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「早起きは三文の徳」が、静かに前提にしていること

「早起きは三文の徳」が、静かに前提にしていること

認知能力そのものは、実は夜型のほうがわずかに高い――それでも学業成績では朝型が勝つ。この食い違いを、遺伝率40〜60%のクロノタイプ研究と「ソーシャル・ジェットラグ」という概念から解きほぐす。

TOMOAKI··仕事

規律の証か、体質の問題か

早起きを勧める文章には、たいてい一つの前提が隠れている。朝型は規律の証であり、夜型は自己管理の甘さの結果だ、という前提だ。「成功者は早起きだ」という言い回しが繰り返されるたび、この前提は補強される。朝に強い人間になれば、生活全体が整う。裏を返せば、朝が弱いのは、まだ整える努力が足りていないということになる。

この前提を検証する前に、確かめておきたいことがある。そもそも、朝型か夜型かという性質は、どこまで自分の意志でコントロールできるものなのだろうか。

クロノタイプは、意志力の外側にある

2019年、遺伝学者サミュエル・ジョーンズらがUK Biobankと消費者向け遺伝子検査サービス23andMeのデータを合わせた69万7,828人分のゲノムワイド関連解析を行い、学術誌Nature Communicationsに発表した。この研究は、クロノタイプ(朝型・夜型の傾向)に関わる遺伝子座を351か所同定している。双子を対象にした従来の研究では、クロノタイプの個人差のうち遺伝によって説明できる割合はおよそ40〜60パーセントとされてきた。生まれつき朝に強い体質と、そうでない体質があるという話は、比喩ではなく、相当な部分が実際に遺伝子レベルの話だということになる。

ただし、遺伝率が40〜60パーセントだということは、残り40〜60パーセントは環境要因だということでもある。光を浴びる時間帯、食事の時間、年齢、生活習慣といった要素も、クロノタイプを一定の範囲で動かす。遺伝がすべてを決めているわけではないが、生まれ持った土台の上に環境が積み重なる、という構造そのものは、根性論だけで説明がつく話ではなくなる。

「意志力が足りないから夜更かしする」という説教は、この遺伝的な土台をまるごと無視した上に成り立っている。同じ量の睡眠を取っても、体内時計の位相そのものが数時間単位でずれている人がいる。その位相のずれを、根性で数時間巻き戻せると考えるのは、身長を根性で伸ばそうとするのに近い。

認知能力そのものは、むしろ夜型のほうがわずかに高い

ここで、もう一段意外な話がある。心理学者フランツィス・プレッケルらが2011年に発表したメタ分析は、クロノタイプと認知能力、クロノタイプと学業成績、それぞれの関係を別々に整理した。結果は、直感とはねじれた形をしている。夜型であることは、認知能力とはわずかに正の相関(相関係数0.08)を持つ一方、学業成績とは負の相関(相関係数マイナス0.14)を持っていた。逆に朝型であることは、認知能力とはわずかに負の相関(相関係数マイナス0.04)を持ちながら、学業成績とは正の相関(相関係数0.16)を持っていた。頭の良さそのものでは夜型がわずかに上回り、成績という結果では朝型が上回る、という食い違いが起きている。

ここで挙げた相関係数はどれも0.2に届かない、小さな値だ。「夜型は頭がいい」と言い切るには弱すぎる数字であることは、正直に書いておく必要がある。ただし、この記事が疑いたいのはその逆——「朝型は頭がいい」という、もっと広く流通している思い込みのほうだ。仮に差があるとしても、それは朝型を利する方向には出ていない。この一点だけでも、「早起きする人間のほうが優秀だ」という前提を積極的に支持する材料にはならない。

ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの絵画『燻る灯火のマグダラのマリア』。蝋燭の灯りだけを頼りに、夜、物思いにふける人物を描いている。

この食い違いを一つの研究だけで語るのは危ういが、心理学者リチャード・ロバーツとパトリック・キロネンが1999年に発表した研究は、この方向をさらに裏づけている。米空軍の新兵を対象にしたこの調査では、ワーキングメモリや情報処理速度を測るテストにおいて、夜型は朝型より高い成績を出していた。しかも、このテストが行われたのは朝の時間帯だった。夜型にとって不利なはずの時間帯でテストしてなお、夜型のほうが上回っていたことになる。論文のタイトルは皮肉が効いていて、「早寝早起きは、あなたを賢くする以外の何にでもしてくれる可能性が高い」という意味の一文がつけられている。ただし、この調査の対象は米空軍への入隊を志願した集団であり、年齢層や身体的条件にある程度の偏りを含む母集団だという点は差し引いて読む必要がある。

この限界を補うように、2014年にはまったく違う集団でも似た結果が出ている。心理学者デイビッド・ピファーらが、米国のトップランクMBAプログラムに在籍する大学院生を対象に行った調査では、夜型の学生は朝型の学生より、GMAT(経営大学院入学のための共通試験)のスコアが有意に高かった。しかも、朝型・夜型の違いは学部・大学院時代のGPA(成績評価平均値)とは有意な関連を示さなかった。つまりこの差は、勉強に費やす努力の量やスタディスキルの違いでは説明がつかない。軍の新兵という特殊な集団だけでなく、すでに選抜を経た高学歴の大学院生という集団でも、同じ方向の差が確認されたことになる。

学業成績で朝型が勝つ理由は、頭の良さではないらしい

認知能力では劣っていないはずの夜型が、なぜ学業成績では朝型に負けるのか。ここで効いてくるのが、時間生物学者ティル・レネベルクらが2006年に提唱した「ソーシャル・ジェットラグ」という概念だ。これは、体内時計が指し示す時間と、学校や職場が要求する社会的な時間との間のズレを指す。朝型の体内時計は、たいてい9時始業という社会の標準スケジュールとほぼ重なっている。一方、夜型の体内時計は、その標準スケジュールから慢性的にずれている。毎朝、時差ボケに近い状態を強いられながら授業を受けているようなものだ。

心理学者カタリナ・ノヴァックらが2018年に発表した研究は、この非対称性を実験室でも確認している。自分のクロノタイプに合わない時間帯に作業をさせると、成績は誰でも落ちるが、その落ち方は夜型のほうが大きかった。朝型は、不利な時間帯に置かれても、無駄な認知資源を使わずに効率よく対処できていた。ただし、これを「朝型のほうが優れた対応力を持っている」と読むのは早い。朝型が対処しやすいのは、そもそも不利な時間帯に置かれる頻度自体が、夜型よりずっと少ないからかもしれない。慣れていない状況への耐性が、慣れている側で強く見えるのは、当然の帰結でもある。

朝に強い人が見ているのは、自分の姿ではなく社会の設計図

並べてみると、朝型信仰が説明していたのは、個人の意志力の差ではなく、社会の時間割と、たまたま生まれ持った体内時計の位相が一致しているかどうかの差だったことになる。認知能力そのものに大差はなく、あるとすればむしろ夜型がわずかに有利という報告すらある。それでも学業や仕事の成果で朝型が有利に見えるのは、評価の仕組み自体が朝型の生体リズムに合わせて設計されているからだ。

「早起きをすれば人生が変わる」という助言は、因果関係の向きを取り違えている可能性がある。人生がうまくいっている朝型の人がいるとして、それは早起きという習慣が人生を変えたのではなく、たまたま持って生まれた体内時計が、社会の側が用意した時間割と一致していただけかもしれない。

出典

Jones, S. E., et al. (2019). "Genome-Wide Association Analyses of Chronotype in 697,828 Individuals Provides Insights into Circadian Rhythms." Nature Communications, 10.
Preckel, F., Lipnevich, A. A., Schneider, S., & Roberts, R. D. (2011). "Chronotype, Cognitive Abilities, and Academic Achievement: A Meta-Analytic Investigation." Learning and Individual Differences, 21(5).
Roberts, R. D., & Kyllonen, P. C. (1999). "Morningness–Eveningness and Intelligence: Early to Bed, Early to Rise Will Likely Make You Anything but Wise!" Personality and Individual Differences, 27(6).
Piffer, D., Ponzi, D., Sapienza, P., Zingales, L., & Maestripieri, D. (2014). "Morningness-Eveningness and Intelligence Among High-Achieving US Students: Night Owls Have Higher GMAT Scores Than Early Morning Types in a Top-Ranked MBA Program." Intelligence, 47.
Wittmann, M., Dinich, J., Merrow, M., & Roenneberg, T. (2006). "Social Jetlag: Misalignment of Biological and Social Time." Chronobiology International, 23(1-2).
Nowack, K., & Van Der Meer, E. (2018). "The Synchrony Effect Revisited: Chronotype, Time of Day and Cognitive Performance in a Semantic Analogy Task." Chronobiology International, 35(12).