ficus.life/仕事
目次▼
17市場で、自分の使うブランドを「違う」と選んだ顧客は11%

17市場で、自分の使うブランドを「違う」と選んだ顧客は11%

17市場の調査で、利用者が自分のブランドを「違う」と選んだのは平均11%。英国の標準・特典付きの当座預金は、約9割が乗り換えれば得という試算なのに、当座預金全体の乗り換えは年3%。

TOMOAKI··仕事

差別化は、誰に向かって説明されているのか

「差別化」という言葉は、事業の会議でとても頻繁に口にされる。競合と同じことをしていては埋もれる。独自の強みを打ち出さなければ選ばれない。この前提は疑われにくく、差別化は正義として、差別化の欠如は敗北の予兆として語られる。

この前提を、顧客の側から測ろうとした研究がある。測ってみると、居心地の悪い数字が出てきた。ただし、その数字を作った研究者たちも、特定の立場に立っている。ここでは、差別化に否定的な数字と、肯定的な数字を、同じ程度の丁寧さで並べてみたい。結論を急がないこと、それ自体を試みにしたい。

多くの利用者は、自分のブランドを「違う」とは選ばなかった

南オーストラリア大学のエーレンバーグ・バス研究所のジェニー・ロマニウクとバイロン・シャープ、それに研究所の名前の由来になった統計学者アンドリュー・エーレンバーグが2007年に発表した論文は、オーストラリアと英国の17の市場を対象にした。銀行、スーパー、ファストフード、自動車、蒸留酒、スキンケア、ソフトドリンク、コンピューターなどである。オーストラリアの電話調査では、ブランドの属性を並べたリストの中に「違う(different)」と「独特(unique)」という二つの語を紛れ込ませ、どのブランドが当てはまるかを選ばせた。英国の分は、広告会社の既存のブランド調査(1999年)のデータである。分析の対象は、そのブランドをいま使っている顧客だけだ。

結果は、17市場の平均で、現在の利用者が自分のブランドを「違う」と答えた割合が11パーセント、「独特」が10パーセント、どちらかが17パーセントだった。差別化されていれば、少なくとも自分のブランドの利用者は「他とは違う」と感じているはずだ、という見込みからすると、低い。電子機器が8パーセントで最も低く、高いところでも蒸留酒の36パーセントにとどまった。

例外もはっきりしている。ディスカウント店のアルディは、ナショナルブランドを置かない品揃えで、利用者の67パーセントが「違う」と答えた。ファストフードのサブウェイは、利用者の50パーセントが「独特」を選んだ。

逆の極端もある。英国のコンピューターの市場では、アップルの利用者の77パーセントが、自分のブランドを「違う」とも「独特」とも答えなかった。熱烈な支持者が多いと言われるブランドの利用者でさえ、そうだった。

ここで早合点しやすい。「どのブランドも似たようなものだと思われている」と読みたくなるが、論文はそう読んでいない。たとえばソフトドリンクで、コカ・コーラを「違う」「独特」と答えた人は19パーセントだったが、ソフトドリンクのどれか一つでも「違う」「独特」と答えた人は76パーセントにのぼった(これは17市場のうち最大の値で、平均は54パーセントである)。人はそれぞれ、別のブランドに「違う」と感じている。全員が同じ一社を挙げるのではなく、一人ひとりが別の一社を挙げるから、1ブランドごとの数字は低くなる。

書いておくべき留保がある。対象は成功した大手ブランドが中心で、小さくて高価格のブランドは相対的に高い得点を示した、と著者自身が書いている。測っているのは自己申告で、行動ではない。そして著者たちは、差別化より「際立ち」(後述)を戦略の中心に置く立場の研究所の人である。業績との関係についても、因果を疑ってはいるが完全には否定しない、と留保している。

反対側の最も強い証拠は、水準ではなく変化に出ていた

差別化が効くという側にも、数字はある。もっとも強い学術的な証拠は、ミジクとジェイコブソンが2008年に Journal of Marketing Research に発表した研究だろう。広告会社 Young & Rubicam が行うブランド調査(BAV)の8回分、1993年から2004年までの調査を使い、上場している単一ブランド企業と突き合わせた。8回の調査で特定できた企業は延べ1,778件(275社)で、会計データまで揃えた回帰の標本は890件、翌期の株式リターンを比べた分析は1,023件である。差別化の指標は、「独特」と「特徴的」の二つの問いに「はい」と答えた人の割合である。

結果は、変化のほうに出た。差別化の変化は、同じ期の株価には効かなかった。ところが、次の期の株式の超過リターンを予測した。差別化が前の期より上がった企業(516件)は、次の期にリスクを調整した超過リターンがプラスになり、下がった企業(507件)はマイナスになった。その差は統計的に有意で、変化を比べられた6回の区間のすべてで向きは同じだった。ほかの四つの柱(関連性、尊敬、知識、エネルギー)の変化には、同様の予測力がなかった。

先ほどの17市場の論文の英国分も、同じ広告会社のBAVの1999年のデータである(質問語は「違う」と「独特」で、ミジクらの「独特」と「特徴的」とは完全には同じでない)。「水準は低い」と「変化は将来を予測する」が、近い質問から、同時に出てきた。矛盾に見えるが、矛盾していない。一方は、自分のブランドを「違う」と答える利用者の割合を、ある時点で測っている。もう一方は、回答者全体のうち「独特」「特徴的」と答えた割合が、前の期から上がったか下がったかを測っている。データも、一方はオーストラリアと英国(英国分は1999年のBAV)、もう一方は米国のBAVで、別である。多くの顧客が「違う」と答えない市場でも、差別化の指標の上下が将来の株式の超過リターンを予測するかどうかは、この二つの研究からは分からない。ただし、これは株価を通した間接的な証拠で、売上や購買行動を直接測ったものではない。論文の著者自身が、市場がまだ織り込んでいない異常であり、いずれ消えると予想している。

差別化と際立ちは、別のものとして論じられてきた

ここで、言葉をはっきりさせておく。バイロン・シャープは、自身のブログ(2008年)で、差別化を「買い手にとっての利点、買う理由」、際立ち(distinctiveness)を「そのブランドがそれらしく見える度合い」と区別している。後者は、ブランドが「それ自身らしく見える」ことで、法的に守ることもできる、と書かれている。彼の著書『How Brands Grow』(2010年)には、「差別化と際立ち」「メンタル・アベイラビリティとフィジカル・アベイラビリティ」という章が立てられている。買おうとした瞬間に思い出されるか、実際に手に入るか、という意味である。ただし、この紹介は、著者のブログと目次、書評に基づく。

先ほどの論文の著者でもあるロマニウクとシャープは、その後、際立ちを重んじる立場を著書にまとめている。購買との結びつきを実証したものかどうかは、確認した範囲では分からなかった。

マーケティング学者のマーク・リトソンは、際立ちと差別化は二者択一ではなく、両立させるものだと主張している(Marketing Week の2019年のコラムの見出しと、2023年の報道による)。報道によれば、差別化は「唯一無二」ではなく「相対的な差」で、ポジショニングの概念は一つに絞り、訴える属性は二つか三つに集中する、という考え方である。ここまでの数字は、どちらか一方だけを支持してはいない。

空港の待合室に並ぶ、見分けのつかない座席の列

競合と、驚くほど客を分け合っている

差別化が顧客を分けているなら、市場には切れ目が見えるはずだ。あるブランドの顧客は、別のブランドをあまり買わず、各ブランドが固有の客層を抱えているはずだ。ところが、アンドリュー・エーレンバーグらが長年確かめてきた「重複購買の法則」は、逆の姿を示す。あるブランドの顧客が別のブランドも買う割合は、買われるブランドの規模に比例する。大きいブランドは、他のブランドの顧客の多くとも客を共有している。

この法則を、日本人の旅行者で確かめた記録がある。複数の行き先を訪れたことのある日本人旅行者(278人の表)を対象に、訪問した国を「ブランド」とみなして重複を調べた。ハワイを訪れた人は53パーセント、米国は37パーセント。米国を訪れた人の53パーセントが、ハワイにも行っていた。各行き先について、他の行き先を訪れた人のうちそこにも行った人の平均を取ると、ハワイで47パーセント、おおむね人気の順に33、28パーセントと下がり(香港の32のように順が入れ替わる所もある)、最下位の台湾では14パーセントになる。行き先の人気に応じて並ぶ、という予想どおりの形だ。例外もあり、イタリアと英国の相互の重複は期待を大きく上回った。近い場所やパッケージ旅行で説明できるが、論文は原因を断定していない。消費財ではなく旅行先の話で、学会の会議論文である。

この法則の関連で、エーレンバーグらが1990年に整理した「ダブル・ジョパディ」という現象が知られている。小さいブランドは、買い手が少ないだけでなく、買い手の忠誠度の指標(購入頻度や、そのブランドだけを使う割合)も、わずかに低い。2021年のエーレンバーグ・バス研究所のレポートは、英国の法人向け銀行のデータで、この形をおおむね確かめている。事業向けの銀行取引を一つの銀行ですべて済ませる顧客の割合は、顧客の41パーセントを持つ銀行で27パーセント、顧客の11パーセントの銀行では3パーセントだった。おおむね規模の大きい銀行ほど高いが、きれいに並んでいるわけではない。顧客の25パーセントを持つ銀行で34パーセントのところもあれば、21パーセントを持つ銀行で5パーセントのところもある。法人向けのデータで、消費財の話ではない。

ここまで見ると、差別化が顧客を分けるという筋書きは、少なくとも、法則が見つかる範囲では、出番が少ない。分断が報告されているのは、無鉛・有鉛ガソリンのような機能の違いが明確な市場のほか、距離の近さ(店舗や行き先の近さ)が顧客を分ける場合である。差別化の中身が機能そのものである場合は、話が別になる。

作り手は四六時中考えているが、顧客は日用品の棚の前で十数秒しか考えていない

差別化への確信には、もう一つ、個人的な錯覚が関わっている。自分の商品について、作り手は毎日何時間も考えている。競合との違い、機能の細部、価格の妥当性。一方、顧客がその商品について考える時間は、日用品なら、棚の前で決めるまでの十数秒ほどだという報告がある(後で詳しく見る)。

この非対称を実験で示したのが、エリザベス・ニュートンが1990年にスタンフォード大学の博士論文で報告したタッピング実験である。学部生80人のうち、40人を「叩く人」、40人を「聞く人」にした。叩く人は、「きらきら星」などの25曲のリストから曲を選び、そのリズムを机で叩く。聞く人は、曲名を当てる。叩く人は一人3曲、合計120回。叩く人は、聞く人の約50パーセントが当てるだろうと予想していた。実際に正解したのは、120回のうち3回、2.5パーセントだった。

実験の細部に、見逃せない点がある。叩いてはいないが曲名を知っている「観察者」にも予想を聞くと、やはり平均で約50パーセントと答えた。叩く動作の当事者でなくても、頭の中で曲が鳴っていると、聞き手にもその曲が聞こえていると思ってしまう。聞き手に届くのは、無機質な打音の連なりだけなのに。

この錯覚は「知識の呪い」と呼ばれる。言葉を最初に経済学の文脈で使ったのは、コリン・キャメラー、ジョージ・ローウェンスタイン、マーティン・ウェーバーの1989年の論文である。ウォートンの学生に企業の利益を予想させ、2か月後に別の学生が、その予想の平均に等しい配当を払う資産を取引した。実際の利益を知っている取引者は、その知識に引きずられて値をつけた。市場で取引をすると、この呪いは約半分に減るが、なくならない。差別化の違いを設計した本人にとって、その違いは自明で際立って見える。何も知らない顧客には、机を叩く音と同じように聞こえているかもしれない。

広告はどう効くのか、1965年の講演はすでに述べていた

顧客の注意が低いこと自体は、昔から論じられてきた。ハーバート・クルーグマンは、1965年に Public Opinion Quarterly に載せた論考「関与なしの学習」で、テレビ広告について論じている。これは実験の報告ではなく、世論調査協会の会長講演を元にした論考である。

要約には注意がいる。クルーグマンは、関与を「注意や関心の強さ」ではなく、視聴者が自分の生活と画面の刺激を結びつける「橋渡し体験」の、1分あたりの数と定義した。そして、低関与の状況では、説得、つまり抵抗する態度を覆すことが起きているのではなく、反復によって、知覚の構造が少しずつ変わると論じた。態度の変化は購買の後に来る。広告の影響が小さいと言ったのではなく、影響の通り道が違う、という主張である。

クルーグマンは、1965年の時点ですでに、一部のカテゴリーでは広告のテーマが似通ってきて、ブランドの差別化の鋭さが落ちている、と書いている。そのデータは、同僚の言葉では「ぐずぐず」だという。そうしたカテゴリーでは商品がコモディティに近づき、競争は価格と流通に移る、という見立てである。差別化が薄れていくという指摘は、新しいものではない。

では、買う瞬間の顧客は、どれくらい考えているのか。ホイヤーが1984年に洗剤の購入客を観察した研究は、棚の前の通路に入ってから決めるまでの平均が約13秒だったと、後続の研究に繰り返し引かれている。商品を2つ以上調べてから選ぶ人は11パーセントだったという(どちらも後続の論文に引かれた数字である)。商用のアイトラッキングを使った別の研究は、スーパーの棚の写真を大きな画面に映し、買うなら検討するブランドを答えるよう指示して、見ていた時間を測った。オレンジジュースの棚で25.1秒、洗剤の棚で18.0秒だった。実験室での測定で、店頭での選択時間ではない。注視したブランドは、ジュースで16ブランド中10.9、洗剤では約7ブランドだが、「検討した」ブランドは、ジュースで2.5、洗剤で10ブランド中2.3だった。棚の写真を見る目は、多くのブランドの上を通り過ぎるが、選択肢として頭に残るのは二つか三つである。

選んでいるのではなく、動いていない

差別化のほかに、選択を左右しているものの候補がある。初期設定だ。取り上げるのはブランドの選択ではなく、制度の選択である。契約したプランを、契約した日のまま何年も見直さない、というのに近いのかもしれない。

エリック・ジョンソンとダニエル・ゴールドスタインは、2003年に Science に発表した臓器提供の比較で、国ごとの「実質的な同意率」を並べた。同意が初期設定(オプトアウト)の国は、オーストリア99.98パーセント、フランス99.91パーセント、スウェーデン85.9パーセントなど。明示的な意思表示が必要な国(オプトイン)は、デンマーク4.25パーセント、ドイツ12パーセント、英国17.17パーセント、オランダ27.5パーセントだった。ここで言う同意率は、実際の提供者の割合ではなく、同意の登録をした、または拒否を登録しなかった人の割合である。

1991年から2001年の欧州の実際の提供数を、初期設定が「提供」の国と「非提供」の国で比べた推定では、人口100万人あたり16.4人と14.1人で、16.3パーセントの差だった。同意率には数十ポイントの差があるのに、実際の提供数の差は、これよりずっと小さい。同じ論文が引く別の国の組み合わせの推計では56.5パーセントの差になるので、数字は国の選び方に左右される。オランダでは、1998年に全国登録制度を作るとき、1,580万人の国で1,200万通を超える手紙を送ったが、同意率は動かなかった。

初期設定の効果は、どれほど一般的なのか。Jachimowicz らが2019年に発表したメタ分析は、58のデータセット、合計73,675人を統合して、効果量d=0.68を報告している。二値の選択では、初期設定の側が、平均で27ポイントほど選ばれやすかった。一方、研究ごとのばらつきは極端に大きく(I²=98パーセント)、観察のうち、有意な差が出なかったものが10件、逆の向きに有意だったものが2件ある。初期設定の効果は、ある場面ではとても大きく、別の場面ではまったくない。

自動加入の年金(米国のある大企業の401(k))の古典的な研究も、同じ型の発見を含んでいる。マドリアンとシェアは2001年の論文で、自動加入になったあとに入社した人の加入率は約86パーセントで、制度の導入前に入社した人の同じ在職期間の加入率(37パーセント)を大きく上回ったと報告している。ただし、数字の裏に、もう一つの顔がある。自動加入の下で入社した人の61パーセントが、会社が置いた「拠出率3パーセント、預け先はマネーマーケットファンド」のまま動かなかった。他のコホートでその設定の人は1パーセントだった。導入前は多くの人が、もっと高い拠出率や株式型を自分で選んでいた。初期設定は、加入率を上げると同時に、もっと貯めたかもしれない人を、3パーセントに固定した。

乗り換えれば得をするのに、年に3パーセントしか動かない

顧客が動かない例は、銀行にもある。英国の競争・市場庁(CMA)が2016年に公表した小売銀行の最終報告書(766ページ)によれば、個人の当座預金の利用者のうち、過去1年に他行へ乗り換えたのは3パーセント、過去3年でも8パーセントだった。過去1年に「比較も乗り換えもしなかった」人は4分の3を超えた。貯蓄商品の過去3年の乗り換えは13パーセント、エネルギーは30パーセントを超える。当座預金は、動かない商品だった。

報告書は、乗り換えで得をする人が多いと試算している。英国本土(GB)の標準的な口座と特典付きの口座の利用者(当座預金全体の約75パーセント)の約9割は、最も安い五つの商品のどれかへ乗り換えると経済的に得をし、平均で年92ポンドの利益があるという。パッケージ口座では、得をする人は半数である。報告書は、これを財務上の静的な試算であり、すべての顧客が実現できる利益ではないと断っている。それでも、先の「3パーセント」と並べると、目立つ数字だ。

なぜ動かないのか。「得になると分かっていながら動かない」と語られることがあるが、報告書はそう書いていない。顧客が潜在的な利益を十分に認識していないこと、そして銀行どうしに違いがないと見ていることを、低関与の理由として挙げている(報告書は、乗り換えの手間や透明性の乏しさも別の障壁として論じている)。報告書が引く小売大手テスコの調査では、当座預金を「どれも同じ」と考える人が43パーセント、「違いは小さい」と考える人が42パーセントだった。一方、報告書が引く調査会社 GfK の調査で「銀行間に実質的な違いがある」に同意したのは49パーセントで、残りは同意しないか、どちらでもないと答えた。これを裏返して、違いが見えれば動く人もいるはずだ、と読む人もいるだろう。差別化の側に立つ人は、ここを根拠にできるかもしれない。いずれにしても、一度結んだ当座預金の契約は、引き出しの奥の保証書のように、あることは知っていても、取り出して読み直されることがない。

もう一つ、満足度の読み方に関わる数字がある。報告書は、特典のない口座の月の平均価格を、満足度別に示している。「とても満足」の人は1ポンド、「やや満足」は3ポンド、「どちらでもない」は5ポンド、「やや不満」は7ポンド、「とても不満」は9ポンドだった。高い価格を払っている人ほど、満足度が低い。銀行は、乗り換えが少ないのは満足度が高いからだと主張したが、CMA はこの関係を、それに対する反証として使った。「動かないのは満足しているからだ」という読みは、少なくともこの市場では、単純には成り立たない。

日本にも、初期設定の強さを思わせる数字がある。電力・ガス取引監視等委員会の資料によれば、規制料金から自由料金や新電力へ移行した割合は、全面自由化(2016年4月)から約6年半後の2022年10月時点で、低圧の契約口数ベースで全国48.0パーセントだった。半分あまりは、規制料金のままだったことになる。この48.0パーセントは、資料の題にあるとおり、規制料金から自由料金・新電力への移行の合計で、新電力への乗り換えだけの割合ではない。半数は移行したが、半数は、何もしなければそのままの規制料金に残った。ブランドの選択ではないが、初期設定の強さを示す数字として読める。

先に出た者が勝つ、という話も、記憶ほど確かではない

ここまでの話を聞いて、「ならば最初に市場に出て、顧客の最初の接触を独占すればよい」と考えたくなる。ファーストムーバー・アドバンテージである。この物語も、記憶されているほど確かではなかった。

ピーター・ゴルダーとジェラルド・テリスは、1993年に Journal of Marketing Research に発表した研究で、歴史資料から各カテゴリーの先駆者を調べ直した。それまでのデータ(PIMS など)は、生き残った企業だけを含み、しかも企業の自己申告で「先駆者」を分類していた。ゴルダーらは、失敗して消えた先駆者も含めた。36のカテゴリー(補助的に14を加えて計50)で、先駆者の失敗率は36カテゴリー中17で、47パーセントだった。先駆者の平均市場シェアは10パーセント。失敗を「0」として入れず、生き残った先駆者だけで平均すると19パーセントになり、従来の約30パーセントに近づく。論文は、残る差は先駆者の定義や測定の違いによる可能性があるとして、過去の知見と矛盾するというより補う結果だと述べている。現在の市場リーダーが先駆者である割合は、11パーセントだった。

後発企業が追い越すまでの年数は、カテゴリーによって大きく違う。初期のリーダーが参入したのは、先駆者の平均13年後である。戦前のカテゴリーでは19年後、戦後では5年後だった。現在のリーダーは、平均20年後に参入していた。戦後の16カテゴリーで、先駆者が首位を保った期間の中央値は5年だった。

複写機の先駆者はゼロックスだと思われがちだが、論文の表では、3Mのサーモファクス(1950年)である。ゼロックスの参入は1959年で、論文が引く当時のビジネス・ウィーク誌は、すでに30社ほどがいる分野に入ってきた、と書いている。最初に店を開けた人より、のちに繁盛して名物店になった人のほうが、その通りの元祖として覚えられやすい。「ゼロックスが先駆者」という記憶は、成功した企業が時間とともに自分を先駆者と見なすようになる、という論文の指摘そのものを体現している。

ただし、先行者利益は、研究ごとに結論が割れる分野でもある。2003年のボールディングとクリステンは、事業単位のデータで、先行者は市場シェアでは優位を示すが、長期の利益ではむしろ不利になる傾向があると報告している(抄録による)。先行は有利にも不利にもなり、その分かれ目は、特許で守られているか、顧客の学習が少ないか、といった条件にあるらしい。

指標が目標になるとき

消費者の側から離れて、組織の中を見てみる。差別化の追求は、組織の内部で独自の力学を持ちうる。

手がかりは、指標と目標の関係にある。ドナルド・キャンベルは、1979年の論文で、社会的な指標が意思決定に使われるほど、その指標は歪み、指標が測るはずの過程を歪める、という法則を述べている。本人が「主に逸話的」と断っている例だが、具体的だ。警察を検挙率で評価すると、被害届を記録しない、取引で余罪を自白させて検挙数を稼ぐ、といった行動が出る。職業安定所を処理件数で評価すれば面接は速く浅くなり、就職させた人数で評価すれば、最も支援を要する人が避けられる。ソ連の釘の工場の例では、計画が重さで決まると重い釘だけが作られ、個数で決まると、作りやすい最小の釘だけが作られた。

もう一つの有名な言い方に、「測定値が目標になると、それは良い測定値であることをやめる」がある。「グッドハートの法則」と呼ばれるが、元の文脈は金融政策で、1975年にチャールズ・グッドハートが、マネーサプライの集計値を政策の目標にした途端に、物価との安定した関係が崩れた経験を述べたものとされる。いま広く知られる言い回しは、人類学者のマリリン・ストラザーンが1997年に大学評価を論じた論文で言い換えた形だとされるが、原典の文言とページは、今回確認できなかった。

キャンベルの例に、新製品の機能数や「競合との違いの数」は出てこない。だから、ここから先は類推である。それでも、機能を増やすことが、顧客の選択を動かすと信じられている局面には、検証できる実験がある。

トンプソン、ハミルトン、ラストが2005年に Journal of Marketing Research に発表した「機能疲れ」の研究では、デジタルプレーヤーを使った三つの実験を行い、使用の前後で評価が変わったことを示したのは第3実験だった(190人。使用前の群と使用後の群は別の人)。7機能、14機能、21機能のビデオプレーヤーの三つから選ばせると、使用前の群では21機能のものを選んだ人が66パーセントだった。ところが、実際に使ったあとの群では、21機能のものを選んだ人は44パーセントに減った。使用前は「できること」を重く見て、使用後は「使いやすさ」を重く見る。第2実験では、25機能から好きに選べるとき、参加者は平均で19.6機能を選んでいた。機能が多い商品は、買うときの選択を有利にするが、使った後の満足は同じように増えない。店頭では多機能のリモコンが頼もしく見えるが、毎日押すのは数個のボタンだけ、という場面に近い。

買う前に効く数(機能の数)と、使ったあとに効く質は、ずれることがある。会議で数えやすいのは、前者のほうだ。差別化の「違い」の数にも、同じことが起こりうる。会議の場では、競合にない機能を作った事実を即座に確認できる。顧客の選択率が変わったかどうかは、厳密に調べるには時間がかかる。測りやすい代理指標のほうが、測りにくい本来の目標に、いつのまにか入れ替わる。その入れ替わりは、誰も悪意を持たなくても起きる。

自分の事業の差別化を点検する、三つの見方とその癖

ここまでの数字は、すべて他人の市場の話だ。自分の事業の差別化がどうなのかは、ここでの数字からは分からない。確かめ方はいくつかあり、それぞれに癖がある。

ひとつは、属性のリストの中から「違う」に当てはまるブランドを選んでもらうこと。17市場の研究が使った方法で、手軽に始められる。弱みは、自己申告であること。答えは聞き方に左右される。もうひとつは、競合とどれくらい客を共有しているかを、購買の記録から見ること。重複購買の法則が見える範囲では、差別化の中身が顧客を分けているのかどうかが、行動として現れる。弱みは、購買のデータが必要で、小さな事業では手に入らないこと。三つめは、顧客が選ぶ場面で何が思い出されるかを聞くこと。差別化ではなく「思い出されやすさ」を測るやり方だ。弱みは、この見方がすでに際立ちを重視する立場に寄っていて、機能そのものが選ばれる市場(ガソリンの種類のような場合)では、見落としが出るかもしれないことだ。

どの見方が正しいという話ではなく、どの癖と付き合うかという話である。

確信の強さと、数字の落差

最後に、数字を並べ直す。自分のブランドを「違う」と答える顧客は、17市場の平均で11パーセントだった。ただし、近い質問で測った差別化の上下は、別の研究では次の期の株式の超過リターンを予測していた。競合の顧客は、規模に比例して重なっている。顧客が棚の前で考える時間は、十数秒から二十秒あまりだった(一部は実験室での測定である)。英国の当座預金は、全体の約4分の3を占める口座で、約9割が乗り換えれば得をするという試算があるのに、当座預金の乗り換えは年に3パーセントだった。初期設定は強く効くが、効かない場面もある。先に出た者が勝つという話も、記憶ほど確かではなかった。

差別化を放棄すべきだ、とは言えない。今回読んだ研究からは、中身の違いが不要だとも読めない。私に言えるのは、差別化が選択を動かしているはずだという確信の強さと、今回見えた数字(自己申告の水準の低さ、重なる客、動かない客)との間に、落差があるということだ。その落差は、数字を並べてみないと見えない種類のものだ。確認したうえで差別化に賭けるなら、それは常識ではなく判断になる。

出典

Romaniuk, J., Sharp, B., & Ehrenberg, A. (2007). "Evidence Concerning the Importance of Perceived Brand Differentiation." Australasian Marketing Journal, 15(2), 42–54.(著者公開の原稿で確認。表の一部と回答者数は確認できていない)
Mizik, N., & Jacobson, R. (2008). "The Financial Value Impact of Perceptual Brand Attributes." Journal of Marketing Research, 45(1), 15–32.
Ritson, M. (2019). "Distinctiveness Doesn't Need to Come at the Cost of Differentiation." Marketing Week, 2019年3月28日.(見出しとリードのみ確認。本文は有料で未読)
Stephenson, J. (2023). "Ritson: Differentiation Is Not About Uniqueness." Marketing Week, 2023年7月31日.(ウェビナーの報道記事)
Sharp, B. (2008). "Differentiation vs Distinctiveness." 著者のブログ, 2008年4月10日.
Sharp, B. (2010). How Brands Grow: What Marketers Don't Know. Oxford University Press.(目次と書評で確認。本文は未読)
Romaniuk, J., & Sharp, B. (2016). How Brands Grow: Part 2. Oxford University Press.(書評と目次で確認。本文は未読)
Wilson, A. (2016). Book Review: How Brands Grow: Part Two. International Journal of Market Research, 58(6), 881–882.(続編の章立ての確認に用いた)
Mansfield, A., Romaniuk, J., & Sharp, B. (2003). "Competition Among International Tourist Destinations: Applying the Duplication of Purchase Law." ANZMAC 会議論文.(会議論文。査読の有無は未確認)
Ehrenberg, A. S. C. (1988). Repeat-Buying: Facts, Theory and Applications (2nd ed.).(重複購買の法則の原典とされる。原書は未読で、Mansfield らの引用による)
Ehrenberg, A. S. C., Goodhardt, G. J., & Barwise, T. P. (1990). "Double Jeopardy Revisited." Journal of Marketing, 54(3), 82–91.(抄録で確認)
Romaniuk, J., Dawes, J., & Faghidno, G. (2021). "The Double Jeopardy Law in B2B Shows the Way to Grow." Ehrenberg-Bass Institute レポート.(法人向けのデータ)
Newton, E. L. (1990). The Rocky Road from Actions to Intentions. 博士論文, Stanford University.(全文で確認)
Camerer, C., Loewenstein, G., & Weber, M. (1989). "The Curse of Knowledge in Economic Settings: An Experimental Analysis." Journal of Political Economy, 97(5), 1232–1254.
Krugman, H. E. (1965). "The Impact of Television Advertising: Learning Without Involvement." Public Opinion Quarterly, 29(3), 349–356.
Hoyer, W. D. (1984). "An Examination of Consumer Decision Making for a Common Repeat Purchase Product." Journal of Consumer Research, 11(3), 822–829.(約13秒の数字は後続論文の再掲による。原典の本文は未読)
Dubé, J.-P., Hitsch, G. J., & Rossi, P. E. (2009). "State Dependence and Alternative Explanations for Consumer Inertia." NBER Working Paper 14912.(Hoyer の数字の再掲の確認に用いた)
Chandon, P., Hutchinson, J. W., & Young, S. H. (2002). "Unseen Is Unsold: Assessing Visual Equity with Commercial Eye-Tracking Data." INSEAD ワーキングペーパー.(査読前の版。実験室での測定)
Johnson, E. J., & Goldstein, D. (2003). "Do Defaults Save Lives?" Science, 302(5649), 1338–1339.
Jachimowicz, J. M., Duncan, S., Weber, E. U., & Johnson, E. J. (2019). "When and Why Defaults Influence Decisions: A Meta-Analysis of Default Effects." Behavioural Public Policy, 3(2), 159–186.
Madrian, B. C., & Shea, D. F. (2001). "The Power of Suggestion: Inertia in 401(k) Participation and Savings Behavior." Quarterly Journal of Economics, 116(4), 1149–1187.(NBER ワーキングペーパー版で確認)
Competition and Markets Authority (2016). Retail Banking Market Investigation: Final Report. 2016年8月9日.
電力・ガス取引監視等委員会事務局 (2023).「電気の規制料金に係る審査について」. 2023年2月13日.
Golder, P. N., & Tellis, G. J. (1993). "Pioneer Advantage: Marketing Logic or Marketing Legend?" Journal of Marketing Research, 30(2), 158–170.
Boulding, W., & Christen, M. (2003). "Sustainable Pioneering Advantage? Profit Implications of Market Entry Order." Marketing Science, 22(3), 371–392.(抄録で確認)
Campbell, D. T. (1979). "Assessing the Impact of Planned Social Change." Evaluation and Program Planning, 2(1), 67–90.
Goodhart, C. A. E. (1975). "Problems of Monetary Management: The U.K. Experience." Papers in Monetary Economics, Vol. I, Reserve Bank of Australia.(原典は未読。二次情報による)
Strathern, M. (1997). "'Improving Ratings': Audit in the British University System." European Review, 5(3), 305–321.(言い換えの出どころとされるが、原典の文言は未確認)
Thompson, D. V., Hamilton, R. W., & Rust, R. T. (2005). "Feature Fatigue: When Product Capabilities Become Too Much of a Good Thing." Journal of Marketing Research, 42(4), 431–442.(マーケティング科学研究所のワーキングペーパー版で確認)

XはてなブックマークLINEFacebook