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人事制度の流行は効果が確かめられる前に広まる。広まったあとに批判が追いつく。
コーチングの成績・スキルへの効果量は、研究を1本抜くと0.60から0.19に下がる。コーチング、タレントマネジメント、OKR、1on1、エンゲージメントサーベイの土台を、できる範囲でさかのぼって読み、流行と検証の順番を調べた。
あるメタ分析の数字を、一つだけ動かしてみる。組織でのコーチングの効果を統合した2014年の研究は、パフォーマンスとスキルの面で、効果量0.60という悪くない値を報告した。ところが、分析に入っていた1993年の研究を1本だけ抜いて計算し直すと、値は0.19まで下がる。3分の1である。
この話を聞くと、コーチングという仕組みが偽物だったのか、と考えたくなる。そうではない。同じ論文は、コーチングが成果に何らかの効果を持つことを、18本の研究から示している。細い柱に乗っていたのは、この0.60という数字のほうだ。
コーチング、タレントマネジメント、OKR、1on1、エンゲージメントサーベイ。ここ数十年、職場で使われてきた人事制度を、土台になった論文や調査報告まで、できる範囲でさかのぼって、5つ読んでみた。読んで残ったのは、制度ごとの欠陥よりも、順番への疑いだった。導入と流行が先に来て、検証は遅れてやって来るのではないか。批判が出るころには、制度はもう職場の前提になっているのではないか。この疑いは、読む前から持っていたものだ。題は、それを言い切りの形に置いた仮説である。
この順番は、私の思いつきだけではない。経営手法の流行を追った研究に、一つの事例で、似た型を報告したものがある。言説の熱が先に立ち、冷静さがあとから来る、という型である。同種の研究は他にもあるが、私が読んで確かめられたのはその一つだ。型に収まるものと、収まらないものを、一つずつ分けていく。
0.60という数字は、何に寄りかかっていたか——コーチング
2014年のメタ分析(Theeboomら)は、集めた107本の論文を全文で精査し、横断研究や、定量分析のない事例研究を除き、事前に決めた基準で絞って、18本、対象者2,090人分を分析した。成績とスキル、心身の健康、対処能力、仕事への態度、目標に向けた自己調整の5つの領域をまとめた全体の効果量は、g = 0.66。18本には無作為化比較試験が8本含まれ、事例の寄せ集めではない。ただ、成果の多くは本人の自己報告で測られている。対照群のない前後比較の4本は効果量が1.15と大きく、対照群と前後測定を組み合わせた型の0.39とは、開きがある。
領域ごとに見ても、どれも正の値が並ぶ。その中で、パフォーマンスとスキルの値だけを取り出すと、景色が変わる。0.60は、6本の研究、2,007人から出た値で、95パーセント信頼区間は0.04から1.16。下限は、ほとんどゼロに触れている。研究どうしのばらつきも極端に大きい(異質性の指標I²が95.55)。そして、そのなかの1993年の研究を除くと、値は0.19になる。
1993年の研究は、学会での発表1本で、対照群のない前後比較、対象は100人。効果量は2.33と、ほかの研究から飛び抜けている。除いたあとも、信頼区間はゼロを上回る(0.04から0.32)。効果が消えるわけではなく、0.60という値が、1本に大きく寄りかかっていた。著者ら自身、値が大きく下がることを認めている。
効果量0.6は、受けた人の平均が、受けなかった人の上位27パーセントあたりに来る差にあたる(受けた人と受けなかった人を比べる群間比較だとすれば。正規分布を仮定した換算)。0.19なら、上位43パーセント前後で、ほとんど真ん中である。
6人のクラスで平均点を出したら、一人だけ飛び抜けた満点がいた場面に近い。平均は嘘ではない。ただ、その平均を示して「このクラスは優秀です」と言うなら、満点の一人が平均の大半を作っていることは、平均だけでは見えない。
対象者2,090人のうち1,243人は、2003年の大規模な研究1本の分だ。この1本の効果量は0.13と小さい。含めたことで推定はむしろ控えめになった、と著者らは見ている。
限界は、著者らが自分で挙げている。自己報告に頼った研究が多く、研究の数も少ない。出版バイアスの検定では明確な偏りは出なかったが、研究が少なくてばらつきが大きいと、この種の検定は当てにならない、と自分で断っている。
一方、市場の数字も見ておく。国際コーチング連盟(ICF)の調査によれば、世界のコーチング関連の売上は、2011年の約20億ドルから、2022年の約46億ドルへ、11年でおよそ2.3倍になった。どちらも自己申告にもとづく標本調査の推計で、調査ごとに手法が同じとは限らない。それでも、方向は読み取れる。先のメタ分析が出た2014年は、この拡大の途中にあたる。ただ、2時点の数字だけでは、検証の前後で伸び方が変わったのかどうかは、分からない。
才能の争奪戦は、どこから来たのか——タレントマネジメント
「優秀な人材の争奪戦」という言い方を広めたのは、1998年に季刊誌『McKinsey Quarterly』に載った記事「The War for Talent」だった。調査の対象は、アメリカの大手77社。役員359人と幹部5,679人、あわせて6,000人ほどから質問票の回答を集め、人材が豊富だと広く見なされている20社の事例研究と、研究者への聞き取りを重ねている。業界内で10年間の株主総利回りが上位または中位の五分位だった企業を対象にした、記述的な調査で、因果を検証する設計にはなっていない。論文というより、コンサルティング会社が自社の雑誌に載せた調査報告に近い。
主張の中心は、人材が将来の競争優位の源泉になる、の一点にあった。誌面が数字で示したのは、業績上位の企業ほど、人材を惹きつける条件を備えている、という対応関係までで、人材の質が業績を生む因果ではない。行列のできている店は、味がいいから並ぶのか、並んでいるから味がよく見えるのか。行列の長さだけでは、どちらとも言えない。業績と人材の関係も、それと同じ程度にしか読めない。
この記事に、エンロンが出てくる。事例研究にした20社のうちの1社として数えられ、採用の節では、独立心のあるディールメーカーを求める会社として紹介されている。名指しで称賛したわけではない。エンロンの破綻(2001年12月)には、会計不正や資金繰りの悪化など別の事情が絡んでいて、人材戦略が倒した話にはならない。それでも、この会社を、才能を最優先する会社の極致として描いた人がいる。
ジャーナリストのマルコム・グラッドウェルは、2002年7月、ニューヨーカー誌に「The Talent Myth」を書いた。エンロンでは年に2回、部門ごとに評価委員会が一人ひとりを10項目、5段階で採点した。最上位の層には、その下の30パーセントより3分の2ほど多いボーナスが出る。最下位の層には、ボーナスもストックオプションも出ず、場合によっては社外へ出された。通称は「ランク・アンド・ヤンク」。下位の何パーセントを切るのか、数字はこの記事に出てこない。
グラッドウェルの主張は、制度の欠陥だけを責めるものではなかった。才能を最優先する会社は、組織の仕組みを信じないから、スター個人を信じる。その文化は、自信にあふれ、自己宣伝に長けた人ほど、引き上げやすい。彼はエンロンを、ナルシシストの会社と呼んだ。これは一人のジャーナリストの解釈で、評価制度が政治家を生んだ、と因果で読むのは、原文を超える。
同じ型の仕組みは、別の会社でも動いていた。マイクロソフトは、社員を相対評価で振り分ける「スタックランキング」を、何年にもわたって運用していた。2012年8月号のヴァニティ・フェアは、取材した現・元社員の全員が、この仕組みを社内でもっとも破壊的なものとして挙げたと書いた。同僚と競うあまり情報を出し渋る、優秀な同僚と同じチームになるのを避ける、といった証言が並ぶ。それから1年余り後の2013年11月12日、会社は、人事責任者のメモで、評価の相対配分をやめると社内に伝えた。報道に引かれたメモの範囲では、理由はチームワークで、記事への言及はない。
ハイポテンシャルの見極めは、うまくいっているのか。人材コンサルティング会社のTalent Strategy Groupは、2025年の報告書で、世界の300社超に、自社のポテンシャル予測がどれだけ当たるかを尋ねた。答えの平均は44パーセント。実測した的中率ではなく、各社の自己推定の平均である。報告書は、高業績の組織に期待したい水準として、75パーセントを挙げている。調査はコンサルティング会社によるもので、査読研究ではない。報告書自身も、ベンチマークとして使うべきではないとしている。
「優秀そうだ」と見られた人が、実際に優秀になっていく。ピグマリオン効果の発想である。選ばれたこと自体が成績を押し上げるなら、制度の的中率は、見かけより高く出てしまう。職場での効果をまとめたメタ分析(Kierein & Gold, 2000)はあり、13の効果量から、d = 0.81という大きな値が出ている。効果量の数が13と少ないことと、軍の環境で効果が強いことは、割り引いて読まなければならない。人事制度の「タレント」というラベルが同じように働くのかを、直接確かめた研究は、私は確認できなかった。ここは類推にとどまる。ポテンシャルの定義や構成要素に、組織の内でも組織のあいだでも、ほとんど合意がない、と指摘する論文もある(Silzer & Church, 2009)。
目標は狙った場所の外にも効く——OKRと目標設定
目標設定の理論は、この5つのなかで、土台がいちばん固い。難しくて具体的な目標は、成績を引き上げる。ロックとレイサムが2002年にまとめた論文は、目標の難度の効果量が、先行するメタ分析でd = 0.52から0.82の範囲にあると書いている。
おもしろいのは、「目標は本人に決めさせたほうが効く」という通説の扱いだ。レイサムは長いあいだ、目標の難しさを揃えれば、決めさせても、割り当てても、成績は変わらないと報告していた。エレツは、逆の結果を出していた。1988年、二人は、ロックを仲介役に立て、決定的な実験を共同で設計した。実験は4本で、ワシントン大学とメリーランド大学で行われた。論文の抄録によれば、食い違いの主な原因は、エレツの実験では、割り当てた目標についての教示が非常に短かったのに対し、レイサムは、理由を添えて納得させる教示を使っていたことだった。ほかにも、目標の難しさや、事前の個人目標の設定など、4つの要因が挙げられている。理由を添えて割り当てた目標は、本人が決めた目標と同じくらい効く。理由を添えず素っ気なく割り当てた場合は、参加型より成績が低い。この二点は、ロックとレイサムが2002年の論文でこの研究を引いて要約したものによる。
意思決定への参加と成績の関係をまとめたメタ分析は、成績を客観的に測った研究に限ると、効果量が0.11にとどまったという(指標の種類は、引用元に明記がない)。目標設定そのものではなく、意思決定への参加の話だが、「参加させれば効く」という直感の弱さを、別の角度から示している。
副作用を集めたのが、2009年のオルドネスらの論文「Goals Gone Wild」だ。アメリカの小売大手シアーズは、1990年代の初め、自動車修理部門の従業員に、1時間あたり147ドルの売上目標を課した。ノルマのある店で「ついでにこちらも」と勧められた経験がある人なら、先は想像がつくだろう。過大な請求と、不要な修理が、全社的に起きた。会長は、目標の設定の過程が、間違いが実際に起きる環境を作ったと認めた、と論文は伝えている。
フォードのピントの目標は、三つあった。重量2,000ポンド未満、価格2,000ドル未満、1970年発売。論文によれば、複数の階層の経営陣が、実施されていない安全確認を承認した。のちの訴訟で、衝突時に炎上しうる構造だったことが明らかになり、論文は、火災による死者を53人とする。
この論文には、反論がある。同じ号に載ったロックとレイサムの反論は、オルドネスらが逸話に頼り、文献の引用に偏りがあると批判した。オルドネスらも、同じ年の別の号で、目標設定は強い薬のように、望ましい効果も、体系的な副作用も生む、と主張を繰り返している。
同じ構図は、論文のあとにも明るみに出た。アメリカの消費者金融保護局の2016年の同意命令書は、ウェルズ・ファーゴ自身の分析として、顧客の承認を得ていない可能性がある預金口座を約153万件、クレジットカードの申込みを約57万件と記した(対象は2011年5月から2015年7月)。同局は、販売目標と報酬の仕組みを、一部は商品の販売数を増やすために同行が設けたと書いている。目標と報酬を結びつけた構図である。目標そのものが原因だったと言い切れる材料ではなく、副作用の論考が、論文のあとの現実にも現れた例として置く。翌2017年、同行は、対象を2009年1月から2016年9月に広げた調査で、承認を得ていない可能性がある口座を約350万件と報告した。正規の口座が一部混じっている可能性が高い、とも書いている。2016年と2017年の数字は、期間も手法も違い、そのまま並べて比べることはできない。
OKRという枠組みそのものを、対照群を置いて検証した研究は、私には見つけられなかった。見つかるのは横断調査や事例研究、文献レビューまでで、そのほかに見つけられたのは、土台にある目標設定の理論が堅いことと、副作用を論じる論考、それへの反論までだ。
最低1時間と書いた人がいた——1on1
1対1の定例面談を広めたとされるのは、インテルの経営者だったアンドリュー・グローブが、1983年に書いた『High Output Management』だ。面談はどれくらい続けるべきか。グローブは、これに決まった答えはない、と前置きする。そのうえで、部下が、込み入った問題を切り出して踏み込むのに十分な時間がある、と感じる必要があると書き、目安として最低でも1時間を挙げる。短いと、部下は手早く片づく話題にとどまりがちになる。これは部下の会議であって、議題と空気を決めるのは部下のほうだ、とも書く。頻度は、特定の状況に不慣れな部下とは週に1回ほど、経験を積んだ部下とは、もっと間隔を空けてよい、とする。
日本に入ってきた1on1は、どんな形で動いているのか。パーソル総合研究所の調査(2024年6月実施。20〜59歳の正社員3,000人。直近半年に、部下の成長を目的とした1on1を行った上司と部下)では、実施頻度の平均は、ひと月に0.8回だった。成長度がいちばん高かったのは、月に2〜3回以上、1回30分以上1時間未満のグループ。ただし、同じ時点の調査なので、頻度が成長を生んだのか、成長している部下ほど面談が多いのか、区別はつかない。部下の29.7パーセントは、「面談の効果が感じられない」を困りごととして挙げている(上司は27.6パーセント)。全体の平均と、不慣れな部下向けの目安を並べて比べるのは乱暴だが、原書の週1回と月0.8回では、間隔の感覚がずいぶん違う。
導入の広がりについては、別の調査がある。リクルートマネジメントソリューションズが2022年1月に、人事担当者936人に尋ねた調査では、導入率は全体で7割近く(67.7パーセント。一部の部門だけでの導入を含む)。従業員3,000人以上の企業では75.7パーセント、100〜699人の企業では57.7パーセントだった。対象は従業員100名以上の企業の人事担当者で、面談を受けた部下に聞いたパーソルの数字とは、聞いている相手が違う。二つを一つの文に並べると、ありもしない一つの像ができあがる。
では、1対1の定例面談という形式の効果を、実証した研究はあるのか。2022年にオンライン公開された総説(Flinchumら)は、1対1の会議(上司と部下に限らない)が職場の会議のほぼ半分を占めるのに、それ自体を主題にした実証研究はされてこなかったと指摘し、上司と部下の1on1を、その一例として取り上げている。私も探したが、1対1の定例面談という形式そのものを、対照群を置いて検証した研究は、見つからなかった。標識は街じゅうに立っているのに、その道が目的地に着くのかを歩いて確かめた人は、ほとんどいない。
よく引かれる「上司との関係の質」の研究は、実在する。ガースナーとデイのメタ分析(1997)は、上司と部下の関係の質(LMX)の認知を扱っている。測っているのは、関係の質であって、面談の頻度や形式ではない。客観的な業績との関連は弱いとも報告されている(二次資料による)。
面談がもたらすはずのものは、おそらくフィードバックだろう。そこで、近い領域の証拠を一つ。1996年のクルーガーとデニシのメタ分析は、607の効果量(131本の論文、被験者1万2千人余り)を統合した。フィードバックを与える介入は、平均では成績を上げた(d = 0.41)。ところが、効果量の38パーセント超は、マイナスだった。この中には、実験室で意図的に厳しいフィードバックを与えた一連の研究が含まれる。それを除いても、マイナスは約3分の1ある。注意が課題から自分自身へ向かうほど効果は下がる、と著者らは見る。面談が同じ性質を持つのかどうかは、この研究からは言えない。言えるのは、フィードバックという介入が、一様には効かないことまでだ。
満足度と、どこまで別物か——エンゲージメントサーベイ
ギャラップのQ12は、従業員エンゲージメントを測る代表的な指標だ。2013年にまとめられたメタ分析は、263の研究、192の組織、49,928の事業単位、1,390,941人の従業員のデータを土台にしている。規模だけを見れば、反論しにくい数字である。
ただし、このデータは、ギャラップが顧客の組織に向けて実施した調査の蓄積だ。報告書自身が、263の研究を、192の組織のための独自調査として実施したものだと書いている。著者のほとんどもギャラップの所属で、アイオワ大学のシュミットも、1993年からギャラップのシニア・サイエンティストを兼ねている。報告書は、出版バイアスの懸念はないと主張している。公刊か未公刊かを問わず、ギャラップの研究をすべて含んでいるからだという。裏を返せば、このデータの中に、ギャラップ以外の手による追試は混ざっていない。
相関の大きさも見ておく。補正をかける前の値は、顧客ロイヤルティで0.17、収益性で0.10、生産性で0.15。離職は-0.11、欠勤は-0.15。指標をまとめた複合業績は0.26で、報告書の見出しになる0.42は、補正を三段重ねたあとの値だ。成績側の測定誤差の補正で0.28、企業間の範囲制限の補正で0.36、エンゲージメント側の測定誤差の補正で0.42と上がる。いちばん大きく動くのは範囲制限の補正で、全組織の事業単位を一つの母集団とみなす仮定に立つ。補正は統計学の正当な手続きである。ただ報告書は、企業間の範囲制限の補正をかけない値のほうが、典型的な一つの組織の中での効果にあたると書いている。この記事の数字でいえば、0.28がそれに近い側の値だ。
この指標が何を測っているのか、にも疑問が出ている。英国の人事開発協会(CIPD)の2021年のレビューは、Q12が、単純な職務満足度の尺度と、r = 0.9で相関すると書く。出どころは、ブリナーの2014年の文書で、それがハーターらの2002年の研究にさかのぼる。この相関は、店舗や事業所といった、事業単位で集計したレベルのものだ。一般に、集計すると相関は高く出やすい。補正後の値かどうかは、確かめられなかった。事業単位の平均どうしなら、一方の値が分かれば、もう一方をかなり言い当てられる関係だ。店ごとの平均点を出す採点表が二枚あり、並べてみたら順位がほとんど同じだった場面に近い。二つのものを測っているつもりで、実質的には同じものを測っているのではないか、という疑いが出る。
英国の国民保健サービス(NHS)の職員を対象にした体系的レビュー(Baileyら, 2015)は、Q12にもとづく研究を、分析から外した。「寄せ集めの包括的な尺度」だという懸念からだと、CIPDは紹介している。もっとも、外したのは、NHS職員という一つの対象に絞ったレビューだ。この指標を使った研究全体が退けられたわけではない。
流行が先で、検証が後から来るのか
5つを並べて、確かめたくなるのは、中身より順番だ。
経営学者のエリック・アブラハムソンは1996年の論文で、経営手法の流行を「マネジメント・ファッション」と呼んだ。流行を作る側、つまりコンサルタントやビジネススクール、経営誌が、経営者の新しい手法への嗜好を先に感じ取り、それを「経営の最前線」と語る言い方を作り、他の仕掛け人より早く広める競争をしている、と彼は分析した。流行は、一時的な集合的信念として、そうやって作られる。
最初の試食が済んだだけの新作料理に、評判のほうが先に出回る。皿が全員に届くころには、客は「有名な一品」として食べる。味の吟味が出てくるのは、そのあとだ。
アブラハムソンは1999年に、フェアチャイルドとともに、一つの流行を追った実証研究を出している。対象はQCサークルで、流行をめぐる言説を追った。流行の上り坂では、感情的で熱を帯び、吟味の浅い言説が目立つ。下り坂になって初めて、留保のついた冷静な言説が増える。二人は、これを「迷信的な集団学習」の型と呼んだ。この研究が見たのは、雑誌の論調の変化で、効果の検証そのものの時期ではない。
注意しておきたい。この研究が追ったのは、QCサークル一つだ。この記事の題は、私の疑いを、一つの報告にある似た型に照らして、5つの制度に当てた仮説にすぎない。そのぶん、私は「確かめた」とは書けない。「近い」と書くにとどめる。
吟味が後回しになる理由を考えるときの手がかりが、社会学者のディマジオとパウエルが1983年に挙げた、組織が互いに似ていく仕組みだ。三つに分けたうちの「模倣的」同型化は、先が見通せない状況で、正当性がある、あるいはうまくいっているように見える組織をまねる現象である。人事施策の効果は、数字に出にくい。効果が見えない状況では、他の多くの会社が導入したこと自体が、正当性の印になりやすい。それが、まねる理由になりうる。これは私の理屈で、この三つの仕組みから直接導かれた結論ではない。
5つの制度を、この型に当てはめると、題の型を丸ごと満たすものは、実のところ一つもない。起点と批判の時期が揃うのは、タレントマネジメントだけだ。1998年の調査報告が発端で、グラッドウェルの批判が出たのは2002年。ただ、追えたのは起点と批判の2点で、普及の推移は追えていない。しかも、批判は論考であって、検証ではない。マイクロソフトが相対評価をやめると社内に伝えたのは2013年だが、グラッドウェルの批判とのつながりは、確かめていない(彼が論じたのはエンロンだ)。コーチングは、肯定的なメタ分析が出た2014年が市場拡大の途中にあたるものの、検証の前後で伸び方が変わったかは、2時点の数字からは分からない。エンゲージメントは、土台の大半がギャラップ自身のデータで、その中に外の追試が混ざっていない、というところまでしか言えない。前半の候補は、1on1だ。従業員100名以上の企業の人事担当者への調査では、導入は、一部の部門だけの導入を含めて7割近くに及ぶ。一方、形式そのものを検証した研究は、2022年の総説が、主題としては実証研究されてこなかったと指摘し、私も見つけられなかった。広まった数字と、検証が見つからないこと。この二つから、前半に近いと見る。そして題の後半、批判があとから追いつく例は、はっきりしない。批判が長い運用のあとに大手誌で取り上げられた例なら、一つある。1社の中の話で、普及とは別だが、マイクロソフトで何年も続いたスタックランキングは、2012年にヴァニティ・フェア誌で批判された。ただ、普及の推移と並べて、前後を示せたものは、5つの中に見当たらない。
型に収まらないもの、決めきれないものもある。目標設定は、土台の理論が先に積み上がっていた。副作用を論じる論考も、2009年には論文として出ている。OKRについては、方法の分かる普及の数字を、私は見つけられておらず、型に重なるかどうかは、保留する。逆向きの例もありうる。効果が先に確かめられながら、広まりが遅い施策を、この記事は探していない。5つは、網羅でも無作為でもなく、私が選んだものだ。
留保の種類
5つの制度のどれも、悪意から生まれたわけではないだろう。それぞれが、現場の困りごとに答えようとして、ある程度の根拠や経験を引き、使われるようになった。ただ、根拠の厚みと広まる速さは、別々の物差しで測られているように見える。
題の仮説の判定は、はっきりしない。前半(確かめられる前に広まる)に近い例は1on1にあり、後半(広まったあとに批判が追いつく)は、示せなかった。この記事が出せるのは、そこまでである。別の観察もある。5つの制度のうち、土台に何の留保もつかないものは、なかった。ただ、どの研究にも留保はつくので、これは仮説の支えにならない。注目したいのは、留保の種類の違いだ。因果を検証しない調査報告が起点で、ポテンシャルの定義にも合意がないタレントマネジメント。一つの数字が問われたコーチング。ギャラップのデータに外の追試が含まれないエンゲージメント。1on1とOKRは、形式そのものを検証した研究が見つからない。OKRの土台にある目標設定は、副作用が論じられてきた。この違いは、「効果がある」の一語に畳まれやすいのではないか。あなたの職場の制度は、どの種類の留保の上に立っているのだろう。
出典
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