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100円の材料で作る人が買っているのは、安さだけではなかった

100円の材料で作る人が買っているのは、安さだけではなかった

100均の利用調査で、重視点の最多は品揃え、利用理由の上位は価格だった。プロスペクト理論、制約と創造性、IKEA効果を原典にたどると、千円と百円の痛みは理論の上では金額の差ほど開かず、安さの効果は実験でも割れていた。

TOMOAKI··趣味

「安いから始めやすい」という説明は、調査の数字とも少しずれる

100円ショップのクラフトコーナーには、レジン液、ドライフラワー、シリコン型、色鉛筆、消しゴムはんこの材料が、同じ棚に並んでいる。失敗しても惜しくない値段だから、趣味の入り口になる。この説明は、記事や動画で数えきれないほど繰り返されてきた。繰り返されるほど、説明は点検されないまま定型句になる。

まず値段から。棚の札は、100円(税込110円)が基本だが、調べた材料のうち主なものは、それより少し高い。ダイソーの公式通販で2026年10月13日に調べると、UV-LEDクラフトレジン液の20gは330円、UV-LEDのレジンライトも330円(小型の110円のものもある)、ハーバリウム用のオイルが110円だった。「百円で始められる」は、実際には「数百円から」に近い。レジン液とライトと着色剤(3gで110円)だけなら、合計770円で、110円のライトなら550円になる。電源のアダプター(330円のものはケーブルも)、型や土台は別に要る。

次に規模。帝国データバンクの発表(2026年4月)によれば、100円ショップ業界の2025年度の売上高は約1兆1100億円(見込み)で、2016年度の7369億円から約1.5倍になった。大創産業(ダイソー)は国内に4,784店(2026年2月末)、取扱商品は会社全体で約58,000点を数える。

では、人は100均の何を見ているのか。民間のネット調査を三つ並べてみる。マイボイスコムの調査(2026年1月、11,280人のうち、直近1年に100均を利用した人への設問)では、利用時に重視する点の最多は「品揃えの豊富さ」で66.0%、「値ごろ感」などは30%台だった。別の設問の利用理由では、上位3つがすべて価格に関わるもの(「安いので気軽に買える」50.4%、「安く買いたい、節約のため」48.5%、「コストパフォーマンスが良い」38.4%)だった。クロス・マーケティングの調査(2025年、1,100人。対象は300円ショップなども含む価格均一ショップ)では、イメージの第1位が「さまざまな商品があり、店内を見て回るのが楽しい」の37.1%。J-Net21が紹介する調査(2025年、現ユーザーと利用経験者992人)では、店を選ぶ基準は「商品の種類の多さ・豊富な品ぞろえ」が33.3%、「価格の安さ・お得感」が30.1%で、ほぼ並んだ。

三つとも、100均全般の利用を尋ねた調査で、クラフト目的の客に絞ったものではない。回答者も調査会社のモニターに限られる。それでも、安さが唯一の入口ではなさそうだ、という程度のことは読み取れる。DIY・ハンドメイドをした人に材料の入手先を尋ねたマイボイスコムの調査(2024年9月、9,285人)では、「100円均一ショップ」がホームセンターと並んで、実施者の5割前後を占めた。100均は、値札の売り場であるのと同時に、棚の売り場でもある。

安さが入口をつくっているのか、棚の広がりが入口をつくっているのか。この記事は、100均の材料で何かを作る場面に使われがちな説明を、一つずつ原典で確かめていく。損失回避、参照点、制約と創造性、あり合わせで組み立てる行為、地味な工程の心地よさ、完成させたものへの愛着。順に見ていくと、説明の多くは、きれいには成り立たなかった。

売り場は広がり、作る人の割合は広がっていない

棚が充実すれば、作る人も増えるはずだ、という見立ても、数字で確かめておく。令和3年の社会生活基本調査(過去1年間にその活動をした人の割合を聞く)で、「趣味・娯楽」の行動者率は、2016年の87.0%から86.3%へ、ほとんど動かなかった。手作り系の種類別に見ると、編み物・手芸が10.6%から8.8%、和裁・洋裁が6.4%から5.5%、陶芸・工芸が2.2%から1.6%に下がり、日曜大工が10.9%から11.0%、絵画・彫刻の制作が3.5%から3.4%でほぼ横ばいだった。

100均業界は、2016年度から2025年度にかけて約1.5倍に伸びた。調査の2016年から2021年とは期間がずれるが、伸びの途中にあたる。2021年の調査はコロナ禍の最中で、旅行・行楽が24ポイントも落ちた回でもある。2016年から2021年の変化を、そのまま長期の傾向とは書けない。レジンやハーバリウム、キャンドルのように、独立した項目がない活動は、統計からは取り出せない。この数字から言えるのは、せいぜい「100均の成長に合わせて、手作り系の行動者率が上がった形跡はない」ところまでだ。

男女差も大きい。2021年の編み物・手芸は男性0.8%に対して女性16.5%、日曜大工は男性17.4%に対して女性4.8%だった。「100均で始められる手作り」と一括りに語るとき、その一括りの下では、誰が何を作るかがはっきり分かれている。

ハンドメイドの売買の側も、勢いが続いているわけではない。クリーマの推計では、国内のハンドメイド・マーケットプレイスの規模は、2024年の約339億円から2025年の約315億円へ縮んだ(Creema と minne の流通総額から、両者の合計シェアを80%と仮定して算出した値)。Creema 単体の流通総額も、154億円(2025年2月期)から148億円(2026年2月期)に減っている。ただしクリーマ自身は、減少の理由に検索順位の低下やなりすましメールなど、会社固有の要因を挙げていて、市場全体の勢いを示す数字とは言い切れない。材料の売り場が広がることと、作ったものが流通することは、別の話らしい。

千円と百円の痛みの差は、理論の上では金額の差ほど開かない

百円の気軽さを説明するのに、行動経済学の古典、カーネマンとトベルスキーのプロスペクト理論は便利そうに見える。同じ金額でも、得る喜びより失う痛みのほうが大きい。では、千円の道具を台無しにする痛みは、百円の道具のときの何倍なのか。

1979年の論文で、損失が利得より大きく感じられるという趣旨は、「losses loom larger than gains」の一文にある。根拠は、勝ち負けが五分五分の賭けを人が嫌がること、賭け金が大きいほどその嫌われ方が強まることで、数式での導出は、賭けの選択から行われている。そして価値関数(損失や利得の大きさを、痛みや喜びの大きさに対応づける曲線)は、損失の側でも、多くの場合、金額が大きくなるほど1単位あたりの痛みが小さくなる(凸)形に描かれる。千円の損失の痛みは、百円の損失の痛みの10倍にはならないと予測される。理論が予測するのは、金額の差ほどには、痛みの差が開かないことだ。

「損失回避」という語は、1979年の論文には出てこない。1984年の論文で名前が付けられ、1991年のトベルスキーとカーネマンの論文(Quarterly Journal of Economics)で理論として定式化された。その大きさは、損失は利得の約2倍、とよく言われるが、どの研究を集め、どう推定するかで動く。メタ分析の平均は、ブラウンらの2024年の論文(150本、607の推定値)で約1.96、リスクのある選択に限ったワラセクらの2024年の論文で約1.31だった。損失回避が存在するかどうかからして、ガルとラッカー(2018年)は一般的な証拠はないと論じ、ムルクヴァら(2020年、5つの標本で計17,720人)は、強弱は変わっても見られると反論している。

もうひとつ。1979年の論文が扱ったのは、賭けの選択だ。工作に失敗して材料を無駄にする場面に、そのまま当てはめた研究ではない。当てはめるなら、類推だと断る必要がある。「百円だから失敗の痛みが軽い」は、もっともらしい。ただ、軽くなる幅は、理論に忠実に読めば、金額の差が示すほど大きくはない。

「まあ百円だし」は、参照点の置き直しなのか

では、百円の気軽さは、参照点の置き直しで説明できるだろうか。損失か利得かは、財布の中身を基準にするのか、最初から使うつもりだった予算を基準にするのかで変わる。100均で「まあ百円だし」とつぶやく瞬間に、この基準点(参照点)が動いているのではないか、と考えてみる。話としては面白いが、これを直接調べた実験は、見つかっていない。近い議論はある。1984年のカーネマンとトベルスキーの論文は、日常的な売買では損失回避があまり働かず、消費者の支払いは損失ではなく、別の購入の機会として評価される、と論じている。

ノヴェムスキーとカーネマンの2005年の論文は、買い物で手放すお金のように、交換に使うつもりのものは、一般に損失回避の対象になりにくい、と提案している。同じ号に載ったアリエリーらのコメントによれば、この論文の実験は、お金には損失回避が見られないという既存の知見を再現した(手放すときは手に入れるときの約2倍を求める授かり効果も再現された)。一方、確率的な購入(当たるかどうかが運で決まる買い物)では、お金を失うかもしれないことへのリスク回避が出た(著者自身、やや信頼性が低い結果と留保している)。このリスク回避の結果は、確率的な売買という新しい手続きで得たもので、ふつうの売買への一般化には慎重であるべきだ、とコメントは書いている。

混ざっているのは、二つの「損失」だ。値札の百円を払うこと(支出)と、作品に失敗して材料が無駄になること(使い損ね)。前者が損失として数えられにくいことには、上の研究がある。後者は、次の節で見る、サンクコストや無駄への嫌悪の領域になる。ただし、1979年の論文はむしろ、購入代金を、賭けの価値とは別に、損失として独立に数えるモデルを書いている。支払いの扱いは、1979年と1984年の論文のあいだでも違う。参照点の置き直しを、プロスペクト理論から自動的に引き出すことはできない。仮に支払いが損失として数えられにくいなら、「まあ百円だし」で参照点を置き直す必要は薄く、残る問題は、材料が無駄になる使い損ねのほうになる。

心の中の予算(メンタル・アカウンティング)は、趣味の材料費が別の帳簿に入っているから気軽なのだ、と説明するのに使えそうに見える。ただ、この研究も、きれいには再現していない。タラーの1999年の論文に出てくる問題を、リとフェルドマンが2025年にまとめて追試した(約1,000人、17問題)。結果は、支持が11、混合が3、不支持が3だった。ヒースとソルの「項目ごとの予算」の問題は、同じ費目に使ったあとにだけ買い控えが出る、という予測を確かめるものだ。50ドルを使ったあとに25ドルの観劇券を買う人は、関係のない夕食のあとが40%、関係のあるスポーツ観戦券のあとが28%で、予想どおりに差が出た。ところが、関係のない予防接種のあとも30%で、スポーツ観戦券のあとと変わらなかった。項目を分ける効果は一部しか再現しなかった。財布は一つに見えて、帳簿は何冊あるのか。その冊数は、研究でも、はっきりしていない。

安く手に入れたものは、使われにくくなることがある

ここまで見てきたのは、安さが始めやすさを作る側の話だった。安さが、始めたあとの使い方にどう響くのかを調べた研究は、反対向きの材料も持っている。

アークスとブルーマーの1985年の論文は、劇場のシーズン券を使った現場実験を報告している。窓口に来た客に、定価の15ドル、2ドル引き、7ドル引きの券を無作為に売ると、前半5公演で実際に使った枚数は、定価の群が4.11枚、2ドル引きが3.32枚、7ドル引きが3.29枚だった。割引で買った2つの群は、どちらも定価の群より少なかった。払った額を無駄にしたくない心理(サンクコスト)が、元を取ろうとさせる、という解釈だ。ただし、人数は54人と小さく、差が偶然でないと言えるのは、方向をあらかじめ決めた検定(片側検定)でだけで、全体の分析では、割引の効果としては有意にならなかった。差が出たのは前半の5公演だけで、後半には消えた。この実験を直接やり直した報告は、私が探した範囲では見つからなかった。一方、大規模な現場実験は、同じ効果を見つけていない。アシュラフ、ベリー、シャピロの2010年の研究は、ザンビアで約1,260世帯に戸別に浄水剤の購入を持ちかけ、払った額が使用を増やすという一貫した証拠は見られなかった、と報告している。

安さが、効き目への期待を下げる、という実験もある。シヴ、カーモン、アリエリーの2005年の論文では、飲み物を飲んだあとで15問の単語並べ替えパズルを解いた。定価1.89ドルで買った群の正解数は平均9.5問、0.89ドルに値引きされた群は7.7問だった。期待を意識させるとさらに下がって5.8問になった。同じ母集団で別に行った予備調査では、飲み物なしの対照(31人)が9.1問だったので、差の多くは、値引きされた側が下がったことによる。対象は飲料の「頭の冴え」で、道具の値段が工作の出来に影響するかは検証されていない。類推として読む材料だ。

「無料」には、安いの延長ではない段差もある。シャンパニエ、マザー、アリエリーの2007年の実験で、キスチョコ(1セント)とトリュフ(15セント)を並べると、どちらかを選んだ人のうちキスチョコは27%だった(何も取らなかった人を除いた割合。価格の札は約45分ごとに入れ替えた)。値段の差を14セントに保ったまま、キスチョコを0セントにしてトリュフを14セントにすると、キスチョコの割合は69%に跳ね上がった。差は同じ14セントなのに、片方が0になると、選択がひっくり返る。この研究が示しているのは、0と1の間に連続でない段差があることだ。100均の百円は、この段差の外側にあるので、無料のような跳ね上がりは、ここからは期待できない。

買ったのに使われない材料の問題も、ここに入る。英語圏の手芸愛好家は、手元に蓄えた材料を「stash」と呼び、一生かかっても使い切れない量の毛糸を「SABLE」と冗談にする。研究としては、米国のアマチュアのキルト作家を、4年間、70回のインタビューで調べたスタルプの2006年の民族誌や、2008年のスタルプとウィンジの研究がある。量的な研究はなく、何割の人が未使用の材料を抱えているのかは、わからない。動機を調べたのは、家庭で服を縫う女性23人へのインタビュー(アームステッドら、2022年、学会の会議録)で、挙がったのは「希少性」(近くに店がない、あとで手に入らなくなる)と「衝動」だった。安さは、動機として挙がらなかった。安さが蓄積を促すのかどうかは、検証されていない。100均の商品の入れ替わりの速さが、希少性の動機と重なる可能性はあるが、それも未検証だ。

制約の効き方は、量と種類と、作り手の経験で変わる

制約が創造性を刺激する、という話にも当たってみる。アジャル、タラクチ、ファン・クニッペンベルグの2019年のレビュー(Journal of Management)は、制約と創造性・イノベーションの研究を分野横断で整理した。結論は、制約と創造性の関係が逆U字(制約が少なすぎても多すぎても創造性が下がり、中程度で最も高い形)になる、という「提案」だ。レビューの中の言葉は「suggests」「we propose」で、逆U字そのものを検証した研究ではない。しかも、証拠の厚さは制約の種類でまちまちで、出力制約(結果の条件)で逆U字を示すのは質的な事例研究だけだ。

制約の分類は、「入力」「過程」「出力」の三つに分けられる。入力制約は、時間、人手、資金、材料など、使える資源が手に入らないこと。過程制約は、守るべき手順や規則。出力制約は、結果がどうあるべきかの条件(特定の材料や色を使うこと、など)だ。原典では、予算、時間、材料の制約は、どれも同じ入力制約で、同じ種類の心理的な経路を通る。棚の広さには、二つの意味がある。調査で評価される品揃えは、店全体の広さだ。一方、クラフト材料の棚は、店全体の中では一角にすぎず、そこで手に入る材料の幅は限られる。これが入力制約で、予算と同じ箱に入る。アジャルらの逆U字のどのあたりに百円の棚が位置するのかは、レビューからは言えない。

手芸に最も近い実験は、セリエとダールの2011年の研究だ。ニューヨークの毛糸店で、趣味の編み手76人(男性2人、女性74人、平均約30歳)が、3歳の女の子向けのマフラーを1週間で編んだ。毛糸の色を6色から選ぶ群と、12色から選ぶ群に分けると、経験者では、専門家の評定が6色の群で7.67、12色の群で5.56と、選択肢を絞ったほうが創造的と評価された。制作の楽しさも、6色の群のほうが高かった(5.90と5.11)。初心者では、差が出なかった。

面白いのは、作り手自身の感覚が逆を向くことだ。「自分の作品は創造的だ」という自己評価は、12色の群のほうが高かった(5.09と、6色の群の4.55)。作り手自身は、選択肢が多いほうが自分は創造的だと感じ、実際には経験者では、絞ったほうが作品も楽しさも良くなった。2つ目の実験でも、経験者59人に、飾りの部品の形を6種類だけ渡すか、20種類すべて渡すかで比べ、図形を使ってクリスマスの飾りを描かせた。ほかの参加者が評定したところ、記憶の負荷をかけない条件のうち、6種類の条件が最も創造的だった。ただし、覚える課題で頭を使わせると、絞った利点は消えた。

この結果を、100均に当てはめるときは注意が要る。効果が出たのは経験者だけで、初心者では差がなかった。初めて作る人が、棚の狭さで創造的になる、とは言えない。それに、実験で絞られたのは、研究者が用意した6色か12色の陳列(研究2では渡された6種類か20種類)で、100均の棚そのものではない。大きな店の棚から、自分で6色を選ぶのは、選び方のほうを制約するやり方であって、棚が狭いことの効果とは違う。消費者の創作を扱ったダールとモローの2007年の論文は、作り方の手引きや完成の目標といった制約が、できる感覚と自分で決めている感覚の釣り合いを助けるとしている。100均の「型」や「完成見本」が与える制約は、棚の狭さより、こちらに近い。

あり合わせで組み立てる行為を、企業の研究はどう見たか

手元にあるものから発想を組み立てる行為には、経営学に、ブリコラージュという呼び名がある。ベイカーとネルソンが2005年にAdministrative Science Quarterlyで発表した論文は、資源に制約のある29社を調べ、他社が捨てたり無視したりした物理的・社会的・制度的な投入物を活用して「無から何かを作る」小企業の振る舞いを説明した。定義は、手元にある資源の組み合わせを、新しい問題や機会に当てはめて、やりくりすること。論文の中心は、そうした企業が、資源環境の支配的な定義が押しつける限界どおりに動くことを拒む、という考え方だ。

共著者のベイカー本人を含む後続研究(ステフェンスら、2023年)の紹介によれば、原典が区別したのは、ブリコラージュの使い方だ。複数の領域にわたって見境なく頼るか、選んで、ときには一時的に使うか。前者の型(parallel)の企業は、安さを受け入れる顧客の輪から抜け出せず、一社も成長しなかった。後者の型(selective)は、ほとんどが成長した。論文の結論は、「選んで使え」に近い。

後続研究は、成長を目指していない、すでに営業中の事業では、ブリコラージュが競争力に差し引きでマイナスになりうる、とも報告している。一方で、立ち上げ段階の事業では、成長の見込みに関係なく、ブリコラージュは競争力を高めた。始めたばかりの趣味は、どちらの側にも重ねられる。企業の研究を個人の趣味に移すのは、もともと飛躍だ。

100均の棚の前で、あり合わせから組み立てる。この姿勢は、材料を決めてから買い物に行く姿勢と、順序が逆になる。一方で、棚が変われば手に入る材料も変わる。何を作るかが、棚の側で先に決まることはないのか。その問いを扱った研究は、見つかっていない。

地味な工程の心地よさは、「フロー」より「リラクゼーション」に近かった

キャンドルは、溶かして、流して、固めるだけ。レジンも、型に液を流して光で固めるだけだ。この地味さを、瞑想的とか、フローとか、言い換えたくなる。フロー理論でよく知られた1975年の図では、技能に対して難しさが低すぎる作業は「退屈の領域」にあたる。ただ、この図は、のちに書き換えられている。

ナカムラとチクセントミハイが2002年に書いた総説は、フローの条件を二つ挙げている。技能を引き伸ばす挑戦があること、そして近い目標が明確で、進み具合の即時のフィードバックがあること。この総説によれば、1975年の元のモデル(技能が上回れば退屈、挑戦が上回れば不安)は、のちに改訂された。体験を記録する調査のデータが、元の図と合わなかったためだ。改訂後のモデルでは、フローは、挑戦と技能が、どちらも本人の平均より高い状態を指し、挑戦が低くて技能が高い状態は、「退屈」ではなく「リラクゼーション」と呼び直された。

米国の青年824人のデータでは、楽しさと「その活動をしていたい」気持ちは、フローよりリラクゼーションのほうが、わずかに高かった。集中や自尊感情は、フローのほうが高い。挑戦も技能も、本人の平均より低い場面は、「アパシー」に入る。区分は人の種類ではなく、その人のその場面の挑戦と技能で決まる。つまり、技能がふだんより高いと感じる場面での地味な反復作業の心地よさは、フローではなく、理論の中に席のある「リラクゼーション」として整理できる。ただし同じ章には、技能が挑戦を上回り続ければ、人はまずくつろぎ、やがて退屈する、とも書かれている。技能も挑戦もふだんより低ければアパシー、挑戦だけが高ければ不安の側に、同じ作業がなりうる。

手作りの現場に近い研究もある。ペッラネンが2015年にフィンランドの布系クラフト制作者59人(19〜84歳の女性)の手記を質的に分析したところ、リラックスのためのクラフトは、覚えた型でする「普通の」クラフトだった。その快さは、繰り返しの作業でも、自分の行為を自分で左右できる感覚から来る、と解釈されている。心配ごとで頭がいっぱいのときは、よく知っている決まったクラフトで考えを落ち着かせる、という手記がある。ただ、困難な時期にある人の中には、新しい技能やデザインを要するクラフトを選ぶ人もいて、著者はそちらをフロー的な活動と位置づけている。

日々の感情を追った研究は、相関にとどまる。コナーらの2018年の日誌研究(若い成人658人、13日間)では、ふだんより創造的な活動が多かった日の翌日に、活性化したポジティブな感情とフラリッシング(良好な状態)が高かった。逆向き、つまり感情が翌日の活動を予測する、という結果は出なかった。ライリーらの2013年のオンライン調査(編み物の愛好家3,545人)では、編む頻度と、落ち着きや幸福感の間に関連があった。これは、編み物のサイトを通した自己選択の横断調査で、調子の良い人ほど編む、という逆の可能性は消せない。

地味な工程が心地よい、という実感は、研究でも支持される。その理由を「フロー」と呼ぶのは、古い図に頼ることになるし、「瞑想的」という言い換えを支える研究は、ここで挙げたものの中にはない。自分の手で左右できる感覚、という説明がいちばん地に足がついている。その根拠は、女性の熱心な制作者59人の手記だ。

完成させると愛着が湧く、は本当だが、条件が多い

キャンドルやレジンは、数十分で完成する。完成が愛着を生む、という研究に、ノートン、モション、アリエリーの2012年の「IKEA効果」がある。原典を読むと、IKEA効果は、論文の副題「労働が愛につながるとき」から想像するより、条件つきの現象だった。

実験の中身から見る。実験1Aでは、52人の学生が無地のIKEAの収納箱を組み立て、その箱に払ってもよいと思う額は、完成品を見ただけの人より63%高かった(0.78ドルと0.48ドル)。実験1Bの折り紙(106人)では、作った本人が自作品につけた額が0.23ドル、他人が同じ作品につけた額が0.05ドル、別の他人が熟練者の作品につけた額が0.27ドルだった。本人の0.23ドルと、熟練者の作品への0.27ドルは、統計的に区別できなかった。実験2のレゴ(118人)では、自分が組み立てた組への入札(0.84ドル)は、相手が組み立てた組への入札(0.42ドル)の約2倍になったが、組み立てたあとで分解させると、差は有意でなくなった。実験3では、収納箱を完成させた群の額が1.46ドル、最後の2工程の手前で止めた群が0.59ドルだった(39人)。

実験1Bの折り紙で言えるのは、作った本人が自作品につけた額が、別の人が熟練者の作品につけた額と、統計的に区別できなかったことだ。出来映えの違いや、労力の量を単独で変えた実験はなく、変えたのは、自分で組み立てたかどうかと、完成したかどうかだった。手作りに関心のない人にも効くのか、という点は、実験3で調べられている。関心の高低と条件の組み合わせによる違い(交互作用)は見られなかった。ただし、39人と小さく、関心が高い人のほうが評価が高い傾向(p=.06)もあった。追試はある。ザルシュテットらの2017年の追試(同じ考え方で条件を変えたもの)は元の効果が頑健だと示し、マーシュらの2022年の研究は、英国とインドの5〜6歳の子ども128人の両方で効果を確認した。

価格との関係についても、著者自身が、実験に使ったのはおおむね安価な品で、価格とIKEA効果の関係は今後の課題だと書いている。百円という値段が愛着にどう響くかは、この論文からは言えない。

完成のしやすさは、別の研究でも語られる。ヌネスとドレーズが2006年に発表した「エンダウド・プログレス効果」は、洗車場でスタンプカード300枚を配った現場実験だ。半数は「10個で無料、2個は押印済み」、残りの半数は「8個で無料、押印なし」で、どちらも実際に必要な洗車は8回だった。9か月後の交換率は、押印済みのカードが34%、空のカードが19%だった。

では、工程が少ないキャンドル作りには、この効果が働くだろうか。工程は3つしかないが、始める前の進み具合は、やはり0だ。研究が操作したのは、残りの作業量を変えずに、見かけの進み具合だけを0%から20%に上げることだった。工程が少ないことは、目標までの距離が短いということで、別の話だ。型や下ごしらえ済みのパーツが入ったキットのように、一部が済んだ状態から始まる形なら、研究に近い。それでも、あくまで当てはめだ。

百円が軽くするものと、軽くしないもの

ここまでの点検を一言でまとめると、百円の値札が効くかもしれないのは、支出としてのお金の痛みのあたりまで、ということになる。それも、支払いがもともと損失として数えられにくいなら、値札が軽くしたというより、最初から小さかった可能性がある。それ以外の効き方は、挙げた研究の範囲では、割れているか、検証されていなかった。

軽くなるとしても、全体の重さではなく、特定の重さだけに見える。失敗した材料が積まれる重さや、使われないまま棚に残る重さ、自分の作品に付ける評価の重さを、値札が動かすのかどうかは、確かめられていない。安く買うと使われにくいという実験がある一方で、同じ効果を見つけなかった実験もある。

値札だけで気軽さが決まるとは、挙げた研究からは言えない。

百円で買えるのは、材料と、品揃えのある棚と、完成までの手順の短さだ。その組み合わせが、始めやすさをどこまで作っているのか、安さがそのうちどれだけを担っているのか。棚の側にも、売り場が広がったのに手作りの行動者率が上がった形跡はなく、直接の裏づけはない。分けて測った実験は、挙げた研究の中にはない。分けられないまま、棚の前に立つことになる。

出典

  • 帝国データバンク (2026). 「100均」市場、3年連続の1兆円超え 「脱・100円」で成長(2025年度見込み). 2026年4月2日発表.(発表本文で確認。2025年度は見込み値で、一部に推定を含む)
  • 大創産業. 会社概要、および国内外6,000店突破のプレスリリース(2026年6月23日).(公式資料で確認。約58,000点は会社全体の取扱商品数)
  • ダイソーネットストア(公式通販)の商品検索. 2026年10月13日に確認.(価格は時点のもので、店頭の品ぞろえとは一致しない)
  • マイボイスコム (2026). 「100円ショップの利用」第5回調査(2026年1月、11,280人).(同社の公開ページで確認。設問の分母は直近1年に利用した人)
  • クロス・マーケティング (2025). 100円ショップ(価格均一ショップ)に関する調査(2025年1月31日〜2月2日、20〜69歳、1,100人).(ニュースリリースで確認)
  • J-Net21(中小企業基盤整備機構). 100円ショップに関する消費者調査の紹介記事(2025年、1,000人のうち利用者・利用経験者992人への設問).(記事は自らアンケートを実施したように書いているが、実施した会社名は明記されていない)
  • マイボイスコム (2024). 「DIY・ハンドメイド」第2回調査(2024年9月、9,285人).(公開ページの要旨で確認)
  • 総務省統計局 (2022). 令和3年社会生活基本調査 生活行動に関する結果 結果の概要、および第4表.(本文と表で確認。2016年の値は平成28年調査の第4表)
  • 株式会社クリーマ. 事業計画及び成長可能性に関する事項(2026年2月期・2027年2月期).(開示資料で確認。国内ハンドメイド市場の規模は、同社の推計)
  • Kahneman, D., & Tversky, A. (1979). "Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk." Econometrica, 47(2), 263–291.(全文で確認)
  • Kahneman, D., & Tversky, A. (1984). "Choices, values, and frames." American Psychologist, 39(4), 341–350.(本文の写しで確認)
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  • Gal, D., & Rucker, D. D. (2018). "The Loss of Loss Aversion: Will It Loom Larger Than Its Gain?" Journal of Consumer Psychology, 28(3), 497–516.(要旨のみ確認)
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