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ある会社で壁を取ると、対面は1日5.8時間から1.7時間に

ある会社で壁を取ると、対面は1日5.8時間から1.7時間に

ある本社では壁を取り払うと対面の会話が1日約5.8時間から約1.7時間に減り、参加者どうしのメールは56%増えた。別の会社でも席の距離は約2mのまま、対面が約7割減った。静けさやカフェの効果まで、同じ目で疑い直す。

TOMOAKI··仕事

壁を取り払ったら、話さなくなった

壁をなくせば、人はもっと気軽に話すようになる。オープンオフィスを設計した人たちは、たぶんそう考えていた。視線を遮るものがなければ、立ち話が生まれ、アイデアが行き交い、部署の垣根も低くなる、と。

この期待を実測した研究がある。経営学者のイーサン・バーンスタインとスティーブン・ターバンが2018年に発表したもので、舞台は匿名の二つの大企業(どちらもフォーチュン500に入る多国籍企業の本社)だ。一社目では、壁のある旧フロアから、1フロア丸ごと壁のない新フロアへ、社員がそのまま引っ越した。参加したのは52人(対象者の約4割)。社員にはソシオメトリック・バッジという名札型の装置をつけてもらった。赤外線で誰と向き合ったか、マイクで話しているかどうか(内容は記録しない)、加速度、位置を、細かい間隔で記録する。向き合って、交互に話し、10メートル以内にいる。この三つが揃えば「対面の会話」と数える。

改装前の15営業日と、約3か月後の15営業日を比べると、対面で過ごす時間は一人あたり合計5,266分から1,492分に落ちていた。1日あたりに直すと、約5.8時間が約1.7時間だ。減少は72パーセント。一方、参加者どうしの送信メールは56パーセント(66通)、チャットの件数は67パーセント(99件)増えた。数は、論文の数え方での15日間の増加分である。会話の置き場所が、対面から画面へ移ったように見える。

この数字だけなら、一社の一フロアの話だ。二社目では、約2メートル間隔の個別ブースから、仕切りのない6〜8人掛けの大きな島へ移った100人(そのフロアの約45パーセント)を、8週間ずつ前後で測った。対面の時間は、統計モデルの選び方によって67〜71パーセント減。メールは22〜50パーセント増。やり取りのあった人と人の組み合わせ1,830組のうち、対面が減った組は643、増えた組は141である。

この研究には、読み落としやすい細部がある。二社目では、席と席の間隔は、改装の前後でどちらもおよそ2メートルだった。変わらなかったのは席の距離で、変わったのは視界をさえぎるものだった。席が近いほど話す、という傾向は対面で強く、メールでは弱かった。ただし、変わったのは視界だけではない。個別ブースが島になり、同じ場所に座る人数も増えている。

「画面の向こうに逃げた」は、解釈であって測定ではない

書いておくべき留保がいくつかある。比較用の対照フロアはなく、参加は希望者で、測定の窓は短い。生産性が下がったという記述は、一社目の幹部が社内で述べた定性的な評価で、著者が測ったものではない。独立した追試も、今回探した範囲では見つからなかった。

「人目と音から逃れたくて、電子的なやり取りに引っ込んだのではないか」という説明も、著者らの解釈である。論文は、プライバシーと「見られている」ことへの懸念が人を社会的に引かせた可能性を論じるが、これを直接検証してはいない。測られたのは、対面とメールの量の変化までだ。

逆向きの結果もある。ある政府機関で、半分仕切られたオープンプランから完全なオープンプランへ移った前後を、移転の約1年前と、移転の1年以上あとに調べた研究(ラシードらの2009年の報告)では、見通しが良くなって対面の交流が増え、知覚されたプライバシーも高かったと要約されている。小さな職場の一例で、数値は確認できていないが、「壁をなくすと必ず会話が減る」とまでは言えない。どんな壁を、どんな職場から取るのかに、結果は左右されるらしい。

気になるのは音量ではなく、聞こえ方だった

オープンオフィスの不満といえば、まず騒音が挙がる。ここでも直感を裏切る研究が重なっている。

個室からオープンプランへ移った31人を、移転の前後で追った研究(2009年)では、1日の平均騒音レベルは、移転の前後でほとんど変わらなかった。変わったのは、話し声の聞き取りやすさだ。会話が聞こえやすくなり、妨害されると感じる回数と、集中の難しさを訴える声が増え、騒音のせいで仕事の成績が下がったという自己評価は、およそ倍になった。人数は少なく、自己申告ではあるが、音量計の針が動かなくても、人の気持ちが乱れる条件は成り立つことを示している。

この感覚には、理論がある。ホンギストが2005年にまとめたモデルは、文献上の作業成績の低下が課題によって4〜45パーセントに及ぶことを整理し、妨害力を決めるのは話し声の音量ではなく「明瞭度」(話の内容がどれくらい聞き取れるかを表す指標)だと位置づけた。明瞭度が0.2を超えると成績が下がり始め、0.6あたりでほぼ最大になる。聞き取れない距離の大声より、聞き取れてしまう距離の小声のほうが厄介だ、ということになる。これは既存の知見をまとめた予測式であり、新しい実験ではない。

数で見るなら、居住後評価の大規模なデータがある。米国の303棟、4万2千人あまりの居住後評価データを分析した2013年の研究は、大学の発表によれば、個室の人の満足度がもっとも高いこと、オープンプランでは音のプライバシーへの不満が強く、間仕切りがあるとさらに強まることを報告した。紹介記事によれば、「交流のしやすさ」の項目でさえ、個室のほうが満足度が高い傾向だったという。横断的な満足度調査なので、因果ではなく関連の話である。

現場の声はもっと素朴だ。2事業所の88人に聞いた調査では、99パーセントが「オフィスの音で集中が損なわれた」と答えた。最悪とされたのは、誰もいない席で鳴り続ける電話と、背景の話し声だった。時間がたっても慣れる証拠は見つからなかった、と論文は書いている。自己申告の調査である。

フィンランドで、個室からオープンプランへ移った二つの組織を比べた研究(2018年、移転前後で合計300人余りの回答)では、気を散らされる感覚は、どちらの組織でも増えた。環境への満足、協働の実感、ストレスへの悪影響が出たのは、静かに過ごせる部屋が少ないほうの組織だけだった。組織どうしの他の違いまでは統制されていないが、壁がないこと自体より、逃げ込める静かな場所があるかどうかが、分かれ目になっていたのかもしれない。

病欠の数にも、うっすらと影が出ている

騒音と視線は、仕事の質だけでなく、体にも出るのだろうか。デンマークの全国調査(オフィスで働く2,403人)では、自己申告の病欠日数を、年齢や喫煙などをそろえて比べると、個室で働く人より、2人部屋で50パーセント、3〜6人部屋で36パーセント、7人以上のオープンプランで62パーセント多かった。自己申告の横断調査なので、原因までは言えない。

ノルウェーの6,328人を1年追った研究は、少し違う絵を見せている。診断書つきの病欠が「あった」確率は、個室に比べて、相部屋で1.18倍、オープンプランで1.12倍だった。ところが、病欠の「日数」には差が出なかった。一度でも休む人の割合は増えても、休んだ日数は増えていない。長引く病気が増えたわけではなさそうだ。空気を共有する感染説、騒音のストレス説、人目があって休みにくい説。研究の中でも、どれが効いているかは切り分けられていない。

静かにすれば集中できる、とも言い切れなかった

では、オフィスから逃げて静かな場所へ行けばいいのか。そう簡単でもない。マーケティング研究者のラビ・メータらが2012年に発表した5つの実験では、70デシベル前後の環境音の下で、50デシベルの静かな環境より、創造性を測る課題の成績が高かった。85デシベルまで上げると、成績は落ちた。著者らは、ほどよい雑音が処理を少しだけ難しくし、抽象的な発想を促す、と説明している。

この話は、カフェで仕事が捗る理由としてよく引かれる。ただ、後続の研究の説明によれば、実験で流していたのは、レストランの雑音を模した混合音(遠くの工事音、複数人のざわめき、道路の交通音)で、カフェそのものの音ではない。しかも、独立した追試は、確認できた範囲では見つからなかった。年齢の違う二つの研究は、結果が割れている。5〜11歳の44人を、教室の騒音(平均約64デシベル)の下で調べた研究では、騒音による上乗せはどの指標にも出なかった。大学生42人にヘッドホンで環境音を流した研究では、思いつくアイデアの数は増えたが、独創性は上がらなかった(抄録による)。

音楽ではさらに様相が違う。2019年の三つの実験は、ひとつの単語を探す連想課題(手がかり語三つから共通の一語を探す)で、背景に音楽を流すと成績が下がることを示した。歌詞のない器楽でも、平均の正答率が静寂の0.39に対して音楽は0.29で、解けた問題が約4分の3に減った(18人)。歌詞のあるなじみの曲では、静寂だけでなく、図書館の環境音に対しても劣った。そしてこの実験では、図書館の環境音は、静寂と差がなかった。前段のメータの結果とは、そのままでは噛み合わない。

音楽が役に立つ場面もある。幸せな気分になる曲だけが、発想を広げる課題の成績を上げ、悲しい曲、穏やかな曲、不安な曲では差がなかった、という報告がある。一方、同じ研究で、答えを一つに絞る課題には、音楽の効果が見られなかった。「音楽を聴くと創造的になる」の正体は、曲の種類と課題の種類の、かなり狭い組み合わせだったことになる。

ヤーキーズ・ドットソンの「法則」の元は、白黒の箱を選ぶマウスだった

覚醒が高すぎても低すぎてもパフォーマンスは落ちる、という逆U字の話は、集中力の説明に頻繁に使われる。「ヤーキーズ・ドットソンの法則」と呼ばれ、1908年の論文が出どころとされる。

原文を読むと、様子がかなり違う。実験の対象は「ダンシング・マウス」と呼ばれるマウスだ。二つの通路のうち、黒い箱に入ると電気ショックを受け、白い箱なら受けない。この白黒を見分けるまでに、何回の試行が必要かを数えた。動かした変数は電気刺激の強さである。「覚醒」という語は論文に出てこない。

結果は、すべてが逆U字になったわけではない。白黒の差が中程度のときは、中くらいの強さ(300単位)のショックで最も速く覚えた(試した強さが3段階だけなので、本当の最適点を見逃しているかもしれない、と著者は断っている)。白黒の差が大きく簡単なときは、刺激が強いほど速く覚え、最も強い420単位が最適だった。最も難しいときは、試した範囲の中間にあたる195単位が最適だった。著者の結論は、弁別が難しくなるほど、有利な刺激は閾値に近い弱いものになる、というものだ。課題が易しいほど強い刺激、難しいほど弱い刺激。簡単な暗算なら追い立てられたほうが速く、入り組んだ書類の整理なら追い立てが強すぎると手が止まる、という日常の感覚と重なる。これは現在の「単純な作業ならやや高めの覚醒が向き、複雑なら低めが向く」という言い方にも通じる。逆U字という形が前面に出たのは、後世の解釈による。

この古い実験の上に、アイゼンクが1967年に、外向的な人は元々の覚醒水準が低く、刺激を求めやすい、という理論を重ねた。この理論の実証の状況は、今回の調査では確かめきれていない。英国の女子生徒118人で、騒音のほうが音楽より成績を落とし、内向的な生徒ほど落ち込みが大きかったという報告もあるが、これは紹介記事(BPSリサーチ・ダイジェスト)を介した確認である。

「内向的」と「繊細」を同じものとして扱わないほうがいい、という指摘もある。エレイン・アーロンが提唱した「感覚処理感受性」は、刺激を人一倍強く処理する特性だ。アーロン自身の回想では、この特性を調べたインタビュー対象の約40人のうち、およそ3割が外向的な人だった(別の回想では4割に近いとも書かれている)。募集したのは、とても敏感な人か、非常に内向的な人だったので、外向的な人が混じっていたのは意外だったという。便宜的に集まった小さな標本の観察で、母集団の「3割」ではない。アーロンは、この特性を持つ人を人口の約2割と見積もったり、約3割と書いたりもしていて、数字は安定していない。

ハーファログが邪魔なのは、「補完」のせいではないらしい

騒音の中でも、とりわけ厄介な種類がある。電話の片側だけが聞こえる会話だ。「ハーファログ」と呼ばれ、2010年のエンバーソンらの実験では、両側の会話が聞こえるときより、片側だけのときのほうが、聞き手の作業を強く妨げた。

実験の中身を見ておく。学部生24人が、画面上の動く点をマウスで追う課題と、4つの目標文字に反応する選択反応課題をこなす。背景には、女子学生2組の携帯電話での会話が流れる。両側が聞こえる会話、片側だけのハーファログ、会話の内容を一人が話す独白、そして無音。選択反応のヒット率は、無音で94.7パーセント、ハーファログで90.4パーセント。会話と独白は無音と差がなかった。差は4ポイントほどで、劇的ではない。それでも、聞こえている音声の長さは、会話が全体の92パーセント、ハーファログが約55パーセントと、ハーファログのほうが少ない。音声が少ないほうが邪魔になる、という題名の通りの結果だ。

面白いのは、その理由だ。著者らは、聞き手が会話の欠けた半分を頭の中で補ってしまうせいではないか、という素朴な説明を、明確に退けている。内容が予測しにくいことが注意を引く、というのが彼らの解釈だ。別の実験(17人)では、音声を加工して内容を聞き取れなくすると、ハーファログの妨害が出なかった。ただし、二つの実験の差が統計的に有意とまでは言えない水準で、録音も4人分だけである。

「意味のある会話こそが妨げになる」という通念とも、慎重に付き合う必要がある。無関係な音声が記憶を妨げる「無関係発話効果」の研究では、標準的な説明は「音が刻々と変わること」(変化状態)のほうだ。同じ音がずっと続く換気扇より、一音ごとに音の形が変わる話し声のほうが、順番を覚える作業の邪魔になる、というのに近い。後続の研究の紹介によれば、音の高さの違う純音の列でも、同じ種類の妨害が起きた。意味が効く場面もあるが、それは課題が意味を扱うものだったときに限られる、という報告が続いている。そして、この領域の証拠の多くは、順番に単語を思い出す記憶課題と、若い成人の実験に偏っている、というビーマンの2005年の総説の批判を加えておく。ハーファログの実験と無関係発話効果の実験では課題が違うので、同じ現象として一本にまとめず、別々の話として読むことにする。

カフェで人は、何を買っているのか

カフェで作業する習慣の説明としては、レイ・オルデンバーグの「サードプレイス」論がよく引かれる。家庭でも職場でもない第三の場所で、人々が会話によって結びつく、という考え方だ。ところが、実際のカフェを観察した研究は、むしろ別の光景を伝えている。ボストンの独立系とチェーンのカフェ6店の観察では、コーヒーハウスは社交の場であると同時に、仕事、読書、端末の利用のための「私的な空間」としても使われていた。ワイヤレス接続を使う客が、店全体の社交性を下げる可能性がある、と報告した民族誌的な調査もある。同じ調査は、見知らぬ人との会話のきっかけを生む使い方があることも書いている。

トマス・パッチの絵画『あるイタリアのコーヒーハウスの内部』。人が集う場としてのカフェの原形を描いている。

カフェで実際に作業した人の成績を測った実験には、今回は行き当たらなかった。「カフェが集中に良い」という話の実験的な根拠は、先に触れた、レストランの雑音を模した混合音を実験室で流した研究に、ほぼ尽きている。

もう一つの説明は「社会的促進」、つまり他人の存在が作業を促すという理論だ。出発点は、ロバート・ザイアンスらが1969年に行ったゴキブリの実験である。直線の走路では、周りに他のゴキブリがいると速く走り、迷路では遅くなった。「単純な課題なら促進され、複雑なら阻害される」という理論の土台のひとつになった。ただし追試の論文によれば、原論文はこの交互作用を統計的に検定していなかった。

2020年に、事前登録のうえで、より大きな規模(120匹、元の実験は40匹とされる)で直接追試が行われた。結果は、観客がいると、直線の走路でも迷路でも遅くなる、だった。他者の存在が成績を落とす「社会的抑制」は再現し、単純な課題での「促進」は再現しなかった。追試では、元の実験と同じ種が入手できず別の種を使っており、著者自身がそれを弱点と認めている(この点は紹介記事による)。

人間の実験をまとめた1983年のメタ分析(241の研究、2万4千人超)でも、他者の存在が成績のばらつきを説明する割合は、100のうち0.3〜3にすぎない。効果の大きさ(d)は、単純な課題の量的な指標で+0.32、複雑な課題の質的な指標で−0.36にとどまり、最大でも標準偏差の0.4倍に届かなかった(この数字は別の論文による再掲)。単純な課題の量で+0.32というのは、一人で作業した人と、そばに人がいる中で作業した人を一人ずつ選んで比べたとき、そばに人がいた側が上回る確率が6割弱、という大きさだ。差がなければ5割である。人の気配があるから捗る、という説明は、直感ほど強くはない。

緑の効果の大きさは、半歩ぶんだった

最後に、自然だ。レイチェルとスティーブン・カプランの「注意回復理論」は、公園や緑地のような環境に身を置くと、使い果たした注意の資源が回復する、とする。根拠としてよく挙がるのが、2008年のマーク・バーマンらの実験だ。疲れる課題を終えたあと、植物園を歩いた群と繁華街を歩いた群を比べると、数字を逆から唱える課題の成績が、植物園のあとで1.5桁、繁華街のあとで0.5桁、それぞれ上がった。写真を見るだけでも同じ向きの差が出たが、その実験は12人だった。

ギュスターヴ・カイユボットの絵画『パルク・モンソー』。ベンチに座る孤独な紳士を描いている。

後の検証は、もう少し控えめな絵を描いている。2016年の系統的レビューは31の研究を集め、13のメタ分析のうち、自然に有利な差が有意だったのは3つだけだった。数唱の逆唱(数字を逆の順に言う)で平均0.49桁(8つの研究、約600人)、順唱(そのまま言う)で0.39桁、線を順にたどる課題で一つ。残りの10は、明確な差を示さなかった。同じ論文は、他の研究室が行った逆唱の研究12件も集めていて、自然に有利だったのは5件、7件は有利ではなかった。一方、ステンフォースとバーマンらは自分たちの13の実験(528人)をまとめ、同じ課題を繰り返すと慣れて点が上がる練習効果を除くと、自然の効果はむしろ大きくなると報告している。

2021年には、模擬的な自然(画像や映像)が、注意の実行制御を確実に回復するわけではない、という概念的追試とメタ分析(14研究、612人)が出て、バーマンらが反論の論文を出している。理論全体への判定ではなく、特定の課題と特定の条件に限った論争である。「自然は注意力を回復させる」の実体は、半桁ぶんの話らしい。2016年のレビューでまとめると、自然に触れた条件(写真や映像を含む)と、街並みなどの条件とで、逆から言える数字の桁数の平均の差が0.5桁ほど。一桁にも満たない差である。

音を覆うものは、効いたり効かなかったりする

オフィスに戻る。壁を作り直せない職場で、できることはあるのか。実験が行われている。

聞き取れる声を、別の音で覆って聞き取りにくくしよう、という発想がある。人工の環境音で話し声を覆う「サウンドマスキング」だ。ある実験室の研究(54人)では、話し声に、ピンクノイズ、換気音、器楽曲、歌入りの曲、湧き水の音の5種類をかぶせた。短期記憶の成績が、話し声だけの条件より良くなったのは、湧き水の音だけだった。歌入りの曲は、話し声と同様に悪影響を残した。これを受けて、3週間ずつ実際のオフィスで試した研究(在籍者77人、主な解析の対象は全条件に答えた18人。水音4種)が行われたところ、水の音は、人工の擬似ランダムな雑音のマスキング音に勝てなかった。実験室で最良だった水の音が、職場では再現しなかった。著者は、水音が職場に不向きだと結論できるわけではない、とも述べている。方法の弱点(対照群なし、条件の順序が固定)は著者自身が認めている。

ノイズキャンセリング・ヘッドホンの実験室研究(21人と57人)では、数字の系列を覚える課題の成績は、オンでもオフでも変わらなかった。変わったのは感じ方で、うるさい、集中できる、話し手が遠く感じる、といった評価が良くなった。最初の実験では、電源を切ったままでも、話し手が遠く小さく感じられた。うるささと集中のしやすさの改善は、ノイズキャンセルを入れたときだけだった。「静かになった気がする」ことと「成績が上がる」ことは、別の事柄である。

場所を選ぶ前に、三つの手がかりとその癖

ここまでの話は、「どこで働くのがいいか」という問いに、答えを出さない。出すつもりもない。代わりに、自分の仕事場を見積もるときの手がかりを三つ置いておく。どれも癖がある。

ひとつは、音量ではなく、聞き取れる話し声がどれだけあるかを数えること。時間帯ごとに、近くから聞こえる会話の長さを、メモしておくやり方だ。音量計の数字よりも、妨害の実態に近い。弱みは、自分が気にならない種類の声が、数えから漏れることだ。もうひとつは、同じ種類の作業を、場所を変えて何回か試し、終わったあとに進み具合を書き留めること。実験室ではなく、自分の仕事で測れる。弱みは、サンプルが一人で、日による調子の波と区別しにくいこと。三つめは、逃げ込める静かな場所が近くにあるかどうかを確認すること。フィンランドの研究は、分かれ目が壁の有無ではなく、そこにあるのかもしれないと示唆していた。弱みは、静かな部屋が空いているとは限らず、使うために席を立つこと自体が、仕事の流れを切ってしまうことだ。

どれが正解という話ではない。環境と集中の関係は、音の大きさや場所の名前では決まらず、そこで何をしようとしていて、誰の声がどれだけ届き、逃げ場がどこにあるかという条件の組み合わせで、決まるらしい。私はこの結果を、場所の優劣表としてではなく、自分の作業と刺激の相性を疑う材料として読んでいる。

これまでの「常識」のうち、残ったもの

壁を取れば会話が増える、は少なくとも二つの企業では逆だった。静かなほど集中できる、はそう単純でなく、カフェの雑音が創造性を上げる、は実験室の一研究に依存している。音楽は課題次第で、他人の気配は思ったほど効かず、緑の効果は半桁の話だった。残ったのは、あまり格好のよくない結論である。この記事の前半で見た研究の一部には、聞こえ方、視線、逃げ場があるかどうかが、かたちを変えて出てきた。ただし、どれも因果が確かめられたとは言えず、視線については測られてすらいない。

出典

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Berman, M. G., Stenfors, C. U. D., Schertz, K. E., & Meidenbauer, K. L. (2021). "Response to 'Conceptual Replication Study and Meta-Analysis…'" Journal of Environmental Psychology, 78, 101719.(書誌のみ確認)

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