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電波の届かない温泉宿を、あえて選ぶ理由——スマホが机にあるだけで頭が鈍る、という実験は直接の追試で再現しなかった

電波の届かない温泉宿を、あえて選ぶ理由——スマホが机にあるだけで頭が鈍る、という実験は直接の追試で再現しなかった

圏外の温泉宿を選ぶ理由を、研究に当てて確かめる。スマホが視界にあるだけで頭が鈍るという実験は、事前登録の追試で再現せず、自然による注意の回復も、追試で割れた。標高の高い宿では、血圧は上がり、睡眠は浅くなる方向に動いた。

TOMOAKI··趣味

温泉地を選ぶとき、いつからか「電波が入るかどうか」を気にしなくなった。むしろ、圏外だと聞くと少し安心する。乗り継ぎが多く、最寄り駅からもバスで一時間かかるような場所ほど、行ってみたくなる。効率を考えれば明らかに非合理な選び方だが、なぜそれを心地よく感じるのかを、一度きちんと考えてみたことがなかった。

考えるにあたって、この文章では、理由として思いつく説明を一つずつ、研究に当ててみる。遠さが気持ちを切り替える、圏外が注意を取り戻す、自然が注意を回復させる、標高が頭をほどく。どれももっともらしい。もっともらしい説明ほど、測ってみると、思わぬところで形が変わるものだ。

遠さが情報をふるいにかける

移動時間が長くなるほど、日常の些末な心配事はどうでもよく感じられていく。締め切りの焦りも、返信していないメッセージも、車窓の外の景色が変わっていくにつれて、少しずつ輪郭がぼやけていく。これは気のせいというより、単純に脳が処理すべき対象を絞り込んでいく過程なのだと思う。特急列車からローカル線に乗り換え、さらに徒歩になる。移動手段が不便になるほど呼吸が深くなっていくのを感じるのは、都市のテンポから自然のテンポへ切り替わるのに、それなりの時間がかかるからなのだろう。早く着きすぎると、体は追いついているのに心の準備だけが整っていない、という妙な感覚になることがある。

この「切り替えに時間がかかる」という感覚に、近い研究はある。ただし、旅の移動を直接測ったものではない。ゾンネンターグとバイヤーが2005年に発表した研究は、87人に3日間の日誌をつけてもらい、勤務時間外に仕事から心理的に離れられたかどうかを調べた。仕事の負荷が高い日ほど、夜に仕事から離れにくい。離れられた日ほど、気分が良く、疲労が少ない。疲労が少ないという関係は、時間に追われた日に、特に強かった。

通勤を、家と職場という二つの役割のあいだの「移行の時間」とみなしたのが、2021年のヤヒモヴィッツらの論文だ。世界の通勤は片道平均38分だという紹介から始まり、フィールド研究3本、合計1,736人(うち1本は4週間の介入を含む)で、長い朝の通勤が、自己統制の弱い人にとってはつらく、仕事の満足度を下げ、離職を増やすことを示した。一方で、これから就く仕事の役割を思い描く人は、その悪影響を受けにくかった。通勤時間は、ただ長ければ切り替えになるわけではなく、その間に何を考えているかで、効き方が変わる。通勤が長いほど主観的な幸福が低い、という経済学の古い知見(通勤のパラドックス)もある。

つまり、「長い移動が心を切り替える」という説明を、直接支える研究は見当たらなかった。確かめられているのは、移動の時間は役割の移行に使えること、ただし使い方次第であること、そして、長い移動それ自体は、幸福を下げる方向に働きがちなことだ。不便な道のりを幸福な切り替えとして味わえるかどうかは、道のりの長さより、その間の頭の中で決まるのかもしれない。

圏外という強制的な余白

Wi-Fiがない、電波が届かない。それを不便だと感じるのは、常時つながっていることが当たり前だという前提に、自分がどれだけ慣れているかの裏返しでもある。誰からも連絡が来ない数日間を実際に過ごしてみると、通知に反応する形で使われていた注意力が、行き場をなくして自分の内側に戻ってくる感覚がある。これまで他人の投稿や更新を追うことに使っていた時間が、ふと自分自身への問いに向かう。大げさに言うことでもないが、確かにある変化だ。

通知の側から見ると、この感覚には裏づけがある。2015年のストザートらは、課題の最中にスマホの通知を鳴らす実験で、応答しなくても、通知が届いただけで、注意を要する課題の成績が有意に落ちたと報告した。落ち幅は、実際に通話をしたり文字を打ったりしたときの影響を調べた先行研究と、同程度だったという。鳴るたびに応答しているつもりはなくても、注意は、鳴ったことに反応している。

では、スマホが視界にあるだけで、頭の働きは鈍るのか。この問いには、2017年のウォードらの実験が、広く引かれてきた。スマホを別の部屋に置いた人のほうが、作業記憶などの課題の成績が良かったと報告した論文である。ところが、この結果は、直接の追試で再現しなかった。2022年のルイス・パルドとミンダは、事前に計画を登録したうえで、ウォードらの実験を追試した。スマホを机の上、ポケットや鞄、部屋の外に置き、電源を入れる、切る、の6つの条件を比べたところ、置き場所による差はなかった。公開されたプレプリント版で、分析に残ったのは383人である。

追試の結果が割れたとき、頼りになるのは、研究をまとめた分析だ。2023年のパリーは、系統的レビューと、認知機能ごとの6つのメタ分析(合計56の効果、7,093人)を行い、有意な統合効果は作業記憶への負の効果ひとつだけで、他の認知機能では統合した効果が有意にならなかったと報告した。本人は、研究ごとに方法がばらばらで、検出力も全般に低い、と書き添えている。同じ年のベトガーらは、22研究43効果を統合して、全体の効果量がg=−0.14(95%信頼区間−0.24〜−0.03)とし、有意なのは記憶(g=−0.23)だけで、注意(g=−0.07)は有意でないとした。研究ごとのばらつきも大きい(I²=62%)。ばらつきが大きいということは、結果が研究の条件に左右されやすい、ということだ。もっとも、このメタ分析は、スマホを「使う」研究と「そこにあるだけ」の研究を混ぜて統合している。

要するに、「スマホが視界にあるだけで頭が鈍る」は言い過ぎだ。机の上、ポケット、部屋の外と置き場所を変えて比べた追試が、差を見つけられなかったのだから、なおさらそう言える。正確には、効果があるとしても小さく、作業記憶に限られ、直接の追試で再現しなかった例がある。圏外に身を置くことの良さは、スマホが近くにあることの害を取り除くから、とは言い切れない。通知の注意コストのほうは、まだ残っている。

電波を断つ旅そのものを調べた研究も、ある。2012年のピアースとグレッツェルは、通信の届かない場所(テクノロジーのデッドゾーン)での体験を、5つのフォーカスグループで調べた。正の体験も負の体験も語られ、緊張は4つの軸で生じていた。人とのやり取りへの不安、仕事の連絡への不安、安全と逃避のせめぎ合い、そして目の前の人や場所に向き合う技能の回復である。量的な研究ではない。2018年のリーらは、2009〜2017年の450を超えるメディア記事を言説分析し、デジタル断ちの語られ方が、「つながり過剰への反動」から「幸福や豊かな生活」の文脈へと移ったことを示した。効果を測った研究ではなく、語られ方の変化を追ったものだ。

効果を測った研究では、結果は小さい。2020年のオルコットらは、Facebookを4週間止めた人を調べた(価格の提示を受けたのは2,743人、効果の検証に残ったのは1,661人)。主観的幸福の指標は0.09標準偏差上がった。毎日のメッセージで測った幸福感には有意な差がなかった。著者らは、この効果を、心理的な介入の効果の25〜40%程度と位置づけている。2021年のラドケらが、デジタル断ちの研究を21本(合計3,625人、うち12本が無作為化試験)集めた系統的レビューは、正の効果、効果なし、幸福度の低下まで、結果がまちまちだったとまとめている。

注意回復理論という言葉を、少し疑いながら使う

環境心理学に「注意回復理論」という考え方がある。都市での生活は、雑多な情報の中から必要なものを選び取り続ける「意識的な注意」を酷使させ、これは有限のリソースなので、使い果たすと苛立ちや判断力の低下を招く、というものだ。自然の中で過ごすとこの消耗が回復するとされているが、正直なところ、これがどこまで自分の実感を後付けで説明しているだけなのかは判別がつかない。木々の枝分かれや、岩の割れ目、川のせせらぎのように、脳が「意味を読み取る」作業を求められない対象を眺めていると、頭の中が静かになる感じは確かにある。都市の看板や標識のように「解釈しなければならないもの」が視界から消えるだけで、ずいぶん楽になる。それを理論の名前で説明できるのは面白いが、理論が正しいから楽になっているのか、単に休暇だから楽になっているのかは、切り分けようがない。

理論の提唱元は、1995年のカプランの論文だ。「使い果たすと苛立ちを招く」といった細部までは、論文の本文を確認できなかったので、理論の要点として一般的に書かれる範囲にとどめておく。実験の側で最もよく引かれるのは、2008年のバーマンらの研究だ。ミシガン大学の学生38人を、先に35分の課題で疲れさせたうえで、50〜55分、約2.8マイルを歩かせた。行き先は、アナーバーの植物園か、交通量の多い市街地。1週間後に、もう一方の場所を歩いた。逆唱の課題(満点14)の成績は、植物園を歩いたあとで7.90から9.40に、市街地を歩いたあとで7.90から8.40に動いた。差は、約1点である。気分の変化と成績の変化は、相関しなかった。気分が良くなったから成績が上がった、という説明は、この実験の中では成り立たない。実験2では、別の12人に写真を見せ、自然の写真のあとにだけ、逆唱と注意の課題の成績が改善した。自然の景色の効果は、実際に歩かなくても、写真でも出た、ということになる。サンプルは小さく、学生だけだ。

同じ系統の実験、つまり自然の写真を見せたあとに注意の課題を測る、ベルトの2005年の実験は、追試で再現しなかった。2021年のニールソンらは、自然・都市・統制の3条件に参加者を割り当てて追試し(人数は条件ごとに20人前後)、結果を再現できなかった。この論文には、もとの研究の著者であるベルト自身のコメントが付いている。2016年のオーリーらの系統的レビューは、31研究を集め、13のメタ分析のうち、有意な効果が出たのは3つの指標(順唱、逆唱、トレイルメイキングのB)だけで、残りの10は目立った効果がなかったとした。著者らは、研究の数と標本が小さく、結果のばらつきが大きいことを、限界として挙げている。2018年のスティーブンソンらは、42論文49指標を統合して、改善が見られたのは作業記憶と認知の柔軟性で、注意の制御は信頼性が劣る、と整理した。効果量は小〜中。実際の自然のほうが、映像や写真より効果が大きい可能性もあるが、曝露の時間の違いかもしれないと、著者らは注意している。同じ年のジョイとデウィッテは、理論の中心概念があいまいで、主な予測が十分に検証されていないと批判した。

森林浴の研究も、同じ構図にある。2010年にパクらが、全国24か所の森林で、大学生280人(1か所12人)を、森と都市に6人ずつ振り分けて、翌日に入れ替えた。歩く時間は16分ほど、座って眺める時間は14分ほどで、参加者の年齢は平均21.7歳だった。唾液中のコルチゾール、脈拍、血圧のどれも、都市より森で低かった。2016年の総説は、座って眺めたあとで、コルチゾールが都市より13.4%低く、脈拍が6.0%、収縮期血圧が1.7%、拡張期血圧が1.6%低かったとまとめている。血圧の差は1〜2%と小さい。ただ、総説の著者ら自身が、ほとんどが短時間の刺激で、20代が中心であり、大きな標本や他の年齢層での検証が必要だと書いている。被験者が男子大学生であることと、目隠しができないことは、筆者の補足だ。2019年のアントネッリらのメタ分析は、唾液コルチゾールが森林群で低いことを確認したが、その差は、介入の前の測定ですでに出ていた(介入前の平均差−0.08マイクログラム/デシリットル、介入後は−0.05)。著者らは、予期によるプラセボ効果が大きく効いている可能性を挙げている。

整理すると、こうなる。自然の中で、注意の課題がある程度回復するという報告はあるが、効果は小〜中で、指標によって出たり出なかったりする。追試で再現しなかった例もある。「自然に行くと注意が回復する」は、確実な法則ではなく、条件付きの傾向として扱うのが、いまの根拠には合っている。

ここまで、注意回復理論も、スマホの害も、最初に報告された効果が、追試やまとめの分析で小さくなっている。この縮み方には、型がある。最初の報告は、よく晴れた日に撮った集合写真のようなものだ。最初の実験は、小さな標本で、学生を対象に、効果が出やすい条件で行われがちだ。追試は、人数が増え、条件が現実に近づき、測定の方法も揃えられる。効果が小さくなるのは、元の結果が嘘だったからではなく、最初の数字が、最も良い条件での見積もりだったからではないか。これは筆者の整理で、一つ一つの研究について確かめたものではない。それでも、効果の大きさを読むときは、最初の報告より、あとから出てきた統合の数字のほうに、重みを置いたほうがよさそうだ。

標高について、正直に書いておく

標高の高い温泉地に惹かれるようになったのも、ここ数年のことだ。気圧が下がると血管が広がりやすい、酸素が薄くなると脳が目先の生存以外の処理を後回しにする、という話をいくつか読んだ。将来の不安や過去の後悔が心なしか遠ざかる感覚は確かにあるのだが、それが酸素濃度そのものの効果なのか、旅先という状況全体がもたらす効果なのかは、自分では確かめようがない。眠りが深くて機嫌がいいだけかもしれない、という可能性は常に残しておきたい。

この二つの話を、一次の研究に当ててみた。まず「気圧が下がると血管が広がりやすい」。全身の血圧については、むしろ逆の結果が出ている。2020年のトルラスコらは、健康な低地住民44人を標高2,035mのホテルに連れて行き、到着して1〜2日後に測った。日中の血圧は125.6/78.8から130.6/81.8ミリ水銀柱に、夜間の血圧は102.4/62.0から107.4/65.8に、いずれも上がった。40歳を超える人で、上昇がはっきりしていた。脳の血管は、低酸素で広がる。ただ、高地では、脳血流は最初の12時間のうちに増え、3〜5日の順応でほぼ元に戻る。1964年に初めて記録されたこの経過を、2014年の総説が紹介している。血管が広がるのは、気圧そのものではなく、気圧が下がって酸素が薄くなることによるもので、しかも一時的である。

次に「酸素が薄くなると、脳が生存以外を後回しにする」。この言い方には、一次の根拠を確認できなかった。2013年のラッシャンらは、健康な男性51人を、標高490m、1,630m、2,590mで比べるランダム化クロスオーバー試験を行った。夜間の酸素飽和度は96%から、2,590mで90%に下がり、周期性呼吸が増え、深い眠りである徐波睡眠の割合も、24%から21%に減るなど、睡眠は乱れた。それでも、反応速度や認知の成績には、有意な変化がなかった。2017年のマクモリスらのメタ分析は、急性の低酸素が認知に与える影響をg=−0.49と推計したが、主な予測因子は、動脈血の酸素分圧が35〜60ミリ水銀柱という強い低酸素だった。主に、より高い標高に相当する強い低酸素の話だ。ラッシャンらが調べた中間の1,630mに近い、1,600m前後の宿には、そのまま当てはまらない。

中程度の標高で、気分が変わるかを直接調べた研究は、確認できなかった。確認できたのは、反対向きの話だ。1993年のホニグマンらは、米コロラドのリゾート地(標高1,920〜2,960m)の旅行者3,158人を調べ、25%が急性高山病を発症し、その65%は到着から12時間以内だったと報告した。東アルプスの登山者431人を調べた2009年のマイラーらは、標高2,200mで6.9%、2,500mで9.1%、2,800mで17.4%、3,500mで38.0%が発症したとした。ホニグマンらの調査では、標高3,000フィート(約900m)未満に住む人は、発症のオッズが3.5倍だった。症状が出た人の56%は、活動を減らした。温泉宿に着いて最初の半日に、何となく頭が重い、食欲がない、という人は、いくらかいるらしい。そして、標高が上がるほど、睡眠が浅くなり、体調を崩す人が増える。標高の高い温泉で感じる心地よさは、酸素や気圧の効果としてよりも、空気の冷たさと、眠りの変化と、旅先の状況の混ざったものとして受け取っておくのが無難だ。

ここで、「標高の高い宿では眠りが深い」という実感を、もう一度見ておく。ラッシャンらの試験で、標高2,590mの夜に起きたことは、酸素飽和度の低下と周期性呼吸の増加、睡眠の乱れだった。深く眠れたと感じる夜があるとしても、睡眠の指標の側は、むしろ浅くなる方向に動いていた。深く眠れた気がするのは、旅の疲れと、冷たい空気と、何もしなくていい安心が、睡眠の乱れを上回っていたからではないか。これは筆者の読みにすぎない。測られているのは、乱れのほうだ。

電波を断つことの、もうひとつの顔

圏外を選ぶ理由を、気持ちよさの側から書いてきたが、ピアースとグレッツェルのフォーカスグループが示した緊張の軸は、不安の側も含んでいた。連絡が取れないことの、仕事への不安。安全のための連絡手段を手放すことの怖さ。逃避したい気持ちと、逃げ切れない気持ちのせめぎ合い。電波を断つ旅は、全員にとって心地よいわけではない。そして、心地よい人にとっても、その心地よさは、不安を一度通り抜けたあとに来るのかもしれない。

だから、「圏外を選ぶ理由」は、一つの答えにならない。連絡を断つ解放感と、連絡が取れない緊張が、同じ場所に同居している。自分が圏外の宿を好むのは、その緊張を通り抜けたあとの静けさのほうを、より強く覚えているからなのかもしれない。ここからは筆者の推測だが、緊張は忘れやすく、静けさは思い出しやすいという偏りがある。

持ち帰れるものは、たぶん少ない

秘境で得た静けさを、そのまま日常に持ち帰れると思うほど楽観的にはなれない。都市に戻れば数日でまた元のリズムに引き戻される。それでも、スマートフォンを別の部屋に置いて過ごす十五分を毎日のどこかに作っておくとか、三か月に一度くらいは同じような場所へ戻る予定を先に決めておくとか、そのくらいのことはしている。大きな変化を期待するというより、たまにこういう時間を挟んでおかないと、自分が何にどれだけ気を取られていたかにさえ気づけなくなる、という程度の話だ。

ところで、スマートフォンを別の部屋に置いて過ごす十五分は、この記事が疑ってきた介入そのものだ。直接の追試では、置き場所を変えても成績は変わらなかった。それでも続けているのは、成績のためというより、鳴らない時間を持つこと自体に意味を感じているからだと思う。効果がはっきりしないと知っても、習慣のほうは、あっけなく続いている。

研究が言っていることも、実はそれほど違わない。オルコットらの結果は、4週間止めても、幸福度の変化は0.09標準偏差だった。ラドケらの系統的レビューは、結果がまちまちだと言う。スマホの害と見えていたものは、直接の追試では消え、まとめの分析でも、記憶にごく小さく残るだけだった。圏外に行って得られるものは、劇的な回復ではなく、小さくて、条件次第で、ときにゼロに近いものらしい。

「圏外を選ぶ」という行為に対して、どんな説明を当てても、きれいに収まらない。どの説明も、半分は当たり、半分は外れている。外れた半分を引くと、残るものは小さい。小さいものが残る場所を、わざわざ選んで出かけていく、というのは、考えてみれば不思議な行動だ。

電波が届かない数日間があると、届いていたはずの情報の量に、初めて気づく。

出典

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