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デニムのリメイク、ミシンの前に決まっていること

デニムのリメイク、ミシンの前に決まっていること

デニムの切り口が白くほつれるのは染めムラではない。ミシンの説明書、染色の技術資料、リーバイスの環境評価から、リメイクの前に決まっていることを確かめた。

TOMOAKI··リメイク

古いデニムを前に、ハサミを持つ。リメイクの話は、たいていそこから始まる。けれど、ハサミを入れた後に起きることの多くは、入れる前にもう決まっている。生地の構造、家庭用ミシンの仕様、染料の性質、そして、一度切ったものは戻せないという単純な事実。この記事は、その「決まっていること」を先に並べてみる試みである。

前提を一つ置いておく。ここに書くのは、私の体験ではない。ミシンの説明書、染色の技術資料、企業のライフサイクル評価、環境省の推計、心理学の実験を読んで、デニムのリメイクに関係する部分を拾い集めたものだ。以前の版には体験として書かれていた箇所があったが、体験ではないと確認できたため外した。読んだ範囲で確かめられなかったことは、確かめられなかったと書く。「縫わない、足さない、そのまま使う」という以前の方針は残し、なぜそれが理にかなっているのかを、資料の側から説明し直す。

家庭用ミシンの説明書は、力の話をしていない

デニムを家庭用ミシンで縫うと、針が折れる、縫い目が飛ぶ、布が進まなくなる。そう言われる。力不足だと考えるのが自然だが、メーカーの資料を読むと、説明の中心はそこにない。

ブラザーの「ぬい方ガイド」(CPNシリーズ)には、厚い布地を縫う項がある。デニムやキルトのような厚い布地を縫うとき、押えが水平にならず、縫い始めに布地が送られないことがある、という説明だ。つまり、止まる原因として書かれているのは、モーターの力ではなく、押えが傾くことである。JUKIの説明書の「厚地のぬい方」にも、布が重なって急に厚くなった部分(段ぬい)の手順がある。針を布に刺して押えを上げ、黒いボタンを押し込んだまま押えを下げ、押えが水平なことを確かめてから縫い始める。段差で押えの水平が問題になることを、メーカーが書いているわけだ。

ブラザーのガイドにも、具体的な対処が書かれている。ジグザグ押えの左側にある黒いボタン(押え固定ピン)を押したまま押えを下げる。それでも押えのずれが大きいときは、実際に縫う布と同じ厚さにした厚紙か布を、押えのかかとの下に置く。JUKIのサポートマニュアルにも、ボタン穴かがりで段差があると「同じ所ばかり縫って進まないことがある」として、段ボールなどを挟んで段差をなくす図がある。段差は、足し算で埋めるものとして扱われている。

そのうえでブラザーは、数字で上限も示している。6mm以上の厚地を縫ったり、無理に布地を押し込んだりすると、針が折れたり曲がったりするおそれがある、という注意書きだ。デニムを何枚重ねれば6mmに届くのか、という換算は、今回確かめられた資料にない。デニム1枚の厚さを示す一次資料を見つけられなかったためで、「何枚重ねまで」という数字は書かないでおく。モーターの出力に触れた公式の記述も、見つけられなかった。

意外なのは、糸だ。デニムといえば太い糸、という印象がある。しかしJUKIのHZL-HT720の取扱説明書にある「布地に適した針と糸の選び方」の表を見ると、デニムやジーンズを含む厚地の糸は、スパン系(ポリエステル)の60番だ。普通地も同じ60番である。ポリエステル糸の欄では番手が変わらず、変わるのは針で、普通地は11〜14番、厚地は14〜16番とされている。糸は数字が小さいほど太い、と同じ説明書に注記がある。綿糸の欄では厚地が40〜50番と少し太くなるが、ポリエステル糸では厚地専用の太さは指定されていない。

断っておくと、これは一機種の説明書の表であり、他社や他の機種で同じとは限らない。ジャノメとシンガーについては、機種を特定できる針と糸の表に行き当たらなかった。それでも、「デニムには太い糸を」という通説を、この表はポリエステル糸についてはそのまま支持していない。ミシンと戦うとき、人が最初に疑うのは糸かもしれない。説明書が示すのは、針と、押えの水平のほうである。

針については、同じ説明書の安全上の注意にこうある。特に厚い布地(デニムなど)を細い針(11番以下)で縫うと、針が折れ、思わぬ怪我をする可能性がある。購入時にミシンに付いているのは14番の針だ、とも書かれている。少なくともこの機種は、デニムを縫えないように作られているわけではない。縫える条件が、はっきりと書かれているのである。

縫えない、とまでは、資料から言えない。上限は6mmと書かれているが、重なり部分(ベルトループの付け根、ポケットの角、裾の三つ折り)がそれを超えるかどうかは、確かめられなかった。言えるのは、押えの水平と針の太さという条件を、重なり部分のすべてで満たし続ける手間がかかる、ということまでだ。縫わないという選択は、能力の問題というより、満たすべき条件の数の問題として説明できる。

切り口が白っぽくほつれるのは、染めムラではない

切りっぱなしのデニムの裾は、洗うたびに糸が出てきて、青より白に近い房になる。あれは染めムラではない。デニムの構造そのものから説明がつく。

コットン・インコーポレイテッド(米国の綿業界団体)の技術資料「Denim Fabric Manufacturing」(ISP 1010、2004年)によると、ほとんどのデニムは先染めの生地で、経糸(たていと)をインディゴで染め、緯糸(よこいと)は染めずに白いままにしておく。標準の織りは3/1の綾織りで、ボトム用の典型的な構成の一つとして、1インチあたり経糸62本・緯糸38本という例が挙がっている。ジーンズやズボン、ジャケットに使う生地は、1ヤード四方あたり8.0〜16.5オンスとされる。

ここまでで、切り口に白が混じる理由の半分が分かる。緯糸が最初から白いのだ。残りの半分は、インディゴという染料の性質にある。同じ資料は、インディゴは綿の繊維への親和性が非常に低い、主要な繊維用染料としては珍しい染料だと書いている。そのため色は糸の外側の層に集まり、白い芯のまわりに濃い色の輪ができる。これを「リング染色」と呼び、ほとんどの他の染料でこの現象が起きれば、染色の不良とみなされる、と同じ資料にある。

青く見える経糸でも、芯は白い。擦れたり、洗濯で表面の色が落ちたりすると、白い芯が見えてくる。デニムが色落ちして「味」になるのは、染色不良とされるはずの状態を、あえて製品の魅力にしているのだとも言える。そして切り口では、その白い芯と、最初から白い緯糸が、同時に外へ出てくるのだろう。ほつれた切り口が白っぽいのは、こうした構造から考えられることだ。

なお、綾織りの切り口が具体的にどういう順序でほどけるのかを書いた一次資料は、今回見つけられなかった。経糸の方向に切ったときと、緯糸の方向に切ったときで、ほつれ方がどう違うか。そこは、織りの構造からの推論にとどまる。

ほつれを止める方法として、ほつれ止め液がある。米国のドリッツ社(Prym Consumer USA)の「Fray Check」の公式ページには、成分としてn-プロパノール、ナイロン三元共重合体、水が挙がっている。洗濯機で洗えて、ドライクリーニングもできる、と書かれ、使う前に必ず、実際に使う生地の端切れで試すこと、という注意もある。引火性があり、目に刺激を与えるおそれがある、という警告も添えられている。

木工用ボンドやマニキュアが布に向かないという公式の記述や検証は、探した範囲では見当たらなかった。手芸の情報では、むしろマニキュアを代用品として紹介するものも多い。確かなのは、少なくとも Fray Check については、メーカーが洗濯機洗いとドライクリーニングに耐えると明記している、という点だけだ。日本で売られているほつれ止め液については、成分や洗濯への耐性についての公式の記載に、行き当たらなかった。

切りっぱなしを選ぶなら、ほつれは仕様のうちとして受け入れる。受け入れられないなら、三つ折りにして縫う、つまりミシンの前に戻る。選択肢は、実のところ、その二つしかないように見える。

黒くなるのは綿だけだ

色あせたデニムを、専門の業者に黒く染め直してもらう。そういうサービスがある。ここでも、染料と繊維の相性が結果を決める。

辞典の記述によれば、ポリエステルのような疎水性の合成繊維は、水に溶けない分散染料を水に分散させた浴で染める。この染料は、親水性の天然繊維には染まらない(化学辞典)。ポリエステルは高温(130℃)か、繊維への親和性を高める助剤を使って染める、という説明もある(世界大百科事典)。綿を染める条件と、ポリエステルを染める条件は、違うのである。これは辞典の記述からの推論になるが、綿を染める通常の工程では、ポリエステルの縫い糸はほとんど染まらないはずだ。

実際、髙島屋の案内ページにある京都紋付「KUROZOME REWEAR」のビフォーアフター写真と表記には、「BODY-cotton 100%」「YARN-Polyester_white」とある。写真では、本体の綿は黒くなり、ポリエステルの縫い糸は白のまま残っている。料金はデニムが税込6,600円から、期間は申し込みの完了後、約1か月と案内されている(いずれも2026年10月14日に確認した)。同社は黒紋付を100年間染め続けてきた老舗だと自己紹介している。

一方で、利用規約には、縫い糸の色が残ることや、縮みについての記載はない。規約が定めているのは、受け付けの際に裂けやプリントの剥がれなどが起こりうると判断されたら電話連絡があること、賠償はクリーニング事故賠償基準に基づいて上限があること、「イメージと違う」といった主観や感想は賠償の対象にならないこと、などだ。縫い糸が白く浮き出るのを、仕様と見るか、仕上がりの違いと見るか。そこは、頼む前に自分で決めておく部分になる。

ある体験記事では、染色可能と表示された素材が50%以上なら受け付ける、という条件が紹介されていた。同じ記事には、縫製糸はポリエステルなので元の紺色のまま残っている、という記述もある。これらは二次情報で、受け付けの条件は、京都紋付のサイト本体では確認できなかった。条件は変わりうるので、実際に頼むときは、最新の案内を見るしかない。

黒染めは、手持ちのデニムの寿命を延ばす手段のうち、コストの目安がつけやすいものだ。1本6,600円から、期間は約1か月。切る前に、戻せる手段の値段として置いておく。それ以上の判断は、ここでは勧めない。

ジーンズ一本の負荷は、一生のどこにあるのか

デニムをリメイクすると、環境にやさしいのだろうか。この問いには、答えが出ていない。ただ、判断の材料になる数字はある。

リーバイ・ストラウス社が2015年に公開したライフサイクル評価(Levi's 501、ミディアムストーンウォッシュ1本。綿花の栽培から廃棄まで、ISO 14040・14044準拠)によると、ジーンズ1本の一生で、気候への影響は二酸化炭素換算で33.4kg、水の消費は3,781リットルだった。このうち、裁断・縫製・仕上げの工程は、水が34リットルで全体の1%、二酸化炭素が2.6kgで8%にすぎない。

最大の負荷はどこにあったか。水は、綿花を中心とする繊維の生産で2,565リットル、全体の68%。二酸化炭素は、消費者が洗濯・乾燥する段階が12.5kgで、37%を占める。単一の段階としては、使う側の洗濯が、気候への影響の最大項目だ。繊維、生地、縫製、副資材を合わせた作る側も、合計では約半分(16.2kg、49%)を占める。この評価では、10回着るごとに洗う(2回ごとではなく)ようにすると、エネルギーと気候への影響、取水量が最大80%減る、という試算も示されている。洗うまでに着る回数の平均は、米国で2.3回、英国とフランスで2.5回、中国で3.9回だった。

この数字をリメイクに引き寄せるには、慎重さがいる。評価の「裁断・縫製・仕上げ」は工場の工程で、家庭でハサミを入れる作業とは別のものだ。家庭での作業の負荷はこの評価の外にあるが、大きいとは考えにくい。リメイクが負荷を動かしうるとすれば、その道筋は、新しい一本を買わずに済んだ場合、つまり作る側の負荷を一本ぶん避けられた場合だ。リメイクした服が実際に新品の購入を置き換えるのか、長く着られるのかを調べた研究は、探した範囲では見当たらない。

注意したい点もある。この評価は、2013年に始まった調査で、2012年生産の501が対象だ。消費者の使用は「典型的な製品寿命」で見ているが、着用回数や年数の具体値は、公開されたスライドに書かれていない。数字の条件を確かめきれていないので、日本の古着やリメイクにそのまま当てはめることはできない。同社は2007年にも別の調査を行っているが、この記事では2015年の評価の数字だけを使う。

日本の側の数字も見ておく。環境省が2026年3月にまとめた「2025年版 衣類のマテリアルフロー」では、家庭から手放された衣類は79.6万トンと推計されている。行き先は、可燃・不燃・混合ごみとして出されたものが43.8万トンで55%。古着としての販売が14.2万トンで18%、行政回収が10.4万トンで13%、集団回収が6%、民間回収等が5%、譲渡・寄付が3%だった。手放した後の行方で見ると、リユースが27.5万トンで35%(海外への輸出を含む)、リサイクルが6.0万トンで7%、焼却等が46.1万トンで58%となる。

資料自身が断っているとおり、これは「2025年時点で把握可能な最新データを用いて作成」したもので、必ずしも2025年時点の実情が反映されているとは限らない。それでも、手放された衣類の半分あまりがごみとして出され、リサイクルに回るのは7%にとどまる、という大きな形は読み取れる。

2020年版の調査では、別の数字も出ていた。家庭に未着用で眠っている衣類が1,389キロトンと推計され、その年の新規購入量722キロトンの約1.9倍(筆者の計算)にのぼる。前者は家庭の中にある量、後者は1年間の購入量で、種類の違う数字を比べている。これは消費者アンケートに基づく推計であり、厳密な測定ではない。同じ調査には、手放される衣類に対するリペア量の割合が、2009年の1.7%から14.3%に「躍進した」という記載もあるが、2020年のリペア量はアンケートでの枚数からの推計で、2009年と同じ算出方法かどうかは資料から確認できなかった。そのため、実態が8倍になったとは読まないでおく。

切る前に、やり直せるかを考える

リメイクの最初の一手、ハサミを入れる行為には、他の工程にない特徴がある。やり直せないことだ。縫い目はほどけるが、切った生地は戻らない。この「不可逆」という性質が、人の気持ちにどう働くかについて、面白い実験がある。

ダニエル・ギルバートとジェーン・エバートが2002年に発表した研究(Journal of Personality and Social Psychology, 82巻4号)では、ハーバード大学の学生に白黒写真の講座を受けてもらい、12枚撮影して、暗室で2枚のプリントを焼いてもらった。そのうえで、1枚は「英国の本部に見本として送る」ために手放し、もう1枚を手元に残すよう求める。ここで条件を二つに分けた。一方は「数日以内ならもう1枚と交換できる」、他方は「変えられない」。

結果は直感に反した。交換できないと言われた学生のほうが、もう1枚と比べた、手元のプリントへの好みの差が、時間とともに強まったのである。交換できる学生では、その伸びが小さかった。一方、別の実験(美術ポスターを持ち帰る手順、下で触れる)を想像してもらい、自分ならどちらの条件に入りたいかを別の学生89人に尋ねると、66.3%が交換できる条件を選んだ。人は選択肢を残したがるが、残すと、選んだものを好きになりにくい。

この研究には限りがある。実験1の分析対象は、各条件12〜13人(体験した側)と小さい。予測する側と体験する側は、実務上の理由でランダムには割り付けられなかった、と論文自身が書いている。直接の追試は、今回の調査では見つからなかった。

著者ら自身が最大の限界として挙げているのは、交換できるかどうかを、選ぶ前に告げていたことだ。戻せないと知った人は、慎重に選ぶ。好みが伸びたのは、そのせいかもしれない。著者らはこれを確かめるため、選んだあとに条件を告げる実験室の実験(ポスターを使ったもの)を行い、交換できない条件でだけ好みが上がる、同じ傾向を得ている。これも各条件十数人の規模だ。ここでの好みは、選んでから15分後に付け直した順位で、写真講座(数日後に、2枚を比べた好みを尋ねた)とは、時点も測り方も違う。結果は示唆として読むのがよさそうだ。

この結果をデニムに当てはめてみる。「切りっぱなしにするか、裾を三つ折りにして縫うか」を選ぶとき、後から取り返せる選択(縫う)と、取り返せない選択(切る)がある。実験の結果をそのまま当てはめて、切ったほうが好きになりやすいと言うのは、乱暴だ。実験の対象は写真のプリントで、素材も状況も違う。言えるのは、「戻せない」という条件が、気持ちの面ではそれほど不利に働かない可能性がある、という程度だ。戻せないと知っていれば、選ぶ前に慎重になる。その慎重さが満足を支えているのか、戻せないこと自体が支えているのかは、この実験だけでは分けられない。

取り返しのつかなさが問題になるのは、気持ちよりも、価値のほうだ。2022年10月の報道によれば、米ニューメキシコ州で開かれたヴィンテージのオークションで、廃鉱から見つかった1880年代のリーバイスが、買い手手数料込みで8万7,400ドルで落札された。これはCNN配信の記事をABC系列の地方局が掲載したもので、二次情報になる。同じ報道で、主催者は、平均的なヴィンテージのジーンズは約100ドルだと話している。主催者の言う平均的な一本は約100ドルの世界にあり、切って失うのはその程度の値段だ。まれに、そうでない一本がある。切る前に確かめておく価値があるのは、手元の一本がどちらなのか、ということだ。

払った額が、その後の使い方を決めてしまうという研究もある。ハル・アークスとキャサリン・ブルマーが1985年に発表した、劇場の定期券の実験(Organizational Behavior and Human Decision Processes, 35巻)では、オハイオ大学の劇場の窓口に来た人に、定価15ドルの定期券、2ドル引き、7ドル引きをランダムに売った。前半5公演で使ったチケット数は、定価で買った人が平均4.11枚、2ドル引きが3.32枚、7ドル引きが3.29枚で、定価の人のほうがよく通った。ところが、購入から6〜9か月後の後半5公演では、群のあいだに有意な差は見られなかった(後半は全員の来場が減っている)。著者らは、効果が半年は続いたことのほうを強調している。

サンクコスト(回収できない費用)の話は、このサイトの別の記事(趣味のサンクコストの記事)でも扱っている。ここで付け加えるなら、高い古着を買った、という事実は、切る前の迷いを強め、切ったあとの後悔を重くするのかもしれない。この実験が測ったのは来場数で、迷いや後悔ではないので、これは推量にとどまる。

縫わない、足さない、そのまま使う

ここまでの資料を並べて、もとの方針に戻る。ミシンに頼らない。レースや異素材を足して可愛くしようとしない。ベルトループやポケット、リベットのような元からあるパーツは、そのまま活かす。理由を資料に沿って言い直すと、こうなる。

縫わないのは、重なり部分で押えの水平を保つ条件を、すべての箇所で満たし続けるのが面倒だから。足さないのは、足した素材の染料や素材の性質(たとえば、洗濯したときの縮み方の違い)を、こちらが把握していないから。そのまま使うのは、デニムの構造(経糸の青、緯糸の白、ほつれた房)が、すでに一つの意匠として完成しているからだ。最後の点は私の見方であり、資料が言っていることではない。

具体的な使い道を、挙げておく。経験として語るのではなく、可能性として。

脚の部分を鉢の高さに切って、観葉植物の鉢にかぶせる鉢カバー。底を作る必要がなく、筒として被せるだけでいい。切り口をあえて処理せずにほつれさせる手もあるが、ここまでに見たとおり、ほつれは洗うたびに進む。鉢カバーを洗わないなら、ほつれの進み方は、洗濯する服よりずっと穏やかだと考えられる。これは構造からの推測で、実測ではない。気になるなら、切り口にほつれ止め液を塗る手もあるが、使う前に端切れで試すこと、とメーカーは書いている。

ベルトループを切り出して、ケーブルをまとめる結束バンド代わりにする使い方もある。捨てるはずだった端材が、小さな道具になる。強度や耐久性を測った資料はないので、重いものや熱を持つケーブルには向かないと考えておくのが無難である。

どちらも、デニムの厚みと丈夫さを、そのまま生かす使い方だ。裏返せば、デニムの「縫いにくさ」と「ほつれやすさ」を、使い方の側から避けているとも言える。

手放すという選択も、リメイクの隣にある

デニムは、青春や人生の節目を共に過ごした相棒のようなものだ、という人もいるだろう。そういう物は、手元に置いておきたい。けれども、クローゼットの余白を圧迫してまで取っておくのは、本末転倒に思える。環境省の推計に戻ると、手放された衣類のうち、リユースに回るのは35%、リサイクルは7%だった。ハサミを入れて新しい役割を与えるか、染め直すか、あるいは誰かに引き継ぐか。三つの道が、それぞれ違う負荷とコストを持っている。

この記事で、どれがよいと言うつもりはない。ただ、一つだけ思うことがある。「なんとなく取っておく」という状態は、三つのどれでもない。何も決めないまま、未着用の衣類が、その年に買った量の約1.9倍、家の中に眠っている(2020年版調査の推計からの筆者の計算で、在庫と1年の購入量を比べた値)。ハサミを持つ前に、まず、この三つの道のどれを選ぶのかを決める。リメイクの前に決めておくことは、案外そこにあるのかもしれない。

出典

  • ブラザー工業, CPNシリーズ「ぬい方ガイド」(厚い布地をぬう、p.10)。https://download.brother.com/welcome/doch101974/cpn_sg01ja.pdf
  • JUKI, 家庭用ミシン HZL-HT720 取扱説明書(「布地に適した針と糸の選び方」p.14、安全上の注意、厚地のぬい方・段ぬい p.30)。https://www.juki.co.jp/household_ja/vc-files/doc/pdf/HZL-HT720_manual.pdf
  • JUKI, 家庭用ミシン サポートマニュアル(Gシリーズ、ボタン穴かがりの段差の項)。https://www.juki.co.jp/household_ja/vc-files/support/pdf/suport_manual_G.pdf
  • Cotton Incorporated (2004). Denim Fabric Manufacturing (ISP 1010). https://www.cottoninc.com/wp-content/uploads/2017/12/ISP-1010-Denim-Fabric-Manufacturing.pdf
  • Prym Consumer USA, Dritz Fray Check の製品ページ(成分、洗濯・ドライクリーニング可、使用前の試験の注意)。https://prymamericas.com/products/dritznotfraychckseal
  • 化学辞典 第2版(森北出版)、日本大百科全書、世界大百科事典の「分散染料」の項(コトバンク経由の転載)。https://kotobank.jp/word/分散染料 [辞典の記述からの推論を含む]
  • 京都紋付「KUROZOME REWEAR」(髙島屋の案内ページ、2026年10月14日確認)。https://www.takashimaya.co.jp/osaka/kurozome/ および同ページの利用規約PDF(osaka_kurozome_tos_220531.pdf)
  • (二次情報)森亮太, 黒染めの体験記事, Business Insider Japan, 2023年12月15日。https://www.businessinsider.jp/post-279809 [受付の条件と、縫製糸が紺のまま残るという記述。京都紋付のサイト本体では確認できなかった]
  • Levi Strauss & Co. (2015). The Life Cycle of a Jean(Full LCA Results Deck)。https://stg.levistrauss.levis.com/wp-content/uploads/2015/03/Full-LCA-Results-Deck-FINAL.pdf [掲載先は検証用サーバー。機能単位の詳細は確認できなかった。同デッキの冒頭に、同社が2007年にも調査を行ったとの記述がある]
  • 環境省・三菱UFJリサーチ&コンサルティング(令和8年3月)「令和7年度 循環型ファッションの推進方策に関する調査業務 〜2025年版 衣類のマテリアルフロー〜」。https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/goodpractice/materialflow_reiwa7.pdf
  • 環境省・日本総合研究所「令和2年度 ファッションと環境に関する調査業務 報告書概要版」。https://www.env.go.jp/policy/pdf/st_fashion_and_environment_r2gaiyo.pdf
  • Gilbert DT, Ebert JEJ (2002). Decisions and revisions: The affective forecasting of changeable outcomes. Journal of Personality and Social Psychology, 82(4), 503–514.
  • Arkes HR, Blumer C (1985). The psychology of sunk cost. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 35, 124–140.
  • (二次情報)1880年代のリーバイスの落札の報道(CNN配信の記事を、ABC系列の地方局が2022年10月に掲載)。ニューメキシコ州のオークション、手数料込み8万7,400ドル、平均的なヴィンテージのジーンズは約100ドルとする主催者の談話。https://abc7news.com/post/levis-jeans-auction-new-mexico/12328943/
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