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孤立しないコレクション。家族とどう共存するか
100組の夫婦の喧嘩日誌では、お金の喧嘩は回数で5〜6番目だった。それでも、ほかの話題より持ち越されやすかった。家族がコレクションを嫌う理由を、物の量と並んで「見えなさ」から考え直す。
「またこんなものを買ってきて」「結婚するなら、これ全部処分してね」。コレクションを持つ人が家族からこう言われる場面は、趣味の相談としてはありふれている。言われた側にとっては、棚の中身だけでなく、それを選んできた自分の目まで否定されたように聞こえる。だから話はすぐに、捨てるか、守るかの二択になりやすい。
けれども、その一言が本当に何に向けられているのかは、言った本人にもはっきりしていないことがある。物そのものなのか、物が占めている場所なのか、物に消えていったお金なのか。ここではその切り分けを、夫婦の対立や家計、遺品整理についての研究を手がかりにやってみたい。先に書いておくと、調べていくうちに、物の量や金額の大きさに劣らず効いていそうなのが見えなさだ、という見当がついてくる。その見当にも、いくつか留保が要る。
「ガラクタ」という言葉が指しているもの
コレクションへの批判が人格への批判のように刺さるのには、理由がある。消費者研究者のラッセル・ベルクは1988年の論文で、人は所有物を自分の一部として扱っており、持ち物は自分が何者かを形づくり、同時に外へ示してもいる、と論じた。集めた物は、長い時間をかけて選んだ判断の積み重ねだ。そこに「ガラクタ」という言葉が当たれば、判断ごと否定されたように感じるのは不思議ではない。
ただ、刺さり方が人格的だからといって、言った側の意図まで人格的だとは限らない。台所の流しに置きっぱなしの鍋を「邪魔」と言う人は、たいてい鍋の造形を論じていない。言っているのは、流しが使えないこと、誰が洗うのかが決まっていないことのほうだ。
コレクションへの不満も、同じ構造をしている可能性がある。家族が嫌っているのは美意識の違いより、空間の圧迫と家計の不透明さだろう、という見立てはよく聞くし、私も筋がいいと思う。ここからは、それが研究の側からどこまで支えられ、どこで支えきれなくなるのかを順に見ていく。
夫婦が実際に揉めている話題の順番
夫婦は何で喧嘩しているのか。この問いには、質問紙で「いちばん揉める話題は何か」と尋ねる調査が昔からあり、お金はしばしば上位に挙がってきた。アメリカのローレン・パップらの研究チームは、これを別のやり方で確かめている。子どものいる100組の夫婦に、15日間、喧嘩が起きるたびに夫と妻それぞれが別々に日誌をつけてもらった。集まった衝突は、夫婦の記録を突き合わせられたものだけで748件ある。
結果は、質問紙の印象とずれていた。話題として多かったのは子どものこと(夫の報告で36.4%、妻の報告で38.9%)、家事(25.1%と24.1%)、コミュニケーション(22.1%と21.8%)、余暇(19.5%と20.1%)、仕事(19.3%と18.9%)。お金は18.3%と19.4%で、夫の報告では6番目、妻の報告では5番目だった。
数で言えば、お金の喧嘩は主役ではない。
その代わり、お金をめぐる衝突には別の特徴があった。夫婦のどちらも、お金の喧嘩をほかの話題より「いま重要で、長い目で見ても重要だ」と評価し、「あとで話し合おう」という形で持ち越しやすかった。夫の報告で見ると、夫が「あとで話そう」に同意した割合は、お金の喧嘩で27.7%、それ以外で15.5%。妻の報告でもほぼ同じ開きがある。夫の報告ではお金の話題は繰り返し起きる問題として、妻の報告では長引く喧嘩として記録されやすかった。妻の側は解決に向けた働きかけをむしろ多くしていたが、解決したという感覚が増えた様子はなかった。床のきしみは毎日聞こえる。お金の喧嘩は、雨のたびに天井の同じ場所に浮かぶ染みに近い。回数では目立たないのに、出てくると前回の続きであることが多い。夫の報告では、お金の喧嘩の59.9%が以前からの問題の蒸し返しで、それ以外の喧嘩でも48.1%はそうだった。妻の報告では、この差ははっきりしなかった。染みのたとえは、少し言いすぎかもしれない。蒸し返しは夫婦喧嘩の常で、お金はその傾向が少し強い、というくらいの話だ。
この研究には、本人たちが書いている限界がある。データは1999年から2000年のもので、参加者はほぼ全員が白人の、子どもを持つ夫婦だった。同じ時点で測っているので、お金の話題が喧嘩をこじらせるのか、こじれやすい夫婦がお金で揉めるのかは区別できない。
もう一つ、規模の大きい追跡データがある。ジェフリー・デューらは、全米家族世帯調査の4,574組を使って、家計の状態、お金をめぐる意見の対立、家計の不公平感と、その後の離婚との関係を調べた。抄録によれば、お金をめぐる対立は、夫婦が抱えるほかの種類の対立よりも強く離婚を予測し、しかも対立を考慮に入れると、家計がどれだけ豊かかどうかは離婚と結びつかなくなった。効いているのはお金の多寡か、それをめぐって揉めていることか。抄録の結果は、後者に軍配を上げている。この関係は喧嘩の仕方や結婚生活への満足度を通じて説明されたとされ、つまりお金の対立は、夫婦の関わり方の問題と絡み合っている。これも観察データであって、お金の話し合いを変えれば離婚が減る、という因果までは示していない。
二つの研究が測ったのはお金の対立一般で、出費の見えにくさそのものではない。それでも、コレクションの話に引き寄せたくなる。家族が「いくら使っているのか分からない」と感じている状態は、金額の大小とは別に、持ち越されやすい種類の対立の入り口に立っている状態に近いのかもしれない。
結婚する二人の財布の感覚は、むしろ逆向きになりやすい
なぜお金は持ち越されやすいのか。一つの手がかりは、夫婦がそもそも、お金を払うときの感じ方の違う相手を選びやすいらしい、という意外な報告にある。
恋愛や結婚の研究では、年齢や学歴、価値観や態度が似た相手を選ぶ傾向がはっきり出ることが多い。スコット・リック、デボラ・スモール、イーライ・フィンケルは、お金の感じ方についてはその逆が出ることを見つけた。払うことに痛みを感じすぎて、本当は使いたい額まで使えない人を「しまり屋」、痛みが足りずに使いすぎてしまう人を「浪費家」と呼んで尺度で測ると、既婚者は自分と反対側の相手と結婚している傾向があった。ニューヨーク・タイムズのブログ経由で回答した既婚者362人では、自分の傾向と、自分から見た配偶者の傾向との相関がマイナス0.14。夫婦の両方が自分について答えた110組でも、マイナス0.19だった。数字としては小さい。似た者同士が結ばれるという一般則に逆らう向きの数字が、本人の見立てと夫婦それぞれの自己評価の両方で出たことのほうが目を引く。
さらに妙なのは、未婚の大学生199人に理想の相手を尋ねると、しまり屋ほどしまり屋を、浪費家ほど浪費家を望んでいたことだ(相関は0.34と0.35)。未婚の学生は似た相手を望み、既婚者は反対の相手と結婚している。別々の標本なので同じ人の心変わりを示したものではないが、望むことと実際の組み合わせがずれている、という見当はつく。著者らは、自分の中で嫌っている性質については、似ていない相手に惹かれるという先行研究の考え方で、これを説明している。
そして、この組み合わせには代償があった。ラジオ番組の聴取者を対象にした二つ目の調査では、夫婦の感じ方のずれが大きいほどお金をめぐる意見の対立が多く、それが結婚生活の満足度の低さと結びついていた。どちらも一時点の自己申告で、参加者は比較的所得の高い層に偏っている。数字の出典は著者らの公開している草稿で、刊行版と細部が違う可能性もある。
コレクションに置き換えると、この知見の効き方は少し変わる。同じ1万円の買い物が、片方にとってはちょっとした楽しみで、もう片方にとっては身体的な痛みに近い出来事になっている可能性がある。どちらの感覚が正しいかを決める話ではない。払う痛みの強さが違う二人のあいだで金額だけを議論しても、話は噛み合わないだろう、ということだ。
隠した金額は、気づかれていることがある
噛み合わない話を避ける、いちばん手軽な方法は、話さないことだ。趣味の出費を家族に低めに伝える人は、どうやら珍しくない。
ポーランドのトマシュ・ヴィルガとアンナ・コプチャク=ヴィルガは2022年、模型づくりや釣り、収集など、趣味に毎月お金を使っている120人(男性68人、女性52人、平均年齢35歳ほど)と、そのパートナーに質問紙を配った。著者らはこの人たちをまとめて「収集家」と呼んでいて、参加者は収集家のクラブや歴史の再現イベントの団体、大規模な催しなどで集められている。報告によれば、男女どちらも、パートナーに伝える金額を実際より低くしていた。男性は平均で約3割、出費が多い人ほど大きく割り引いていて、女性は平均で約45%低く伝えていた。予備調査で集めた発言には、小包の表に符牒を書いてもらう、商品にわざと埃をかぶせてもらい「地下室から出してきた」と言う、といった手口も並んでいる。
そして、パートナーの側は、自分が本当の金額を聞かされていないことに気づいていた。
参加者が挙げた隠す理由は、相手が趣味を分かってくれないから、というものだった。ところが隠すことで、相手には「分からない趣味」に加えて「分からない金額」が積み上がる。不透明さを減らすつもりの行動が、不透明さを二重にしている。
この研究は、正直なところ足場が弱い。人数が少なく、集め方は便宜的で、統計の書き方にも読み取りにくいところがある。一国の小さな標本から、趣味にお金を使う人一般の行動を言い切ることはできない。
それでも、方向としては、もっと大きな研究と重なっている。ジョー・ガービンスキーらは、パートナーが良く思わないと分かっているお金の使い方を、意図的に伝えずにおくことを「金銭的な不貞」と名づけ、その傾向を測る尺度を作った。10の実験室研究と一つのフィールド研究、さらに夫婦向けの家計管理アプリと組んだ実際の口座データで検討した結果、この尺度は、反対されると分かっていても使うこと、目立たない支払い方法や中身の分からない梱包を好むこと、口座の情報を隠すことを予測していた。符牒の書かれた小包は、どうやら一部の趣味人だけの工夫ではない。
「資産だから」という説明の重さ
では、隠さずに伝えるとして、何をどう伝えるか。よく使われるのが、コレクションは消えていく消費とは違って価値の残る資産だ、という説明だ。管理表に相場を書けば「売れば数ヶ月は暮らせる」と示せる、という言い方もある。この部分は、少し割り引いて考えたほうがいい。
収集品の投資としての成績には、経済学の研究がある。エルロイ・ディムソンとクリストフ・スパンジャースは、英国の切手の値付けで長く参照されてきたスタンリー・ギボンズ社のカタログをもとに、1900年から2008年までの英国の収集用切手の収益率を計算した。2011年に刊行された論文の抄録によれば、名目で年7.0%、物価上昇を差し引いた実質で年2.9%。債券には勝ち、株式には負け、価格の振れ幅は株式に近かった。百年あまりを通した平均で、この数字である。2009年の草稿では、カタログでいちばん値の張る英国切手50点を選んで値動きを追い、構成を9年ごとに入れ替える方法をとっていて、収益率は名目6.7%、実質2.7%とやや低く出ていた。刊行版で指数の作り方やデータが変わった可能性があるので、二つの数字は分けて読みたい。少なくとも草稿の対象は、希少で高価な切手が中心だった。刊行版の対象の選び方は、抄録からは分からない。
売り買いの費用については、話が少し込み入る。草稿によれば、切手の売買には往復で2割を超える費用がかかりうる。カタログの値段は同社が売るときの値段で、買い取りはそのおよそ4分の3だという。それでも著者らは、切手は長く持たれるので、売買を繰り返す金融資産より費用の重さはかえって小さいかもしれないと述べ、刊行版の抄録では、個人投資家が費用を払ったあとの実績で比べれば切手は株式に並びうる、とまで推計している。費用が高いのは確かで、長く持つ人にとってはそれが致命的とは限らない。もっとも、この比較の相手は売買を繰り返しすぎる投資家で、著者ら自身も脚注で、最適とはいえない売買と比べている点でこの議論には欠陥があるかもしれない、と断っている。保管や保険の費用も別にかかる。いずれにしても、長く持ち続ける前提の話ではある。
収集品全般を見渡したバートンとジェイコブセンの総説は、もう少し控えめだ。多くの収集品は実質でプラスの収益を生んでいるように見えるが、その大半は株式より危険が大きく、収益は低い。
資産という言い方には、日本の行政資料も別の角度から光を当てる。総務省行政評価局は2020年、遺品整理を請け負う事業者69社などへの聞き取りをまとめた報告書を出した。回答を集計できた68社のうち、遺品の買い取りをしているのは51社で、多数派ではある。一方で、古物商の許可を持ちながら買い取りをしない事業者が7社あり、報告書は、遺品整理には値打ちのある物を買い取るイメージがあるが、実態は必ずしもそうではなかった、とまとめている。買い取りの実績がないとする事業者の挙げた理由の一つが、査定や鑑定の難しさだった。報告書に引かれた消費生活相談には、作業中に有名な窯元の作家の名が入った陶器を割られたが、その価値は分からない、という相談者の声がある。
値打ちは、物の中にだけあるのではない。何がどれで、どこで売れて、誰なら分かるのか、という知識と一緒になって初めて値段になる。その知識が持ち主の頭の中にしかないなら、家族から見たコレクションは、暗証番号の分からない金庫に近い。中身が本当に詰まっていても、開けられない金庫は、置き場所をとる重い箱のままだ。
共有の部屋に置かれた物は、誰のことを語るのか
お金の話に比べると、空間の話は研究で裏づけにくい。それでも、部屋に置かれた物が何を伝えるかについては、手がかりがある。
サミュエル・ゴズリングらは2002年、見知らぬ人に他人のオフィスや寝室だけを見せて、そこを使っている人の性格を評定してもらった。抄録によれば、互いに独立した観察者たちは似た印象を持ち、その印象にはある程度の正確さがあり、観察者は部屋の中の実際に手がかりになる物を使っていた。見知らぬ相手をごく短く見ただけで判断する研究と比べて、一致度も正確さもおおむね高かった。
個人の部屋は、使っている人について語る。だとすると、居間や玄関の棚に並んだコレクションは、集めた本人だけでなく、そこに暮らす家族全員について、来客に何かを語っているのかもしれない。同じ物でも、自分の部屋の棚にあるときと、共有の場所にあるときとでは、言っている内容が違う。家族の反発が「自分の家がそう見られること」に向いているとしたら、議論が美意識の話に流れたとたんに、互いに相手の言い分を取り違えることになる。研究が調べたのは個人のオフィスと寝室で、ここから先は私の推測だ。
もう一つ、地味だが見落とされやすい点がある。先の日誌研究で、家事は子どもに次いで多い喧嘩の話題だった。飾られた物には埃が積もり、埃を払うのは、家の中で誰かの作業になる。棚の前を通るたびに目に入るのが、相手にとってはまだ済んでいない家事の一覧である、ということもありうる。
いくつかのやり方と、それぞれの弱いところ
ここまでの話から、試せるやり方をいくつか並べておく。順位はつけない。どれが合うかは、家族のあいだで何が見えなくなっているのかによって変わり、一つの家でうまくいったものが、隣の家では逆効果になりうるからだ。
共有の場所から引き、出すものを選ぶ。大半を扉のある収納や自室に移し、共有の場所には、家族が出すことに異論のない少数だけを置く。部屋が住む人について語るという先の研究を家族に広げて考えるなら、このやり方が動かしているのは、物の量というよりも、家の中で誰が何を語っているかの配分なのかもしれない。利点は、お金の話に踏み込まずに始められること。弱点は、根拠が間接的なことで、収納の工夫が夫婦関係を良くしたと直接示した研究は見当たらない。しまうことが「見せないこと」に慣れる練習になり、金額まで見せなくなる方向へ滑る危うさもある。家族の不満が、居間の見た目や掃除の手間に集まっているように聞こえる家では、最初の一手として試しやすい。不満の中心がお金にあるなら、棚をいくら整えても話は残る。物の置き方と手の届く距離については、趣味の道具の収納について書いた記事で別に考えた。
趣味の予算を家計から切り分ける。月々の上限を決め、趣味用の口座やカードを分ける。これには実験の裏づけがある。ガービンスキーとグラッドストーンは、銀行の取引記録の分析や実験を重ねて、夫婦共同の口座から使うときほど人は実用的な物を選び、楽しみのための物を避けると報告した。原因は、相手に説明しなければならないという感覚で、説明しやすくしてやると差は消えた。自分の口座なら、趣味の買い物はいちいち弁明しなくて済む。
ところが、別の研究チーム、ジェニー・オルソンとリック、スモール、フィンケルの実験は、反対向きに見える結果を出している。それまで口座を別々にしていた、婚約中か結婚直後の230組を無作為に分け、2年間で6回調べたところ、口座を一本にまとめた組は関係の質を保ち、別々のままの組と好きにさせた組は、新婚期にふつう見られる低下をたどった。まとめた組では、お金の扱いについての感じ方が良く、目標がそろい、見返りを数えずに相手の必要に応える関係が保たれていた。大学の紹介記事によれば、好きにさせた組では72%が最後まで別々の口座のままで、別々の口座を残したまま共同口座を作る形には、全部まとめた場合と同じ利点は結びついていなかった。ただしフィンケル自身は、この点から大きな結論は引き出さないとしている。リックは一般向けの寄稿で、大半は共有し、小さな楽しみの分だけ個人に残す「半透明」のやり方を提案している。収入はまず共同の口座に入れ、そこにつないだ個人の口座から自分の買い物をする。互いに週や月にどれくらい使っているかの大枠は分かるが、明細までは見ない、という形だ。寄稿の中で彼は、同じ趣味の人なら筋が通ると思う出費も、事情を知らない相手には法外に見えることがあり、それが避けられるはずの揉め事の元になる、とも書いている。もっとも、これにはかなりの信頼が要り、関係がすでにこじれているなら全面的に見せたほうがよいかもしれない、とも。筋の通った折衷案に見える。けれども構造としては、先の紹介記事が全部まとめた場合と同じ利点は見られなかったとした、共同口座と個人の口座を併せ持つ形に近い。フィンケルがそこから結論を控えていることを差し引いても、リックの案は実験で確かめられたものではない。手元の材料は、むしろ慎重さを促している。
予算を分けることは、趣味の買い物から弁明の重さを外す。同時に、二人のお金を「あなたの分」と「私の分」に分けて数える癖を強めるかもしれない。紹介記事は、関係がこじれていたり家計が不安定だったりする場合には、口座をまとめることで一方がお金を支配される危険もある、と書き添えている。どの形も、どの夫婦にも効くわけではない。
台帳をつけて、見えるようにする。品名、買った時期と値段を記録し、家族が見られる場所に置く。持ち越されるお金の対立、気づかれている隠し事、という先の研究に照らすと、台帳が減らしうるものは何か。金額そのものは減らない。減るとすれば、相手の頭の中にある「分からない部分」だろう。払う痛みが強い相手にとって、上限の見えない出費は、上限の見える出費より重いだろう。これは研究からの推測である。弱点は二つある。一つは、台帳が監査に変わりうることだ。説明しなければならないという感覚が楽しみの買い物を減らす、という先の実験は、すべてを見せる仕組みにもそのまま当てはまる。もう一つは、相場の欄の数字の扱いだ。切手の研究でいえば、カタログの値段は業者が売るときの値段で、買い取りはその4分の3ほどだった。相場の欄に売値を書けば、手放したときの額より高く見える。台帳を「資産の証明」として使うと、不透明さを、楽観的すぎる数字で置き換えるだけになる。家族が知りたいのが「いくら出ていくか」である家なら、相場の欄は空けておいたほうが、台帳は正直になるのかもしれない。
手放し方を、先に書いておく。どれに値打ちがあり、誰に聞けば分かり、どれは迷わず処分してよく、どれを誰に渡したいのかを書き残す。リンダ・プライスらが高齢の消費者80人に聞き取り、さらに7人に深く話を聞いた研究では、大切な持ち物を手放す決定には強く入り混じった感情が伴い、人々は家族の揉め事を避けること、先行きの不確かさを減らすこと、物に「良い行き先」を見つけることを気にかけていた。キャロリン・クラシらの続く研究は、北米の中流家庭で、代々手放されずに受け継がれる物を、個人の大切な物から区別する特徴を五つ挙げている。物を預かる役の人がいること、意味が家族のあいだで共有されていることなどだ。
このやり方は、暗証番号の分からない金庫を、開け方の書かれた金庫に変える。総務省の報告書に集められた遺品整理の見積書75例では、10万円から40万円のあいだが多かった。その金額と作業の規模を考えると、遺族にも業者にも、一つ一つの値打ちを調べる余裕はあまりないのではないかと思う。弱点は、自分の死を前提にした作業であること、家族がその役を望んでいるとは限らないこと、そして書いた内容がすぐ古くなることだ。書いておくことと、家族に引き受けを頼むことは別の話で、相手が受け取らないという選択も残しておきたい。
家族を趣味そのものに巻き込む、という道もある。骨董市に誘う、物にまつわる話を聞いてもらう。意味を共有する人がいることは、クラシらが受け継がれる物の特徴として挙げたものの一つではある。けれども、片方だけが楽しい時間が「一緒の時間」として繰り返されることの危うさもある。夫婦で何をどう一緒にするかは、夫婦の共通の趣味について書いた記事で別に考えた。ここで言えるのは、この方法を直接確かめた研究が見当たらないこと、そして巻き込むことが断る自由のない誘いになった時点で、別の負担に変わるだろう、ということくらいだ。
「処分して」の手前にある問い
研究を一通りたどっても、家族とコレクションの共存の仕方に一つの答えが出るわけではない。出てくるのはむしろ、言葉の置き換えだ。「これ全部処分して」は、物の価値についての判定である以上に、見えないものが多すぎるという訴えとして読める場合がある。金額が見えない。終わりが見えない。誰が埃を払い、誰が最後に片づけるのかが見えない。
そう読むと、守るか捨てるかの二択の外に、何を見せるかという問いが開ける。見せれば見せるほど良いとも限らない。説明を求められるたびに楽しみは少しずつ削れ、互いの財布を数え合う癖も育つ。どこまでを見せ、どこからを任せ合うのか。その線は、払う痛みの強さが違う二人が、それぞれの家で引くしかない。
「処分して」の裏にあるのが金額なのか、終わりなのか、片づけの担当なのかは、たぶんもう見当がついている。棚の前で考えておきたいのは、家族の目に、この棚の何が見えていないのか、だ。
出典
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- Wirga, T., & Kopczak-Wirga, A. (2022). A Collector Deceives—About the Ways of Deceiving Women by Men and Men by Women as far as Spending Money on Collecting Items Is Concerned. International Journal of Environmental Research and Public Health, 19(24), 16755. https://doi.org/10.3390/ijerph192416755
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