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森林浴の免疫の報告は、12人の男性が対象だった

森林浴の免疫の報告は、12人の男性が対象だった

森林で2泊するとNK細胞の活性が上がる、という報告の対象は男性12人だった。コルチゾールの野外実験は男子大学生280人。メタ分析では予測区間がゼロをまたぐ。森林浴の数字を原典にたどって読み直した。

TOMOAKI··趣味

「15分」という数字は、どの論文にあるのか

森に15分いると、ストレスホルモンが下がる。あるいは、20分で下がる。この手の言い方を、どこかで見たことがある人は多いだろう。数字は記事ごとに少しずつ違う。15分、20分、30分。出どころを確かめようとすると、一本の論文にたどり着かないことに気づく。

森林浴の生理学的な効果を示した研究として、よく引かれるのが、千葉大学の朴範鎮(Bum Jin Park)らが2010年に発表した「24の森林での野外実験」だ。Environmental Health and Preventive Medicineに載ったこの論文で、森林の中で座って景色を見た時間は14±2分、歩いた時間は16±5分だった。20分ではない。「20〜30分」という言い方の元になったと思われる別の研究は、2019年のハンターらのもので、都市に住む36人が日常生活の中で自然に触れた時間と、唾液のコルチゾールの関係を調べている。時間あたりのコルチゾールの下がり方が最も効率的だったのが、20〜30分の接触だった、という報告だ。30分を過ぎても、効果は少しずつ積み上がっている。その数字が森林浴の記事に流れ込んだ経路は、私が調べた範囲では特定できなかった。

以下では、森林浴の効果として語られてきた数字を、論文に戻って順に読み直す。免疫の話、ストレスホルモンの話、血圧の話。それから、森が効く理由として挙げられる二つの説明――注意回復理論と1/fゆらぎ――が、どの程度まで確かめられているか。最後に、森に行く前に知っておきたい日本の数字を置く。

NK細胞の数字は、どこまで確かめられているか

「森林で2泊すると、ナチュラルキラー(NK)細胞の活性が上がる」という話の元になっているのは、日本医科大学の李卿(Li Qing)らが2008年にInternational Journal of Immunopathology and Pharmacologyに発表した論文だ。題は「森林を訪れると、都市ではなく、ヒトのNK活性と抗がんタンパク質の発現が高まる」。書誌は21巻1号の117〜127ページだ。

対象は、健康な男性12人、35〜56歳。日程は3日2泊で、1日目の午後に2時間、2日目の午前と午後に各2時間、別々の森を歩く。3日目に採血して東京へ戻る。比較の相手は2つあった。活動量を合わせた都市旅行と、旅行前の通常の勤務日だ。血液と尿は、旅行の2日目と3日目、旅行後の7日目と30日目に採った。

抄録の結論は、森林旅行はNK活性と、NK細胞、パーフォリン、グランザイムなどの抗がんタンパク質を発現する細胞の数を有意に増やし、尿中のアドレナリンを有意に減らした、というものだ。NK活性の上昇は、旅行後7日を超えて続いた。都市旅行では、どれも上がらなかった。森林の空気からはα-ピネンとβ-ピネン(いわゆるフィトンチッドの一部)が検出され、都市の空気からはほとんど検出されなかった。

では、どれくらい上がったのか。李自身が2022年に書いた総説は、最初の森林浴の研究(2005年9月、男性12人、37〜55歳)の結果として、NK活性が17.3%から26.5%へ、53.2%増え、NK細胞数が440から661へ、50%増えたと書いている。これは2008年の論文ではなく、2007年の最初の報告の値だ。この最初の研究には、都市旅行の対照がなく、比較は勤務日だけだった。2008年の論文そのものの増加率は、私が確認できた範囲では、数字で示せない。

この実験の設計には、読んでおきたい点がいくつかある。まず、ランダム化がない。総説の記述では、都市旅行は森林旅行の前、2006年の5月中旬に行われた。順序が固定されていて、季節も違う。次に、基準になったのは「旅行前の通常の勤務日」だった。森の日と比べられているのは、仕事のある平日だ。歩く、休む、仕事がない、といった要素が全部混ざっている。これは私の読みで、論文自身が書いた限界ではない。さらに、都市旅行に参加した人数は、2008年の抄録が12人、別の総説が「同じ12人のうち11人」と書いていて、食い違っている。

同じグループは、対象や条件を変えて、同じ種類の実験を繰り返した。2008年には、看護師の女性13人(25〜43歳)で、同じ3日2泊の実験をして、NK活性などが上がったと報告している。2009年には、男性12人が都市のホテルに3泊し、夜間にヒノキの精油を加湿器で気化させた。NK活性などが上がり、アドレナリンなどが下がった。2010年には、男性12人が日曜に森林公園を2時間ずつ2回歩く日帰りの実験をして、NK活性の上昇が7日続いたと報告している。

数字としては印象的な報告が、繰り返し出ている。別の研究室の報告もないわけではない。李の総説は、韓国の研究(2016年、慢性の広範な痛みのある61人を2群に分けた比較)と、台湾の研究(2018年、渓頭の森林で働く職員90人と都市の職員110人の比較、加えて11人の森林旅行)が、NK活性の上昇を報告して、自分たちの結果を支えたと書いている。台湾の研究が測ったのは、NK細胞や活性化したNK細胞の割合で、細胞を殺す能力としてのNK活性ではない。韓国の研究では、介入前の時点で、対照群のNK活性のほうが有意に高かった。割り付けがランダムでない以上、群の出発点が違えば、その後の変化の比較も揺れる。どちらも、ランダム化しない比較や観察研究、小さな予備研究だ。同じ設計での独立した追試とは言いにくい。フィトンチッドについては、一次の根拠は、試験管の中の細胞を使った2006年の実験と、ホテルの実験だけだ。論文自身が、フィトンチッドとストレスホルモンの低下が「部分的に寄与しているかもしれない」と書いている。吸えば免疫が上がる、と言い切れる設計ではない。

ストレスホルモンの数字は、何と何の比か

唾液のコルチゾールの話に移る。この研究は、千葉大学の宮崎良文らのグループの研究、と紹介されることがある。書誌を確かめると、論文の筆頭著者は朴範鎮で、宮崎良文は最終著者だ。共著の恒次祐子と香川隆英は森林総合研究所、Kasetani は千葉県の森林研究所の所属で、5人のうち千葉大の所属は2人だ。オンライン公開は2009年5月で、巻号が2010年になっている。

実験は、2005年から2006年に、日本の24の森林で行われた。各実験は男子大学生12人で、合計280人、平均21.7歳。1日目に6人が森林、6人が都市へ行き、2日目に入れ替わる。座って景色を見る14±2分と、歩く16±5分のあとに、唾液のコルチゾール、脈拍、血圧、心拍変動を測った。

論文が本文に書く数字は、次のとおりだ。コルチゾールは、座観後13.4%、歩行後15.8%低かった。脈拍は6.0%と3.9%、収縮期血圧は1.7%と1.9%、拡張期血圧は1.6%と2.1%。副交感神経の指標は56.1%と102.0%増え、交感神経の指標は18.0%と19.4%低かった。

ここで、数字を並べて見ると、気づくことがある。コルチゾールは13〜16%の差なのに、血圧は2%前後にとどまる。そして、この%が「森と都市の差」なのか、「森の中での前後変化」なのかは、私が読めた範囲の本文からは判断できなかった。原論文の図で確かめるまで、「都市より13.4%低い」とは書けない。インターネットでよく見る「12.4%」という数字は、原論文に見つからなかった。

気分の尺度(POMS)にも、数字が出ている。座観後の「緊張」は、森で−1.1点、都市で+3.5点。「活気」は、森で+1.9点、都市で−1.9点だった。この数字は、10か所の部分集合(座観116人、歩行78人)のもので、本文の要約を経由して読んだ。図表では確かめていない。気分は自己申告の尺度なので、行き先を知っている被験者の期待が混ざる余地も、そのまま残る。

対象についても確認しておく。24の森林といっても、被験者は全員、若い男子大学生だ。論文は、森林以外の自然環境(水辺や草地)で同じ実験をしていない、と書きながら、結論は強い。森林環境にはリラックスとストレス軽減の効果がある、と。被験者が自分の行き先を知っていたことへの言及は、私が読めた範囲では見つからなかった。盲検化はそもそもできない種類の実験なので、これは論文の落ち度というより、この分野の宿命に近い。

メタ分析が見せたのは、効果の小ささと、質の低さ

個々の研究を束ねたメタ分析が、いくつか出ている。2017年のイデノらは、森林浴と血圧の研究を、20の試験、732人分まとめた。収縮期血圧の平均差は−3.15 mmHg、拡張期は−1.75 mmHg。歩行ありの試験は−3.48、歩行なしは−2.99 mmHgで、運動だけでは説明できないと著者は解釈している。基準の血圧による違いもある。収縮期血圧が130 mmHg以上の群では−6.33 mmHg(8試験、136人)、130未満の群では−3.85 mmHg(10試験、253人)だった。男子大学生の試験は、すべて低いほうの群に入る。年齢で分けると、高齢の群ほど下がり幅が大きかった。ただ、血圧は年齢とともに上がる。著者は、これを年齢より基準の血圧の違いと解釈し、血圧が高めの人ほど効果が大きいかもしれない、と推論している。二つを統計で分けた結果ではない。長期の効果を測った試験は、ほとんどない。多くは即時の効果だけを測っていて、1日を超えて追ったのは2試験だけだった。

2019年のアントネッリらは、コルチゾールを調べた22件の研究を系統的にレビューし、うち8件でメタ分析をした。森林と都市の唾液コルチゾールの差は、介入の後で−0.05 μg/dL。ここで目を引くのは、介入前の時点でも、森林の群のほうが0.08 μg/dL低かったことだ。この種の実験では、介入前の測定も、森や都市に着いた後に行われることがある。差が、群の最初からの偏りなのか、着いた時点の環境の影響なのかは、抄録からは分からない。介入後の差より、介入前の差のほうが大きいことは、効果の解釈を難しくする。著者は、期待によるプラセボ効果が重要な役割を果たしているかもしれない、と述べる。

2022年のQiuらのメタ分析は、血圧21研究、2,270人と、コルチゾール13研究、1,786人を扱った。収縮期血圧の差は−3.44 mmHgで、統計的には有意だった。しかし、将来の別の研究で出うる範囲を示す予測区間は、−13.30から+6.42 mmHgで、ゼロをまたいでいる。著者は、悪い結果を除外できないかもしれない、と書く。ランダム化比較試験25件は、ランダム化の過程、意図した介入からの逸脱、結果の測定といった点で、すべてバイアスのリスクが高いと評価された。参加者にも介入者にも盲検化ができないことも、著者は挙げている。

メンタルヘルスのほうは、少し明るい。2023年のSiahらは、36の論文、3,554人をまとめて、抑うつと不安は減ったが、生理指標では同じほどの効果は見られなかった、と報告した。2022年のコテラらは、20件の研究から、短期的な効果、特に不安への効果があるとした。ただし、より厳密な研究と長期のフォローアップが必要だとも書いている。2021年のシュティア=ヤルマーらがまとめたレビューのレビューでは、11のレビューの信頼度が、中程度2つ、低い6つ、極めて低い3つと評価されている。

数字をこう並べると、「森林浴は効く」とも「効かない」とも書きにくい。効果の方向は、多くの研究でそろっている。大きさは小さく、研究の質は低く、盲検化はできず、期待の影響は排除できない。そういう分野の中で、「森で20分過ごせばコルチゾールが何パーセント下がる」という一本の数字が、独り歩きしている。

注意回復理論は、確かめるのが難しい理論だった

森が効く理由として、よく挙げられるのが注意回復理論だ。心理学者のレイチェル・カプランとスティーブン・カプランが、1989年の著書『The Experience of Nature』で提唱し、その後の論文でも整理した。都市生活では、意識して注意を向ける力が使われ続けて、消耗する。森のような環境には、意図せずに注意を引かれる刺激(葉の揺れ、遠くの水音)が多く、意識的な注意を休ませられる。だから回復する、という説明だ。

この理論を実験で支えたとされるのが、2008年のバーマンらの研究だ。アナーバーの自然のある場所と市街地を歩く実験で、逆唱の数唱課題の成績を測った。実験1は38人で、改善は自然の散歩で平均1.50桁、市街で0.50桁だった。実験2は、自然と都市の写真を見る実験で、12人。論文は、この実験2で、注意ネットワーク課題のうち実行注意の部分が自然の写真で改善した、と理論の予測どおりに報告している。ただし、逆唱の成績の交互作用のほうは、有意ではなかった。論文の統計量は、通常のp値ではなく、p_repという別の指標で報告されている。

その後の検証は、より冷静だ。2016年のオーリーらは、31の研究(24の論文)をメタ分析でまとめた。有意だったのは、数唱の順唱・逆唱とトレイルメイキングBの3つの指標だけで、残りの10のメタ分析には、はっきりした差がなかった。順唱の差は平均0.39桁で、著者は実生活での意味は不明だとしている。2018年のスティーブンソンらは、42の論文を束ねて、作業記憶と認知的柔軟性が改善し、注意制御も、確かさは低いが改善した、と要旨に書いている。

理論そのものにも、批判がある。2018年のジョイとデウィッテは、多くの研究が参加者全員を先に疲れさせるだけで、疲れていない対照群を置かないと指摘した。これでは、「疲れから回復した」のか、「自然に元気づけられた」のかを区別できない。2015年のブラットマンらの研究では、90分の自然散歩が反芻(ぐるぐる考えること)を減らし、脳の特定の部位の血流が下がった。主要な指標の、時間と環境の交互作用はP=0.07で、慣習的な.05に届かなかった。有意とされたのは、自然群の中での変化(d=0.34)で、自然群は歩く前から反芻が高かった(35.39対30.11)。脳血流の解析は、動きの大きい7人を除いた31人で行われている。

理論に意味がない、という話ではない。直感に合う説明は、実験による検証より先に広まりやすい、という話だ。私たちが、説明の筋が通っていると感じることと、その説明が実験で確かめられていることは、別の問題になる。

1/fゆらぎは、検証より先に広まった言葉だった

もう一つの定番が、1/fゆらぎだ。木漏れ日の揺れ、小川の音、ろうそくの炎。規則的すぎず、ランダムすぎない揺らぎは、人に心地よい、という説明だ。物理学者の武者利光が広めた、と言われる。武者の1/fゆらぎについての研究で、私が確認できた最古のものは、1980年代より前にある。1976年に武者と樋口が、高速道路の交通流の1/f揺らぎについて、Japanese Journal of Applied Physicsに書いた学術論文だ。一般向けの本は、1980年10月の『ゆらぎの世界』(講談社ブルーバックス)になる。

「1/fゆらぎだから癒される」ことを直接検証した研究は、ないわけではない。三宅晋司と神代雅晴が1991年に『人間工学』誌に発表した実験は、1/fゆらぎを持つ疑似空調音と、一定の音を、男子学生10人に85 dB(A)で60分聞かせた。生理指標でも主観の評価でも、条件間に有意な差はなかった。不快の訴えは、むしろゆらぎ条件のほうが多かったが、これも有意ではない。空調音を模した、かなり大きな騒音の実験なので、木漏れ日や小川の音の「癒し」の検証とは距離がある。それでも、この説明が実験で検証済みの事実だとは言えない。

近い領域の研究は、ある。テイラーらの紹介によると、NASAエイムズ研究所の模擬宇宙ステーションの船室で、24人を対象に行い、2006年に報告された実験では、フラクタル次元D=1.4の壁面パターンのとき、課題中のストレスの上昇が最小だった。別の調査(ハーゲルホールら、2004年)では、119人がD=1.3を最も好んだ。これは空間の模様の話で、時間とともに変わる音や光の1/fゆらぎとは別のものだ。自然音を扱った2010年のアルヴァッソンらの実験では、自然音(50 dB)と高騒音(80 dB)の皮膚コンダクタンスの差は、対比較でp=0.045で、心拍変動には差がなかった。音の大きさが違う比較でもある。この研究は、1/f特性そのものを扱っていない。

ゆらぎという言葉は、心地よさの説明に便利に使われてきた。説明できるように見えることと、説明できていることの間には、距離がある。

森に行く時間は、どれくらい必要なのか

ここまでの研究は、短い時間に森にいた人の、直後の変化を見ている。日常の中で、どれくらい自然に触れていれば違いが出るのかを調べた大規模な研究が、イングランドの19,806人を対象にした、2019年のホワイトらの調査だ。約59%(11,668人)は、過去1週間の自然との接触が0分だった。健康が良好だと答える確率は、接触が1〜59分の人では、0分の人と区別できなかった(オッズ比1.04、95%信頼区間0.76〜1.41)。120〜179分で1.59に上がり、300分以上では1.33に下がる。時間が説明するばらつきは、約1%(調整前のモデル)だった。これは横断研究で、健康な人ほど自然に出られる、という逆の向きの可能性は、著者自身が排除できないと書いている。

この研究が示すのは、直後の生理指標ではなく、自己申告の健康と、週あたりの時間だ。「15分」では足りない、と読む人もいれば、「週に2時間」という閾値があると読む人もいるだろう。どちらも、読み込みすぎになる。森に15分いた直後の数字と、日常の自然との接触量に関する数字は、別々の研究で、別々のことを測っている。

日本の数字も見ておく。内閣府の「森林と生活に関する世論調査」(令和5年10月調査)によると、この1年に森林へ行っていない人は47.4%、13回以上行った人は5.4%だった。行った人(782人)の目的は、景観が56.4%、森林浴が44.9%。森林に期待する働きとして、CO₂の吸収を挙げた人が67.6%で、癒しは51.5%と5番目だった。森林率は国土の約3分の2だが、総人口の70.0%は、国土の3.5%の人口集中地区に住んでいる(令和2年の国勢調査を引く資料による)。

「森林セラピー基地」という制度が保証するもの

森林浴という言葉は、1982年に林野庁が提唱した、とされる。森林セラピーは、そのあとに生まれた制度だ。運営しているのは、特定非営利活動法人の森林セラピーソサエティで、認定された「森林セラピー基地」は、全国で60か所以上ある。公式サイトの文言は「60か所以上」、別のページでは63か所、基地の一覧を私が数えると62件で、数字が揃っていない。基地とロードの内訳も、一覧からは分からなかった。

認定は何を保証するのか。公式サイトの案内によると、実際の審査は、申請した地域が契約して行うフィールド実験の結果と、自然・社会条件、施設、ガイド体制などを見る。実験で測るのは、心拍変動、血圧、脈拍、気分の尺度(POMS)、SD法などだ。公式の一覧に、コルチゾールは載っていない(項目は状況により変わる、とある)。公式は、基地を「病気の予防効果が科学的に認められたお墨付きの森」とも説明しているが、ここまで読んできた研究の水準を考えると、この言い方は、確認された事実より、少し先を行っているように見える。

基地の例を挙げると、信濃町の「信州・信濃町 癒しの森®」は2006年4月、島根県飯南町の「飯南町ふるさとの森」は2007年、箱根の「箱根芦ノ湖森林セラピー基地」は2016年4月の認定だ。「癒しの森」は商標登録されている。

認定された場所でなければ効果がない、ということはない。近所の緑地に、同じ性質の音や匂いがない、という意味でもない。朴らの24の森林が、男子大学生を連れて行った特定の場所だったことも、思い出しておいていいと思う。

森に入る前に、数字で知っておくこと

森には、効果の話より前に、現実的な注意がある。スギ花粉症の有病率は、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会の2019年の全国調査で38.8%だった。前回の調査より大きく増えている。1998年の16.2%、2008年の26.5%という数字もよく引かれるが、私は原典で確認できていない。調査の対象は、耳鼻咽喉科医とその家族で、一般住民ではない。春の杉林は、人によっては、リラックスどころではない場所になる。

クマは、環境省の統計で、令和7年度に人身被害が216件、被害者238人、死者13人と、確認できた過去12年度の中で最多だった。前年度は82件、死者3人。死亡事故13件のうち、7件は10月に集中している。令和7年度の数字は速報値で、人里での事故も含まれる。

「15分」の外側に残る問い

ここまでの数字を、並べ直してみる。免疫の報告は、男性12人の実験で、基準になったのは仕事のある平日だった。同じ研究者が繰り返し、別の研究室の報告はあるが、ランダム化しない比較や小さな予備研究にとどまる。ストレスホルモンの数字は、男子大学生280人の野外実験で、%が何の差かは本文から読み取れなかった。メタ分析では、血圧の差は−3 mmHg前後で、予測区間はゼロをまたぎ、ランダム化比較試験は、すべてバイアスのリスクが高いと評価された。コルチゾールの差は、介入前の時点でもあった。注意回復理論の支持は、小さく、一貫しない。1/fゆらぎは、本文で読んだ比較実験(大きな空調音、10人)で、差が出なかった。

どれも、森が効かない、という証拠ではない。気分の改善や不安の軽減は、多くの研究で、方向がそろっている。効果の「大きさ」を、一本の数字で語るには、足場が足りない。体感を語るために、確かめられていない数字を借りてくる必要は、ない。

森に行って気持ちが軽くなった、という経験が本物かどうかは、この記事の数字では決まらない。決まらないのは、研究が足りないからなのか、経験というものが、数字の側に収まりきらないからなのか。あなたが「効いた」と感じるとき、その「効いた」は、何と比べた「効いた」なのだろう。

出典

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  • Li, Q., et al. (2006). "Phytoncides (Wood Essential Oils) Induce Human Natural Killer Cell Activity." Immunopharmacology and Immunotoxicology, 28(2), 319–333.(抄録で確認。試験管内の実験)
  • Li, Q., et al. (2007). "Forest Bathing Enhances Human Natural Killer Activity and Expression of Anti-Cancer Proteins." International Journal of Immunopathology and Pharmacology, 20(2 Suppl 2), 3–8.(抄録で確認)
  • Li, Q., et al. (2008). "A Forest Bathing Trip Increases Human Natural Killer Activity and Expression of Anti-Cancer Proteins in Female Subjects." Journal of Biological Regulators and Homeostatic Agents, 22(1), 45–55.(抄録で確認。女性13人)
  • Li, Q., et al. (2009). "Effect of Phytoncide from Trees on Human Natural Killer Cell Function." International Journal of Immunopathology and Pharmacology, 22(4), 951–959.(抄録で確認。ホテルでのヒノキ精油)
  • Li, Q., et al. (2010). "A Day Trip to a Forest Park Increases Human Natural Killer Activity and the Expression of Anti-Cancer Proteins in Male Subjects." Journal of Biological Regulators and Homeostatic Agents, 24(2), 157–165.(抄録で確認)
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  • 三宅晋司・神代雅晴 (1991). 「1/fゆらぎの快適性に関する一実験的検討」(Comfortableness of 1/f fluctuations: The effects of the pseud-airconditioner noise with 1/f fluctuation of sound pressure level). 『人間工学』27(1), 1–8.(J-STAGE の抄録で確認)
  • Taylor, R. P., Spehar, B., Van Donkelaar, P., & Hagerhall, C. M. (2011). "Perceptual and Physiological Responses to Jackson Pollock's Fractals." Frontiers in Human Neuroscience, 5, 60.(本文で確認。Taylor 2006 と Hägerhäll 2004 の紹介元)
  • Taylor, R. P. (2006). フラクタル次元とストレス. Leonardo, 39(3), 245–251./Hägerhäll, C. M., et al. (2004). フラクタル次元と選好. Journal of Environmental Psychology, 24(2), 247–255./Alvarsson, J. J., Wiens, S., & Nilsson, M. E. (2010). 自然音と環境騒音からの生理的回復. International Journal of Environmental Research and Public Health, 7, 1036–1046.(Taylor と Hägerhäll の数字は Taylor ら (2011) の記述による二次情報。Alvarsson は本文で確認し、標本数は本文の内訳と合わないので使っていない)
  • 内閣府「森林と生活に関する世論調査」令和5年10月調査.(原典で確認)
  • 森林セラピーソサエティ 公式サイト「基地認定について」「森林セラピーとは」ほか.(認定基地の数、審査の測定項目、認定年月は公式サイトの記述による)
  • 林野庁の森林率、総務省統計局の令和2年国勢調査(人口集中地区).(検索結果経由。原本は未確認)
  • 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 花粉症全国疫学調査(2019年).(J-STAGE の抄録で確認。調査対象は耳鼻咽喉科医とその家族)
  • 環境省「クマ類による人身被害」の年度別統計.(令和7年度分の PDF で確認)
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