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加水分解というスニーカーの矛盾
大切にしまっておいたスニーカーほど早く傷むらしい、という話を、履くことと保存することの関係から考える。
数年ぶりに箱を開けたら、ソールが粉のように崩れていた。一度も履いていない、むしろ大切にしまっておいたはずの靴が、である。スニーカー好きの間ではよく聞く話で、加水分解と呼ばれる現象がその原因らしい。

ミッドソールによく使われるポリウレタンは、軽さとクッション性を両立させる素材だが、空気中の水分と反応して分子内の結合がゆっくり切れていくと言われる。何年でどの程度進むかは環境や個体差が大きいようで、一概な数字は出しにくいが、湿度の高い場所に置かれた靴のほうが早く傷むという話はよく見かける。
なぜ、履かないほうが早く壊れるのか
履かないほうが長持ちするだろう、という直感は、ここでは裏切られるらしい。歩くことでソール内の湿気が物理的に押し出され、空気が入れ替わる。逆に箱に入れたまま、湿気のこもった状態で何年も放置するのが、実はいちばんよくないという説明をよく見かける。大切にしまっておくという行為そのものが、その靴を弱らせている可能性がある。
これは意外と皮肉な話だと思う。保存に凝ること自体が、いつのまにか目的になっていないか。密閉袋、シリカゲル、湿度計。靴を守るための道具を揃えることに、靴そのものを履くこと以上の満足を覚えていないか。少なくとも自分には、その気配がある。
実際に効くらしい工夫は、地味なものばかりだ。
- 紙箱や段ボールに入れっぱなしにしない。湿気を吸い込みやすく、こもりやすい。
- 乾燥させすぎない。湿度を極端に下げると、今度は素材が硬く脆くなるという指摘もある。
- 時々履く。月に一度、近所を歩く程度でも、こもった湿気を入れ替える効果はあるらしい。
崩れることを、どう受け止めるか
それでも、いずれは崩れる。ポリウレタンを使う限り、寿命の先延ばしはできても、回避はできないようだ。中古で古いモデルを探すときも、「未使用に近い美品」という言葉を額面通りに受け取らないほうがいい。むしろ、多少履き込まれている個体のほうが、ソールという点では信頼できることもある。
形あるものはいつか壊れる、というのは当たり前の話だが、それが「使わなかったから」壊れるとなると、話は少し変わってくる。しまっておくことと、使うことと、どちらが本当にその靴を大事にしていることになるのか。崩れたソールの粉を眺めながら、まだその答えは出ていない。
