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画面の時間の説明力は最大0.4%、物差しはジャガイモと眼鏡
35万人超の分析で、画面の利用が説明する幸福度のばらつきは最大0.4%。英国では眼鏡のほうが強い関連を示した。4週間Facebookを止めた実験の改善は、相関の約4割だった。
スマホを置けば幸福になる、という話の大きさを測ってみる
「スマホの利用時間を減らせば、もっと幸せになれる」という話は、もう説明抜きで通じるくらい定着している。アプリには使用時間を知らせる機能がつき、デジタルウェルビーイングという言葉も日常語になった。背後には、スマホの利用時間と幸福度のあいだにはそれなりに大きな負の関係があるはずだ、という期待がある。
この期待の大きさを、実際のデータで測り直してみたい。個人の実践としてのデジタルデトックスについては別の記事で書いたので、ここでは集団レベルの統計、つまり「どれくらい効くのか」という数字のほうを見ていく。健康診断の数値と同じで、「悪い」という言葉だけでは、どれくらい悪いのかが分からない。血圧が「高め」と言われるのと「即入院」と言われるのとでは、取るべき行動がまるで違う。通説はこの「どれくらい」の部分がすっぽり抜け落ちたまま流通している。
先に言っておくと、数字を並べて分かるのは、通説が間違っているということでも、正しいということでもない。思っていたより小さく、思っていたより測りにくく、そして思っていたより人によって違う、ということである。
幸福度の差を100個に分けると、画面の時間は0.4個だった
2019年に発表された研究は、米国と英国の3つの大規模調査をそれぞれ分析し、合計35万5,358人の若者を調べた。主な対象は12歳から18歳である。分析の切り口をどう選ぶかで結果が変わってしまう、という統計の落とし穴を避けるため、妥当と言える分析の組み合わせを、多いデータセットでは6億通りを超えて洗い出し、そのうち約2万通りを実際に計算して、その全体を眺める「仕様曲線分析」という手法まで使っている。その結果、技術の利用時間が説明できる幸福度のばらつき(分散)は、多くても0.4パーセントにとどまった。測られているのはスマホ単体ではなく、テレビやゲームも含めた「デジタル技術の利用」全般である。
この数字を、身近な場面に置き換えてみる。クラスの全員の幸福度に差がある理由を、100個の部品に分けたとする。デジタル技術の利用に割り当てられる部品は、せいぜい0.4個分である。残りの99.6個は、家庭、友人関係、睡眠、体質、その日の天気、そのほか数えきれないものが分け合っている。
論文には、意外な一文がある。米国のデータでは、技術利用と幸福度の関連は「ジャガイモを定期的に食べること」とほぼ同じ強さ(0.9倍)で、英国のデータでは「眼鏡をかけること」のほうが、負の関連が1.5倍強かった、と書かれているのだ。メディアが面白おかしく脚色した比喩ではなく、研究者自身が基準線として選んだ比較である。ジャガイモと眼鏡は、幸福度に何の影響もないと考えられる「中立的な要因」の代表として置かれている。中立の物差しと並べてみると、技術利用の負の関連は、驚くほど物差しに近い。
同じ表には、もっと大きな数字も並んでいる。いじめを受けたことは、技術利用の約4.3倍から4.9倍強く幸福度と関連していた。十分に眠れているかは、技術利用の関連のおよそ1.7倍から44倍も強かった(朝食も同じ向きだった)。44倍という数字は印象的だが、これは割り算の分母にあたる米国のあるデータセットの技術利用の係数が、極端に小さかったせいでもある。倍率だけを切り取れば誇張になるので、ここでは「技術利用より睡眠や朝食のほうが、どのデータでもはっきり強く関連していた」とだけ読んでおくのが安全だろう。
それでも技術利用だけが特別に名指しされ、ジャガイモや眼鏡は誰からも警戒されない。この扱いの非対称さ自体が、考えてみる価値のある現象である。
測っているのは、スマホの時間ではなく、スマホの時間についての記憶だった
ここで、数字の足元を疑ってみたい。この種の研究の多くは、「1日に何時間スマホを使いますか」と本人に尋ねて集めた回答でできている。家計簿をつけずに、先月の食費を聞かれて答えるのに似ている。だいたい合っているような気がするが、レシートと突き合わせたことは一度もない。
突き合わせた人たちがいる。自己申告の利用時間と、端末やサービスが記録した実測値を比べた研究を集めたメタ分析は、44の研究、合計5万2,007人分を統合している。両者の相関は0.38だった。相関係数を2乗すると、自己申告が実測のばらつきを説明できているのは約14パーセントになる。しかも、誤りには向きがない。過大に答えた比較と過小に答えた比較は、ちょうど同数(それぞれ約47パーセント)で、自己申告を実測で割った比を統合すると1.21になるが、ばらつきが大きく、1(ぴったり)と区別がつかない。論文自身が、過大とも過小とも言えないと書いている。実測値の5パーセント以内に収まった比較は、49件中3件にすぎない。当たっているわけでも、一方向にずれているわけでもなく、ばらばらに外れている。
聞き方によっても答えは動く。同じメタ分析では、「何時間使うか」と時間で聞くと実測より高めに、「何回手に取るか」と回数で聞くと低めに出る傾向があった(統計的に有意な差とまでは言えない)。Facebook自身のログと、15か国の約5万人の回答を突き合わせた別の研究は、もっと極端な例を示している。10種類の質問を、それぞれ別の約5,000人に尋ねたものである。「1日に何時間くらい使いますか」という自由記述の質問に、答えた人たちは平均で約4時間と答えた。ログに残っていたのは、平均1.3時間である。この質問で過大に答えた人は89パーセントにのぼった。単位を「分」に変えて聞くと誤差は約半分になり、時間単位で聞くこと自体が、実際より長い数字を引き出していたらしい。一方で、「1日に何回開くか」を尋ねられた別のグループでは、約半数が実際より少なく答えた。ログでは、4割あまりの人が1日に15回を超えて開いていた。時間で聞かれた人は多めに、回数で聞かれた人は少なめに答えている。
2019年の別の研究は、自己申告の利用時間と、1日の行動を短い時間帯ごとに書かせる時間日記の相関を、3つのデータセットで調べた。アイルランドで0.18、米国で0.05から0.08、英国で0.18。相関0.05は、ほとんど無関係といってよい水準である。そして同じ研究は、技術利用と幸福度の負の関連が最も強く出たのは、両方を本人が自己申告で答えた場合だったと報告している。アンケートの答え方に癖のある人が、両方の欄で同じ癖を出しているだけかもしれない、という可能性を、著者たちは排除できていない。
つまり、ここまで見てきた「小さな数字」は、測り間違いを含んだ物差しで測った結果でもある。測りの粗さは、本当にあった関連を薄めることもあれば、同じ人の自己申告どうしを突き合わせて関連を水増しすることもある。0.4パーセントは、その両方向の誤差を含んだ値だ。だから「ほとんど無害」の証拠というより、「この物差しで見える範囲では小さい」という報告として読むのが正確だろう。
寝る前の画面は、思ったほど悪者ではなかった
とくに悪者にされやすいのは、就寝前の画面である。ここでも測られているのは、スマホに限らない画面の利用全般だ。これを分けて調べるために、前述の時間日記の研究は、画面を見ていた時間帯を就寝の30分前、1時間前といった単位で切り出した。事前に分析計画を登録した英国のデータ(約1万2,000人)の結果は、直感に反していた。平日の就寝30分前の技術利用と幸福度の関連は、回帰係数で+0.03と、むしろごくわずかに正の側に出た。就寝1時間前でも+0.02で、複数の分析条件のうち有意だったのは6つ中1つだけである。負の関連が有意に出たのは、米国のデータで週末の就寝1時間前を見た探索的な分析だけで、英国の事前登録分析では再現しなかった。
同じ論文の考察には、就寝前に限らない利用時間全体の傾き(英国データの中央値)を使った外挿がある。幸福度が「人が気づくくらい」の目安とされる0.5標準偏差だけ下がるには、1日あたり63時間31分も余計に使う必要がある、という数字になる。1日は24時間しかないので、これは現実にはありえない。最も傾きが急に出る分析条件を使っても、1日に11時間14分の上乗せが要る。外挿が語っているのは、傾きの緩やかさだけだ。ほとんど平らな坂道は、歩いても歩いても高度が上がらない。
もちろん、これは日記という測定の限界の中での話である。日記を書いた日と、幸福度を尋ねた日は同じではなく、平均的な関連を見ているだけで、眠れなくなる人がいないという意味でもない。「寝る前の画面は気分を損なう」という広く流通した見立ての一つが、事前登録された大規模データでは確認されなかった。睡眠そのものを測った研究ではないが、この事実は覚えておいてよい。
利用時間と幸福度の関係には、山がある
ではスマホを完全に手放せば、その分だけ幸福になるのかというと、そう単純でもない。イングランドの15歳、12万115人を対象にした2017年の研究は、利用時間と幸福度の関係に山があることを示した。幸福度は14項目の尺度で測られている。平日にスマホを使う時間では、1時間57分あたりが頂点で、そこから先は少しずつ下がっていく。頂点より手前の側は、正の関連か、ほぼ平らだった。使わないほど幸せになる、という直線ではない。
この研究でも、頂点を超えてからの下がり方は小さかった。超過分の傾きが説明できる幸福度の変動は、1パーセント以下である。朝食を規則的にとること、規則的に睡眠をとることの正の関連と比べると、およそ3分の1の大きさである。例外もある。週末のスマホ利用だけは、頂点(4時間10分)より手前の側でも負の関連が残っていて、「週末は4時間くらいがちょうどいい」とは読めない。山の形は、画面の種類と曜日によって違う。適量というものがあるとしても、全員に共通の一点があるわけではなさそうだ。
ここで見ているのは相関にすぎず、因果は言えない。それでも、「ゼロが最良」という直線を前提にしにくいことは確かだ。
止めさせてみたら、差は小さかった
相関では因果が分からない。そこで、実際に利用を止めさせて、気分がどう動くかを見る実験が行われてきた。よく引用されるのは、2018年の研究である。大学生143人が参加し、Facebook・Instagram・Snapchatのそれぞれを1日10分(合計で約30分)に制限させたところ、3週間後に孤独感と抑うつ感が、制限しなかった群より有意に減った。この結果だけを見れば、通説を裏づける良い証拠に思える。ただし、論文の抄録をよく読むと、不安と「取り残される恐怖」は、制限群だけでなく、いつも通り使っていた対照群でも減っている。抄録はこれを、自分の使い方を記録すること自体の効果だろうと解釈している。
2025年に発表されたメタ分析は、より広い視点から絵を描き直した。成人を対象に、SNSを完全に休止させた実験10本、合計4,674人を統合したところ、ポジティブな感情にも、ネガティブな感情にも、生活満足度にも、統計的に意味のある変化は見つからなかった。効果量(標準偏差を単位にした差)はそれぞれ0.03、−0.01、0.03で、ほぼゼロである。この分析に含まれるのは「休止」の実験だけで、先ほどの「制限」の実験は含まれていない。ここを混ぜてしまうと、話が噛み合わなくなる。なお、この10本には、次の節で触れるFacebookの4週間の実験も入っている。メタ分析の数え方で参加者の約6割(2,813人)をその1本が占める最大の研究で、生活満足度の効果は、ここで平均されて小さくなっている。
一方で、同じ年の別のメタ分析は、利用を減らした実験10本(1,491人)の統合で、抑うつの症状に小さいが有意な改善を見つけている。効果量は0.28(出版バイアスを補正した後で0.25)。測る指標(感情や満足度か、抑うつか)と対象(休止だけか、制限も含むか)が違うと、結論も割れる。しかもこの10本の内訳は、利用を制限した7本の効果が0.33、完全に休止した3本が0.15で、制限のほうが大きいように見えるが、その差は統計的に有意ではなく、優劣は言えない。
これらの実験には、共通する弱点がある。期間が短い。休止の実験は1日から28日の範囲で、最も多かったのは7日間だ。抑うつを調べた10本は、最長で3週間である。止めさせたはずの人が、実際には止めていなかった例もある。ある実験では、7日間完全にSNSを断てた人は13.7パーセントしかいなかった(利用時間そのものは平均で83パーセント減っていた)。別の実験では、期間中に一度は訪れた人が59パーセントいた。誰が「休止群」で誰が「普段通り群」なのか、その境目が思ったより曖昧なのである。さらに、何を禁じられたかは本人に分かってしまうので、薬のように目隠しをすることもできない。「減らしたから良くなる」と信じた人が良くなるのか、減らしたこと自体が効くのかは、この設計では切り分けにくい。
統合分析の著者たちは、サンプルが小さく検出力が低い研究が多いことも認めている。結論は「効果がないことが証明された」というより、「あったとしても、この規模の実験では見つけにくい大きさだ」に近い。被験者間の比較だけに絞ると、ポジティブな感情の効果が0.13でぎりぎり有意になる、という感度分析もある。ゼロかどうかは、まだ決着がついていない。
4週間Facebookを止めさせた実験は、何を残したか
その10本のなかで、いちばん規模が大きく、期間も長い実験がひとつある。2018年の米中間選挙の前後に行われた、経済学者たちによる実験だ。広告を約189万人に見せ、事前の手続きを経た2,897人を無作為に割り当てた。停止群には、Facebookを4週間停止していれば102ドルを支払うことにした。停止群は期間中、公開プロフィールの状態を繰り返し確認され、90パーセントの時点で実際に停止していたと確認されている。対照群は2パーセントだった。
停止によって、Facebookの利用は1日あたり約60分減った(自己申告での利用時間である)。幸福度の指標(生活満足度、幸福感、不安、抑うつなどを束ねたもの)は、0.09標準偏差だけ改善した。個々の指標では、生活満足度が0.12、不安が0.10、抑うつが0.09、幸福感が0.08である。小さいが、無ではない。著者たちが置いた比較では、大学を卒業した人としていない人の幸福度の差の、3分の1強にあたる。
ここに、前節までの数字との橋がかかる。実験の最初に測った、Facebookの利用時間と幸福度の関連(横断的な関連)は約0.23標準偏差で、実験で観察された因果的な差0.09の、2.5倍ほどだった。この実験では、相関のほうが因果より大きく出た。小さな相関の陰に、さらに小さな因果が隠れていた、と言い換えてもよい。
もうひとつ、数字の外側にある細部が興味深い。実験前の質問で、参加者の3分の2は、「Facebookに使う時間を減らせば、なくても困らないとすぐ気づくはずだ」という趣旨の文に、少なくともやや同意していた。ところが、4週間やめるために必要な金額を尋ねると、米国の平均的な利用者に合わせて補正した中央値は約100ドルだった。実験が終わって約1か月後の自己申告では、停止群のFacebook利用は1日約12分(23パーセント)少なかった。ただし、端末の記録を報告してくれた人に限ると、減少は8パーセントで、有意とは言えない。9週間後にも約5パーセントが停止を続けていた。停止群の約8割は、やめたことが自分にとって良かったと答えている。「なくても平気」という予想と、手放すときの値付けは、同じ人の中で一致していない。
この結果には、もうひとつ前提がつく。分析対象は、102ドル以下で停止を引き受けると答えた人(割り当てられた人の約6割)に限られている。もっとも強くFacebookに価値を置く人は、最初から実験の外にいた。結果は「やめてもいいと思える人が、やめてみた場合」の話である。
原因と結果が、逆かもしれない
もう一つ、見落とされがちな角度がある。SNSの利用が抑うつを引き起こすのではなく、抑うつのほうがSNSの利用を増やしている可能性だ。カナダの研究者たちは、思春期の若者を毎年1回、2年にわたって追跡し、大学生を6年間追跡して、利用と抑うつの関係の「向き」を調べた。大学生の側では、どちらの向きの関連もほぼ見つからなかった。思春期の女子では、抑うつの強さが、1年後のSNS利用の多さを予測した(係数0.11)。逆向き、つまり利用が後の抑うつを予測する関連は、女子では見つからなかった。
この結果を「SNSは無害だ」の証拠に使うのは、少し早い。思春期の男子では、事情が違う。調整をしない分析ではSNS利用が1年後の抑うつを予測し(係数0.15)、人口統計や他の活動を加えても、係数は0.13〜0.15のまま変わらない。変わるのは確かさのほうで、p値は.051まで上がり、有意とは言えなくなる。サンプルが小さいことも含めて、どちらとも言いにくい。
因果の向きは、ひとつの研究の中でも、性別によって入れ替わっていた。気分が沈むからスマホを見てしまうのか、スマホを見るから気分が沈むのか。どちらも起こりうるとして、一方だけを前提に「スマホをやめさせれば元気になる」と決めると、本人が抱えている本当の悩みを見落とすことになりかねない。
平均の内側には、よくなる人も、悪くなる人もいる
ここまで、すべて平均の話をしてきた。平均の小ささは、「誰にも何も起きていない」という意味ではない。ある薬が、効く人と悪化する人を混ぜて生み出していれば、平均は打ち消し合って小さく見える。
オランダの研究者たちは、これを一人ずつ調べた。14歳から15歳の63人に、7日間、1日6回、「今どのくらい幸せですか」と答えてもらう。その直前のSNSの使い方(他人の投稿を眺めるだけの受動的な利用など)と、気分の動きを、一人ずつ別々に分析した。回答は2,155回、遵守率は83.2パーセントである。結果、受動的なSNS利用のあとに気分が良くなった人が46パーセント、影響がないか小さい人が44パーセント、気分が悪くなった人は10パーセントだった。ひとつの平均値には、「良くなる人が半数近く、悪くなる人が1割、残りは変わらない」という中身が丸められて入っている。63人でしかなく、幸福度も「今、幸せか」という1項目だけで測っているので、この割合を一般化することはできない。それでも、平均の裏に分布があるという構図を、はっきり見せてくれる。
同じ研究チームは、その後、387人を3週間追跡した。各人について、使い方(能動的か受動的か、私的か公的か)ごとの気分の動きを時系列で分析している。抄録によれば、全ての使い方で影響なしだった人が45パーセント、悪化だけが28パーセント、良くなるだけが26パーセントだった。そして、心理学の理論が予測するパターン(私的な使い方で上がり、受動的で公的な使い方で下がる)にそのまま合う反応を示した人は、387人のうち1人だけだった。教科書に載る型にそのまま合う人は、見つけにくかったことになる。
反対側の数字も、同じ目で見ておく
ここまでの流れだけを読むと、「やはりスマホの害は誇張だ」という結論に傾きやすい。それこそ、私が避けたい読み方である。反対側の数字も見ておく。
英国のミレニアム・コホートの14歳、1万904人のデータでは、平日にSNSを使う時間が「1〜3時間」の子を基準にすると、5時間以上の子の抑うつ得点は、女子で50パーセント、男子で35パーセント高かった。関連は女子のほうが有意に強い。オンラインハラスメント、睡眠、自尊感情、身体イメージのどれか一つを統計的に考慮するだけで、女子の5時間以上で50パーセントだった抑うつ得点の高さは26〜30パーセントに、男子の35パーセントは21〜31パーセントに下がった。女子では一つの要因を考慮するだけで関連の4割から5割ほどが、男子では1割から4割ほどが説明される、という読み方もできる。ここでも基準群が「ゼロ」ではなく「1〜3時間」であること、データが主として横断的であることには注意がいる。
米国の2つの全国調査、合計50万6,820人の分析を使ったTwenge らの論文は、抄録によれば、2010年から2015年にかけて、とくに女子で抑うつ症状や自殺関連の行動が増えたこと、電子機器の利用時間が長い子ほど悪い傾向にあることを報告した。2022年には、前述の0.4パーセントの論文と同じ「仕様曲線分析」を、条件を変えて再実行している(抄録による)。SNSを全体のスクリーン時間から切り離し、女子だけに絞ると、関連の中央値は−0.11から−0.24まで動いた。Twenge らが引く元の論文の中央値は−0.01から−0.04なので、かなり大きな差である。
時間を少し戻すと、元の論文の著者たちは、Twenge らが2020年に出したコメントに答える形で、英国のデータを条件を変えて再分析していた。全体の中央値は−0.051で、分散の説明は0.3パーセントにとどまることを確認し、眼鏡の着用のほうが相変わらず強い負の関連を持つ(−0.061)と述べた。ただし女子に絞ると−0.069で、全体での眼鏡の値(−0.061)を上回り、男子の−0.037のほぼ2倍になる点は認めている。同じ手法でも、分析をどこで切るかによって、係数は数倍動く。どちらの陣営も、同じ地面を測り、違う切り口を選んでいる。
この論争が示しているのは、結論ではなく、地図の読み方である。母集団全体では小さく、女子の思春期には相対的に強いかもしれない。そして、この「かもしれない」には、まだ決着がついていない。
導入時期をずらした自然実験が示したこと
経済学者のグループは、大学ごとにFacebookが導入された時期がばらばらだったという偶然を利用して、因果関係に迫った。Facebookが導入された日付が分かる米国の775大学のデータと、2000年春から2008年春までの学生健康調査の43万件を超える回答(主な分析は約36万件)を組み合わせ、導入の前後を比べている。結果、精神的な不調の指標が0.085標準偏差だけ悪化した。効果としては小さい。この数字を、質問紙の基準に当てはめて言い換えた部分が、よく引用される。「うつ病に該当する学生が9パーセント、不安障害に該当する学生が12パーセント増えた」というものだ。
ここには注意が要る。これは診断ではない。質問への回答から、PHQ-9やGAD-7という質問紙の基準に該当すると「予測された」学生の割合が、約2ポイント増えたという意味である。導入前の割合は、うつで約25パーセント、不安で約16パーセントだったので、導入前に対する増え方に直すと、論文の言う9パーセントと12パーセントになる。基準点が違えば、同じ変化でも違う数字に見える。また、当時のFacebookは大学のメールアドレスを持つ人だけのもので、いまのフィードや動画、スマホとは別物である。調査の回答率も平均37パーセントだった。メカニズムについては、確かめられたというより示唆の段階にある。
相関がジャガイモ並みに小さいことと、因果が実在しないこととは別の問題である。ジャガイモとの比較は、集団全体で薄めた平均の話だ。導入の時期を使った研究は、特定の時期の特定の集団に、小さいが方向のはっきりした変化があった、とも読める。全体の相関は、原因の経路が混ざり合う現実の集団の中で測られる。誰かにとっては技術利用が原因で、誰かにとっては別の悩みが技術利用を増やしている。後者のような逆向きの経路があれば、相関は因果より大きく出る。Facebookの実験では相関が因果の2.5倍ほどだったが、その差が逆向きの経路によるのか、別の共通の要因によるのかまでは分からない。一方、効果の向きが人によって逆なら、平均では打ち消し合って、相関は薄まる。全体の相関は、こうした経路の足し引きに、共通の要因や測り方の癖が重なった結果である。
国全体では、悪化の合図は出ていない
個人から視点を引いて、国の単位で見るとどうか。オックスフォードの研究者たちは、2005年から2022年にかけての168か国、約200万人の幸福度と、モバイルブロードバンドの普及を突き合わせた。精神的な健康については、不安、抑うつ、自傷のデータを約200か国、2000年から2019年まで調べている。抄録とプレスリリースによれば、インターネットの普及が、悪い心理的結果と一貫して関連しているという証拠は見つからなかった。生活満足度は、むしろ普及とともにわずかに高まる予測だったが、実質的な意味を持つには小さすぎる、とされている。著者自身が、国ごとの平均でしかなく、因果の検証にはならないと断っている。
日本のデータはどうか。こども家庭庁の令和7年度の調査(速報)では、10歳から17歳の青少年の平日のネット利用時間が、平均で1日326.6分、高校生では404.0分(約6時間44分)だった。数字だけ見ると目を引く。ただしこれは、スマホだけでなく、ゲーム機、パソコン、タブレット、テレビなど7種類の機器の利用時間を合計した値である。目的別に見ると、「趣味・娯楽」が約3時間(180.9分)で最も長く、家族や友人とのコミュニケーションは約58分にすぎない(いずれも、その目的で使った人の平均)。「スマホに費やしている時間」と「SNSに費やしている時間」は、同じではない。
不眠や抑うつとの関連を見た日本の研究では、岐阜県の高校1校、295人を対象にした調査がある(調査は2014年、発表は2017年)。携帯電話の総利用時間が5時間以上の生徒は、1時間未満の生徒に比べて不眠の調整済みオッズ比が3.89だったが、抑うつとの関連は有意ではなかった。SNSの利用が120分以上だと、30分未満に比べて、抑うつのオッズ比は3.63になる。信頼区間は1.20から10.98と広く、1校の横断調査であることも含めて、強い結論は引き出せない。確認できた範囲では、日本で因果に迫れる大規模な縦断研究は見つけられなかった。
自分の場合を見積もる、三つのやり方とその癖
ここまでの数字は、すべて集団の話である。自分がどちら側にいるのかは、集団の統計からは分からない。見積もるやり方はいくつかあって、どれも癖がある。
ひとつは、端末が記録した利用時間を見ること。記憶よりずっと正確で、レシートに近い。弱みは、何に使ったかと、そのとき気分がどうだったかが分からないこと。スマホ以外の機器も測れない。もうひとつは、使うたびに、あるいは1日に数回、気分を一言だけ書き留める方法だ。オランダの研究が使ったのと同じ発想で、自分の型が見えてくることがある。弱みは、書くこと自体が使い方を変えてしまうことで、制限実験の対照群でも不安が減った(抄録の解釈では、自己監視の効果)ように、観察は介入にもなりうる。三つめは、期間を決めて減らし、前後を比べること。因果にはいちばん近い。弱みは、減らしたことを自分が知っているので、期待が結果を作りうること。そして、休止の実験は7日間のものが最も多く、休止の長さと効果の関係は統合分析では見つかっていないものの、数週間を超えた先の影響は、この種の実験からは分からないこと。
どれが正しいという話ではなく、どの癖と付き合うかという話である。
平均に隠れている、自分という一人
デジタル技術の利用時間が説明できる幸福度のばらつきは、多く見積もっても0.4パーセントだった。それは自己申告という粗い物差しで測った値である。Facebookを4週間止めた実験で出た因果の差は、同じ参加者で測った相関の約4割だった。一方で、英国の思春期の女子のように、関連が相対的に強く出る集団は残っている。そして平均の内側には、良くなる人と悪くなる人が混ざっている。どんな人にどう効くかが、使い方の型からは予想しにくいことも、387人の追跡は示していた。
通説を信じる人にも、反対する人にも、この数字は同じ形で届く。「大きい」とも「無視できる」とも言い切れないということ。どちらかの陣営を選ぶ前に、自分が測っているのは何で、物差しがどれだけ粗いのか。数字から返ってくるのは、その問いである。
出典
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