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黒い服が灰色に見えてきたら
黒が色褪せて見えるのは染料が抜けたからとは限らない。繊維の毛羽立ちが光を乱反射しているだけのこともある。それでも、染め直すという選択について。
黒い服は、着るたびにわずかずつ黒でなくなっていく。襟元や膝の裏側から白っぽく毛羽立ち、数年着た黒Tシャツは、いつのまにか頼りないグレーになっている。デニムの色落ちなら経年変化として愛でられるのに、同じ現象が黒いシャツに起きると、それはただの劣化として扱われる。
この白化は、染料が単純に抜け落ちているだけとは限らないらしい。洗濯の摩擦で繊維の表面がすり切れて毛羽立つ現象(フィブリル化と呼ばれるようだ)が起きると、その毛羽が光を乱反射し、黒い色素がまだ残っていても目には白っぽく映る、という報告を見かける。だとすれば、色褪せて見える黒い服の何割かは、実際には死んでおらず、表面の物理的な状態が変わっただけということになる。
だからといって毛羽立ちを元に戻す方法はなく、結局とれる手段は買い替えるか、染め直すかのどちらかだ。今回試したのは後者で、家庭用染料のダイロンを使って、白っぽくなった黒Tシャツを一枚染めてみた。
染めてみて分かったこと
作業自体は、染料と塩をお湯に溶かし、服を浸けて時々かき混ぜ、すすぐ、という単純な工程の繰り返しだった。手間がかかるとすれば、染料液がなかなか透明にならず、何度もすすぎを繰り返す必要があったことくらいだ。仕上がりは思っていたよりも濃く、新品のときに近い黒が戻ってきた。
ただし、すべてが均等に染まるわけではない。ダイロンのような家庭用染料は綿やレーヨンにはよく染まるが、ポリエステルやナイロンにはほとんど染まらないという性質があるらしい。実際、縫い糸にポリエステルが使われている服では、生地は漆黒になったのに縫い目だけが元の灰色のまま残った。染め直しは服全体を均一に若返らせる魔法ではなく、素材ごとの反応の違いをそのまま引き継ぐ作業なのだと分かった。
染め上がった後の扱いにも、多少気をつかうところがある。市販の洗剤には白い服を白く見せるための蛍光増白剤が入っていることがあり、これは黒い服には向かないようだ。裏返して洗い、直射日光を避けて干すというのも、聞けば当たり前の話だが、白化の主な原因が摩擦と紫外線だと考えると理屈は通っている。
新しい黒を買えば、こうした手間はすべて省ける。それでも、自分の体に馴染んだシルエットまで買い直すことはできない。色だけが理由でクローゼットの隅に追いやられていた服が、また普通に着られる状態に戻るというだけのことに、思っていたより満足感があった。それが染料の効果なのか、単に手をかけたという事実によるものなのかは、自分でもよく分からない。
