目次▼
「エシカルな趣味」は、買うことから始まっている
綿のトートバッグが元を取る回数は、7,100回とも52回とも言われる。数字を決めた指標と、モラル・ライセンシングの追試を読み直し、「エシカルな趣味」の成り立ちを問い直す。
「エシカルな趣味」というリストを見るたびに、微妙な居心地の悪さを感じる。観葉植物、コンポスト、蜜蝋ラップ、ダーニング、プロギング。並べてみると、たしかにどれも地球に優しそうではある。ただ、多くが「何かを新しく買う」ことから始まっている点が、ずっと引っかかっていた。蜜蝋ラップも、コンポスト容器も、まず購入する。プラスチックの使用を減らすための道具を、新しく生産して手に入れるところから始めるという構造自体は、珍しいものではないのだろう。それでも、この矛盾を単なる皮肉として片づける前に、少し丁寧に立ち止まってみたい。問題は矛盾の存在そのものではなく、その矛盾が消費者の頭の中でどう処理されているか、という方にある気がするからだ。
「エシカル」の定義に、買わないことは入っていない
この種のリストが批判にさらされるとき、たいてい矛先は「本当にエコなのか」という効果の検証に向かう。生産にかかる資源、輸送の距離、廃棄の段階まで含めた総量で見たとき、その道具は本当に元が取れているのか、という問いだ。これはこれで大事な問いで、あとで数字に当たる。その前に、手前の問題から入りたい。なぜ「エシカルな趣味」というジャンルは、これほど自然に「新しい物を買う」ことと結びついてしまうのか。買うことは、環境負荷の原因であると同時に、環境への配慮を示す証拠としても機能している。この二重性が、たぶん話をややこしくしている。
日本の公的な定義も、その二重性の外には立っていない。消費者庁は、エシカル消費を、課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うこと、といった形で説明している。第5期消費者基本計画(2025年3月閣議決定)も、エシカル消費を消費行動として扱い、割高な支払いを伴いうることを前提にしている。定義の中に、買わない、という行為は入っていない。公平のために付け加えると、同じ計画は、服の修理による長寿命化にも触れている。
二重性の片側、買うこと自体の負荷から、先に数字で確かめてみる。その道具を実際に何回使えば「元が取れる」のか、という角度から追う。答えはたぶん直感よりだいぶ大きい。ただし、その大きさには、見落とされやすい仕掛けがある。
布のかばんは、何回使えば元が取れるのか
デンマーク環境保護庁が2018年にまとめたライフサイクルアセスメントの報告書(実施はデンマーク工科大学)は、スーパーで配られるレジ袋を基準に、代替となる各種の買い物袋を比較している。基準になるのは、使い捨てのポリエチレン袋を1回使い、その後ごみ袋として再利用してから焼却するシナリオ。そこに環境負荷が追いつくために、綿のトートバッグはおよそ7,100回、オーガニックコットン製はおよそ2万回使う必要がある、と報告書は示した。毎日使い続けても、後者は55年ほどかかる計算になる。
この数字は、世界中で報じられた。ただ、報告書をそのまま読むと、見え方が少し変わる。7,100回と2万回は、15の環境指標をそれぞれ計算したうちの最大値で、決めているのは「オゾン層破壊」という指標ひとつなのだ。オゾン層破壊を除くと、通常の綿は50〜1,400回、オーガニックは150〜3,800回。気候変動だけで見れば、52回と149回になる。報告書自身が脚注でそう書いている。
オーガニックの回数が通常の綿の約3倍になった理由も、見かけとは違う。栽培の水や土地、低い収量のせいだと説明されることが多いが、土地の利用はこの報告書の評価指標に入っていない。大きく効いたのは、オーガニックの袋が小さく、22リットルの買い物を運ぶのに2枚と数えたことだった。22リットルの買い物を運ぶ単位で、通常の綿の袋1枚と比べると、オーガニックの袋は、1枚あたりの負荷が収量の仮定などで38%大きいうえ、2枚要ると数えたので、合計では177%大きい。報告書は、2枚の扱いのほうが結果に大きく影響した、と書いている。
数字への批判も出ている。オールボー大学の研究者らは、オゾン層破壊の計算に1990年代のデータベースが使われていることを問題にした。報告書の編者のひとりも、実際の綿の負荷は計算より小さいだろうと認めたと伝えられている(いずれも研究者向けニュースサイトの報道で、二次情報)。報告書は、内容は必ずしも当局の公式見解ではないと断り、最低回数は、各袋の実際の寿命について議論を促すためのものだ、とも書いている。
英国環境庁が2011年にまとめた報告書では、綿のバッグは131回だった。ただし、これは地球温暖化係数だけで見た回数で、基準のレジ袋を一度も再利用しない場合の数字だ。レジ袋の40.3%がごみ袋に再利用される実態に近い前提では173回、すべて再利用されるなら327回になる。デンマークの基準は「ごみ袋として再利用する」場合なので、前提を揃えれば、気候変動でも52回と327回で、差は約6倍ある。基準の袋の素材と重さ(英国は高密度ポリエチレン、デンマークは低密度ポリエチレンの平均)、買い物の量の単位、綿のデータの違いが響いていると考えられるが、それぞれの寄与までは確かめられなかった。7,100回と131回が並んで語られるとき、片方は15指標の最大値、もう片方は気候変動だけで、基準の置き方も違う。比べる物差しが揃っていない。
ここで確認しておきたいのは、これらの数字が「布のかばんは無意味だ」と主張しているわけではないという点だ。数十回なのか数千回なのかは、何を物差しにするかで変わる。それでも、どの物差しでも、「買えば済む」話ではなく、「使い続けて初めて元が取れる」話であることは動かない。そのかばんを買った瞬間に、もう配慮すべきことは済んだ、という感覚が生まれるとすれば、その感覚と、元が取れるまでの距離は、大きく開いている。
「グリーン」を名乗るものの九割五分
その感覚を支える表示のほうに、目を向けてみる。そもそも、店頭に並ぶ「環境に優しい」という表示を、消費者はどこまで正確に見極められているのか。環境マーケティングのコンサルティング会社テラチョイスが2010年にまとめた報告書「The Sins of Greenwashing」は、2010年3〜5月に米国15店、カナダ19店で、環境への配慮をうたっていた家庭用品5,296点を調べた。そのうち95%超が、同社の定める「グリーンウォッシュの七つの罪」のうち、少なくとも一つに該当していた。
分母に注意が要る。95%は家庭用品全体の話ではなく、「環境に良い」と自ら名乗った製品のうちの割合だ。七つの罪とは、隠れたトレードオフ(不当に狭い属性だけで「グリーン」をうたう)、証拠なし、あいまいさ(「オールナチュラル」のように、ヒ素も水銀も天然だ)、無関係、二つの悪のうちまし、嘘、偽のラベルの崇拝。同社の2009年版では2,219点の98%超が、2007年版では1,018点のうち罪を犯していないのは1点だけだった。罪のない製品の割合は、2010年には約4.5%まで増えた。ただし、隠れたトレードオフの割合が1年で71.3%から27.4%に下がったのは、報告書自身が、定義と適用の仕方を変えたことが一因だと認めている。
書き手は業界団体でも学術機関でもなく、環境マーケティングの会社で、当時はUL(Underwriters Laboratories)グループの一員だった。報告書は、解決策としてEcoLogoなど、ISO 14024型の第三者認証を勧めている。実際、そうした認証のある製品では、罪のない製品の割合が30%を超えた(全体は4%台)。査読を経た研究ではなく、勧める側にも立場がある調査であることを割り引いても、5,296点という規模は、無視できる数字ではない。
日本でも、似た光景が公的な調査で確認されている。消費者庁は2026年8月に「環境ラベルに関する実態調査報告書」を公表した。事業者のウェブサイトやECサイトなどの広告表示から集めた環境ラベル139種類のうち、説明が併記されていないなど、環境配慮の内容が外形上はっきりしないものが59種類。「ECO」の文字と葉の絵だけのラベルを一般の消費者1,000人に見せると、55.1%が「何かしら環境に配慮したエコなもの」と答えた。「プラスチック削減」とだけ書いたラベルを見せると、50.6%が「削減率は100%だと思う」と答え、50%程度以上だと思う人は計80.1%にのぼった。削減をうたうラベル25種類のうち、削減率を数字で書いていたのは10種類だけだった。
同じ報告書には、事業者の証言もある。ある事業者は、ECサイトの環境マークを付けてもらうために、基準の緩い第三者認証だけを選んで取得していると語った。マークが付いた商品は、検索結果の上位に出やすいからだという。趣味の道具も無縁ではない。2022年12月には、「水中の微生物によって分解される」とうたった釣り用の疑似餌31商品が、合理的な根拠がないとして、景品表示法の優良誤認で措置命令を受けている。欧州連合も、指令(EU)2024/825で、「環境にやさしい」「エコ」「生分解性」といった一般的な環境表示を、優れた環境性能を示せない限り禁じ、2026年9月27日から適用が始まった。
こうした状況は、消費者の判断力が足りないという話ではない。環境性能の多くは、買う側が確かめようのない種類の情報だ。産地の情報がない生地、根拠となる測定方法が書かれていない「生分解性」の表示、第三者機関のように見えて自社基準にすぎない認証マーク。店頭で「これはエコな商品だ」と判断する行為そのものが、頼りない足場の上に立っている。買う瞬間の確信と、その確信を裏づける根拠の強さが、釣り合っていない。
意図と行動のあいだにあるもの
次は、話を消費者の内側に寄せる。仮に表示が正確で、根拠もはっきりしていたとしても、人はその情報どおりに買い物をするとは限らない。
オーストラリアの研究者カリントン、ネビル、ホイットウェルは、2010年に、倫理的に配慮した購買の意図が、実際の購買に結びつかない理由を概念的に論じた。事前の計画、買い物の場での実際の行動の統制、買い物環境の諸側面、という三つの観点だ。この論文自体に実証データはなく、実際の追跡調査は、2014年の別の論文にある。研究者たちは、倫理的な関心を持つ13人を、買い物への同行と、文章と写真の買い物日記で、数か月にわたって追った。本人たちの自己申告では、「筋金入り」から「知っているだけ」まで幅がある。そこから挙げられた隔たりの要因は、倫理的な関心の優先順位づけ、計画と習慣の形成、関与して犠牲を払う意思、買い物の様式の四つだった。13人の定性研究なので、一般化はできない。
日本の調査にも、似た形の隔たりが出ている。消費者庁の令和元年度の調査(16〜65歳、2,803人、インターネット調査)では、エシカルな商品を「今後は購入したい」と答えた人が81.2%いた。一方、購入したことがある人は39.7%で、「買ったことはないが、今後は買いたい」人が45.7%いた。一時点の集計なので、同じ人を追った上の研究とは性格が違うが、意向と実際のあいだに、半分ほどの距離があることは読み取れる。令和7年度の調査(15歳以上5,000人)では、取り組まない理由のうち、具体的な理由で最も多かったのは「どれがエシカルな商品か分からない」の24.9%だった(「特に理由はない」が40.5%で、それを上回る)。先に見た、ラベルの頼りなさと、つながる数字である。
この隔たりを、意志の弱さの問題として片づけるのは簡単だが、たぶん的を外している。意図そのものは、本人にとって嘘でも誇張でもない。ただ、実行の段階になると、価格や習慣、計画のなさといった別の力学が優先されることがある。「エシカルでありたい」という自己像と、実際の行動の履歴は、同じ人間の中で、別々に管理されているのかもしれない。
買うという行為が、免罪符になるとき
自己像と行動が別々なら、その二つのあいだで、何かが取引される可能性もある。それを検証したのが、心理学者のマザーとチョンが2010年に発表した実験だ。トロント大学の学生156人を、グリーンな商品が多い店(グリーンな商品9、通常の商品3)と、その逆の店に分け、さらに、商品を見て評価するだけの群と、買うために選ぶ群に分けた。選ぶ群は、25ドルまでの予算で商品を選び、25人に1人が実際に選んだ品物をもらえる。その後、6ドルを相手と分け合う匿名の分配ゲームをおこなった。
結果は、少し地味だった。統計的に有意だったのは、店の種類と、見る・選ぶの組み合わせの交互作用だけだ。見るだけの群では、グリーンな店の学生が、通常の店の学生より多く分け合った(2.12ドル対1.59ドル)が、この差は単独では有意でなかった(p=.094)。選ぶ群では、方向が逆になった(1.76ドル対2.18ドル)が、この差も単独では有意でなかった(p=.195)。方向が逆になったという点に意味はあるが、「見ると寛大になり、選ぶと吝嗇になる」と言い切れるほどの結果ではない。
ごまかしに関しては、別の実験(学部生90人、分析は81人)がある。点の数を判断する課題で(「右が多い」と答えると報酬が高い設定だった)、実際に右が多いのは40%の試行だけなのに、「右が多い」と答えた割合は、通常の店で選んだ学生で42.5%、グリーンな店で選んだ学生で51.4%だった。最後には、机の上の封筒から自分で報酬を取る課題があり、グリーンな店の学生は平均0.56ドル、通常の店の学生は0.08ドルを多く持ち帰った。この実験に、見るだけの群はなく、参加者は自分のお金を払ってもいない。言えるのは、お金を払わなくても、グリーンな店で選んだ群のほうが、不正直な行動が多かった、というところまでだ。
研究者たちはこれを、モラル・ライセンシングと呼ばれる心理現象の一例として説明している。何か道徳的に見える行為を一度おこなうと、人は自分の中の「良い人間である」という証明を先に済ませたと感じ、その直後にやや踏み外した行動を取っても構わないと、自分を許してしまう。良い行いが、次の行いへの免罪符として使われてしまう、という説明だ。
この機序について、先行する理論がある。サッチデーヴァ、イリエフ、メディンが2009年に発表した研究は、道徳的な自己調整という枠組みを提案した。ノースウェスタン大学の学生46人に、肯定的な特性語(思いやりがある、気前がよい)、否定的な特性語(貪欲、不誠実)、中立の語のいずれかを使って、自分についての短い物語を書かせ、その後、好きな慈善団体への寄付額を書いてもらう。誓約額の平均は、否定的な語の群で5.30ドル、中立で2.71ドル、肯定的な語の群で1.07ドル。肯定的な群は、否定的な語の群のおよそ五分の一だった。ただし、実際に払った額ではなく誓約した額で、1条件は約15人にすぎない。同じ研究チームは三つ目の実験で、工場の汚染防止フィルターを何%の時間動かすかという仮想の場面でも、肯定的な語の群が最も低い値(56%)を選んだと報告している。
その効果は、追試するとかなり縮む
ここで話を終えると、「エコな買い物は人を悪くする」という、これはこれでキャッチーな結論に着地してしまう。その前に、検算をしておきたい。
まず、サッチデーヴァらの操作そのものを追試した結果がある。ブランケンらは2014年に、同じ操作を、学生105人、学生150人、オンラインの参加者940人で試し、3回とも再現しなかった。自分についての肯定的な文章を書くだけで、その後の行動が緩む、という図式は、追試の側から見ると、あまり頑丈ではない。
モラル・ライセンシングという現象全体については、ブランケン、ファン・デ・フェン、ゼーレンベルグが2015年にまとめたメタ分析がある。91件の比較、参加者7397人分のデータを統合し、全体の効果をコーエンのdでおよそ0.31と算出した。統計的に検出できる効果ではあるが、規模は控えめの部類に入る。しかも、公表された研究のdは0.43、未公表の研究は0.11だった。出版バイアスの影響で、公表された研究が効果を大きく見せていた可能性がある。その後、バイアスを補正し直した分析(クーパーとボット、2019年)は、効果をd=−0.05または0.18まで縮めている(抄録まで確認)。−0.05は、効果がないか、逆向きの値だ。
さらに、マザーとチョンの実験を狙い撃ちにした追試もある。アーバン、バーニーク、ブラウン・コフロヴァーが2019年に発表した研究は、環境配慮商品の購入が不正直さを増やすかどうかを、チェコのオンライン調査会社の一般成人を対象に、三つの方法で検証した。合計1274人。元の実験と同じ課題と報酬設定で、人数は元の約4倍だった研究では、「右」と答えた割合が、元の2条件に何もしない対照群を加えた3条件とも40.8〜41.7%で、差がなかった。3つの追試の効果量は−0.16〜0.07で、2つは逆向きだった。オンラインか実験室か、学生か一般成人か、国が違うか、といった違いがあるので、「場所と方法を変えた追試で見つからなかった」と書くにとどめるべきだが、少なくとも不正直さという指標では、思われているほど頑丈ではない。
要するに、「買うことが免罪符になる」という図式は、存在がまったく否定されたわけではないが、補正すると残るかどうかも分からない、という段階にある。
人目があると、エコな製品が選ばれやすくなる
免罪符とは別の機序も、研究されている。買い物が人に見られるとき、人はエコな製品を選びやすくなる、というものだ。
心理学者のグリシェヴィシウス、タイバー、ファン・デン・バーグが2010年に発表した一連の実験は、参加者の中に「地位を求める動機」を喚起したうえで(大学を出て大企業に就職し、昇進を争う物語を読ませた)、環境に配慮した製品と、より贅沢な非エコ製品のどちらを選ぶかを比較した。学生168人の実験では、ハイブリッド車を選んだ人の割合が、対照群の37.2%から、地位の動機を喚起された群の54.5%に増えた。
93人の実験では、店で買い物をしている場面を想像するか、自宅でひとりネットで買い物をしている場面を想像するかを操作した。公開の想定では、地位の動機がエコ製品への選好を高めた。私的な想定では、効果は現れず、むしろ贅沢な非エコ製品のほうにやや傾いたが、この傾きは有意の手前にとどまった(p=.058)。別の156人の実験では、エコ製品のほうが高いときに限って、地位の動機が選好を高めた。ただし、この実験は全員が店で買う想定で、公開性と価格を組み合わせて検証したわけではない。どの実験も、想像上の買い物である。
この現象は、論文の題に「顕示的節約(conspicuous conservation)」という語で出てくる。その語を、ヴェブレンが1899年に論じた「顕示的消費」の裏返しとして明示的に位置づけたのが、経済学者セクストンらの2011年のワーキングペーパーだ。
ここから先は、筆者の推測になる。趣味は、人に見せやすい営みだ。ただし、原典の実験が操作したのは、買う場面が人目にあるかどうかで、買った後に見せることではない。見えやすい製品ほど効く、とも示していない。趣味の道具に話を広げられるかどうかは、この実験からは言えない。効果は、車でもバックパックでも電池でも石けんでも、同じくらいだった。なお、この節の実験について、追試の有無までは確かめていない。
では、買わないことは、どれほど効くのか
ここまでは、買うことの心理の話だった。ここからは、数字の側に寄る。買わないこと、あるいは長く使うことは、どれほど効くのか。
衣類の場合、環境省の令和2年度の調査(日本総合研究所)は、日本に供給される服の二酸化炭素の94.6%が、原材料の調達から店に届くまでに出ていると推計した。服1着で約25.5kg。同じ環境省のサイトによれば、家庭にある服の45%は、使われないままにしまい込まれている(2023年の推計)。英国のWRAPの推計では、服を平均9か月長く着ると、炭素が27%、水が33%、廃棄物が22%減る。ただし、同じ英国の2016年の調査で、穴をかがる、当て布をする自信があると答えた人は35%だった。WRAPの別の試算では、レンタルと修理を扱う事業で売られる服を1割にし、その寿命を50%延ばしたとしても、炭素の削減は3%にとどまる。長く着ることは効きうる、というのが、これらの数字からの筆者の読みだ。3%は、対象を服の1割に絞った試算の値で、修理の限界を示すものとは限らない。
家庭用コンポストの場合は、直感に反する結果が出ている。スペインの研究者らのライフサイクルアセスメント(2010年、抄録まで確認)は、地球温暖化への影響は、家庭用のコンポストのほうが、工業的な堆肥化より大きかったと報告した。家庭用の負荷の主な原因は、コンポスト容器の製造と、ガスの排出だった。一方で、同じ抄録によれば、7つの指標のうち資源の枯渇、オゾン層、光化学オキシダント、累積エネルギー需要の4つでは、家庭用のほうが負荷が小さく、著者らは、人口密度の低い地域では、家庭用が工業的な堆肥化の有望な代替か補完になりうる、としている。デンマークの研究者らの測定(測定値は先行研究から引かれたもの)では、家庭用コンポスト6基を1年間測ったところ、こまめにかき混ぜた容器ほど温室効果ガスが多く出ていた。蜜蝋ラップ、ダーニング、プロギングそのものの環境効果を、査読された研究で検証したものは、探した範囲では見つからなかった。
もう一つ、この記事の論旨に別の留保をかける数字がある。地球環境戦略研究機関(IGES)らの2019年の報告書によれば、日本人1人あたりのライフスタイル・カーボンフットプリント7.6トンのうち、モノ(消費財)は1,030キログラムで13%。最大は住居の32%だ。しかも、お金あたりの排出は、消費財もレジャーサービスもほぼ同じ(100円あたり0.29キログラム)で、報告書自身が、支出をモノから体験に移すだけでは、すぐには減らないかもしれない、と書いている。同じ箇所で、低炭素な余暇や、モノの消費の絶対量を減らすほうが効く、とも書いている。つまり、買わないことは効きうるが、浮いたお金の行き先で、その効果は変わる。
買わないことも、採点の対象になりうる
ここまで数字を並べてきて、では何も買わなければいいのか、という単純な結論に流れそうになる。ただ、買わないことが、別の意味で採点の対象になる可能性は、残しておきたい。「私は何も買わない」という選択それ自体を、一種の道徳的な達成として内心で採点し始めたなら、買うことが「配慮の証拠」になるのと似た構図が、買わないことの側にも生まれるかもしれない。そうなるかどうかは、この記事で見た研究からは言えない。
この一連の研究が教えてくれるのは、行動の正しさを判定する基準ではないように思う。買ったか買わなかったか、エシカルかそうでないかという二分法が、あまり役に立たない、という見通しの方だ。トートバッグが元を取れるかどうかは、買った瞬間には決まらない。その後、必要な回数まで使い続けられるかという、地味で退屈な継続の中でしか決まらない。カリントンらが挙げた「計画と習慣」は買い物の場の話だったが、使い続けることにも通じる要因だと、筆者は読む。原典自身が、習慣になった倫理的な買い物の例に、使い古した袋を持って買い物に行くことを挙げている。
棚の奥に一度も使われないまま置かれている布のかばんがあるとすれば、その理由は一つではないだろう。買った時点で満足してしまったのかもしれないし、使う場面の計画と習慣が伴わなかっただけかもしれない。この記事で見た研究は、どちらなのかを教えてくれない。たとえば、レジ横に積まれたかばんを見て、「これは持っておいた方がいい気がする」と感じたとする。その淡い感覚の出どころを、いったん疑ってみるくらいのことは、できそうだ。
出典
- Bisinella, V., Albizzati, P. F., Astrup, T. F., & Damgaard, A. (eds.) (2018). Life Cycle Assessment of grocery carrier bags. Environmental Project No. 1985, Miljøstyrelsen(デンマーク環境保護庁)。
- Environment Agency (2011). Life cycle assessment of supermarket carrier bags: a review of the bags available in 2006. Report SC030148.
- デンマークの報告書への批判と当局の反応は、研究者向けニュースサイト Videnskab.dk(2018年3月20日)と ing.dk(2018年3月16日)の報道により確認した(二次情報)。
- TerraChoice Environmental Marketing Inc. (2010). The Sins of Greenwashing: Home and Family Edition。比較に同社の2009年版、2007年版。
- 消費者庁表示対策課「環境ラベルに関する実態調査報告書」令和8年(2026年)8月20日。消費者庁報道発表「(釣り用疑似餌の生分解性表示に対する措置命令)」2022年12月23日。
- European Union, Directive (EU) 2024/825 of the European Parliament and of the Council(環境に関する主張を含む不公正な商慣行の規制)。
- 消費者庁「エシカル消費(倫理的消費)に関する消費者意識調査報告書」令和元年度(2020年2月)、同「令和7年度第2回消費生活意識調査」、第5期消費者基本計画(2025年3月閣議決定)。
- Carrington, M. J., Neville, B. A., & Whitwell, G. J. (2010). Why ethical consumers don't walk their talk. Journal of Business Ethics, 97(1), 139–158(概念論文。抄録までと、後続論文の紹介により確認)。Carrington, M. J., Neville, B. A., & Whitwell, G. J. (2014). Lost in translation: Exploring the ethical consumer intention–behavior gap. Journal of Business Research, 67(1), 2759–2767.
- Mazar, N., & Zhong, C.-B. (2010). Do green products make us better people? Psychological Science, 21(4), 494–498(採録前原稿で確認)。
- Sachdeva, S., Iliev, R., & Medin, D. L. (2009). Sinning saints and saintly sinners: The paradox of moral self-regulation. Psychological Science, 20(4), 523–528. Blanken, I., van de Ven, N., & Zeelenberg, M. (2014). Three attempts to replicate the moral licensing effect. Social Psychology, 45(3), 232–238(抄録まで確認)。
- Veblen, T. (1899). The Theory of the Leisure Class.
- Griskevicius, V., Tybur, J. M., & Van den Bergh, B. (2010). Going green to be seen: Status, reputation, and conspicuous conservation. Journal of Personality and Social Psychology, 98(3), 392–404. Sexton, S. E., & Sexton, A. L. (2011). Conspicuous conservation: The Prius effect and willingness to pay for environmental bona fides(ワーキングペーパー)。
- Blanken, I., van de Ven, N., & Zeelenberg, M. (2015). A meta-analytic review of moral licensing. Personality and Social Psychology Bulletin, 41(4), 540–558. Kuper, N., & Bott, A. (2019). Has the evidence for moral licensing been inflated by publication bias? Meta-Psychology, 3(抄録まで確認)。
- Urban, J., Bahník, Š., & Braun Kohlová, M. (2019). Green consumption does not make people cheat: Three attempts to replicate moral licensing effect due to pro-environmental behavior. Journal of Environmental Psychology, 63, 139–147(プレプリントで確認)。
- 環境省 令和2年度「ファッションと環境」調査(日本総合研究所)、環境省 サステナブルファッションのサイト。WRAP (2012) Valuing our clothes(要約版)、WRAP (2017) Valuing Our Clothes: the cost of UK fashion(ミラーサイトで確認)。
- Martínez-Blanco, J., Colón, J., Gabarrell, X., Font, X., Sánchez, A., Artola, A., & Rieradevall, J. (2010). The use of life cycle assessment for the comparison of biowaste composting at home and full scale. Waste Management, 30(6), 983–994(抄録まで確認)。Andersen, J. K., Boldrin, A., Christensen, T. H., & Scheutz, C. (2011). Mass balances and life cycle inventory of home composting of organic waste. Waste Management, 31(9–10), 1934–1942.(ガスの測定値は同じ研究グループの先行論文 Andersen et al. 2010a による)
- IGES, Aalto University, & D-mat (2019). 1.5-Degree Lifestyles: Targets and options for reducing lifestyle carbon footprints. Technical Report.
