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在宅で働いた日の84%、勤務時間のすべてを一人で過ごしていた

在宅で働いた日の84%、勤務時間のすべてを一人で過ごしていた

Science誌2026年の研究では、在宅で働いた日の84.0%が勤務時間の全部を一人で過ごす日だった(出社は23.2%)。苦痛の上昇はひとり暮らしに集中した。ただし通勤は測られていない。

TOMOAKI··仕事

通勤がなくなった分は、何と引き換えだったのか

通勤をやめた人が最初に数えるのは、たいてい時間とお金だ。総務省統計局の2021年社会生活基本調査によれば、平日の通勤・通学の行動者平均は全国で1時間19分(往復と通学を含む)。東京都は1時間35分、神奈川県は1時間40分にのぼる。仮に年に240日出かけるとして、1時間19分を掛ければ約316時間。定期代と、朝の身支度と、駅までの小走りは、おまけとして付いてくる。

この時間が実際に浮いていることは、国際比較のデータからも読める。Aksoy らが27か国を調べた報告では、在宅勤務の日に節約される通勤時間は平均で1日72分、日本は100分だった。浮いた時間の行き先は、27か国の平均では本業・副業が40%、余暇が34%、育児や介護が11%。日本に限ると、仕事が32%、余暇が39%、ケアが9%と、余暇のほうが仕事より大きい。通勤がなくなって働く時間が丸ごと増える、という素朴な想像は、日本のデータでは当たらなかった。

ここまでは、帳簿の「入り」の欄の話だ。この記事で見たいのは「出」の欄である。時間は確かに戻ってくる。では、通勤と一緒に消えたものは何か。通勤が担っていた役割の切り替えと、職場にあった偶発的な接触の二つが、候補として挙げられている。後者については2026年に、Science 誌に大規模な実測の論文が載った。ただ、その論文は通勤そのものを測ってはいない。何が測られ、何が測られていないのかを、順にたどっていく。

通勤は嫌われていた。それでも収支は別の話だ

通勤の評判は、もともとよくない。Kahneman らが2004年に Science へ発表した研究は、テキサス州の就業女性909人に前日の出来事を一つずつ振り返ってもらう方法(一日再構成法)で、活動ごとの感情を0〜6の尺度で集めた。肯定的な感情の平均は、通勤が3.45、仕事が3.62、家事が3.73。表に載った活動のなかで、通勤がいちばん低かった。ただし否定的な感情は、通勤が0.89で、仕事の0.97より低い。「最悪の活動」と言い切るには、数字が少し足りない。

経済学者の Stutzer と Frey は、ドイツの世帯パネル調査(1985〜2003年のうち通勤時間を尋ねた8波)を使って、通勤と生活満足度の関係を調べた。片道の平均は22分。個人ごとの違いを取り除いた推定で、通勤が片道60分の人は、0分の人より生活満足度(0〜10)が0.20点低かった。この差は、1標準偏差(18分)あたりに直すと、独身の人がパートナーを見つける(失う)ことの影響の約半分にあたる。著者らは、平均的な22分の通勤を埋め合わせるには月に約470ユーロ(平均月収の35.4%)が要る、という試算も示したが、具体的な金額に固執しないでほしいと断っている。

通勤は、毎日払う小さな税金のようなものだった。税がなくなれば手取りは増える。ここまでは誰も異論がない。残る問いは、その税が、何かの公共サービスを兼ねていなかったか、である。

実験で在宅勤務の効果を測った代表的な研究が、Bloom、Liang、Roberts、Ying の2015年の論文(Quarterly Journal of Economics)だった。中国の旅行会社 Ctrip の上海のコールセンターで、2010年12月に始まった9か月の実験である。志願者は503人で、そのうち勤続6か月以上、自宅にブロードバンドと専用の部屋がある249人が対象になり、誕生日が偶数なら在宅、奇数なら出社と割り当てられた。会長の James Liang が公開の抽選で決めた、と論文に書かれている。James Liang は論文の共著者の一人でもある。

この「在宅」は、完全在宅ではない。週4日が自宅で、残りの1日は出社だった。結果は、在宅群の成績が13%上がった。内訳は、休憩と病欠が減ってシフトあたりの勤務時間が伸びた分が約9%、1分あたりの通話数が増えた分が約3〜4%。論文は後者の理由を、面接で「より静かな環境」と答えた人が多かったからだとしているが、静けさを測ったわけではない。9か月間の累積の離職率は、在宅群が17%、出社群が35%だった。

ここまでを読むと「在宅は全員にとって得」という結論に傾く。論文の後半が、そこに少しブレーキをかける。昇進については、昇進した人が在宅群17人に対して出社群23人。成績を揃えて比べると、在宅のほうが昇進しにくい傾向が(弱い有意で)出ていた。そして実験のあと、会社が在宅か出社かを全員に選ばせると、在宅群の約半数が出社に戻った。理由は、成績が相対的に悪かった人が中心だったが、社会的な接触の欠如を特に重く感じた人もいた、と論文は書く。出社群のほうも、約3分の2は出社のままだった。論文は、その理由に在宅の孤独への懸念を挙げている。

この「半数が戻った」という数字には、一つ留保がつく。表の注には、実験終了時点で在宅群110人のうち27人(24.5%)が出社への復帰を申請した、とあり、本文の図の約50%とは数字が揃わない。申請の時点と、実際に戻った時点の差かもしれないが、原因は私には特定できなかった。ワーキングペーパー版を読むと、もう一つ目を引く記述がある。そもそも社員の49%は、在宅勤務に志願しなかった。後の面接で挙がった主な理由は、在宅の孤独と、人と交わる機会のなさだった。実験のあと、通勤の時間と費用が浮くのに、在宅の適格だった249人のうち半数を超える人が職場を選んだことには、経営陣も驚いたという。

実験の後に自己選抜が働いた結果、要旨の数字では、在宅の効果は13%から22%へほぼ倍になった。在宅が合わない人が出社に戻り、合う人だけが残ったからだ。「在宅で成績が上がる」という結果は、「在宅が合う人は在宅で成績が上がる」という結果と、ほとんど同じ文なのだった。

通勤が引き受けていた仕事

では、通勤が兼ねていたかもしれないサービスとは何か。有力な候補が、仕事の役割と家庭の役割のあいだの切り替えだ。Ashforth、Kreiner、Fugate が2000年に Academy of Management Review に発表した論文は、日々の役割の移行を「境界をまたぐ活動」として整理した。抄録によると、役割は、分離が強いものから統合が強いものまでの連続体の上に置かれる。分離が強いほど役割の混ざりは減るが、移行の落差は大きくなり、その落差を和らげるのに通過儀礼(rites of passage)が使われることが多いという。

通勤をこの文脈に置いたのは、この論文自身というより、後続の研究者の読み方である。Jachimowicz らは、Ashforth らの473頁を引いて、通勤は役割のあいだの物理的で心理的な移行の機会になる、と述べた。通勤は境界をまたぐ儀式だった、と言いたくなる。だが、その言い方は、この読みに私が付けた言い換えにすぎない。通過儀礼という語は抄録にあるが、論文が通勤をその例として挙げているかどうかは、本文を読めていないので確認できていない。

実証に進んだのが、Jachimowicz らが2021年に Organization Science に載せた研究である。三つの調査の合計は1,736人だが、一つの標本ではない。ロンドンの国際メディア企業の225人(通勤時間は平均50.6分)、中南米の金融会社から回答のあった1,068人(回答率22.3%、平均70.6分)、オンライン調査会社経由のフルタイム就業者443人、という内訳だ。長い朝の通勤は、自己統制が低い人や、仕事と家庭の葛藤が大きい人ほど不快で、職務満足の低下や離職につながる。これは相関である。一方、通勤中にこれから始まる仕事の役割を思い描く人は、長い通勤の悪影響を受けにくかった。自己統制が高い人ほど、この「予期」をしやすい。

因果の話ができるのは、三つめの調査だけだ。それも、効果がはっきり見えたとは言いにくい。443人を、2週間の観察のあとで複数の条件に無作為に割り付け、通勤中に仕事の一日の計画を考えるよう、毎日ショートメッセージで促した。計画を考えた群では、通勤時間と職務満足の関係が正になった(通勤が長くても満足が下がらなかった)。反対に、好きな音楽やニュースなど、楽しくくつろげることをするよう促した群では、関係が負の方向に傾いた(ただし有意水準には届かない)。この効果が見えたのは、仕事と家庭の葛藤が大きい人だけで、それも「弱い有意」(p=.066)にとどまった。葛藤の小さい人では出なかった。通勤手段が85%を超えて自動車だったこと、効果がどれだけ続くかが不明なことを、著者ら自身が限界に挙げている。

この結果は、「通勤は自分だけの時間だ」という見方と、少しぶつかる。Pindek、Shen、Andel の2023年の論文(Organizational Psychology Review)は、通勤を、仕事と家庭の役割要求が弱い「第三の空間」と呼び、そこで人は「me time」を望み、実際に得をしうる、という理論を提案した。同じ年の同じ巻に載った McAlpine と Piszczek の論文は、通勤を、役割から離れた感覚をもたらす「境界領域」として分析している。どちらも理論の論文で、抄録しか確認できていない。くつろぎの時間と考えるか、仕事への準備の時間と考えるかで、通勤の意味は逆になる。一つの介入実験だけでは決着がつかないだろう。

通勤の代わりを自分で作る「疑似通勤」は、広く語られている割に、研究が薄い。見つかった唯一の直接の研究は、Beňo が2023年に発表した、完全在宅で、すでに疑似通勤を習慣にしている欧州の8人への質的インタビューだった。全員が幸福感の増加を報告したという。習慣にしている人だけに聞いているのだから、全員が効果を報告したのは、選ばれた8人だからでもある。比較群も介入もないので、疑似通勤に効果があるとも、ないとも書けない。割り付けて効果を測った査読つきの研究は、私が探した範囲では見つからなかった。

5つの全国調査が数えたもの

ここからが本題の論文である。Emanuel、Harrington、Pallais の三人が Science 392巻に発表した(2026年6月4日号)。題は「Home alone: Remote work, isolation, and mental health」。米国の労働者を対象にした5つの全国調査、2011〜2024年のデータを使い、合計588,322人。2020年と2021年は除いてある。

この「58万人」は、ひとつの質問に答えた人数ではない。時間の使い方を調べた米国時間使用調査(ATUS)が61,644人、心理的苦痛を測った家計パネル調査(PSID)が38,397人、といった具合に、質問ごとに母集団が違う。ほかに、全国健康調査(NHIS)、医療費パネル調査(MEPS)、一般社会調査(GSS)が使われている。数字を読むときは、どの調査の話かを見たほうがいい。

方法は、「差の差」と呼ばれる比較だ。リモートで働きうる職業と、働きにくい職業(機械工学や看護など)を比べ、パンデミックの前後で、どちらがどれだけ変わったかの違いを見る。コロナという同じ嵐を、どちらの職業も浴びた。嵐の分は両方に出るので、差だけを取り出せば、リモートワークの分が残る、という考え方である。もっとも、これは二つの職業が似た嵐を浴びた、という仮定の上に立っている。リモートで働きうる職業は、Dingel と Neiman が、作業内容から在宅で遂行できるかどうかを職業ごとに分類した指数で決められ、労働者の36.2%がそこにいる。

この比較が成り立つ根拠は、2024年に、リモートで働きうる職業では勤務日の31.1%が完全リモート、働きにくい職業では8.9%だった、という開きにある。コロナ前からあった開きを差し引いて、増え方だけを比べると、リモートで働きうる職業のほうが17.9ポイント多かった(割合の差を、以下ポイントと書く)。論文の導入によれば、米国の労働者のうちリモートで働く人は、2019年の7%から2023年の28%へ、4倍になった。職業ごとの違いを使うのは、個人の選択を避けるためだ。気分が落ち込んでいる人が在宅を選ぶ、という逆向きの因果が混ざらないようにしている。

一日の中身は、どう変わったか

まず時間の使い方から。ATUS の分析で、リモートで働きうる職業の人は、パンデミックのあと、働きにくい職業の人と比べて、1日に1.2時間多く、一人で仕事をするようになった(58.0%の増加)。コロナ前に、働く日の起きている時間のうち一人で過ごしていたのは平均5.4時間。一人の時間はどちらの職業でも増えたが、リモートで働きうる職業のほうが、1.1時間(コロナ前の平均の19.4%)多く増えた。

記述的な数字としては、2022〜2024年に在宅で働いた日の84.0%で、人は勤務時間の全部を一人で働いて過ごしていた。出社して働いた場合は23.2%だった。ATUS は一人につき一日の記録なので、この割合は、働いた日の記録のうち何割で、勤務時間のすべてを一人で働いていたか、と読める。人そのものの属性の割合ではない。出社して働いた日の記録でも、四分の一近くが勤務時間のすべてを一人で働いている、というのがむしろ意外な数字だ。なお、ここでの「一人」は、誰かと活動を共にしなかった、という意味で、周りに人がいなかったという意味ではない。

大事なのは、一日全体が一人になった、という点だ。「一日中誰とも活動を共にしなかった」日の割合は、リモートで働きうる職業の人では、働きにくい職業の人と比べて、1.9ポイント(コロナ前の平均に対して50.0%)多く増えた。店やジムなど、周りに人がいる場所にさえいなかった、より極端な「一日中、人との接触がない」日は、1.0ポイント(72.2%)多く増えた。論文は、バリスタとの何気ない雑談も、同僚の挨拶も、食料品店で通りすがりの人が向ける微笑みもない、という言い方で、この種の接触を表現している。全国で見ると、一日中一人の日は、2011〜2019年から2022〜2024年のあいだに4.3ポイント増えており、論文は、そのうち36%がリモートワークで説明できると推計している。

仕事の外で埋め合わせが起きたかというと、大きくは起きていない。勤務後に友人と過ごす社交は、リモートで働きうる職業のほうで減った。著者らは、先行研究を引いて、人は短いやりとりが気分をよくする度合いを過小評価しがちで、だから職場での日常的な接触を失う影響も見通しにくい、とも指摘している。通勤の電車での、名前も知らない他人との同席も、私はこの種の「ごく薄い接触」に数えてよいと思う。

同じ方向の結果は、別の研究者による分析でもあった。Cowan と Jones の2025年のワーキングペーパー(NBER、査読前)は、同じ ATUS を2014〜2024年、25〜55歳に絞って分析した。在宅勤務の日は、そうでない日より、一人でする活動が212分長く、同居者以外と過ごす活動が323分短い。差の差の推定では、リモートワークが46.1分増えると、同居者以外との時間が約38分減った。そして、勤務時間外の時間の使い方には、有意な変化がなかった。職場で失った人との時間を、職場の外で取り戻す動きは、ほとんど見えなかった、と著者らは書く。ただし ATUS の回答率は、2014年の51%から2024年の32.4%まで下がっていて、これも限界の一つだ。

効果は、ひとり暮らしの側に集まっていた

次に、心の状態。主な指標は、K-6 という尺度で、過去30日に「無価値だと感じた」「絶望的だと感じた」「落ち着かなかった」「神経質になった」「何をするにも骨が折れた」「何も元気づけられないほど悲しかった」の頻度を尋ねる、6項目の質問だ。パンデミック前の平均は3.0。苦痛はどちらの職業でも上がったが、リモートで働きうる職業は、働きにくい職業より0.3多く上がった(約1割)。この差は、PSID では統計的な有意水準に少し届かず(P=0.063)、全国健康調査(NHIS)では有意だった(P=0.007)。

平均の下には、もっとはっきりした偏りがある。ここで論文のいう「ひとり暮らし」は、パートナーや子と暮らしていない人のことだ。定義上、親やルームメイトと住む人もこちらに入る。この意味でひとり暮らしの人のうち、リモートで働きうる職業の人は、働きにくい職業の人と比べて、K-6が0.8多く上がった(0.21標準偏差)。論文は、これを、6項目の一つで「ときどき神経質になる」から「たいてい神経質になる」へ、一段階動くのに近い、と説明している。K-6では、パートナーや子と暮らす人の場合、リモートで働きうる職業の人の苦痛の増え方は、そうでない職業の人と統計的に区別できなかった。

一日中一人の日の増え方でも、同じ偏りが出る。働きにくい職業との差で見ると、ひとり暮らしでは7.0ポイント、パートナーや子と暮らす人では0.7ポイントで、10倍開いている。誰とも周囲で触れ合わない日に限っても、3.9ポイント対0.3ポイントと、開きは同じ向きだ。2022〜2024年に在宅で働いたひとり暮らしの日の45.9%は、一日中一人で過ごし、31.1%は一日中、ジムや店のような人のいる場所にさえ行っていなかった。

パンデミック前の姿も面白い。ひとり暮らしの人では、コロナ前の心理的苦痛は、リモートで働きにくい職業のほうが大きかった。パンデミックのあと、それが逆転して、リモートで働きうる職業のほうが大きくなった。出発点で有利だった人が、終点では不利になっている。

この論文は、K-6だけに頼っていない。リモートで働きうる職業の人は、精神保健の専門家にかかる割合が、働きにくい職業の人より4.6ポイント多く上がった(パンデミック前の平均は7.9%)。抑うつや不安のための処方薬を使う割合は1.8ポイント、精神保健に関わる処方薬の全体では1.9ポイント多く上がったが、どちらも有意水準すれすれ(P=0.066と0.05)だ。処方薬の二つの割合は、ひとり暮らしでは5.1ポイントと5.3ポイントに跳ね上がる。

「受診しやすくなっただけではないか」という疑いにも、論文は答えている。在宅は平日の通院をしやすくするからだ。だが、リモートで働きうる職業の人が、身体の検診や健康診断で受診する割合は増えなかった。スタチンのような、精神保健とは関係のない処方薬も、特に増えていない。AIの影響を受けやすい職業かどうかや、政治的な立場を考慮しても、推定は動かなかった。パンデミックの被害が大きかった地域ほど、リモートで働きうる職業の人が多かったのではないか、という疑いもある。だが、地域のコロナによる死者数と、リモートで働きうる職業の人の割合との相関は、0.03と0.009で、ほとんどなかった。

逆の見方、つまりリモートが一部の人の心を楽にしているのではないか、という点も調べられている。K-6の点数の分布全体を見ると、リモートで働きうる職業では、苦痛の低い側の山が全体に薄くなっていた。著者らはこれを、リモートワークの恩恵を受けている人は少ないのではないか、と読む。一部に恩恵を受ける人がいる可能性までは、否定していない。

通勤は測られていない、という但し書き

ここで立ち止まる必要がある。この論文は、通勤をなくしたことの影響を測ったものではない。測ったのは、リモートで働きうる職業で、リモートワークが増えたことの影響だ。通勤がなくなったことと、職場の同僚と顔を合わせなくなったことは、同じ出来事の別の面だが、論文はこの二つを切り分けていない。通勤の電車で名前も知らない人と隣り合う時間が消えたことの影響は、同僚との雑談が消えたことの影響と、混ざったままだ。

論文自身が書いている限界を、そのまま並べておく。一つ目は、フルリモートとハイブリッドの影響を区別できないこと。週に1〜2日のリモートが、より日数の多いリモートよりずっと小さい影響しか持たない、あるいは一部の人には保護的でさえある可能性を、著者らは認めている。二つ目は、孤立を測る検証済みの尺度(Berkman-Syme の社会ネットワーク指標など)を組み立てる材料がデータになく、この記事が見てきたのは「一人でいた時間」という行動の記録であること。

三つ目は、米国の労働者だけを対象にしていること。四つ目は、職業の単位で見ているので、本人のリモートの選択と、同僚がリモートであることの効果を分けられないこと。五つ目は、データが2024年までで、長期的な適応を捉えきれていないこと。六つ目は、差の差が、二つの職業群が似たパンデミックの影響を受けた、という仮定に頼っていることだ。影響がリモートで働きうる職業の人により強く、長く残っていれば、結果が交絡しうる。論文は、同じ職業にいたが、いまは働いていない人では、苦痛が増えていない(有意ではないが、むしろ下がっていた)ことも確かめている。そのうえで、パンデミックの影響で結果を説明するには、その影響が、同居の人よりひとり暮らしの人に、そして最近まで雇われていた人よりいま雇われている人に、どちらも偏って効いている必要がある、と論文は書く。

数字の大きさにも注意がいる。リモートで働きうる職業の全員が、完全にリモートへ移ったわけではない。働きにくい職業にも、在宅になった人はいる。この条件で、差の差の17.9ポイントを使って「完全にリモートになった人の効果」を割り戻すと、完全リモートはK-6を1.55上げる、という推定になる。論文は、これには強い仮定が必要で、職場に残った人にも悪影響が及んでいれば過大になる、と断っている。

全国の心理的苦痛の上昇という文脈では、PSID の回答者の K-6 の平均は、2011〜2019年から2022〜2024年のあいだに0.7上がった。論文はそのうち32%をリモートワークで説明できると見ている。三分の一という大きさは、「リモートワークがすべての原因だ」ではなく、「他の原因が三分の二ある」という意味でもある。

では、なぜ多くの人はリモートを好むのか。論文の導入は、先行研究を引いて、労働者は在宅の選択肢のために賃金の4〜10%の減額なら受け入れてもよい、と答える、と書いている。考察での説明は、通勤を省けるといった利点はすぐに、はっきり実感できるが、同僚との関係が擦り切れていく費用は、ゆっくりたまっていくから、というものだ。著者らは「一つの可能な説明」と位置づけ、パンデミック初期に在宅が多かった人ほどその年の後半に苦痛が大きかった、という先行研究と整合すると添えている。論文の中で検証されているわけではない。

つながりの形は、組織の内側でも変わっていた

孤立の話は、個人の感覚から少し離れて、組織のネットワークにも及ぶ。Yang らが2022年に Nature Human Behaviour に載せた研究は(オンライン公開は2021年9月)、米国の Microsoft の従業員61,182人の、2020年前半の6か月のデータを分析した。全社がリモートに移った結果、協働のネットワークは、より固定的でサイロ化し、離れた部署をつなぐ橋が減った。同期的なやりとりが減り、非同期のやりとりが増えた。抄録に書かれているのはここまでで、本文は購読制で読めていない。

Microsoft Research 自身のブログの紹介によれば、部署をまたぐ相手との協働に使う時間の割合が、パンデミック前の水準から約25%減り、各グループの内側では、むしろ結びつきが濃くなったという。この研究は、孤独感を測ったものではない。見ているのは、誰が誰と話すかという、つながりの配線の話だ。

一人でいたいという予測は、外れることがある

ごく薄い接触が失われる、とは、どういう損失なのか。Epley と Schroeder の2014年の論文「Mistakenly seeking solitude」(Journal of Experimental Psychology: General)が、通勤者を使ってこれを調べている。論文には9つの実験が入っている。

最初の実験は、シカゴ郊外の Metra の Homewood 駅で、乗る前の一人客に声をかけた。118人が参加し、指示を守れなかった人などを除いた97人が分析対象になった。「今日、電車で知らない人と会話してください」「一人で過ごしてください」「いつも通りにしてください」の3条件のどれかが割り当てられ、会話をした人の体験は、一人で過ごした人より有意に肯定的だった(効果量 d=0.63)。生産性の自己評価には、条件間で差がなかった。会話の長さは平均14.2分だった。

面白いのは、別の参加者66人に「会話する条件」を想像してもらった結果である。彼らは、会話する条件が最も肯定的でなく、最も生産的でない、と予測した。予測と実際が、きれいに逆を向いていた。別の実験では、電車の通勤者は、他人が自分と話してくれる確率を、半分に満たない(47%未満)と予測した。実際には、話しかけた参加者の全員が会話に応じてもらえ、断られた人は一人もいなかった。

この研究には、読むときの注意がいる。回答を郵送で返した人に限られているし、「いつも通り」の条件と比べると、差が有意でない実験もある。それでも、一人でいたいという予測が外れることがある、という方向の示唆は、一つの実験室の結果ではない。

Sandstrom と Dunn の2014年の論文(Social Psychological and Personality Science)は、バリスタとの短いやりとりで同じ方向を示している。抄録によれば、笑顔、アイコンタクト、短い会話をした人は、できるだけ効率的にすませた人より、肯定的な感情が強かった。帰属意識が媒介していたという初期の証拠もある。人数、店舗数、効果の大きさは、抄録からは確認できていない。同じ誌の2025年の号に載った Ascigil らの、トルコの全国代表標本(3,266人)の分析は、見知らぬ人や、顔見知り程度の人との会話や挨拶が、生活満足度を高める方向の関連を示した。操作変数法を使っているが、抄録の言い方は「方向性の証拠」にとどまる。因果が確定したとは言えない。

Kahneman らの一日再構成法に戻ると、もう一つ数字がある。「一人でいる」ときの肯定的感情は3.41で、相手別の項目のなかで最も低く、上司と一緒にいるとき(3.52)よりも低い。友人と一緒にいるときは4.36だった。通勤は、人に会う時間ではなかった。それでも、毎日、他人の隣にいる時間ではあった。

ハイブリッドなら孤独が和らぐ、とも言い切れない

ここで、折衷案に飛びつきたくなる。週に何日かは出社すればいい、という発想だ。実験としては、Bloom、Han、Liang が2024年に Nature に発表した研究がある。中国の Trip.com で、エンジニア、マーケティング、財務の大卒社員1,612人を、在宅の希望の有無にかかわらず、誕生日が奇数日なら在宅の選択権あり、偶数日なら全日出社と割り付け、2021年8月から6か月追った。選べるのは水曜と金曜の2日で、実際に使われたのは、選べる日の約55%(希望した人)と約40%(希望しなかった人)だった。

結果は、離職率が対照群の7.20%から4.80%へ下がり(33%の減少)、業績評価と、その後2年間の昇進には差が見つからなかった。離職の減少が有意だったのは、非管理職と女性で、通勤が中央値より長い人はぎりぎり(P=0.062)、管理職では有意でなかった。この論文は、孤独や孤立を測っていない。満足度の質問は、ワークライフバランス、仕事、人生、友人への推薦、離職意向の5つで、孤独の項目はない。この実験については、出社回帰の根拠を検討した別の記事でも、別の角度から書いた。

では、孤独を測った調査では、ハイブリッドとフルリモートのどちらが孤独なのか。三つの調査を並べると、答えは揃わない。Gallup の「State of the Global Workplace 2026」は、前日に孤独を感じたと答えた割合を、完全リモート24%、ハイブリッド24%、出社でリモート可能な職種18%、出社でリモート不可能な職種21%と報告している(2025年データ、世界)。同社の2024年6月の記事は、完全リモート25%、ハイブリッド21%、出社16%としていた(記事の方法論の欄は米国の就業者19,846人の調査を指しており、世界の数字と混在している可能性がある)。日本では、テレリモ総研が2025年に1,009人へ尋ねた調査で、職場の人間関係で不調の種になりうる状況として「孤立感」を選んだ人が、フルリモートの160人のうち24.4%、週1〜4日出社の人で20.5〜24.0%、フル出社で21.7%だった。これは調査元のページで確認した数字で、設問の性質も孤独感そのものとは少し違う。

三つの調査は、年も国も設問もばらばらで、同じ物差しではない。それでも、「ハイブリッドならフルリモートより孤独が軽い」と言い切れる根拠は、この三つのどこにもなかった。Gallup の2026年の数字では両者が同率で、2024年の記事と日本の調査でも、差は数ポイントにとどまる。論文の導入が引く米国の国勢調査局の調査(2022年夏)では、リモート勤務者は出社勤務者より不安や抑うつの症状を訴える率が高く、導入は、リモート勤務者で14%、ハイブリッドでも9%高いと書く。ハイブリッドは、出社より高く、フルリモートより低い。一方で Emanuel らは、フルリモートとハイブリッドの影響は区別できないと書いている。ハイブリッドが両方の短所を引き継いで最も孤独になる、という見方もありうる。中間に収まるのか、両方の短所を引き継ぐのかは、いま手元のデータでは決まらない。

埋め合わせの手段を、並べてみる

通勤をなくして浮いた時間と、手放したかもしれないものを、どう扱うか。ここで答えを渡すことはしない。代わりに、手元の研究が語れる範囲で、手段を並べてみる。

一つは、通勤の機能を自前で再現すること。利点は、費用がほとんどかからないことと、Jachimowicz らの実験で、仕事の計画を考えた群の満足が下がらなかったことだ。欠点は、効果が(弱いながら)見えたのが、もともと通勤していた人の通勤中の振る舞いだという点で、自宅の周りを歩く行為がその代わりになるかどうかは、測られていない。疑似通勤の研究は、8人へのインタビューまでしかない。

二つ目は、出社の日を決めること。Emanuel らは、リモートワークを孤立しにくくすることを優先してよいとし、その例として、ハイブリッドの出社日を揃えることや、オンラインでも非公式なやりとりを促すことを挙げている。週に数日の出社が悪影響を和らげるかどうかは、論文自身が未解決の問いとしている。利点は、人と会う機会を機械的に確保できることだ。欠点は、自分の出社日を決めても、同僚の出社日が揃っていなければ、会う相手がいないことだ。Emanuel らが例に挙げたのが「出社日を揃えること」なのは、そのためだろう。

三つ目は、仕事の外で人と会うこと。利点は、仕事の都合に左右されないことだ。欠点は、Emanuel らも Cowan と Jones も、平均的には、仕事の外での埋め合わせがほとんど起きていないと報告していることで、意図して作らないと、日常には自然に生まれにくい。

四つ目は、誰と暮らしているかという条件を見ること。効果が集まっていたのはひとり暮らしの人で、心理的苦痛の尺度(K-6)では、パートナーや子と暮らす人のあいだで、リモートで働きうる職業の人の増え方は、働きにくい職業の人と統計的に区別できなかった。これは、住まいを変えるべきだという意味ではない。同じ働き方でも、パートナーや子と暮らしているかどうかで、数字が大きく変わりうる、という観察だ。

どの手段にも、確かな実験はまだない。Ctrip の昇進の数字のように、得をしたと思っていた働き方が、別の数字では損をしていたこともあった。どれが自分に効くのかを、研究はまだ教えてくれない。

勘定に、まだ書けていない欄が残っている

通勤をなくすことで戻ってくる時間は、実測されている。日本では、在宅の日に浮く通勤時間が、Aksoy らの推計で100分にのぼる。そして、その時間の使い道は、仕事ではなく余暇のほうが大きい。ここは実測で裏が取れている。

一方で、通勤と一緒に消えたものの勘定は、まだ書き終わっていない。役割の切り替えは、通勤中に仕事の計画を考えた人の満足度が示す程度にしか、測られていない。見知らぬ人との薄い接触は、リモートで働きうる職業の人で、一日中人のいる場所にさえいなかった日が、働きにくい職業の人と比べて、ひとり暮らしでは3.9ポイント、パートナーや子と暮らす人では0.3ポイント多く増えた、という形でしか、数字に残っていない。通勤の損失だけを取り出した数字は、どこにもない。

84.0%と23.2%という二つの数字は、リモートワークの是非を決める数字ではない。在宅で働いた日では、勤務時間の全部を一人で働いた日の割合が、出社して働いた日の3.6倍だった、という記述的な事実である。その違いを、自分の一日のどこで受け止めているのか。数字は、そこから先を決めてくれない。

出典

確認の深さを各項目の末尾に書いた。「全文」は本文を読んだもの、「抄録」は抄録(Crossref、PubMed、出版社ページ)だけを読んだもの、「二次」は原典に当たれず他の資料の記述によるもの。

  • Emanuel, N., Harrington, E., & Pallais, A. (2026). "Home alone: Remote work, isolation, and mental health." Science, 392(6802), eaec7671. doi:10.1126/science.aec7671.(本文は全文で確認。補足資料は未見。使用データは ATUS、PSID、NHIS、MEPS、GSS。GSS は補足の分析で、2018年と2021年)
  • Kessler, R. C., et al. (2002). "Short screening scales to monitor population prevalences and trends in non-specific psychological distress." Psychological Medicine, 32, 959–976.(K-6 の出典。原典は未見で、Emanuel ら (2026) の文献表による二次)
  • Dingel, J. I., & Neiman, B. (2020). "How many jobs can be done at home?" Journal of Public Economics, 189, 104235.(原典は未見。Emanuel ら (2026) の文献表による二次)
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  • Bloom, N., Han, R., & Liang, J. (2024). "Hybrid working from home improves retention without damaging performance." Nature, 630, 920–925.(全文で確認)
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  • Gallup (2026). State of the Global Workplace 2026.(PDF の該当表で確認)/Gallup (2024). "1 in 5 Employees Worldwide Feel Lonely."(記事のページで確認。標本の範囲は記事から読み切れなかった)
  • テレリモ総研(LASSIC)(2025). 「職場での不調要因と価値観の変化に関する調査」.(調査元の結果ページで確認。別の報告書は見当たらなかった)
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