目次▼
重いコートを、今の暮らしに合わせて直す
かつて着倒した重厚なウールコートが、今の生活には重すぎる。捨てるのでも仕舞い込むのでもなく、袖を落として軽くするという選択について。
クローゼットの奥に、数十年前に作られた重厚なウールコートがある。以前はその重みこそが良さだと思って着倒していたが、ある時期から、着て出かけるたびに夕方には疲れ果てていることに気づいた。断熱の効いたオフィスと過剰に暖房の効いた電車を行き来する今の生活には、2キロ近い防寒着は明らかに装備過多だった。
愛着があるから手放したくはない。かといって着ないまま吊るしておくのも、場所を占拠するだけの結果になる。それで試したのが、袖を落として仕立て直すことだった。
袖を落とすということ
重いコートから袖を切り落とすだけで、総重量はかなり軽くなる。肩への負担が減るのはもちろん、腕の可動域が広がり、脇の熱が逃げやすくなる分、電車の中で汗ばむことも減った。上に厚手のニットやフーディーを重ねれば、秋口から春先まで幅広い気温に対応できる。生地そのものの質感や仕立ての良さは変わらないまま、今の生活動線に合う形になった。
ただ、これは単なる思いつきの改造ではやりにくい。袖を落とすと服全体の重心が変わるので、テーラリングの構造を理解している職人に頼む方が確実だった。オーダーの際は「三センチ出してほしい」より、「この靴を履いたときに苦しくないように」といった着用イメージを伝える方が、仕上がりの狂いが少ない気がしている。
本当に手放したいのは重さの方だった
いつか着るかもしれない、痩せたら着よう。そう思って保留にしている服は、クローゼットを開けるたびに小さな警報のように鳴り続ける。十着の着られない名品を抱えるより、一着の今の自分に合う服を持つ方が、気持ちの上ではずっと楽だった。古い素材を粗末にするつもりはない。ただ、その重みを今の暮らしに合わせて軽くしておきたかっただけなのだと思う。
