仕事
2026
差別化という信仰
差別化が顧客の選択を動かしているという確信の強さと、それを裏付ける証拠の薄さには落差がある。ブランド研究、行動経済学、市場参入の実証データから、差別化への強迫観念そのものを問い直す。

測れないものに価値がない、のではない
「計測できないものは管理できない」はデミングの逆の主張として広まった誤引用である。SMART目標やKPI崇拝の実害と、それが覆い隠しているものについて。

プロテイン30分ルールの犯人には、完璧なアリバイがあった
プロテインを摂り遅れると筋トレが無駄になる、というルールの一次資料をたどると、70代・未経験者・わずか13人の実験に行き着く。効いているのは時計ではなく、別の数字だった。

情熱は先に見つけるものか、後から育つものか
「情熱を先に見つければ、あとはずっと楽しく続けられる」――そう信じる人ほど、実際に壁にぶつかった瞬間、興味を失いやすいという実験結果がある。しかもこの助言自体、進路選択における性別間の偏りを広げる働きまで持っていた。

一つに絞ることが、遠回りを避ける道だと思われている
ノーベル賞受賞者は、一般的な科学者より最大22倍の確率で俳優や踊り手としても活動していた――しかも子供の頃から趣味を続けている場合ほど、その差は大きかった。「一つに絞るべき」という前提を、科学とスポーツ両方の研究から検証する。

「旅する」よりも創造性に効く「住む」
創造性を予測したのは海外旅行の日数ではなく、海外居住の年数だった。異文化への適応度がその効果を媒介し、文化的な距離の大きさは関係なかった。旅行に効果がないわけではないが、それが広げるのは発想の幅であって独自性ではない。

スマホとメガネと幸福度
35万人のデータを分析した研究では、スマホの利用時間が幸福度に与える影響は、説明できるばらつきにしてわずか0.4パーセント。研究者自身が「ジャガイモを食べることと同程度」と書いている。

危機らしい危機が、40代半ばになっても来ない
スイスの調査では92%が「ミッドライフ・クライシスは存在する」と信じているのに、実際に定義を満たす経験をした人は10〜20%にとどまる。40代半ばの自分に危機が来ない理由を、一次情報で確かめてみた。

「早起きは三文の徳」が、静かに前提にしていること
認知能力そのものは、実は夜型のほうがわずかに高い――それでも学業成績では朝型が勝つ。この食い違いを、遺伝率40〜60%のクロノタイプ研究と「ソーシャル・ジェットラグ」という概念から解きほぐす。

断捨離が効くのは、モノが減るからではないらしい
散らかった家について「片付いていない」と語った妻だけ、コルチゾールが夜になっても下がらなかった――夫には出なかった反応だ。ミニマリズムと幸福度の関連は本物らしいが、その効きめの54%は「モノを減らすこと」ではなく別の経路から来ていた。

8時間という数字は、誰の体も測っていない
1817年、ロバート・オウエンは24時間を三等分しただけだった。それが今も「適正な睡眠時間」として語られる数字の起点になっている。6時間15分しか眠らずに健康な家系もいる。

「オフィスに戻れ」という号令は、何を根拠にしているのか
オフィス回帰を命じた企業の99%で、従業員満足度は下がった――業績は上向かなかった。それでも対面には、根拠のある効果が一つだけ残っていた。号令が持ち出す理由を一つずつ検証する。

通勤をなくした働き方ほど、独りで過ごす時間が増えるという事実
通勤ゼロで戻ってくるのは時間と金だけではない。役割を切り替える境界、仕事に入る前の準備、誰にも属さない自分だけの帯。それらが静かに消えていたことを、複数の実測データから数え直す。

「ワーケーションで休めている」という感覚は、どこまで本物か
仕事を持ち込みながら休むワーケーションは、回復理論の核心そのものと相性が悪い。しかも比較対象である「休暇」自体の回復効果も、思うほど盤石ではない。

壁をなくしたオフィスほど、会話が減るという事実
壁を取り払えば人はもっと話すようになる、という設計思想は実測データの前で裏返った。静かな場所が集中に良いという前提も、カフェが効くという説明も、同じ種類の思い込みを抱えている。環境と集中力の関係を、複数の逆転から見直す。
