目次▼
ものづくりの趣味。編み物・手芸は女性16.5%、男性0.8%
ものづくり系の趣味は、性別も年齢の山も種類ごとに違う。静けさを調べたフローや塗り絵の研究が測ったものと測っていないものを分け、刺し子、革、陶芸など六つの入り口の費用と性質を並べる。
検索窓に「ものづくり 趣味」と入れると、革の財布や陶器のマグカップ、刺し子のふきんの写真が並ぶ。眺めているうちに、世の中の人はみんな何かを作っているような気がしてくる。
数字は、その印象をかなり削る。総務省の令和3年(2021年)社会生活基本調査によると、過去1年のあいだに陶芸・工芸をした10歳以上の人は1.6%。百人の教室を思い浮かべれば、一人か二人だ。編み物・手芸でも8.8%にとどまり、同じ調査でスマートフォンやゲーム機のゲームは42.9%に上る。
この文章は、その少数派の側に立ちたい人が、入り口を選ぶ手がかりをどこに置けるかを書く。どれを始めるべきかは書かない。書けるのは、種類ごとの数字と、「手を動かすと頭が静かになる」という実感を調べた研究が何を測り、何を測っていないか、ということだけだ。先に言えるのは、その静けさの正体にはまだ名前がついていない、という程度のことである。
統計の物差しに、革も金継ぎも載っていない
調査票の「趣味・娯楽」の選択肢は34種類(その他を含めると35)ある。手を動かすものを拾うと、和裁・洋裁、編み物・手芸、趣味としての料理・菓子作り、園芸・庭いじり、日曜大工、絵画・彫刻の制作、陶芸・工芸あたりになる。過去1年に1回でも行った人の割合(行動者率)は、園芸が26.0%、料理・菓子作りが19.0%、日曜大工が11.0%、編み物・手芸が8.8%、和裁・洋裁が5.5%、絵画・彫刻の制作が3.4%、陶芸・工芸が1.6%だった。
検索結果の写真に多いのは、むしろ載っていない側だ。革細工、金継ぎ、レジン、刺し子、3Dプリンタ。いずれも選択肢にない。刺し子は「編み物・手芸」に、革細工は「陶芸・工芸」か「日曜大工」に入るのかもしれないが、どこに数えるかを述べた定義文は、調べた範囲では見つからなかった。回答者の判断に任されているのだろう、と推測するのが精一杯である。物差しそのものが粗い。「ものづくりをする人」を一つの数にまとめることは、この統計からはできない。編み物・手芸と和裁・洋裁は別項目で、両方に答えた人が重なるから、足し算もできない。
注意が二つある。一つは期間で、この調査が尋ねたのは2020年10月20日から2021年10月19日の1年間、つまり新型コロナの最中だった。もう一つは行動者率の意味で、年に1回やっただけの人も、毎日やる人も、同じ1人として数えられる。
それでも、推移を見ると、手を動かす趣味が一方向に減っているわけではないことは分かる。編み物・手芸は2001年の12.1%から2021年の8.8%へ、和裁・洋裁は10.2%から5.5%へ下がった。日曜大工は、2001年の12.5%から2011年の8.9%まで下がったあと、2016年の10.9%、2021年の11.0%と戻している。ゲームは、2021年には42.9%だった。ただし2001年の選択肢は「テレビゲーム(家庭で行うもの 携帯用を含む)」で、2021年は「スマートフォン・家庭用ゲーム機などによるゲーム」と、名前も範囲も違うので、20年前と並べて比べることはできない(2001年の値は、私は確認できていない)。手を動かす趣味は、種類ごとに別々の方向へ動いたことになる。2021年の数字はコロナ禍の最中のものなので、2001年からの差を、人気の変化としてそのまま読むのは控えておく。
性別と年齢で、山の位置がまるで違う
検索語には「ものづくり 趣味 女性」「ものづくり 趣味 男性」という形がある。数字で、そのまま答えられる。
編み物・手芸の行動者率は、女性が16.5%、男性が0.8%。割ると約20倍の開きがある。和裁・洋裁も、女性10.1%に対して男性0.7%。ところが日曜大工は逆で、男性が17.4%、女性が4.8%、約3.6倍になる。陶芸・工芸は男性1.2%、女性2.0%と差が小さく、絵画・彫刻の制作も男性2.5%、女性4.3%にとどまる。「ものづくり」という一つの看板の下に、性別の偏り方が正反対の趣味が並んでいる。
年齢でも、山の位置は揃わない。絵画・彫刻の制作は10〜14歳の12.1%が最も高く、55〜59歳では1.7%まで下がる。約7.1分の1だ。ただし、10代前半の数字に学校の図画工作や美術の時間が混ざっているかどうかは、資料からは確かめられなかった。調査は「自由時間に行ったもの」を尋ねているが、中学生が授業と自由時間をどう切り分けて答えたかは分からない。
日曜大工をする男性の割合は、20〜24歳の4.3%から65〜69歳の26.3%まで、約6倍に上がっていく。編み物・手芸をする女性は、10〜14歳で18.6%、15〜19歳で9.8%といったん下がってから、65〜69歳の21.1%でもう一度山をつくる。「いつか始めよう」と思ったとき、その「いつか」が来る年齢は、種類によって違う、と読める。編み物・手芸の年代ごとの割合は、男女別に編み物・手芸の表にしてある(1%以上の割合は整数に丸めてある)。
もう一つ、回数がある。行動者に限った年間の平均行動日数は、日曜大工が13.0日、陶芸・工芸が23.0日、和裁・洋裁が28.8日、編み物・手芸が39.4日、絵画・彫刻の制作が48.3日、園芸が62.8日。ゲームは166.5日だ。作る趣味のうち、週1日を超えるのは園芸(週1.2日)だけで、次に多い絵画・彫刻の制作でも、48.3日を52週で割ると週0.93日にとどまる。園芸を別にすれば、作る趣味の行動者は、平均すると、毎週のように作業台へ向かっているわけではない。もっとも、これは日数であって、1日に何時間やるかは聞かれていない。平均そのものも、頻度の階級ごとの中央値を行動者数で重みづけした推計である。
仕事のほうがフローが多い、という通説を測り直す
手を動かすと頭が静かになる、という実感は、たいていフローという言葉で説明される。心理学者チクセントミハイの概念で、時間を忘れるほど没頭した状態をいう。前提条件として挙げられるのは、目標が明確なこと、フィードバックがはっきり返ってくること、課題の難しさと自分の技能が釣り合っていることの三つだ。この三つへの整理は、1990年の著書そのものではなく、ナカムラとチクセントミハイが2002年に書いた章などによるもの、というのがPeiferらの総説の説明である(章そのものは有料で、読めていない)。
ここから、筋が一本引ける。仕事は目標もフィードバックも曖昧だが、手仕事は目標も結果も目の前にある。だから手仕事は没頭しやすい。筋は通っている。通りすぎているくらいだ。
ところが、この筋を経験の記録で確かめた研究は、逆の絵を描いた。経験抽出法(決まった合図のたびに、そのときの活動や気分を答える方法)で、フローを仕事と余暇に分けて調べた1989年のチクセントミハイとルフェーブルの研究では、成人の労働者78人に1週間、経験を尋ねた。フロー、つまり高い挑戦と高い技能の経験は、大多数が余暇ではなく仕事中に報告された。それでも、動機づけは余暇のほうが高かった(抄録による)。ただしこの研究は、フローを直接測ってはいない。挑戦と技能の両方が本人の平均より高いと答えた場面を、フローとみなしていた。目盛りを決めてから長さを測っているようなものだ。
直接測り直した研究の中身は別の記事に書いたので、ここでは手を動かす活動に関わる部分だけ拾う。エンゲザーとバウマンの測り直し(さまざまな職業の100人、計4,504回の有効回答)で、フローを7段階で尋ねた平均は、仕事が5.28、積極的な余暇が5.20、受動的な余暇が4.33。庭いじり、楽器、絵を描くといった創造的な活動は5.72と、仕事の細目(中核の仕事5.40)を上回った。ただし、その回答は87回分、全体の2%にすぎない。回答者は事務職や研究職が多く、単純労働者や職人は少ない、と著者自身が書いている。創造的な活動をしているときにフローが高いのか、フローが高くなりやすい人が創造的な活動を選ぶのかも、この設計では分けられない。
フォンらが28の研究をまとめたメタ分析では、挑戦と技能の釣り合いとフローの関係は中程度で、著者らは、釣り合いを、明確な目標や統制感と並ぶ確かな要因だと結論している。関係の強さのほうは、場面や対象によって変わる。個人主義の文化、経験抽出法で測った研究、仕事や教育の場面の研究、その場の状態としてのフローを自己報告で聞いた研究では、関係が弱かった(抄録による。平均の相関係数は全文を読めていないので書かない)。
通説は一度ひっくり返り、ひっくり返した側にも87回分の留保がつく。残ったのは、創造的な余暇は、少なくとも仕事より没頭が低いとは言えなかった、という控えめなことだけである。
ボタンを押す手が、時間の感覚を六十ミリ秒縮める
手を動かしているときの感覚として、もう一つよく持ち出される研究がある。ハガードらが2002年にNature Neuroscienceに発表した、意図的結合(インテンショナル・バインディング)の実験だ。
参加者は9人。回転する時計の針(1周2.56秒)を見ながら、自分の意志でキーを押す。その250ミリ秒後、つまり0.25秒後に、音が鳴る。あとで、キーを押した時刻、あるいは音が鳴った時刻を、針の位置で答える。同じ人が、音のない条件でも時刻を答えているので、その答えとのずれが、音が鳴ることによる時間感覚の変化を表す。
自分で押したキーの時刻は、実際より15ミリ秒遅く、音は46ミリ秒早く答えられた。0.25秒の隔たりのうち、合計で約61ミリ秒、行為と結果が心の中で引き寄せられたことになる。ところが、頭の外から磁気刺激(経頭蓋磁気刺激、TMS)を当てて、本人の意志と無関係に指を動かした場合は、動きの時刻が27ミリ秒早く、音が31ミリ秒遅く答えられ、約58ミリ秒、逆に離れた。偽のTMSでは、ほとんど動かなかった。
別の12人での実験では、音までの間隔を250、450、650ミリ秒と変えた。音が早く感じられる幅は、間隔が短いほど大きく、250ミリ秒の固定条件で97ミリ秒、450ミリ秒で35ミリ秒、650ミリ秒で11ミリ秒だった。
この引き寄せを、自分が原因だという感覚、つまり行為主体感の指標とみなす見方がある。針の位置を言い当てるだけの小さな実験だが、解釈は大きい。その後の研究(デューイとノブリッヒ、2014年)は、時間の引き寄せの個人差と、自己評定による行為主体感の個人差とが、相関しなかったと報告している。時計ではなく、間隔を再現させる方法で測った78人の実験である。ボタンを押して音が鳴る程度の課題で見える現象を、縫い目が揃ったときの手応えにそのまま重ねるのは、少し先走りすぎる。
道具が作業を肩代わりするほど、自分が原因だという感覚は薄まるのではないか。そういう推測も成り立つ。だが、それを測った研究は、今回の調査では見つからなかった。
静けさをくれたのは、手なのか、構造なのか
2005年にカリーとカッサーが行った実験は、塗り絵の研究としてよく引かれる。学部生84人に、恐怖を感じた体験を4分間書かせて不安を高めてから、20分間、三つの条件のどれかで色を塗ってもらった。マンダラの図案を塗る群、格子(プレイド)模様を塗る群、白紙に自由に塗る群である。状態不安の得点は、マンダラ群で49.17から32.07へ、格子群で49.26から35.78へ下がった。白紙の群は、55.15から55.07と、ほとんど動かなかった(塗る前の得点に、三群で有意な差はなかった)。マンダラ群と格子群のあいだに、有意な差はなかった。
効いたのは、マンダラの神秘性ではなかったらしい。構造のある図案を塗る、という条件が効いた。著者らは、白紙では何を描くかを決める負担が不安を保ったのかもしれない、という可能性を挙げている。可能性であって、検証されたわけではない。しかも学部生84人で、図案は既製のものを塗るだけ、測ったのは恐怖体験で上げた不安の回復であって、日常のストレスではない。
一貫した結果でもない。8年生(中学2年生)193人を対象にしたカーズリーとヒースの研究(2018年)では、マンダラを塗った群だけでなく、自由に塗ったり描いたりした群でも、テスト前の不安が下がった。低下の幅はどちらの群もほぼ同じだったが、塗らずに過ごす群は置いていないので、塗ったことによるのか、時間がたって測り直したことによるのかは分けられない(著者自身が限界として挙げている)。大学生88人(解析は84人)を対象にしたマンツィオスとジャンヌの実験(2018年)では、案内なしのマンダラ塗りでも自由な描画でも不安は下がり、両群の差はなかった。抄録は「変化なし」と書いていて、本文の結果と食い違う。同じ論文の二つ目の実験では、案内なしのマンダラ塗りで不安は下がらなかった。構造があるほうが効く、という筋は、少なくとも一枚岩ではない。
制約のある創造的課題のほうが楽しめる、という研究もある。ダールとモローは、質的調査と二つの実験から、指示や完成形の指定といった制約が、有能感と自律の釣り合いを生み、その釣り合いがあるときに人は創造的な体験を楽しむと報告した。抄録には数値がない。費用の記事で扱った制約の研究とは別の論文である。手順書に従って作る入り口と、素材だけ渡されて何かを作る入り口とでは、最初の数時間の心地よさが違うかもしれない、ということだ。
手を動かすだけで、集中が保たれる方向の実験もある。アンドレードの2010年の研究では、40人に退屈な電話の伝言を聞かせ、名前を拾う課題を課した。半数には、同時に図形の塗りつぶしをさせた。塗りつぶした群は、あとの抜き打ちの記憶テストで、29%多く思い出した。著者は、空想にふける時間が減ったためか、覚醒の水準が保たれたためかを、今後の課題として挙げている。聞かせた録音は2分半だった。塗りつぶしは手工芸ではなく、課題は退屈な聞き取りだから、「手を動かすと集中できる」とまでは言えない。言えるのは、単調な課題に手の簡単な作業を足して、成績が上がった例がある、というところまでだ。
本人の言葉から見た研究もある。ポラネンが2015年に分析したのは、フィンランドの手芸愛好家の女性59人(19〜84歳)による書面の語りで、幸福感を高める要素として、素材、作品、達成感、個人の成長、身体的・認知的な技能の発達、身体と感情の制御、社会的・文化的な面の七つが抽出された。数値で効果を測った研究ではなく、自分から手芸を選んだ人の語りである。その中で、作り手が取り組みの難しさを自分で決められることが、先行研究の紹介として触れられている。
「細かい作業」「単純作業」という語で探す人が何を求めているのかは、検索語だけでは分からない。ただ、もし何も考えずにできる反復を求めているのだとしたら、この節の実験から言えるのは、白紙より構造のある図案のほうが不安の回復に向いていた実験が一つある一方で、自由に描いても下がった実験が二つある、ということだ。刺し子のような技能を要する手仕事と、同じ時間の単純な反復作業を直接比べた実験は、今回の調査では見つからなかった。
「効いた」という報告を、どこまで読むか
手を動かすと気持ちが落ち着く、という主張の根拠として、よく挙がるのが、カイマルらが2016年に発表した研究だ。大学の学生、職員、教員39人(33人が女性、18〜59歳)が、コラージュの素材、粘土、フェルトペンから好きなものを選んで、約45分、指示なしで自由に作った。前後に唾液を採ってコルチゾール(ストレスに関わるホルモン)を測ると、平均は17.85から14.77ng/mlに下がった。約75%の人で下がった。
意外なのは、過去の制作経験の多さが関係しなかったことだ。過去の制作経験が少ない18人も、ある程度ある13人も、豊富な8人も、低下の程度に差はなかった(3群の比較でp=.53)。一方で、約4人に1人は、下がらなかったか、上がった。
この研究には、対照群がない。45分間静かに座っていただけでも同じ変化が出たのか、美術療法士が同席していたことが効いたのか、一日のなかの時刻の影響なのか、区別できない。コルチゾールには日内変動があり、この研究でも測った時刻との関連が見られた(r=.29)。しかも作ったのは自由な制作で、刺し子や革縫いのような、技能を要する作業ではない。
編み物の効果として語られる数字にも、読み方の癖がある。ライリーらが2013年に発表した国際調査は、編み物のサイトを通じて3,545人から回答を集めた(有効3,514人)。編んだあとの気分を7段階で尋ねると、81.5%が「少しから非常に幸せ」と答えた。ここで注意したいのは、これが「気分が良くなった人の割合」ではないことだ。編む前の気分を尋ねた質問では、すでに34%が「幸せ」、43%が「中立」と答えている。
回答者の内訳にも目を向けたい。女性が3,458人で、男性は42人。熱心な編み物愛好者が自分から答えた英語のオンライン調査で、著者ら自身が標本の偏りを認めている。グループで編む人については、うつのある回答者のうち、グループに所属する人のほうが「より幸せ」(p=0.015)、「自分についてより良い」(p=0.044)と答える関連が見られた。ただし、これは所属の有無の比較であって、編むことでうつが軽くなったという比較ではない。
高齢者での介入研究もある。Iizukaらは、川崎市の60歳以上で物忘れの自覚がある人61人を、無作為に二群に分けた(介入30人、対照31人)。毎週1回、12回、アクセサリー制作や創作寿司などの手作りのプログラムか、健康に関する講義を受けてもらう設計だ。解析に残ったのは、介入群27人、対照群22人。測った認知の指標のうち、有意な差が出たのはトレイルメイキングテストB(数字と文字を交互に線で結ぶ課題で、秒数が短いほどよい。p=0.03)だけで、文字流暢性など他の指標には出なかった。
その差の中身を見ると、TMT-Bは介入群で127.8秒から116.5秒へ、対照群で124.8秒から160.0秒へ変わっていた。差の大半は、介入群が11秒速くなったことより、講義を聞いた対照群が35秒遅くなったことから来ている。介入群のばらつき(変化量の標準偏差は54秒)は、改善幅より大きい。研究費はAll About社が出していて、プログラムは、創作系の通信教材を売る会社と共同で作られた。利益相反は「なし」と記載されている。
横断研究では、ゲダらが2011年に70〜89歳の1,321人を調べ、過去1年に月1回を超える頻度で手芸(編み物、キルト、陶芸など)をしていた人は、軽度認知障害のオッズ比が0.66(95%信頼区間0.47〜0.93)だった。同じ研究で、絵などの美術活動は0.81(0.49〜1.32)で、有意ではなかった。時点が一つしかない調査なので、手芸が認知機能を守ったのか、認知機能が落ちた人が手芸をやめたのかは分からない。
28人の小さな実験も一つ挙げておく。ボルヴェルクらは、退職後の健康な成人28人を二群に分け、10週間、週1回の美術制作クラスと、美術館での作品の鑑賞・評価に割り当てた。心理的レジリエンスの得点は、制作群で60.64から63.50へ上がって有意(p=0.013)、鑑賞群も62.57から64.79へ上がった(p=0.195で、有意ではない)。「制作だけが有意」と書くと決定的な差に見える。だが鑑賞群も2.2点上がっていて(制作群は2.9点)、両群の差を直接検定した結果は、読んだ範囲では示されていない。有意と非有意の差が、それ自体は有意とは限らない、という典型的な読み違いを誘う数字だ。
ここまでの研究は、どれも手を動かす営みの一部だけを測っている。自由な45分、編み物サイトの愛好者、12回のプログラム、一時点の調査。効く、とは言い切れないし、効かない、とも言えない。測れた範囲では、悪くない方向を向いているものが多い、というだけである。
ものづくりを、六つの入り口に分けて考える
ここまでの数字を踏まえて、入り口を六つに分ける。ランキングではないし、並べた順番に意味はない。価格はメーカーや教室の公式ページで2026年10月13日に確認したもので、確認できなかったものは、確認できなかったと書く。
布と糸:刺し子、編み物、洋裁
統計の上では、編み物・手芸が8.8%、和裁・洋裁が5.5%。行動者の年間平均日数は、それぞれ39.4日と28.8日で、陶芸・工芸や日曜大工より多い。性別の偏りは大きく、編み物・手芸は女性16.5%に対して男性0.8%になる。
費用は、刺し子なら低い。オリムパス製絲の公式ページには、花ふきんの布パックが550〜748円(税込)、晒木綿・刺し子糸・刺し子針・説明書が入ったキットが1,320〜2,530円(税込)とある。キットは「初級者向け」の表示で、布パックは糸と針が別になる。布パックの布には、柄があらかじめ印刷されている。前の節の言い方をすれば、構造のある作業からの出発になる。逆に言えば、柄を自分で決める自由は、最初は手元にない。道具が小さく、置き場所に悩みにくそうだというのは、価格表と内容物からの私の推測で、確かめた事実ではない。
革:手縫いから
革細工は、統計の選択肢にない。費用の目安は、クラフト社の公式ページにある。手縫いの体験キット(ステッチンググルーバー、ステッチルレット、菱ギリ、糸10m、手縫いワックス、針2本、ドライバー)の本体価格が4,000円。道具15点とガイドブックのライトが8,000円、道具18点とカードパスケースのキットがついたスタンダードが12,500円。革のキットは別で、キーホルダーが2,500円、コインケースが3,300円だった。ライトとキーホルダーのキットを合わせると、本体価格で10,500円になる(足し算による派生値)。ただしキーホルダーのキットの「必要な道具類」には、ライトのセットのほかにハトメ抜きと菱ギリ(細)が挙がっていて、その分は含まれない。
注意が一つある。ページに書かれている税込額は税率8%で計算されていて、現行の10%の額ではない。更新日の記載もないので、いま店頭で払う額は、取扱店で確かめる必要がある。ここで言えるのは桁だけで、刺し子の数倍、数千円から1万円台前半になる。磨きすぎた革は薄くなる、削りすぎた木材は元に戻らない、といった素材の性質については、ハンドメイドの記事が整理しているので、ここでは繰り返さない。失敗のコストや、完成までの時間は、公式の資料で言い切れるものが見つからなかった。
陶芸:教室に通う
陶芸・工芸の行動者率は1.6%で、10歳以上の推計人口1億1,246万人に掛けると約180万人になる(派生値)。男性1.2%、女性2.0%と、男女差は小さい。行動者の年間平均日数は23.0日。頻度別に見ると、行動者の約半数が年に1〜4日だ(0.8%を1.6%で割った比率で、刻みが0.1%なので粗い)。
教室の費用は、陶芸.comの教室の公式ページ(1教室のみ)に、入会金8,800円(体験教室に参加した人は3か月以内の入会に限り5,500円)、月2回コースが月6,600円、月4回コースが月11,000円、10回チケットが33,000円(5か月有効)とあった。粘土は1kgが1,430円で、釉薬と焼成の費用を含む。目安の使用量は、飯碗で400g、マグカップで500g、どんぶりで1kg。月2回コースに粘土1kgを足すと月8,030円、入会金を足した初月は16,830円になる(派生値)。電動ろくろの使用料は無料で、月2回・月4回コースの回数は翌月に繰り越せない。
この教室は焼成費込みだが、他の教室の扱いは確かめていない。公式ページで確かめたのは、この1教室だけだ。窯と設備を借りられる代わりに、固定の月謝と、通う時間が要る。焼き上がりまでの日数は、公式の記述が見つからなかった。
木工・日曜大工
日曜大工の行動者率は11.0%で、男性17.4%、女性4.8%。行動者の平均は年13.0日、月に1日ちょっとにあたる。男性の割合は、20〜24歳の4.3%から65〜69歳の26.3%まで上がる。この統計から読めるのは、若いうちに始める趣味というより、年齢を重ねてから増える趣味だというところまでで、理由が時間なのか、持ち家なのか、置き場所なのかは、表からは分からない。人口集中地区の外のほうが、男性の日曜大工は多い(人口集中地区16.1%に対して、それ以外21.0%)。
道具や入門セットの公式価格は、確認できなかった。木工は、材料と道具と置き場所が一緒に要る趣味だが、数字で言えるのはここまでである。収納については、趣味の道具の収納の記事が、日曜大工を含む頻度別の数字を使って書いている。
描く、塗る
絵画・彫刻の制作の行動者率は3.4%(男性2.5%、女性4.3%)で、行動者の年間平均日数は48.3日。陶芸・工芸の23.0日、日曜大工の13.0日より、続けている人の回数は多い。10〜14歳の12.1%から50代にかけて落ち込み、75〜79歳では3.4%まで戻る。
この入り口には、前の節の研究がそのまま関わる。構造のある図案を塗る条件は不安を下げ、白紙に自由に塗る条件は下げなかった実験がある一方で、自由な塗りや描画でも下がった、中学生と大学生の研究もある。画材の価格は今回確かめていないので、書かない。手を動かす入り口の多くは、何から作るかを決める作業と、決められた手順をなぞる作業の、どちらの割合が大きいかで分けられる。塗り絵の実験が分けたのも、その軸だった。
統計に載らない手仕事:3Dプリンタ
3Dプリンタは、社会生活基本調査の選択肢にない。価格はBambu Labの日本公式ストアで、A1 miniの本体が29,800円〜(税込表示)、AMS Lite付きのComboが49,800円。ただし、これがセール価格かどうかは、ページから判別できなかった。フィラメントの代金、失敗する造形の頻度、使いこなすまでの時間は、確認できなかった。
この入り口には、固有の問いがある。作業の中心が、手の動きから、データを作る、調整する、仕上げる、という段階に移るとき、「自分の手でやった」という感覚はどうなるか。先に見た意図的結合の実験は、キーを押すという最小の動作の話で、機械が作業を肩代わりする場面を測ってはいない。肩代わりが大きいほど薄まるのではないか、という推測は成り立つが、それを測った研究は見つかっていない。推測のまま残しておく。
完成までの時間を、人はどれくらい短く見積もるか
六つのどの入り口についても、完成までの時間は、公式の資料で確かめられなかった。そこで、手仕事の研究ではないが、見積もりの癖を測った古典を一つ置いておく。
ビューラー、グリフィン、ロスが1994年に報告した研究の一つ目の実験では、卒業論文の最終学期にいた心理学専攻の学生37人に、提出までの日数の見積もりを尋ねた(分析に残ったのは33人)。「最良の見積もり」の平均は33.9日。実際にかかった平均は55.5日で、約1.6倍だった。見積もりの日までに提出できた人は29.7%。「すべてが最悪に進んだ場合」を想像してもらっても、その予想の平均は48.6日で、その日までに終えた人は48.7%と、半数に届かなかった。
卒論の結果が、革の財布や陶器のマグカップの完成時間にそのまま当てはまると証明されたわけではない。ただ、論文が示したのは、卒論に限らず、学業以外のさまざまな課題でも見られる偏りだった。似た課題をこなした経験があっても、人はそれを見積もりに使わず、楽観的になると論じている。初めての作業なら、手がかりはなおさら少ないだろう、というのは私の推測である。陶芸の焼成を待つ日数、革の仕上げの手間、刺し子の一枚。どれも、数字を確かめられないまま、自分の予想だけが先にある。
買えば済むものを、作る人がいる
最後に、別の問いを置く。革の財布は、買えば十分な品質のものが手に入る。縫い目は機械のほうが揃うし、時間もかからない。それでも作る人がいるのは、手応えのためなのか、完成品への愛着なのか、静けさのためなのか。
「手作り」と表示された製品が魅力的に評価されやすいことは、マーケティングの研究が示している。フックスらが2015年に4つの研究で確かめたのは、手作り製品の魅力の大きな部分が、そこに愛が込められているという象徴的な知覚で説明される、ということだった。努力、品質、独自性、本物らしさ、誇りを統制しても残るという。贈る相手との近さを変えた実験では、親しい相手への贈り物にだけ、手作りの購入意向を高める効果が出て、遠い相手への贈り物では差がなかった。この研究が扱うのは、表示された製品の評価であって、自分で作ったものへの愛着とは別の問題だ。それでも、買う側ですら、手作りに愛を見ている。
職人の仕事を論じたセネットの『The Craftsman』は、出版社の紹介によれば、仕事そのもののためにうまくやろうとする人間の基本的な衝動を職人気質と呼び、素材への意識と倫理的な価値との深いつながりを論じている。実験で確かめられた話ではなく、ひとつの議論である。
静けさの正体は、フローの条件なのか、意図的結合の小さなずれなのか、構造のある作業の気楽さなのか、あるいは座って過ごしただけの45分なのか。ここで見た研究は、そのどれにも決着をつけていない。作業台の前で自分が何に落ち着いているのかは、入り口を変えながら確かめるしかないのかもしれない。それは処方箋というより、実験の段取りに近い。六つの入り口があるのは、その実験を何度かやり直せるからだ。
出典
- 総務省統計局「令和3年社会生活基本調査 生活時間及び生活行動に関する結果 結果の概要」2022年、表4-3・図4-2・用語の解説(本文・表で確認)。同「解説編」(趣味・娯楽の選択肢、調査期間、平均行動日数の定義)。
- 総務省統計局「令和3年社会生活基本調査」統計表:第93-2表「男女,趣味・娯楽の種類別行動者率(10歳以上)-全国,都道府県」、第30-2表(年齢,趣味・娯楽の種類別行動者率)、第33-2表(頻度別)、第33-3表(平均行動日数)、時系列統計表 第3表「男女,年齢,趣味・娯楽の種類別行動者率の推移(昭和61年〜令和3年)」(e-Stat の公表表で確認。人数や倍率の記述は、これらの表から計算した派生値)。
- Mihaly Csikszentmihalyi, Flow: The Psychology of Optimal Experience, Harper & Row, 1990(未読。本文では次の総説を経由して言及)。
- Mihaly Csikszentmihalyi, Judith LeFevre, "Optimal experience in work and leisure," Journal of Personality and Social Psychology 56(5), 1989, pp.815-822(抄録で確認)。
- Stefan Engeser, Nicola Baumann, "Fluctuation of Flow and Affect in Everyday Life: A Second Look at the Paradox of Work," Journal of Happiness Studies 17(1), 2016, pp.105-124(全文で確認。LeFevre らがフローを「挑戦と技能が平均より高い回答」とみなした点も、この論文の序論の記述による)。
- Carlton J. Fong, Diana J. Zaleski, Jennifer K. Leach, "The challenge-skill balance and antecedents of flow: A meta-analytic investigation," Journal of Positive Psychology 10(5), 2015, pp.425-446(抄録で確認。平均の相関係数は未確認)。
- Jeanne Nakamura, Mihaly Csikszentmihalyi, "The Concept of Flow," in C. R. Snyder, S. J. Lopez (eds.), Handbook of Positive Psychology, Oxford University Press, 2002, pp.89-105(章は未読。三つの前提条件への整理は、次の総説による二次情報)。Corinna Peifer ほか, "A Scoping Review of Flow Research," Frontiers in Psychology 13, 2022(全文で確認)。
- Patrick Haggard, Sam Clark, Jeri Kalogeras, "Voluntary action and conscious awareness," Nature Neuroscience 5(4), 2002, pp.382-385(全文で確認)。
- John A. Dewey, Günther Knoblich, "Do Implicit and Explicit Measures of the Sense of Agency Measure the Same Thing?" PLoS ONE 9(10), 2014, e110118(全文で確認)。
- Nancy A. Curry, Tim Kasser, "Can Coloring Mandalas Reduce Anxiety?" Art Therapy 22(2), 2005, pp.81-85(全文で確認)。
- Dana Carsley, Nancy L. Heath, "Effectiveness of mindfulness-based colouring for test anxiety in adolescents," School Psychology International 39(3), 2018, pp.251-272(全文で確認。同じ著者の2020年の大学生の研究とは別の論文)。
- Michail Mantzios, Kyriaki Giannou, "When Did Coloring Books Become Mindful? Exploring the Effectiveness of a Novel Method of Mindfulness-Guided Instructions for Coloring Books to Increase Mindfulness and Decrease Anxiety," Frontiers in Psychology 9, 2018, 56(全文で確認。抄録の記述と本文の結果が食い違う)。
- Darren W. Dahl, C. Page Moreau, "Thinking Inside the Box: Why Consumers Enjoy Constrained Creative Experiences," Journal of Marketing Research 44(3), 2007, pp.357-369(抄録で確認。数値は抄録にない)。
- Jackie Andrade, "What does doodling do?" Applied Cognitive Psychology 24(1), 2010, pp.100-106(全文で確認)。
- Sinikka Pöllänen, "Elements of Crafts that Enhance Well-Being: Textile Craft Makers' Descriptions of Their Leisure Activity," Journal of Leisure Research 47(1), 2015, pp.58-78(全文で確認。質的研究)。
- Girija Kaimal, Kendra Ray, Juan Muniz, "Reduction of Cortisol Levels and Participants' Responses Following Art Making," Art Therapy 33(2), 2016, pp.74-80(全文で確認。対照群のない前後比較)。
- Jill Riley, Betsan Corkhill, Clare Morris, "The Benefits of Knitting for Personal and Social Wellbeing in Adulthood: Findings from an International Survey," British Journal of Occupational Therapy 76(2), 2013, pp.50-57(全文で確認。転載された版を読んだ)。
- Ai Iizuka ほか, "The Effects of the MONOZUKURI Program on Executive Function Among Community-Dwelling Older Adults: A Randomized Controlled Trial," Brain and Behavior 15(10), 2025, e70888(全文で確認。抄録の人数と本文の表の人数にずれがあり、本文では解析対象を27人と22人として記した)。
- Yonas E. Geda ほか, "Engaging in cognitive activities, aging, and mild cognitive impairment: a population-based study," Journal of Neuropsychiatry and Clinical Neurosciences 23(2), 2011, pp.149-154(全文で確認。横断研究)。
- Anne Bolwerk ほか, "How art changes your brain: differential effects of visual art production and cognitive art evaluation on functional brain connectivity," PLoS ONE 9(7), 2014, e101035(全文で確認)。
- Roger Buehler, Dale Griffin, Michael Ross, "Exploring the 'planning fallacy': Why people underestimate their task completion times," Journal of Personality and Social Psychology 67(3), 1994, pp.366-381(全文で確認。卒業論文の学生の研究で、手仕事の研究ではない)。
- Christoph Fuchs, Martin Schreier, Stijn M. J. van Osselaer, "The Handmade Effect: What's Love Got to Do with It?" Journal of Marketing 79(2), 2015, pp.98-110(全文で確認)。
- Richard Sennett, The Craftsman, Yale University Press(出版社のページに載っているのはペーパーバック版で、2009年。初版の年は確かめておらず、本文も読んでいない。確認したのは紹介文だけ。書籍の議論であり、実験的な根拠ではない)。
- 価格の記述(2026年10月13日に確認):オリムパス製絲の刺し子の商品ページ(花ふきん布パック、花ふきんキット)、クラフト社の手縫い道具セット・革キットのページ(ページの税込表示は税率8%の計算で、現行の税込額ではない)、陶芸.com の陶芸教室「入会案内」(1教室のみ)、Bambu Lab 日本公式ストアの A1 mini のページ(セール価格かどうかは判別できなかった)。
