の強さの評定は高かった(7.47と6.92)。好意度は、同じだった。論文が説明する機序は、消費のときの感情の強さである。感情を操作した別の研究(九百九十五人)でも、感情の強い物の贈り物は、体験の贈り物と同程度に関係を強めた。物か体験かより、使うたびに感情が動くかどうかが効いている、という読みになる。
注意しておくと、友人ペアの実験で、体験の贈り物は、思慮深さも好意度も、方向としては高く評価されたが、有意な差は出なかった(各二十〜二十四人)。小さいのは、この友人ペアの実験のほうである。同じ論文には人数の多い調査もあるが、多くは思い出した贈り物についての自己報告で、効果は大きくない(五百三十四人の調査で0.30)。贈り手の78パーセント(二百十九人)は、直近に物を贈っていた。体験を贈れば関係が強まる、と言い切るのは、これらの数字の性質に釣り合わない。
お返しは、手間では増えなかった
日本語で読める実験に、白木と五十嵐が2016年に心理学研究に発表した論文がある。向社会的行動、つまり、人から受けた親切や贈り物について、受け手の感謝と負債感(お返しをしなければという気持ち)を調べたものだ。
一つ目の実験(女子大学生百十九人)では、友人から受けた親切を思い出してもらい、そのときの「価値」を強調する条件と、相手の「コスト」を強調する条件、何も強調しない条件を比べた。感謝は、すまなさの感情を統制した分析で、価値を強調した条件が、コストを強調した条件より高かった(p=.035)。統制しないと、三つの条件のあいだに有意な差はなかった(p=.156)。負債感は、条件のあいだで差がなかった。二つ目の実験(五十九人を分析)では、実験者が演じる架空の相手からプレゼントをもらい、相手が選ぶのにかけた時間(五分と三十秒)と、欲しいものの順位(一位と五位)を操作した。受け手には、500円の謝金のうちから、10円単位でお返しをする機会があり、お返しの額は五十四人で分析された。
お返しの平均は、五分かけた贈り物(高コスト)で198.8円、三十秒の贈り物(低コスト)で141.0円と、手間のかかったほうが高く出たが、p値は0.085で、通例の水準には届かなかった。欲しい順位が高い贈り物でも、197.7円と142.0円で、p値は0.097だった。一方で、価値の操作は、感謝を有意に強めた(p<.001)。第三者への募金も、価値が高いと増えた(オッズ比4.83、p=.009)。欲しいものが当たったかどうかは効き、相手が時間をかけたかどうかは、有意な差を作らなかった。人数が少ないので、手間が効かないと言い切ることは、できない。
場面ごとの「正解」は、どこまで言えるのか
贈り物の記事は、よく場面ごとの正解を書く。たとえば、退職祝いには「これからの時間」を想像したものがよい、新築祝いは主張の控えめな実用品が無難だ、ミニマリストにブランドロゴ入りの品は外しやすい、といった言い切りは、たしかに説得力を持って聞こえる(特定の記事を指した例ではない)。
これらを直接に調べた研究は、見つけられなかった。近いものとして、さきほどの新築祝いと結婚祝いの比較があるくらいで、そこで測られたのは、贈り手が登録品を外す割合であって、何を贈れば喜ばれるかではない。場面ごとの正解は、経験則としては、一定の力を持っている。だが、数字の裏づけは、この記事で見た範囲には、ない。裏づけがないことと、間違っていることは、別の話である。
結婚祝いと新築祝いの差が、日本の慣行にも当てはまるのかは、別の問題である。登録の作法は、国や世代で違うからだ。
この実験たちが、教えてくれないこと
ここまでの数字を、そのまま現実の贈り物に持ち込むことはできない。気配りの実験で使われたのは、売店で買える程度の品だった。数万円の贈り物や、何十年も続く関係の中での贈り物について、同じことが言えるかどうかは、わからない。値段をめぐる結果が割れたのも、品物や参加者の設定が違うからかもしれない。想像課題の多くは大学生が対象で、再贈与や登録品の実験には、品物が一つに決まっているものもある。
これらの研究は、贈り物の「質」を、受け手がその場で評価した結果で測っている。受け手が、その後の数か月に、その贈り物とどう付き合ったかは、ほとんど測られていない。贈り物のよしあしが、受け取った瞬間の評価で決まるのなら、贈る側の「瞬間への注目」は、案外、合理的な選択だということになる。そうでないなら、研究のほうが、見ていない時間を抱えている。どちらなのかは、この記事で見た範囲の研究からは決められない。日本で、贈り手と受け手のずれを直接測った実験や、公的機関による負担感の調査は、見つけられなかった。
参考になる日本の数字は、家計の統計にある。総務省の家計調査をまとめた「家計ミニトピックス」によれば、二人以上の世帯の「交際用購入」(お祝い金などの現金を除く。宿泊代やパック旅行費、食料の費用も含み、1997年は農林漁家世帯を除く)は、1世帯1か月あたり12,259円(1997年)から8,879円(2016年)に、約28パーセント減った。贈り物だけの減少ではないことに、注意が要る。別の資料「師走の贈答品」(家計調査通信第501号)には、2014年12月の贈答品の約7割が食料で、60代の支出は39歳以下の約3.5倍(22,086円と6,288円)という数字がある。贈り物をする人と、その中身に偏りがあることは、数字からうかがえる。受け取った側がどう感じたかは、この統計は測っていない。
見えているものと、見えていないもの
数字を並べ直す。贈り手は、手間と値段が喜ばれると予想した。実験では、手間は相対的に当たりの贈り物に効かず、見劣りしたときにだけ効いた。値段は、研究によって、感謝を上げなかったり、返す負担を増やしたりした。贈り手は、受け手の感謝を、少なく見積もっていた。親しいほど、欲しいものを外した。受け手は、贈り手の不快さを、多く見積もっていた。
この食い違いの底に、見えていない時間が、一つある。ガラクらの整理では、贈る側は開ける瞬間を見て、受け取る側は、その後の長い時間を引き受ける。「宿題つきの贈り物」という言い方は、その長い時間を指している。ただ、研究は、宿題の重さを直接は測っていない。測られたのは、返す負担、再贈与への気持ち、関係の強さの変化といった、周辺の数字にとどまる。
最近もらった贈り物のうち、いまも手元にあるものは、何だろうか。それは、開けたときの喜びで残っているのか、持ち続ける時間の中で残っているのか。答えは、数字からは出てこない。出てこないのが、この領域の、いまの正直な到達点である。
出典
Yan Zhang and Nicholas Epley, "Exaggerated, mispredicted, and misplaced: When 'it's the thought that counts' in gift exchanges", Journal of Experimental Psychology: General, 141(4), 667–681, 2012.(全文で確認)
Francis J. Flynn and Gabrielle S. Adams, "Money can't buy love: Asymmetric beliefs about gift price and feelings of appreciation", Journal of Experimental Social Psychology, 45(2), 404–409, 2009.(要旨と紹介記事による。全文は未確認)
Ning Liu, Yu Lou, Xinyu Wang, and Shouxin Li, "More Expensive, More Attractive? The Effect of Pricing on Gift Evaluation: Differences Between Giver and Receiver", Frontiers in Psychology, 13:790434, 2022.(全文で確認)
Park, Chen, and Kim, "How Gift Prices Affect Gratitude? 'Right' Gift-Price Effect", Australasian Marketing Journal, 32(1), 45–55(オンライン公開は2022年11月)。(数値は2021年11月の作業文書で確認。出版版の本文は未確認)
Joel Waldfogel, "The Deadweight Loss of Christmas", American Economic Review, 83(5), 1328–1336, 1993.(全文で確認)
John A. List and Jason F. Shogren, "The Deadweight Loss of Christmas: Comment", American Economic Review, 88(5), 1350–1355, 1998.(全文で確認)
Ernest Baskin, Cheryl J. Wakslak, Yaacov Trope, and Nathan Novemsky, "Why feasibility matters more to gift receivers than to givers: A construal-level approach to gift giving", Journal of Consumer Research, 41(1), 169–182, 2014.(要旨のみ確認。例と実験の数は紹介記事による)
Jeff Galak, Julian Givi, and Elanor F. Williams, "Why Certain Gifts Are Great to Give but Not to Get: A Framework for Understanding Errors in Gift Giving", Current Directions in Psychological Science, 25(6), 380–385, 2016.(掲載確定後の著者原稿で確認)
Morgan K. Ward and Susan M. Broniarczyk, "Ask and You Shall (Not) Receive: Close Friends Prioritize Relational Signaling over Recipient Preferences in Their Gift Choices", Journal of Marketing Research, 53(6), 1001–1018, 2016.(著者原稿で確認。最終版との違いは未確認)
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総務省統計局「師走の贈答品」, 家計調査通信第501号, 2015年11月15日発行。(全文で確認)
白木・五十嵐「向社会的行動の受け手の感謝および負債感を喚起する要因の検討」, 心理学研究, 87(5), 474–484, 2016.(全文で確認)
