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ワーケーションで休めるのか、測った研究はまだ数十人規模

ワーケーションで休めるのか、測った研究はまだ数十人規模

休暇の効果は1週間で消えるという報告と、消えにくいという報告が並ぶ。ワーケーションを直接測った研究は、数十人規模の短期のものが数本。休めた気分は上向いても、仕事から頭が離れたか、成果が出たかの数字は、まだほとんど動いていない。

TOMOAKI··仕事

「いいとこ取り」という触れ込みに、少し引っかかる

仕事用のノートパソコンを、旅行かばんに入れる。午前中だけ働いて、午後は海を見に行く。休暇と労働のいいとこ取りができるという触れ込みのその働き方に、心当たりのある人は、少しずつ増えているのだろう。在宅勤務が「どこで働くか」を毎日の選択にしたのと同じ流れの延長線上で、「どこで休むか」も「働きながらどこで休むか」に置き換わりつつある。

ただ、この言い方には、どこか収まりの悪さがある。休暇が回復を与えてくれるのは、労働が不在になるからではないのか。だとすれば、労働を持ち込んだ時点で、回復の仕組みのほうが先に壊れているのではないか。

そう考えるのは自然だが、自然な疑いほど検証せずに信じやすい。今回は、この疑いを裏づける研究と、疑いに水を差す研究の両方を、できるだけ原典に近いところまでたどってみた。先に言っておくと、疑いはおおむね生き残る。ただし、疑いを支える証拠のほうも、思っていたより薄かった。

回復の柱の一つは、頭から仕事を追い出せるかどうかだ

仕事から離れた時間に人が回復するとき、何が起きているのか。組織心理学者のザビーネ・ゾンネンタークとシャーロット・フリッツは、2007年に回復経験を測る尺度をつくり、四つの経験を区別できると報告した。仕事から心理的に離れること(心理的距離)、リラックス、熟達(新しいことに挑む経験)、コントロール(余暇の過ごし方を自分で決める感覚)である。検証に使った標本は、二つのサンプルを合わせて930人。

この四つのうち、ワーケーションの議論でとりわけ重要になるのが、一つ目の心理的距離だ。同じ論文の後半では、930人の標本の一部(271人)を使って、心理的距離と他の指標の関係を調べている。時間的プレッシャーとの相関は -.49。そのうち137人に尋ねた心理的な指標では、情緒的な消耗感との相関が -.56、生活満足とは +.37だった。いずれも質問紙による横断データなので、因果までは言えない。それでも数字の向きは、「頭が仕事から離れている人は、疲れていない」という素朴な印象に沿っている。

その後の研究は、この印象をおおむね追認した。Wendsche と Lohmann-Haislah が2017年に発表したメタ分析は、86本の論文(91の独立した標本、延べ38,124人)をまとめている。心理的距離と疲労の相関は -.42、バーンアウトとは -.36、ウェルビーイングとは +.32。どれも観測された平均相関で、補正を加えた値ではない。

この理論の土台にあるのは、メイマンとムルダーが1998年に示した努力=回復モデルだ。仕事で使った心身の機能は、同じ機能への要求がやんだときに、元の水準へ戻っていく。ゾンネンタークとフリッツの2007年論文がまとめるところでは、鍵になる条件は「仕事で使われた機能系が、もう使われていないこと」だという。スマートフォンの充電にたとえるとわかりやすい。充電しながら重いゲームを遊べば、電池はほとんど増えない。充電器につないでいるかどうかではなく、画面の裏で何が電力を食っているかが問題になる。旅先の宿は充電器の側にあたるが、頭の中で仕事が動き続けていれば、電池は減ったままだ。

この分野の数字を読んでいて、意外だった点が二つある。一つは、心理的距離と疲労の関連は比較的はっきりしているのに、仕事の出来そのものはほとんど押し上げないことだ。Wendsche らのメタ分析では、心理的距離と課題パフォーマンスの相関は +.09(8つの標本)にとどまり、文脈的パフォーマンス(周囲を助けるような振る舞い)とは -.13(5つの標本)と、向きが逆ですらあった。標本数が少ないので強い結論は避けたいが、「頭を切り替えれば、仕事がはかどる」という売り文句は、この数字からは出てこない。疲れにくくはなるが、成果は別の話らしい。

もう一つは、場所や時間を選べる自由さが、心理的距離を保証しないことだ。2007年論文では、仕事の裁量の大きさと心理的距離の相関は +.11、メタ分析でも +.06(95%信頼区間で .02 から .10)と、ほぼ無関係に近い。ワーケーションの売りは「働く場所を自分で選べる」ことだが、選べるということと、頭が離れていることは、別の経路をたどっている。

念のため、公平に書き添えておく。Bennett、Bakker、Field が2018年に発表したメタ分析(54の標本、延べ26,592人)の抄録によると、心理的距離は、疲労との負の関連が、リラックスやコントロールより強かった。これに対し、活力(vigor)との正の関連が最も強かったのは、コントロールのほうだった。距離は疲労との結びつきが強い側、コントロールは活力との結びつきが強い側、という分担に近い。旅先を自分で選び、一日の組み立てを自分で決められるワーケーションは、理論の上では、コントロールの側に利点があるかもしれない。これは、数字から導いた推測にすぎず、ワーケーションで確かめられた話ではない。

仕事の連絡は、休暇のどこまで入り込むのか

では、仕事を持ち込むと、実際にどれだけ距離が失われるのか。ここは、ワーケーションそのものを測った研究が少ないので、近い研究から類推するしかない。

Wendsche らのメタ分析には、非勤務時間中の仕事関連の活動と心理的距離の関係をまとめた項目がある。相関は -.31(17の標本、延べ4,736人)。17本のすべてが、負の向きだった。仕事用のスマートフォンの利用が多い日ほど、その日の心理的距離が低いという日記研究もある。Derks らが2014年に発表したもので、仕事用スマホを持つ70人を4労働日追い、268のデータ点で調べている。抄録によれば、スマホの利用が多い日はその日の距離が低く、距離が低いと消耗が高かった。

実際に連絡を見なくても、「いつでも連絡が来うる」状態が続くだけで、影響が出る可能性もある。ゾンネンタークの2018年の総説は、実際に働かなくても、待機の必要があるだけで距離が損なわれる、という研究群を紹介している。この点でよく引かれる Dettmers らの2016年の研究は、132人を13の組織から集め、待機当番の日と、そうでない日を比べた。待機の日の翌朝は気分が悪く、起床後のコルチゾール反応が大きかった。実際に連絡が来たかどうかに関わらず、そうだったと、報道の要約では紹介されている。原典には当たれていないので、「そう報告されている」までにとどめておく。

休暇に絞った研究も、いくつかある。de Bloom らが2012年に発表した研究は、4〜5日の短い休暇を取った80人を、休暇の2週間前から帰宅後10日目まで追った。休暇中の健康とウェルビーイングは改善した(効果量 d = 0.62)。しかし、休暇中に仕事をした人は、帰宅後の状態が悪かった。抄録の記述に拠る。Flaxman らの2023年の研究は、教師90人が2週間のクリスマス休暇の前後に答えた710件の回答を分析し、休暇中の補助的な仕事は、疲労からの回復が弱いことと結びついていた。ところが、不安や抑うつ気分の悪化とは結びつかず、休暇後に不安が戻る度合いもむしろ弱かった。仕事の持ち込みは、一方向にだけ悪いわけではないらしい。

医師を対象にした大規模な調査もある。Sinsky らが2024年に米国の医師3,024人へ行った調査では、休暇中に患者関連の業務を1日30〜60分した人は、しない人に比べて、バーンアウトのオッズ比が1.58。60〜90分で1.97、90分を超えると1.92だった。回答者の70.4%が、休暇中に患者関連の業務をしていた。ただし横断調査なので、「休暇中も働くから燃え尽きる」のか、「燃え尽きているから休暇中も働く」のかは分からない。

ゾンネンターク自身が、この因果の向きを慎重に扱っている。つながり続けることは、心理的距離と睡眠という、回復に重要な過程を損なうように見える。それでも、職務要求が高いこと自体が、つながり続ける理由にもなる。原因と結果は、きれいに一方向に並んではいない。

ここまでを整理すると、「休暇中の仕事は回復を弱める」という方向の報告は多い。ただし、休暇だけに絞った定量の一次データは少なく、数字の大きさを言い切れるほど揃っていない。ワーケーションの仕事量は、人によって、日によって、まるで違うはずだ。

忙しいときほど、手放しにくい

話はここで、もう一段こじれる。ゾンネンタークは2018年の論文で、ある逆説を「回復のパラドックス」と呼んだ。回復が最も必要なのは、仕事のストレッサーが大きいときなのに、そういうときほど、実際には回復が妨げられるという逆説である。

論文は、メタ分析の数字を並べている。職務要求全体と心理的距離の相関は -.25(Wendsche ら)、量的な要求(仕事の量)とは -.28。逆に、仕事の資源(裁量や支援など)との相関は、ごく小さかった。縦断データでも同じ向きが確認されている。ゾンネンタークの総説が紹介する範囲では、1年の間隔を置いた調査で、高い要求が心理的距離の低下を予測した。2か月おきに5回測った別の調査では、ある時点の高いワークロードが次の時点の低い心理的距離を予測し、逆向きの因果は支持されなかった。いずれも、私が原典ではなく総説の記述を介して確認したものだ。

「ストレスに弱い人ほど」と読みたくなるが、論文が述べているのは、仕事のストレッサー、とりわけ仕事の量や時間的な圧力が高い時期に、距離が取りにくくなるということだ。性格の話ではなく、時期の話である。忙しい週は、夜になっても頭が切り替わらない。誰にでも覚えがある。

この知見を、ワーケーションの選び方に当てはめてみる。「休みは取りたい、でも仕事も止められない」という切迫感が、ワーケーションを選ぶ動機になっている人は少なくないだろう。その切迫感は、仕事の要求が高いことのしるしでもある。要求が高い時期にある人ほど距離が取りにくいなら、この働き方は、回復の仕組みがもっとも効きにくい時期に、もっとも選ばれやすいことになる。もちろん、これは理論からの推測で、ワーケーションの利用者を対象に測ったものではない。そこを混同しないために、次の節で、実際に測った研究を見る。

ワーケーションを測った研究は、いま何人分あるのか

2022年に、Voll、Gauger、Pfnür の三人が概念整理のレビューを発表した。抄録の文言は率直で、ワーケーションについては明確な分類さえ欠いており、実証的な根拠はほとんどない、と書いている。2022年の時点では、その通りだったのだろう。

2026年のいま、同じ言い方を繰り返すのは正確ではない。論文自身が「ほとんどない」と書いた2022年以降、日本を中心に、小規模な測定がいくつか出ている。数え上げてみる。

Negoro と Kobayashi が2022年に発表した研究は、5日間のワーケーションに参加した大企業の会社員20人(平均33.9歳)を、前・中・後で測った。動脈の硬さ、血圧、心拍が有意に低下し、睡眠中の副交感神経の機能と身体活動は有意に上がった。ただし、このプログラムは、起床は7時、朝食は均一、90分ごとに区切った業務、昼寝、運動、夜の電子機器の禁止、0時就寝と、生活を厳しく管理したものだ。通常のワーケーションとは言えない。著者自身も、終了後の指標は介入前と同程度に戻っていたこと、人数が20人で、単一の企業であることを限界に挙げている。

Imai らが2025年に報告した研究は、3日間のワーケーションに志願して参加した役員20人と、通常のオフィスで働いた20人を、事前・ワーケーション最終日・1週間後で比べた。抄録によれば、ワーケーション後の活気の得点は、ワーケーション群が15.8、対照群が11.9。ウェルビーイングの得点は15.9対9.6で、どちらも有意だった。割り付けの方法と尺度の幅は、抄録に書かれていない。抄録は、活気が1週間後も持続したと書く。だが添えられた数字は、終了時の14.5から1週間後の11.6への、有意な低下である。抄録は15.8を「ワーケーション後」、14.5を「終了時」の値として書き分けているが、測ったのは3時点だけで、同じ時点らしいところに値が二つある理由は読み取れない。また、ワーケーション群の自律神経指標(LF/HF)は、働かずに過ごした初日の2.0から、リモートで働いた翌日の5.4へと、交感神経優位の側に振れた。休めたことを示す数字と、働いたことを示す数字が、同じ論文の中に並んでいる。

この領域でいちばん本題に近いのが、Iwaasa らが2025年に報告した、山口県でのスポーツと農業のワーケーションの研究だ。4週間、参加者10人(3社)と、非参加者35人を、4時点で比べた。抄録は、心理的距離について、群の間に有意な差はなかった、と書いている。運動の恩恵を感じた人は参加者に多く、インタビューには気分転換の語りがあった。反面、設備や環境の不足、席の確保、公平性への懸念も挙がった。抄録しか読めていないうえに、10人の研究なので、重く受け取りすぎないようにしたい。それでも、「距離を保てたか」という本題を、比較群をつけて測った数少ない例が、差なしだったという事実は動かない。

宮本と尾形が2023年に報告した研究は、和歌山・長崎・徳島のプログラムに参加した延べ48人(欠損を除いて43人)を、事前・事後で調べた。仕事の負荷を除く多くの指標が上がった。ただ、生産性の指標は1.0%の改善、エンゲージメントは平均0.2ポイントの増加にとどまり、著者自身が「大きな変化はない」と読んでいる。普段からハイブリッドで働いている人には、効果が見られなかった。管理職にも、見られなかった。荒井らが2022年に奥能登で行った短期ワーケーションの研究は、抄録で「仕事への効果」よりも「気分転換」に有用だった、としている。観光庁のモデル事業の講演資料にも、似た揺れが見える。函館に滞在したANAグループの社員9人は、集中や創造性が上がる傾向を示したが、疲労とメンタルワークロードも高まる傾向だった。

並べてみて気づくのは、研究の規模と設計の偏りだ。人数は9人から48人。期間は3日から最長4週間。ランダム化を明記した研究は見当たらず、比較群があるものも、志願した参加者と、参加しなかった人との比較にとどまる。気分や活気、それに管理された環境での生理指標は、良い方向に動くものが多い。それに対して、心理的距離、生産性、エンゲージメントのように、「休めたのか」「働けたのか」の核心に近い指標は、ぱっとしない。旅行の写真を見返すと楽しかった気がするのに、旅先の夜も頭のどこかで返信の文面を考えていた、というのに似ている。休めた気分と、休めたか・働けたかの中身とが、揃っていない。

この種の研究の読み方にも、少しコツがある。参加を志願した人は、もともと関心が高い。期間が数日なら、非日常の高揚が測定に混ざる。比較群がない事前事後の比較では、「何もしなくても同じだった」かどうかが分からない。どれも、研究者がよく承知している弱点で、論文の限界の節にも書かれている。研究が悪いのではなく、数字の読み手が、その限界を思い出す必要がある、ということだ。

この領域で、日々の仕事量を実測した研究や、日誌法で追った研究、週単位で追跡した研究は、私が調べた範囲では見つからなかった。「ない」と断定はできないので、見つけられなかった、と書いておく。

「利用者の8割が満足」は、誰が誰に聞いたのか

実証研究が薄いところには、別の種類の数字が流れ込む。「満足した人が8割」のような数字だ。出どころをたどると、どれも、満足と回復を同じものとして扱えるほど確かなものではなかった。

ファンくる(運営は株式会社ROI)が2022年に公表した調査では、会員から集めた回答者900人のうち、ワーケーションの経験者は4%。計算上は36人前後で、その81%が「やって良かった」と答えている。何に満足したのかは、項目別には示されていない。沖縄総合事務局が2022年にまとめた調査では、沖縄でのワーケーション実施者44人のうち、約95%が再実施の意向を示した。報告書自身が「もともと旅行先として沖縄を好きな人が多かった」と書いている。

観光庁の2022年の実態調査(企業600社、従業員2,000人)は、効果ではなく意向を聞いたものだ。認知率は80%に対して経験率は4%。導入している企業は5.3%、検討中が12.7%だった。導入しない理由に「ワークと休暇の区別が難しい」を挙げた企業が20.5%。従業員でワーケーションに興味がない理由では、「休暇中に仕事をしたくない」が34%に上った。

ここから分かるのは、経験者がまだごく少数だということと、満足を尋ねた調査で聞かれた人の多くが、もともと関心のある人だということだ。満足したかどうかを尋ねる設問が、回復の度合いまで測れているとは限らない。休暇の研究には、満足と、帰宅後の状態を、別々に測ったものがある。Nawijn らが2010年にオランダの1,530人を調べた研究がそうだ。帰宅後の幸福度は、平均すると、休暇に行った人と行かなかった人で差がなかった。上乗せが見えたのは、休暇を「とてもリラックスした」と答えた群(幸福度の平均点で2.64)だけで、その上乗せも約2週間続いて、8週後には出発前の水準に戻っていた。「リラックスした」群(2.16)には、帰宅後の上乗せがなかった。ストレスがあった、またはどちらでもないと答えた群は、帰宅後の平均が1.07とさらに低かったが、人数が少なく、論文自身もこの群からは結論を出していない。休暇がどれだけリラックスできたかと、帰宅後に気分が上向いたかは、同じではない。満足の数字だけでは、後者は見えてこない。

比べる相手の「休暇」も、盤石ではない

ここで、もう一つ厄介な事実に触れなければならない。ワーケーションの比較対象になる「ふつうの休暇」の回復効果にも、確かさの揺らぎがある。

曇り空の下、人影のない砂浜と枯れた草地

de Bloom らが2009年に発表したメタ分析は、条件を満たした7つの研究をまとめ、休暇の効果を d = +0.43(小さい効果)、復帰後の消失を d = -0.38と見積もった。2023年に Speth らが13の研究(延べ1,428人、平均11日の休暇)で再分析したところ、休暇中のウェルビーイングの改善は d = 0.25。復帰後の最初の1週間を過ぎると、休暇前との差は有意でなくなった(d は0.12以下)。休暇の長さによる違いは見られず、著者らは、年間を通じて短い休暇を定期的に取ることを提案している。これは頻度を直接比べたデータではなく、「長さは効果を調整しなかった」ことからの、著者の提言だ。

個々の研究を見ると、消え方の速さが際立つ。de Bloom らが2010年に報告した、冬のスポーツ休暇に出かけたオランダの労働者96人の研究では、休暇中の気分と緊張は d = 1.01と大きく改善した。ところが疲労の改善は d = 0.13で有意でなく、睡眠は0.03。ほとんど変わっていない。復帰1週目には、改善の多くが元の水準に戻っていた。疲労は、休暇中ではなく復帰の直後に最小になった。著者らは、激しい運動が理由かもしれない、と推測している。

Westman と Eden が1997年に報告した76人の事務員の研究では、休暇中にバーンアウトが下がり、復帰後3週間で完全に元に戻った。皮肉なことに、休暇に満足していた人ほど、戻るのも速かった。Kühnel とゾンネンタークが2011年に調べた教師131人でも、休暇後のエンゲージメントの上昇とバーンアウトの低下は、1か月以内に消えた。この論文が目を向けたのは、休暇の取り方よりも、休暇のあとの過ごし方である。復帰後の職務要求が高いと消失が速く、復帰後の余暇のリラックスがそれを遅らせた。湯冷めするかどうかが、湯の温度だけでなく、風呂を出たあとの風にも左右されるのに近い。

一方、反対方向の新しい知見もある。Grant らが2025年に発表したメタ分析(32研究、256の効果量)は、休暇がウェルビーイングに大きな効果をもち、想定されていたほど速くは消えない、と報告している。私が確かめられたのは抄録の転載までで、効果量の定義や、Speth らの d = 0.25との違いの理由は、確認できていない。「大きい」と「小さい」が同じ分野に並んでいる、という事実だけは言える。

だから、「休暇は1週間で消える」と言い切る記事は、少し急ぎすぎている。同じ理由で、「休暇には大きな回復効果がある」とも、言い切れない。比べる物差しのほうが、まだ揺れている。

測られていないものを、測られたことにしない

整理すると、不確かさは三つの層に分かれている。一つ目は、回復の理論そのもの。心理的距離が回復の柱の一つだということは、横断データを中心に、かなり厚く支持されている。二つ目は、ワーケーションの直接の測定。数十人規模の短期の研究が数本あるだけで、休めた気分を示す指標は動いたが、心理的距離や成果の指標は、測った例が少なく、測った範囲では目立った差が出ていない。三つ目は、比較対象の休暇。効果の大きさも、消えるかどうかも、研究によって幅がある。

この三層のうち、どれが崩れても、「ワーケーションで休めている」という感覚の足場は変わる。感覚は本物でありうる。確かに気分は良いのだろう。ただ、気分が良いことと、疲れが取れていることと、仕事の成果が出ていることは、別々の測り方で、別々に確かめなければならない。この分野の現在の研究は、そのうちのどれにも、まだ十分な数字を用意していない。

私は、ワーケーションを選ぶかどうかを、ここで決めるつもりはない。この記事を書いて残ったのは、もっと小さな疑問だ。次に誰かが「ワーケーションは休めた」と言ったとき、その人は、何を比べて、何を測って、そう言っているのだろう。「休めた」という同じ言葉の下に、気分と、疲労と、成果という、別々のものが入っている可能性は、思っているより低くない。

出典

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  • Meijman, T. F., & Mulder, G. (1998). "Psychological Aspects of Workload." In Handbook of Work and Organizational Psychology (Vol. 2). Psychology Press.(書籍の章で未見。Sonnentag & Fritz (2007) の要約による二次情報)
  • Wendsche, J., & Lohmann-Haislah, A. (2017). "A Meta-Analysis on Antecedents and Outcomes of Detachment from Work." Frontiers in Psychology, 7, 2072.(全文で確認)
  • Bennett, A. A., Bakker, A. B., & Field, J. G. (2018). "Recovery from Work-Related Effort: A Meta-Analysis." Journal of Organizational Behavior, 39(3), 262–275.(抄録で確認)
  • Sonnentag, S. (2018). "The Recovery Paradox: Portraying the Complex Interplay between Job Stressors, Lack of Recovery, and Poor Well-Being." Research in Organizational Behavior, 38, 169–185.(全文で確認。縦断研究の Kinnunen & Feldt (2013)、Meier & Cho (2018)、待機の研究は、この総説の記述による二次情報)
  • Derks, D., van Mierlo, H., & Schmitz, E. B. (2014). "A Diary Study on Work-Related Smartphone Use, Psychological Detachment and Exhaustion: Examining the Role of the Perceived Segmentation Norm." Journal of Occupational Health Psychology, 19(1), 74–84.(抄録で確認)
  • Dettmers, J., Vahle-Hinz, T., Bamberg, E., Friedrich, N., & Keller, M. (2016). "Extended Work Availability and Its Relation With Start-of-Day Mood and Cortisol." Journal of Occupational Health Psychology, 21(1), 105–118.(原典未見。報道要約による二次情報)
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  • Negoro, H., & Kobayashi, R. (2022). "A Workcation Improves Cardiac Parasympathetic Function during Sleep to Decrease Arterial Stiffness in Workers." Healthcare, 10(10), 2037.(全文で確認)
  • Imai, A., Shirai, M., Fujio, S., & Hayashi, Y. (2025). "Effects of Participating in a Short-Term Workcation on Psychological and Physiological Responses." Psychological Reports.(抄録のみ確認。割り付けの詳細は未確認)
  • Iwaasa, T., Shirakawa, M., Sato, S., Nagata, S., Takahashi, Y., & Okimoto, K. (2025). "Evaluating the Impact of a Sports-and-Agriculture Workcation on Employees' Well-Being: A Controlled Study Among Japanese Workers." AHFE International, 176.(抄録のみ確認)
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  • Arai, N., Umehara, M., Iwaki, K., & Iwasaki, Y. (2022). "The Effects of Short-Term Workcation on the Psychological Condition of Urban Workers: A Case Study in Oku-Noto." Journal of the Japanese Society of Revegetation Technology, 48(1), 129–132.(抄録で確認)
  • 観光庁(令和2年度モデル事業の講演資料). ANAグループ社員9人の函館でのワーケーション実証.(査読のない公的な講演資料。全文で確認)
  • ファンくる(株式会社ROI)(2022). ワーケーションに関する調査. PR TIMES 発表.(事業者のプレスリリースで、全文を確認)
  • 沖縄総合事務局 (2022).『令和3年度 ワーケーションに関する調査 報告書』.(全文で確認)
  • 観光庁 (2022).『新たな旅のスタイルに関する実態調査報告書』(令和4年3月).(全文で確認)
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  • de Bloom, J., Geurts, S. A. E., Taris, T. W., Sonnentag, S., de Weerth, C., & Kompier, M. A. J. (2010). "Effects of Vacation from Work on Health and Well-Being: Lots of Fun, Quickly Gone." Work & Stress, 24(2), 196–216.(全文で確認)
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  • Westman, M., & Eden, D. (1997). "Effects of a Respite from Work on Burnout: Vacation Relief and Fade-Out." Journal of Applied Psychology, 82(4), 516–527.(抄録で確認。転載ページ経由)
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