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大工は72%、弁護士は3.5%。同じ問いが、47%にも9%にもなった——「代替されにくい仕事」は当たってきたか

大工は72%、弁護士は3.5%。同じ問いが、47%にも9%にもなった——「代替されにくい仕事」は当たってきたか

「AIに代替されない仕事」「肉体労働は安全」という基準を、予測の当たり外れで確かめる。米国中心の研究で、生成AIはまだ揺れている。進路の基準を疑うシリーズの一本目。

TOMOAKI··仕事

「AIに代替されない仕事を選ぼう」「肉体労働は、代替されにくい」。進路の話になると、この種の言葉をよく耳にする。もっともらしく聞こえる。ところが、この言葉が当たってきたのかを、数字で確かめた話は、あまり聞かない。

この記事は、「進路の基準を疑う」シリーズの一本目で、シリーズの導入を兼ねている。シリーズは、進路を選ぶときに、正しいとされがちな基準を、一つずつ取り上げる。全四本の予定で、二本目は年収、三本目は専門か幅か・大企業か起業か・理系か文系か・大学名、四本目は、基準そのものが変わったとき、別の道へ移れるのか、という順応の問いを扱う。これらを、「基準を持つな」とも、「別の基準を持て」とも言わずに、疑う。疑う方法は、一つだ。基準は、未来の予測を、短い言葉に圧縮したものだと見て、その予測が、どれだけ当たってきたかを確かめる。確かめたあとは、それぞれの基準を、「大事な場面」「大事でない場面」、そして、その二つを分ける条件、という三つの部分に分けて、書き直す。

一本目は、「AIに代替されにくい仕事」という基準を扱う。肉体労働は、その一例になる。先に、数字を挙げておく。2013年に発表され、世界的に引用された採点表では、大工の自動化の確率は72%、屋根工は90%、調理師は96%で、弁護士は3.5%だった。この72%は、「大工の72%が職を失う」という意味ではない。その職業の仕事を、機械が肩代わりできる見込みの大きさで、10年から20年の見通しを、技術的な可能性として示したものだ。もう一つ、数字を挙げる。この47%という予測は、同じ問いを、別の方法で測り直すと、9%になった。答えは、一つの数字に収まらない。扱う研究の多くは米国のもので、日本のデータは薄い。確認の水準は、出典の欄に書いた。

順番は、次のとおりだ。まず、基準が何を圧縮しているのかを見る。次に、2013年の採点表、それを測り直した研究、その後の雇用の動き、ロボットの実際の効果、肉体労働の実情、生成AIの登場を、順に見る。最後に、三人の仮の高校生の場面を置き、基準を、型にあてはめる。

基準は、未来の予測を、短くしたものだ

模試のE判定は、偏差値と、過去の合格者のデータを、「E」という一文字に畳んだものだ。進路の基準も、同じ形をしている。「代替されにくい仕事を選ぶ」という基準には、予測が二つ、畳み込まれている。一つは、どの仕事が、これから代替されるか、という予測。もう一つは、代替されると、その仕事の収入や雇用が、実際に失われる、という予測。どちらも、これから起きることについての予測で、外れうる。

予測が、どれだけ当たってきたかを確かめるには、過去の予測を取り出して、その後に起きたことと、突き合わせればよい。この記事は、その作業をする。ただ、予測の当たり外れは、「当たった」か「外れた」かの二択では、きれいに分けられない。予測が、何を、いつまでに、どの程度、と言っていたのかを、一つずつ見ていく。

採点の物差しも、いくつかある。職業ごとの雇用の増減。賃金の動き。職業の中のタスクの変化。どの物差しで採点するかで、同じ予測が、当たっても、外れても見える。予測を採点するときは、予測の側だけでなく、採点の側にも、条件がある。

2013年の採点表では、大工は72%、弁護士は3.5%だった

最もよく知られた予測は、FreyとOsborneが2013年に発表した、オックスフォード大学のワーキングペーパー(正式な論文になる前に公開される、研究の原稿)だ。米国の702の職業について、コンピュータ化によって、仕事が自動化される確率を計算した。結論として広く引用されたのは、「米国の雇用の47%が、高いリスクの区分に入る」という数字だ。

この「高いリスク」は、確率が0.7以上、と定義されている。論文は、「あまり特定されない数年のうちに、おそらく10年か20年」という時間の見通しを、本文に書いている。つまり、2013年の時点で、10年から20年後を見た、技術的な可能性の推計だ。論文は、実際に自動化される職の数を、推計するものではない、と明言している。

作り方も、見ておく。研究者たちは、702のうち、自分たちが最も自信を持てた70の職業だけを、手作業で「全タスクが自動化できるか」に、1か0のラベル(正解の印)をつけた。その70の職業を、学習データにして、米国の職業情報データベース(O*NET)の9つの指標を使って、残りの職業の確率を計算した。9つの指標は、知覚と操作、創造性、社会的な知能といった、機械にとって難しい作業(ボトルネック)に関するものだ。47%は、この計算の結果だ。降水確率に、たとえてみる。「降水確率70%」は、雨が降る見込みの大きさで、傘が必要な人の割合ではない。この採点表の確率も、仕事がなくなる割合ではなく、機械が肩代わりできる見込みを、確率の形で表したものだ。

個々の職業の確率が、原典の付録の表にある。読んでみると、通説の順序とは、違う景色が見える。

  • 高い側: 保険の引受人 0.99、銀行の窓口係 0.98、レジ係 0.97、調理師(レストラン)0.96、会計士・監査人 0.94、屋根工 0.90、タクシー運転手 0.89、建設作業員 0.88、大型トラック運転手 0.79、大工 0.72
  • 中間: 電気工 0.15、配管工 0.35、訪問介護員 0.39、プログラマー 0.48
  • 低い側: 看護師 0.009、CEO 0.015、弁護士 0.035、ソフトウェア開発者(アプリケーション向け)0.042、最下位のレクリエーション療法士 0.0028

「手に職」と言われる大工や屋根工は、高いリスクの側にある。弁護士や、アプリのソフトウェア開発者は、低い側にある。同じ「手を使う仕事」でも、電気工は0.15、配管工は0.35と、低い側に近い。2013年の採点表は、「肉体労働は、ひとまとめに安全」という順序には、なっていなかった。

同じ問いを、タスクの側から測り直すと、47%は9%になった

この47%という数字は、予測として、どれだけ頑丈なのか。同じ問いに、少し違う方法で答えた研究がある。

Arntz、Gregory、Zierahnが2016年にOECDのワーキングペーパーで報告したものだ。FreyとOsborneが出した職業別の確率を、物差しとして借りて、国際的な成人の技能調査(PIAAC)に答えた個人が、実際にやっている仕事の中身に、当てはめ直した。同じ職業でも、働く人によって、やっているタスク(作業)は違う。そのタスクの違いを、使ったことになる。自動化できる仕事のしきい値は、同じ70%だ。結果は、21か国で、自動化できる仕事の割合が、9%だった。米国の47%と、大きく違う。

差が出た理由は、著者らが説明している。FreyとOsborneが高いリスクに分類した職業でも、働く人は、自動化が難しいタスクも、ある程度は担っている。職業を、一つの塊として判定すると、その塊の中の、自動化しにくい部分が、見えなくなる。ビルを、棟ごとに判定するか、部屋ごとに判定するかの違いに、似ている。棟として見れば「古い」と判定されるビルにも、新しい部屋がある。

同じ方法を、日本に当てはめた試算が、紹介されている。野村総合研究所とオズボーン氏が2015年に発表した、601の職業の分析で、日本の労働人口の約49%が、10年から20年後に、技術的には代替可能、という結果だったという(政府の白書の脚注などを通した、二次的な紹介で、原文は確認していない)。この試算は、技術的な可能性を示したもので、社会的な要因は考慮していない、と紹介されている。

47%と9%は、どちらも、似た問いへの答えだ。問いの立て方、つまり、職業で見るか、個人のタスクで見るかで、答えが五倍ほど動く。予測の頑丈さを測る物差しとして、これは、大きな数字だ。

梁から反物の札が下がる江戸の呉服店の広い店内で、畳の上に座った店の者と客が向かい合って応対している木版画。

実際の雇用は、採点表どおりに動いたのか

では、その後の雇用は、採点表どおりに動いたのか。事後の評価は、いくつかある。

CoelliとBorlandが2019年に、メルボルン研究所のワーキングペーパーで、2013年から2018年の米国の職業別の雇用の変化を調べた。ルーティン(決まった手順)の集約度という、標準的な分類と比べると、FreyとOsborneの予測は、追加の情報を与えていない、と結論している。この論文は、ラベル付けが主観的だったことも、批判している。

米国の民間シンクタンクの報告(ITIF、2022年)は、個別の職業を挙げている。リスクが0.99とされた保険の引受人の雇用は、2013年から2021年に、16.4%増えた。リスクが最も低かったレクリエーション療法士は、8.9%減った。いずれも、米国の労働統計局の職業別の雇用統計で、再計算して確かめた。米国の連邦準備銀行の発表スライド(2026年。査読論文ではない)は、2019年から2024年に、高リスクの職は2.6%減り、低リスクの職は1.9%増えた、としている。ただし、これは、研究者が挙げた80の職業のうち、照合できた73の職業での集計で、高リスク36、低リスク19の職業で見たものだ。中間のリスクの職が、6.3%と、最も大きく減っていて、順序は、きれいには並んでいない。

この評価には、注意がいる。元の予測は、「10年か20年」の見通しで、技術的な可能性を示したものだ。2013年から2021年までを採点するITIFは、時間が来る前に、採点している。2024年まで見たスライドは、10年の下限を過ぎている。「当たらなかった」と断定するのは、フェアではない。言えるのは、通説の順序と、実際の動きが、一部でずれた、というところまでだ。

最も有名な「外れた予測」の例も、見ておく。現金自動預け払い機(ATM)が普及すれば、銀行の窓口係は不要になる、という予測があった。Bessenが2015年に書いた論考によれば、米国の都市部の支店の1店あたりに必要な窓口係の数は、1988年から2004年に、20人から13人に減った。ところが、同じ時期に、都市部の支店の数が43%増えた。ATMは、窓口係の仕事を減らしたが、支店あたりのコストを下げたので、支店が増えた、とBessen自身が説明している。窓口係の仕事は、すぐには消えなかった。

ただし、その後は、動きが違う。米国の労働統計局の職業別の雇用統計では、窓口係の雇用は、2013年5月の約52.8万人から、2021年5月の約36.4万人へと、31%減っている。FreyとOsborneが、2013年に0.98としていた職業だ。労働統計局は、2025年から2035年の見通しの減少の理由として、支店の減少と、携帯端末での入金などを挙げている。2013年から2021年の減少の理由は、今回は確認していない。窓口係は、ATMのあとも、しばらくは残ったが、予測の方向に、時間をかけて動いた、という読みも成り立つ。

天井の軸とベルトで動く織機が奥まで並ぶ、1835年刊の本の挿絵の織物工場。織機の間で女工が作業し、中央にしゃがんで機械に手を伸ばす女性がいる。

ロボットが入ると、何が起きたのか

予測ではなく、実際に導入された機械の効果を測った研究もある。AcemogluとRestrepoが2020年に発表した研究は、1990年から2007年の米国の産業用ロボットの導入を、地域ごとに調べた。労働者1,000人あたりのロボットが1台増えると、その地域の、人口に対する雇用の割合が0.2ポイント、賃金が0.42%下がった。ロボットは、実際に、雇用と賃金を下げた。

同じ著者らは、2022年に、米国の賃金の構造の変化の50%から70%が、ルーティンな作業に特化した労働者グループの、相対的な賃金の低下で説明される、と報告している。自動化は、一部の仕事を消すだけでなく、その仕事に就いていた人たちの賃金を、全体の中で、押し下げてきた。

一方で、同じ著者らは、2019年に、自動化には、二つの力がある、と論じている。仕事を置き換える力と、新しいタスクを生み出す力だ。Autorらが2024年に報告した研究によれば、米国の現在の雇用の過半数は、1940年以降に生まれた職種の名前の中にある。職は消えるが、新しい職も生まれる。どちらが勝つかは、時期と領域で違う。

肉体労働は、安全なのか

ここで、肉体労働の問いに戻る。2013年の採点では、大工、屋根工、建設作業員は、高いリスクの側にあった。それなのに、「肉体労働は安全」という言葉が、広まっている。この言葉を支えうる材料は、少なくとも二つある。

一つは、ロボット工学の、古くから知られた事実だ。コンピュータにとって、難しい推論は易しく、1歳の子どもができる知覚や動作は難しい。モラベックのパラドックスと呼ばれる。Autorが2014年にワーキングペーパーで、この逆説を引いている(引用元は、モラベックの著書の孫引きで、原典は未確認)。手や足を使う、不定形な作業は、機械にとって、いまも難しいと考えられている。

もう一つは、日本の人手不足だ。有効求人倍率は、仕事を探している人1人あたり、何件の求人があるかを表す。1を超えれば、求人のほうが多い。2025年度の一般職業紹介状況(厚生労働省)では、パートタイムを含む常用の職業全体で1.10倍のところ、保安の職業が6.41倍、建設躯体工事の職業が7.72倍だった(労働政策研究・研修機構のページを通した要約)。ただし、これは、大工の倍率ではなく、職業の大きな区分の倍率だ。いま人手が足りないことは、この先も、その仕事が残る保証にはならない。

人手不足と、報酬が高いことも、別の話だ。介護職員の賃金は、厚生労働省の賃金構造基本統計調査(令和6年調査、賞与を含む)で、月30.3万円、全産業の平均は38.6万円だった。仕事は余っていても、賃金は平均より低い。

ここで、「肉体労働」と一口に言うことの、乱暴さにも触れておく。採点表の中でも、大工は0.72、電気工は0.15、配管工は0.35と、同じ手を使う仕事の中で、大きくばらつく。屋根の上で決まった作業を繰り返す仕事と、家ごとに違う配管の、狭い場所を這い回る仕事では、機械にとっての難しさが違う、という読みは、私の推測だ。「肉体労働」という言葉は、この違いを、一つにまとめてしまう。

もう一つ、別の可能性を考えておく。代替されにくいと言われる仕事に、他から人が流れ込むと、その仕事の賃金は、下がるかもしれない。この形の主張を、直接検証した研究は、確認できた範囲では、見つからなかった。近いのは、低技能の労働者がサービス職に移った、というAutorとDornの研究と、ルーティン職群の賃金が下がった、という先ほどの研究だ。「流入で賃金が下がる」は、理論の帰結として語れるが、実証として断定できる材料は、見つけられなかった。

では、「ロボットが肉体労働を代替するのは時間の問題だ」はどうか。人型ロボットの現状については、台数や価格の主張が、互いに食い違う、質の低い二次情報が多かった。国際ロボット連盟などの資料はあるが、今回は読めていない。企業の目標価格の発表は、数字ではなく、目標として受け取るのがよい。「時間の問題」という断定にも、「当面は安全」という断定にも、確かな一次情報を、この記事では示せない。

生成AIが露出させたのは、2013年に安全とされた側だった

近年の、生成AIの登場で、状況は変わった。生成AIは、文章や、画像や、プログラムを書く。これまで「代替されにくい」とされてきた、知的な仕事が、むしろ露出している。雨雲が、どこにかかっているかと、雨がどれだけ降ったかは、別の話だ。以下は、雨雲の話と、雨量の話を、分けて見る。

Eloundouらが2023年に、OpenAIの研究者らと発表した分析(Science 2024年にも掲載)では、米国の労働者の約80%が、仕事のタスクの10%以上に、大規模言語モデル(文章を生成するAI)の影響を受けうる、と推計している。約19%の労働者は、タスクの半分以上が影響を受けうる。高賃金の職ほど、影響の大きさ(露出)が大きい。露出がゼロの職として、短時間調理の調理師、皿洗い、トラック・バスの整備士、コンクリート工、電力線の架線工などが挙がっている。ただし、この露出は、今後出てくる道具を含めた見込みで、モデル単体で見た人手の評価では、3%ほどだ、と論文は書いている。この論文は、「露出」は予測される失業ではない、とも明言している。

実際に、使われたときの効果も、測られている。Brynjolfssonらの、米国のコールセンターの研究は、公刊された版で、5,172人の担当者を対象に、AIの支援で、1時間あたりの解決件数が、平均でおよそ15%増えたと報告した。新人や、低いスキルの担当者は約30%増えたが、経験者や、高いスキルの担当者は、ほとんど変わらなかった。

Dell'Acquaらが、ボストンコンサルティンググループの758人のコンサルタントで行った、事前登録(分析の方法を、結果が出る前に公開しておくこと)つきの実験は、別の面を示している。AIが得意な範囲の課題では、AIを使った人は12.2%多くの課題をこなし、25.1%速く終えた。ところが、AIが苦手な範囲に置かれた、経営判断の一つの課題では、正解を出した割合が、AIを使わない群の84.5%に対し、AIを使った二つの群で、60%と70.6%で、およそ19ポイント低かった。

実際に、雇用が減ったのかを調べた研究もある。HumlumとVestergaardが、デンマークで、AIの導入についての調査と、行政記録を結びつけた分析(AIの影響を受けやすい11の職業、約2.5万人が対象)は、ChatGPTの公開から2年後の時点で、収入と労働時間への効果が、2%を超える可能性を排除できた、と報告している。大きな効果は、少なくとも2年の時点では、出ていなかった。仕事の構造のほうは変わっていて、新しいタスクが生まれ、一部の人は、より賃金の高い職へ移っていたが、平均を動かすほどではなかった、と著者らは述べている。

ただし、若い層には、別の兆しがある。Brynjolfsson、Chandar、Chenの研究(2026年8月版)は、給与データを使って、2026年6月までの動きを調べた。経済全体では、広範な雇用の置き換えの証拠はない。ところが、AIの影響を受けやすい職の、22歳から25歳の雇用は、露出の少ない同年代と同じ伸びだった場合より、19%少ない水準にある(単純な比較)。企業ごとの事情を調整した推定では、2025年7月のデータで約13%、同年9月のデータで約16%と、版によって数字が違い、指標も同じではない。同じ単純な比較で見ると、2025年7月のデータの約15%から、2026年6月の約19%へ、差が広がっている。データは給与計算会社のもので、生成AI以前から続く傾向の違いもある、と著者は書いている。著者自身が、因果の推定ではない、と書いており、教育の水準を統制する(同じ学歴の人どうしで比べる)と、差は弱まる。

これらを並べると、生成AIについても、予測は、まだ揺れている。新人の生産性が上がる、というのは、AIが入門の仕事を助ける、という予測と合う。若い層の雇用が減る、というのは、入門の仕事を奪う、という予測と合う。同じ現象の、二つの読みが、両方成り立つ。露出が雨雲なら、雇用の変化は、雨量にあたる。いまのところ、雨雲は広くかかっているが、雨量の観測は、若い層の一部に限られている。

同じ基準で、三人の高校生が選ぶと

基準が省略している条件を、仮の場面で見てみる。これは、読みやすくするための仮の例で、実在の人の話ではない。三人の高校生が、同じ「代替されにくい仕事を選ぶ」という基準で、進路を決めたとする。

一人めは、大工を選ぶ。肉体労働は、機械にとって難しく、人手不足でもある。2013年の採点では、大工の確率は0.72で、高いリスクの側だったが、モラベックのパラドックスの側から見れば、不定形な作業は、機械に難しい。この人は、基準に従って選んだ。ただ、採点表は、その選択を、逆向きに評価している。二人めは、看護師を選ぶ。採点表の確率は0.009で、最も低い側にある。この人の選択は、2013年の採点表とは、ぶつからない。三人めは、アプリのソフトウェア開発者を選ぶ。2013年の採点表の確率は0.042で、低い側だった。ところが、生成AIの研究では、知的な職の露出が大きく、若い層の雇用に兆しが出ている。

三人は、同じ基準で選び、同じように「代替されにくい」と信じた。ところが、予測のどの側面を見るかで、評価は、逆向きにも、同じ向きにもなる。基準は、三人に同じ言葉を渡したが、その言葉の中身が、三人にとって、同じだったわけではない。

「代替されにくい」を、三つの部分に分けてみる

ここまでを、「大事な場面」「大事でない場面」「二つを分ける条件」に、分けてみる。この三つの部分は、シリーズを通して使う。

「代替されにくさ」が大事なのは、仕事の特定のタスクが、実際に、機械に置き換わる場面だ。ロボットが雇用と賃金を下げた、という研究は、その実例になる。大事でないのは、新しいタスクが生まれて、人の仕事が、中身を変えて残る場面だ。窓口係は、ATMのあとも、支店の増加で、しばらく残った。

この二つの場面を分ける条件は、三つあるように見える。一つは、その仕事のタスクが、機械の得意な範囲に入っているかどうか。ロボットは、肉体的な、不定形なタスクが苦手で、生成AIは、文章や、プログラムが得意だ。どの技術を指すかで、置き換わる仕事が、逆向きになる。二つめは、置き換えで浮いたコストが、新しい需要を生むかどうか。ATMは、支店あたりのコストを下げ、支店を増やした。三つめは、置き換えが、どのくらいの速さで進むか。時間のかかる置き換えなら、人は、仕事の中身を変えて、残ることができる。

予測の測り方にも、条件がある。職業で見るか、タスクで見るか。47%と9%の違いが、これだ。いつの時点で採点するかも、そうだ。FreyとOsborneは、10年から20年と書いた。その期間が終わる前に採点すれば、予測は、外れて見える。これらは、場面を分ける条件ではなく、予測を採点するときの、物差しの条件だ。

これらの条件は、いずれも、基準としての「代替されにくさ」の、外側にある。「代替されにくい仕事を選ぶ」という基準は、これらの条件を、すべて省略した形をしている。省略された条件のどれが、将来、どちらに動くのかは、この記事では、分からない。

大工の72%は、何の72%だったのか

大工の72%は、職を失う人の割合ではなく、機械が肩代わりできる見込みの大きさで、10年から20年の技術的な見通しだった。では、「AIに代替されにくい仕事」は、当たってきたのか。この問いに、一言では答えられなかった。2013年の採点は、肉体労働をひとまとめに安全とはしていなかった。同じ問いを、個人のタスクで測り直すと、数字は五分の一ほどになった。ロボットは、実際に、雇用と賃金を下げた。窓口係は、ATMのあと、しばらく残り、その後は減った。生成AIでは、知的な仕事が露出し、若い層の雇用に、兆しが見える。それぞれが、別の予測の、別の側面を示している。

この記事で、見えたのは、「代替されにくさ」という基準が、予測の集まりで、その予測の当たり外れを分ける条件が、基準の外にあった、ということだ。二本目からは、年収、専門か幅か、大企業か起業か、理系か文系か、大学名、そして順応を、同じ問いで見ていく。どの基準も、予測を短くしたものなら、短くしたときに、条件が省かれていないかを、確かめる。省かれていなければ、そう書く。

念のため、この記事で「確認できなかった」と書いたものは、出典の欄に、まとめた。採点の材料が揃っていない予測を、当たった、外れたと言い切ることも、一つの予測だ。

出典

確認の水準は、全文(本文を読んだ。ワーキングペーパー版を含む)、要旨(抄録や検索で得た要約のみ)、二次(報道や解説、他の資料を通した情報)で示す。

  • Frey CB, Osborne MA. 2013. The future of employment: how susceptible are jobs to computerisation? Oxford Martin School Working Paper(全文。個別の確率は付録の表による。2017年の掲載版 Technol Forecast Soc Change 114:254–280 は未確認)
  • Arntz M, Gregory T, Zierahn U. 2016. The risk of automation for jobs in OECD countries: a comparative analysis. OECD Social, Employment and Migration Working Papers No.189(全文)
  • 野村総合研究所. 2015. 日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に(総務省の白書の脚注などを通した二次的な確認。原文は未取得)
  • Coelli M, Borland J. 2019. Behind the headline number: why not to rely on Frey and Osborne's predictions of potential job loss from automation. Melbourne Institute Working Paper(要旨)
  • Information Technology and Innovation Foundation. 2022. 自動化リスクと実際の雇用変化の比較(米国労働統計局の職業別雇用統計 OES で、保険引受人とレクリエーション療法士の増減を再計算)。米国連邦準備銀行の発表スライド. 2026(二次)
  • Bessen J. 2015. Toil and technology. Finance & Development 52(1)(全文)。米国労働統計局. Occupational Employment and Wage Statistics(窓口係の雇用)、Occupational Outlook Handbook(窓口係)
  • Acemoglu D, Restrepo P. 2020. Robots and jobs: evidence from US labor markets. J Polit Econ 128(6):2188–2244(要旨)
  • Acemoglu D, Restrepo P. 2019. Automation and new tasks: how technology displaces and reinstates labor. J Econ Perspect 33(2):3–30(要旨)
  • Acemoglu D, Restrepo P. 2022. Tasks, automation, and the rise in US wage inequality. Econometrica 90(5):1973–2016(要旨)
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  • Autor DH. 2014. Polanyi's paradox and the shape of employment growth. NBER Working Paper 20485(全文)。Autor DH, Dorn D. 2013. The growth of low-skill service jobs and the polarization of the US labor market. Am Econ Rev 103(5):1553–1597(要旨)
  • 厚生労働省. 一般職業紹介状況(2025年度)、賃金構造基本統計調査(令和6年調査)。労働政策研究・研修機構のページと報道、分科会資料を通した確認(一般職業紹介状況の原表は未取得)
  • Eloundou T, Manning S, Mishkin P, Rock D. 2024. GPTs are GPTs: labor market impact potential of LLMs. Science(arXiv 2303.10130 の全文を確認)
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  • Dell'Acqua F, et al. 2026. Navigating the jagged technological frontier: field experimental evidence of the effects of AI on knowledge worker productivity and quality. Organ Sci(公刊要旨)
  • Humlum A, Vestergaard E. 2025. NBER Working Paper 33777(旧題 Large language models, small labor market effects)(要旨)
  • Brynjolfsson E, Chandar B, Chen R. Canaries in the coal mine? 2026年8月版(全文)
  • この記事で確認できなかったもの: 米国のトラック運転手の雇用の実数、人型ロボットの一次情報、日本の職業別の賃金と求人倍率の原表、生成AIが若い層の雇用に与える影響の因果
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