ficus.life/建築
目次▼
照明の色を変えたら、夜にスマホを見る時間が本当に減ったのか

照明の色を変えたら、夜にスマホを見る時間が本当に減ったのか

暖色のスタンドを足したら、夜の画面時間が減った気がする。夜の室内光でメラトニンが半分になる明るさは、人により50倍以上違った。「気がする」を研究で確かめ直した。

TOMOAKI··建築

作業机の周りについて、いくつか続けて書いている。今回は照明の話だ。

数年前まで、部屋の明かりは天井の白い一灯だけで済ませていた。それを、机の手元に暖色の電球色のスタンドを足しただけなのだが、変わったことが一つある。夜、画面を見続けてしまう時間が減った。理由をはっきり説明できるほど厳密に検証したわけではないが、体感としてはそうだった。

この「体感」を、どこまで信じてよいのか。暖色の光が体内時計に効いた、という説明は魅力的だが、同じ体感を生む別の理由もありうる。そこで今回は、光と体内時計、夜の照明、画面の色、照明の宣伝文句、そして演色性という言葉について、言われていることを原典に当たり直した。確かめられたことと、確かめられなかったことを分けて書く。

目の中に、時計を合わせるための細胞がある

網膜には、像を結ぶための杆体と錐体とは別に、光を測って体内時計を合わせる細胞がある。メラノプシンという光の受容体を持つ網膜神経節細胞(ipRGC)だ。ヒトのメラノプシン遺伝子を報告したのは、プロヴェンシオらの2000年の論文(Journal of Neuroscience)で、ヒトでは眼だけで発現していた。サルとマウスの網膜では、神経節細胞層とアマクリン細胞層にあって、視覚の出発点にある視細胞には見られなかった。著者らは、像を作るのではなく、概日リズムやメラトニン抑制のような非視覚的な役割の可能性を示唆した。

ベルソンらの2002年のScience論文は、ラットの網膜で、視交叉上核(体内時計の中枢)に投射する網膜神経節細胞が、杆体と錐体からのシナプス入力をすべて遮断しても、光で脱分極することを示した。ルーカスらの2014年のレビュー(Trends in Neurosciences)は、メラノプシンの吸収のピークを約480ナノメートルとしている。この細胞は、種や数え方によって、神経節細胞全体の1〜5パーセントにすぎない。目の中のごく少数の細胞が、体内時計に光を知らせている、ということになる。

ヒトで調べた古典が、二つある。2001年に、同じ年に独立に出た二本の論文だ。ブレイナードらは、健康な72人に、午前2時から3時半に、瞳孔を広げて単色光を当て、メラトニンの抑制を調べた。夜間の抑制テストは計627回で、最も強く効く波長は446〜477ナノメートルだった。サパンらは22人に、30分の単色光を当て、最もよく合うモデルは459ナノメートルのものだった。どちらも、杆体や錐体の吸収スペクトルでは説明できなかった。波長のピークが論文ごとに少しずつ違うので、「青い光は○○ナノメートル」と一つの数字で言い切るのは避けたい。夜中の散瞳、単色光、という条件は、生活とはかけ離れている。

ルーカスらは同じレビューで、非視覚的な反応を、光の「普通のルクス」(視感度で重みづけた明るさ)では測れない、と書いている。メラノプシンも含めた5種類の光受容体ごとの量で表す方法が提案され、2018年に国際照明委員会(CIE)の規格(CIE S 026)になった。この論文に、色温度(CCT)という言葉は出てこない。

夜の家の明かりは、人によって50倍以上違って効く

ふつうの家の明かりは、どのくらい体内時計に影響するのか。グーリーらの2011年の研究(Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism)は、18〜30歳の116人を、研究施設に5日以上滞在させ、就寝前の8時間を、200ルクス未満の室内光か、3ルクス未満の薄暗い光で過ごさせた。光源は天井の4,100ケルビン(白色)の蛍光灯で、目の位置の照度は、典型的には60〜130ルクスだった。

116人のうち104人が参加した主な実験では、室内光で99.0パーセントの人のメラトニンの分泌開始が遅れた。就寝前の室内光で、メラトニンの濃度は中央値で71.4パーセント減り(四分位範囲32.2パーセント)、メラトニンが出ている時間は、中央値で1時間32分短くなった。

別の小さな実験もある。本来眠っている時間帯まで起きたまま室内光を浴び続けた13回の試行(一部は約200ルクス)では、11回で50パーセント超の抑制が出た。13回すべての中央値は73.7パーセントだった。被験者は若く、光源は4,100ケルビンの蛍光灯なので、電球色の家庭の照明にそのまま当てはめることはできない。

個人差を示したのは、フィリップスらの2019年の研究(PNAS)だ。18〜30歳の55人に、夕方の5時間、10〜2,000ルクスの光を当てた。光源は4,100ケルビンの蛍光灯で、照度は目の高さで測った。群全体に当てはめた曲線では、メラトニンを50パーセント抑える照度(ED50)は、わずか24.60ルクスだった。個人のED50は、最も敏感な人で6ルクス、最も鈍い人で350ルクスと、50倍以上の差があった。10、30、50ルクスで、メラトニンの分泌開始は、平均で22分、77分、109分遅れた。著者らは、典型的な室内光(約50ルクス)で、ある人は明るい日中の光を浴びたように、別の人はごく暗い光のように反応する、と言い換えている。電気の照明がなかった頃、人は強い光(300ルクス超)か暗い光(30ルクス未満)にさらされていた。いまは、夕方に中間の30〜300ルクスの光に何時間もいる、という枠組みも示している。

実際の家の明かりを測った研究もある。メルボルンの59世帯、163晩を、装着型の分光計で測った(ケインら、2020年、Scientific Reports)。就寝前3時間の平均的なメラノピック照度は、家により3.9〜77.4メラノピック・ルクス(平均17.9)で、個人の感度の違いをならして平均すると、48パーセントの家が、メラトニンを50パーセント以上抑える明るさと予測された。平均的な家でも、個人によって、抑制の予測は0〜87パーセントだった。省エネ照明(LEDと蛍光灯)の晩は、白熱電球の晩のほぼ2倍のメラノピック照度だった。個人の感度は、先のフィリップスらの被験者の曲線から推定した値なので、推定を重ねた数字だ。

私の部屋で、暖色のスタンドが体内時計に効いたかどうかは、この数字からは分からない。ただ、効き方の個人差が、50倍もあるらしい、ということは、「効いた気がする」という実感が人ごとにまったく違っていても不思議ではない、ということでもある。

電球色なら安全、とは言えない

暖色の光なら、体内時計に優しいのか。ブラウンらが2022年にPLoS Biologyに発表した専門家の推奨は、目の位置の垂直面で、メラノピック等価昼光照度(EDI)を基準に、日中は250ルクス以上、夜(就寝の少なくとも3時間前から)は10ルクス以下、睡眠中は1ルクス以下とした。電球色(2,700〜3,000ケルビン)のLEDの多くは、メラノピック昼光効率比(DER、同じ明るさの昼光に対するメラノピックの強さの比)が十分に低く(0.35未満)、約30ルクスなら目標を満たせる、と書いている。

ここから、私の試算をする。論文の記述ではない。EDIは、おおよそ、照度にDERを掛けたものだ。DERが0.35の電球色でも、目の位置で100ルクスなら、約35ルクスのメラノピック照度になり、夜の推奨の10ルクスを超える。「電球色だから安全」は、明るさしだいで成り立たなくなる。同じ論文は、色を混ぜたLEDなら、4,000ケルビンでもDERを最大1.4まで上げられる、とも書く。色温度が同じでも、体内時計への効き方は大きく違いうる。

実験でも確かめられている。スーマンらが2018年にJournal of Biological Rhythmsに発表した実験(抄録による)では、15人が、別々の夜に3時間の白色光を浴びた。450〜500ナノメートルの成分が少ないスペクトルと、多いスペクトルを比べ、どちらも175ルクス、白さと色温度を保つように作った。成分の多い光は、メラトニンをほぼ50パーセント抑えた。成分の少ない光は、照度が薄暗い光(5ルクス未満)の35倍以上(私の計算)あるのに、薄暗い光と比べて抑えなかった。同じ色温度と照度でも、スペクトルの中身で結果が変わる。色温度だけでは、体内時計への影響は決まらない。

色温度が効く、という側の実験もある。シェラッパらの2011年の交差試験(PLoS One、16人の若い男性)では、夕方の2時間、いずれも40ルクスで、電球形蛍光灯の6,500ケルビン、2,500ケルビン、白熱電球の3,000ケルビンを比べた。6,500ケルビンのほうが、メラトニンの抑制が大きく、主観的な覚醒と持続的注意の反応時間が速くなった。色温度は効く。ただし色温度だけでは決まらない。この二つは両立する。

画面の色を変えても、眠りは変わるのか

スマートフォンの夜間モード(暖色に寄せる設定)は、効くのだろうか。画面の色については、ナガレらの2019年の実験(Lighting Research & Technology)がある。12人が、2時間、iPadを最大輝度で見た。夜間モードの高色温度(5,997ケルビン)では、メラトニンの抑制が1時間後に15パーセント、2時間後に19パーセント、低色温度(2,837ケルビン)では8パーセントと12パーセントで、二つの差は有意でなかった。暖色でも、抑制はゼロとは有意に違った。青色光ゴーグルの陽性対照は、32パーセントと51パーセントだった。著者らは、画面の明るさを変えずにスペクトルだけを変えても、抑制を防ぐには不十分かもしれず、明るさを下げ、使う時間を短くするほうが効く可能性がある、と結論している。n=12と小さい。目に届いた照度は、参加者が身に着けた計測器で、低色温度が平均71ルクス、高色温度が70ルクスと、ほとんど変わらなかった。

より大きな実験は、デュラッチョらが2021年にSleep Healthに発表した無作為化試験(抄録による)だ。米国西部の大学の167人(18〜24歳)を3群に分け、就寝前の1時間を7晩連続で、夜間モードをオンにしてiPhoneを使う、オフで使う、スマートフォンを使わない、とした。睡眠は手首の加速度計で測った。入眠潜時、睡眠時間、睡眠効率、中途覚醒のいずれも、3群で有意な差はなかった。事後の探索的な層別では、平均睡眠が6.8時間を超える人で、スマートフォンなしの群の睡眠効率が最も良かった。これは主解析ではない。

専門家の合意の形も、見ておく。米国睡眠財団の合意声明(ハルトスタインら、2024年、Sleep Health、抄録と本文による)では、16人の専門家のパネルが、修正デルファイ法で10の文に投票した。就寝前の画面の「内容」が睡眠を損なう、という文は、子どもと青年で合意に至ったが、大人では合意に至らなかった。就寝前の画面の「光」が睡眠を損なう、という文は、子ども、青年、大人のどの年齢でも、合意に至らなかった。本文は、光の研究の効果が小さいか実験室の設計によること、青色光カットの介入が「わずかな改善しか示さなかった」こと、大人で結果が一貫しないことを、理由に挙げる。

ブルーライトカットの眼鏡についても、検証がある。シンらの2023年のコクラン・レビュー(抄録による)は、17本の無作為化試験を検討し、睡眠の質は6本(148人)のうち3本が改善、3本が差なしで、エビデンスの確実性は「非常に低い」とした。メラトニンの値を測った試験は一つもなく、全項目でバイアスのリスクが低い研究はなかった。

照明の宣伝文句を、研究に当てる

照明を売る側の宣伝文句には、「集中力が上がる」「睡眠の質が改善する」という言葉が並ぶ。そのすべてを疑う必要はないが、鵜呑みにする理由もない。日中の白色光はどうか。ロクらの2018年のレビュー(Journal of Biological Rhythms)は、明るい光の効果は、とくに客観的な指標で「結論が出ていない」とした。自己報告の眠気を測った18研究のうち、明るい光で有意な差が出たのは14、出なかったのが4。注意の持続の課題を使った10研究は、有意な改善が5、差なしが5。実行機能の課題を使った12研究は、改善が3、差なしが4、混合が1、悪化が4だった。明るい光で頭が冴える感じは、主観では出やすいが、成績では割れる。

スーマンらの2018年の系統的レビュー(Behavioural Brain Research、68研究、抄録による)も、白色光の強さを上げると主観的な覚醒は多くの研究で上がるが、有意差が出ない研究も相当数あり、白色光の色温度の効果ははっきりしない、とした。反応時間で測った研究は少なく、有意な効果を報告したものは「ごくわずか」だった。

宣伝で引かれやすい研究もある。ヴィオラらが2008年にScandinavian Journal of Work, Environment & Healthに発表した、青みの強い白色光のオフィスの研究(抄録による)は、104人(解析は94人)を2つのフロアで、17,000ケルビンと4,000ケルビンの光の下で4週間ずつ過ごさせ、17,000ケルビンで、主観的な覚醒、気分、「成績」、集中、夜の疲れ、睡眠の質が改善したと報告した。測定はすべて質問紙と評定尺度で、被験者には光の違いが見える。「成績」も自己評価だ。著者らは、被験者が光に抱いた期待を統計的に調整しても、成績や覚醒、夜の疲れ、集中などの評定の差は残ったと報告している。ただ、期待を質問紙で測って調整することと、光の違いを被験者に見せないことは、同じではない。同じ雑誌に載った、ミュンヘンのフェッターらの2011年の研究(抄録による)では、オフィスを4,000ケルビンから8,000ケルビンに変えた群(27人)の、休日の睡眠の時刻が、季節の日の出の変化に合わせて早まらず、出勤時刻に同調したままだった。青い光が効く、ということと、それが良いこと、ということは、別の話だ。

時刻に合わせて色温度と照度を変える照明は、「ヒューマンセントリックライティング」と呼ばれる。これが住宅で、睡眠や集中を客観的に改善したことを示す質の高い無作為化試験やメタ分析は、今回の調査では見つからなかった。ブラウンらも、オフィスや学校での実地研究は、メラノプシンの寄与を評価する設計ではない(メラノピック照度の増加が、色温度や照度の増加と一緒に起きる)と書く。ただし同じ箇所で、そうした研究が実際の利益の手がかりにはなる、とも認めている。

照明設計の定番の図にも、検証がある。クルイトフ曲線は、「低い照度には低い色温度が快適」という趣旨の図だが、フォティオスが2017年にLEUKOSに発表したレビュー(抄録による)は、信頼できる研究の傾向はこれを支持せず、快適さのために言えるのは、低すぎる照度を避けることだけで、どの色温度も特に好まれない、とした。夜は暖色が落ち着く、という通念の一部は、少なくとも研究の側からは支えられていない。

色の再現性という、もう一つの話

安いLED照明の下では、物の色がどこか濁って見えることがある。これは演色性と呼ばれる指標が低いためらしい。演色性は、平均演色評価数(Ra)で表す。日本産業規格(JIS Z 8726)が、国際照明委員会の方法にもとづいて定めている。パナソニックの技術解説ページによれば、Raは試験色15色のうち、No.1〜8の8色(中程度の彩度)の色ずれの平均で、鮮やかな赤(R9)は、Raの計算に入っていない。パナソニックの表では、Raが84の三波長形電球色の蛍光灯で、R9は−1だった。

もう一つ、意外な仕組みがある。Raの基準の光は、測る光源と同じ色温度の光だ。CIE 13.3では、5,000ケルビン未満の光源は黒体放射が基準で、5,000ケルビン以上は昼光が基準になる(規格の本文は入手できず、解説資料で確認した)。そのため、2,700ケルビンの電球色でRa100というのは、物の色が、同じ色温度の黒体放射(白熱電球に近い光)の下と同じに見える、という意味で、「太陽光の下と同じ」という意味ではない。「太陽光に近い光ほど、色を正確に再現する」という言い方は、日常語の「太陽光に近い」と、Raの「基準光に近い」を、混ぜているところがある。

パナソニックの目安値(保証値ではない)では、LED電球(昼白色相当)が84、一般的なLED器具が83、高演色LED(5,000ケルビン)が95、三波長形蛍光灯が84、演色AAA蛍光灯が95〜99、ミニクリプトン電球が100だった。消費者庁や製品評価技術基盤機構などによる、市販のLED電球のRaの実測テストは、見つからなかった。

では、Raが高いと、色は見分けやすいのか、好まれるのか。ロイヤーらが2012年にColor Research & Applicationに発表した実験(抄録による)では、16人が、ほぼ同じ色度の4種類の光(RGBの3色LED、直管蛍光灯2種、ハロゲン電球)の下で、ファーンズワース・マンセル100ヒューテスト(色票を並べ替えて色の見分けを測る検査)をした。RGBのLEDの総誤差が他の3条件より有意に悪く、Raを含むどの指標も、4つの光の色の見分けやすさの順序を正しく並べられなかった。2017年のロイヤーらの研究(Lighting Research & Technology、抄録と公開版の方法の節による)では、28人が、7チャンネルの調色LEDで作った26種類の光を評価した。好まれた上位12の光のうち、9つはRa73以下だった。著者らは、Ra80という一般的な基準が、好まれる光源の多くを除外しているかもしれない、と示唆している。

私が演色性の高い電球に替えたとき、机の上の木の質感やペンの色が、心なしかはっきり見えるようになった気がした。それが演色性の効果なのか、電球が新しくなって明るくなったからなのかは、自分では切り分けられない。ロイヤーらの二つの実験を見る限り、Raの数字が高いことと、色が見やすいこと、好まれることを結びつける根拠は、思ったより弱かった。

夜に画面を見る時間は、光のせいなのか

私の体感に戻る。夜、画面を見続けてしまう時間が減った。ここまでの研究を合わせると、画面の色を変えることの睡眠への効果は、小さいか不明だ。部屋の明かりのほうは、色より明るさが効くらしいが、それが私の夜の画面時間にどう関わったかは、どの研究も答えていない。だから、光以外の理由も、同じくらいの重さで疑ってよい、と私は読む。暖色のスタンドを足したことで、夜の過ごし方、つまり、画面を見る以外の行動の選択肢が、増えたのかもしれない。これも実験で確かめたものではない。

日本の調査では、厚生労働省の令和元年国民健康・栄養調査で、睡眠の確保の妨げになっている点の1位は、20歳代の男女で「就寝前に携帯電話、メール、ゲームなどに熱中すること」だった(男性43.2パーセント、女性42.7パーセント)。20歳以上の全体では、男女とも12.2パーセントで、年代が上がるほど低い。「睡眠環境(音、照明など)」を挙げたのは、男性4.3パーセント、女性6.1パーセントだった。これは本人がそう思っている理由の割合で、光の影響と内容の影響を区別していない。設問が「熱中」である点は、内容寄りの読み方ができる。光と内容を分けて論じた最も強い資料は、先の米国睡眠財団の合意声明で、子どもと青年では内容に合意し、光については合意に至らなかった(著者らは、これは光の影響を否定する意味ではない、と断っている)。

日本の家の明かり

日本の住宅の照明は、どうなっているのか。環境省の令和5年度の家庭部門のCO2排出実態統計調査によれば、LEDを使っている世帯は、全国で約76パーセント。戸建が82パーセント、集合住宅が69パーセントだった。居間の照明は(複数回答)、LEDが68.0パーセント、蛍光灯が32.1パーセント、白熱電球が6.6パーセント。蛍光ランプは、水銀に関する水俣条約の締約国会議(2023年11月)の決定で、一般照明用の製造と輸出入が段階的に廃止されることになったと報じられている(自治体の資料による二次情報で、環境省や経済産業省の一次ページは確認していない)。

日本の住宅で、どの色温度が好まれているのか、という通説は、公的統計や査読論文で直接示す資料を見つけられなかった。「夜は間接照明にすると落ち着く」という、昔から言われる話を、検証した研究も、見つからなかった。ブラウンらの枠組みは、目に入る光(垂直面、目の位置)で考えることを求めている。間接照明が、その量を下げるかどうかは、配置しだいで、一般論として言える資料はなかった。

通念のうち、残ったもの

昼間は明るく、夜は暗く暖かく。それだけのことを、昔から「夜は間接照明にすると落ち着く」という程度の話で済ませてきた。今回確かめてみると、その通念の一部は、研究の側からは支えが薄かった。低い照度には低い色温度が快適、という定番の図には裏づけがなく、暖色なら体内時計に優しいという話も、明るさしだいで崩れる。

確かめられた範囲では、体内時計への影響は、色温度だけでは決まらず、明るさとスペクトルの中身で変わる。感じやすさは、人によって50倍以上違う。画面の色を変えることの睡眠への効果は、小さいか不明だ。宣伝で引かれやすいオフィスの研究は、主観の評定で支えられていた。確かめられなかったこともある。私の体感がどこから来たのかは、分からないままである。

出典

  • Provencio I, Rodriguez IR, Jiang G, Hayes WP, Moreira EF, Rollag MD (2000). A novel human opsin in the inner retina. Journal of Neuroscience, 20(2), 600–605.(抄録による)
  • Berson DM, Dunn FA, Takao M (2002). Phototransduction by retinal ganglion cells that set the circadian clock. Science, 295(5557), 1070–1073.(抄録による。ピーク波長は未確認)
  • Lucas RJ, Peirson SN, Berson DM, et al. (2014). Measuring and using light in the melanopsin age. Trends in Neurosciences, 37(1), 1–9.
  • Brainard GC, Hanifin JP, Greeson JM, et al. (2001). Action spectrum for melatonin regulation in humans: evidence for a novel circadian photoreceptor. Journal of Neuroscience, 21(16), 6405–6412.(抄録による)/ Thapan K, Arendt J, Skene DJ (2001). An action spectrum for melatonin suppression: evidence for a novel non-rod, non-cone photoreceptor system in humans. Journal of Physiology, 535(1), 261–267.(抄録による)
  • CIE S 026/E:2018. CIE System for Metrology of Optical Radiation for ipRGC-Influenced Responses to Light.(公式の出版ページと、Brown ら (2022) の説明による)
  • Gooley JJ, Chamberlain K, Smith KA, et al. (2011). Exposure to room light before bedtime suppresses melatonin onset and shortens melatonin duration in humans. Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 96(3), E463–E472.
  • Phillips AJK, Vidafar P, Burns AC, et al. (2019). High sensitivity and interindividual variability in the response of the human circadian system to evening light. PNAS, 116(24), 12019–12024.
  • Cain SW, McGlashan EM, Vidafar P, et al. (2020). Evening home lighting adversely impacts the circadian system and sleep. Scientific Reports, 10, 19110.
  • Brown TM, Brainard GC, Cajochen C, et al. (2022). Recommendations for daytime, evening, and nighttime indoor light exposure to best support physiology, sleep, and wakefulness in healthy adults. PLoS Biology, 20(3), e3001571.
  • Souman JL, Borra T, de Goijer I, Schlangen LJM, Vlaskamp BNS, Lucassen MP (2018). Spectral tuning of white light allows for strong reduction in melatonin suppression without changing illumination level or color temperature. Journal of Biological Rhythms, 33(4), 420–431.(抄録による)
  • Chellappa SL, Steiner R, Blattner P, Oelhafen P, Götz T, Cajochen C (2011). Non-visual effects of light on melatonin, alertness and cognitive performance: can blue-enriched light keep us alert? PLoS ONE, 6(1), e16429.(本文の一部を確認した)
  • Nagare R, Plitnick B, Figueiro MG (2019). Does the iPad Night Shift mode reduce melatonin suppression? Lighting Research & Technology, 51(3), 373–383.
  • Duraccio KM, Zaugg KK, Blackburn RC, Jensen CD (2021). Does iPhone night shift mitigate negative effects of smartphone use on sleep outcomes in emerging adults? Sleep Health, 7(4), 478–484.(抄録による)
  • Hartstein LE, Mathew GM, Reichenberger DA, et al. (2024). The impact of screen use on sleep health across the lifespan: A National Sleep Foundation consensus statement. Sleep Health, 10(4), 373–384.
  • Singh S, Keller PR, Busija L, et al. (2023). Blue-light filtering spectacle lenses for visual performance, sleep, and macular health in adults. Cochrane Database of Systematic Reviews, (8), CD013244.(抄録による)
  • Lok R, Smolders KCHJ, Beersma DGM, de Kort YAW (2018). Light, alertness, and alerting effects of white light: a literature overview. Journal of Biological Rhythms, 33(6), 589–601. / Souman JL, Tinga AM, Te Pas SF, van Ee R, Vlaskamp BNS (2018). Acute alerting effects of light: a systematic literature review. Behavioural Brain Research, 337, 228–239.(後者は抄録による)
  • Viola AU, James LM, Schlangen LJ, Dijk DJ (2008). Blue-enriched white light in the workplace improves self-reported alertness, performance and sleep quality. Scandinavian Journal of Work, Environment & Health, 34(4), 297–306. / Vetter C, Juda M, Lang D, Wojtysiak A, Roenneberg T (2011). Blue-enriched office light competes with natural light as a zeitgeber. Scandinavian Journal of Work, Environment & Health, 37(5), 437–445.(いずれも抄録による)
  • Kruithof AA (1941). Tubular luminescence lamps for general illumination. Philips Technical Review, 6, 65–96.(Fotios (2017) の紹介による)
  • Fotios S (2017). A revised Kruithof graph based on empirical data. LEUKOS, 13(1), 3–17.(抄録による)
  • パナソニック 技術解説「演色性」(Ra の定義、R9、光源ごとの目安値)。https://www2.panasonic.biz/jp/lighting/plam/manual/basic/light-color-rendering/ / JIS Z 8726:1990 光源の演色性評価方法。(二次情報)CIE 13.3-1995 の基準光の規則は、規格本文を入手できず、解説資料による(資料名は特定できていない)。
  • Royer MP, Houser KW, Wilkerson AM (2012). Color discrimination capability under highly structured spectra. Color Research & Application, 37(6), 441–449. / Royer MP, Wilkerson A, Wei M, Houser KW, Davis RG (2017). Human perceptions of colour rendition vary with average fidelity, average gamut, and gamut shape. Lighting Research & Technology, 49(8), 966–991.(2012年は抄録による。2017年は抄録と、公開版の方法の節による)
  • 厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要」第3章 表8。https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf
  • 環境省「令和5年度 家庭部門のCO2排出実態統計調査」資料編(確報値)、解説ページ https://www.env.go.jp/earth/ondanka/kateico2tokei/energy/detail/08/ 。(二次情報)水銀に関する水俣条約第5回締約国会議(2023年11月)による蛍光ランプの段階的廃止は、自治体のページの記述による。
XはてなブックマークLINEFacebook