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強酸性の湯とアルカリの湯、肌には何が起きているのか——pH2の湯でも、健康な皮膚のpHは4.9から4.5にしか下がらなかった

強酸性の湯とアルカリの湯、肌には何が起きているのか——pH2の湯でも、健康な皮膚のpHは4.9から4.5にしか下がらなかった

pH9.5の石けんで乳児を洗うと、10分後の皮膚のpHは0.45上がった。pH2の草津の湯に入っても、健康な皮膚のpHは4.9から4.5に下がっただけだった。「酸が菌を減らす」という説明も、酸だけでは足りなかった。

TOMOAKI··趣味

温泉を選ぶとき、泉質表のpHの数字を見るようになったのは、ここ数年のことだ。中性の温泉は肌当たりが優しいと言われる一方、強酸性やアルカリ性の湯には、もう少し具体的な、体感としての変化がある。草津や玉川のような強酸性泉に入った後は肌がぴりつくし、逆にアルカリ性の湯から上がると、体を洗い流していないのに肌がやけにつるつるする。あの感覚が何なのか、一度きちんと調べてみたくなった。

調べてみると、湯上がりの肌についての説明は、どれも少しずつ、実際の測定と違っていた。「酸が角質を剥がす」と言われる強酸性泉は、生理学の側から見ると、向きが合わない話になる。「酸性度が菌を減らす」と言われる殺菌も、酸だけでは足りなかった。そもそも、強酸性の湯に入っても、健康な肌の表面は、思うほど酸性にならない。順番に見ていく。

肌の表面は、もともと弱酸性だ

まず、肌の側から見る。健康な皮膚の表面は、弱酸性に保たれている。2006年にランバースらが、330人の前腕を測った研究では、24時間シャワーと化粧品を控えたあとの皮膚のpHは5.12から4.93に下がり、そこから推定した「自然な」pHは、平均で4.7だった。総説は、皮膚の表面のpHを通常4〜6とし、体の内側(pH7〜9)との間に、2〜3の勾配があるとまとめている。この表面の酸性を「酸性マントル」と呼ぶが、その成り立ちについては、まだ「推測の域」だという別の総説の指摘もある。

pHは、数字の見た目以上に、皮膚の中の酵素の働きを左右する。角質細胞どうしをつなぐ構造(コルネオデスモソーム)を分解する酵素は、pHが上がるほど活発になる。皮膚のバリアに必要なセラミドを作る二つの酵素は、最もよく働くpHがそれぞれ5.6と4.5で、前者はpH7.4では、pH5.5のときの10分の1ほどの活性しかない。黄色ブドウ球菌は中性で最もよく増え、pH5前後で強く抑えられる。皮膚が弱酸性であることは、飾りではなく、バリアを保つ仕組みの一部になっている。角質を分解する同じ酵素が、受容体(PAR-2)を介して、かゆみを起こすという指摘もある。総説は、皮膚の洗浄料として、pH4.5〜6.5のものを推奨しているが、これは洗浄料の話で、温泉の湯の基準を示したものではない。

この前提に立つと、温泉の話は少し見え方が変わる。アルカリ性に傾いたあとの皮膚は、戻るのに時間がかかる。pH8ほどの水道水でさえ、触れたあと皮膚のpHが最大6時間、上がったままになることがある。ランバースらの同じ論文は、pH4〜4.5では常在菌が皮膚に付着したまま残り、pH8〜9では皮膚から離れやすくなる、とも述べている。

強酸性の湯でも、肌は酸性になりきらない

では、pH2の湯に入ると、肌のpHはどうなるのか。これを実測した研究がある。群馬大学草津分院の久保田らが1999年に報告した、草津の湯(pH2.0)に42度で10分入ったときの、前腕の皮膚の表面pHの変化だ。アトピー性皮膚炎の患者8人と健常者10人を、ろ紙法で測っている。

健常者の皮膚のpHは、入浴の前で4.9、入浴の直後で4.5だった。pH2の湯に浸かっても、0.4下がっただけで、まもなく元に戻った。皮膚の側が、強酸性の水を、自分のpHの近くに押し戻してしまう力を持っている。一方、アトピー性皮膚炎の患者では、4.6から3.0まで下がり、3時間以上、pH3〜4のままだった。原著者は、バリアが壊れていて、水素イオンが皮膚の中に残りやすいからだ、と解釈している。

強酸性の湯が肌に届くかどうかは、肌の状態次第らしい。これは、強酸性泉が、荒れた肌にはしみ、健康な肌にはそれほどでもない、という経験とも合っている。

数字の感覚も、補っておく。pHは対数の目盛りなので、pH2の湯は、pH4の湯より水素イオンの濃度が100倍高い。皮膚の表面のpH4.5と、pH2の湯のあいだには、水素イオン濃度でおよそ300倍の開きがある。それだけの差があっても、健康な皮膚は表面のpHを、0.4しか動かさなかった。数字の大きさからは想像しにくいが、皮膚の側の「戻す力」が、それだけ強いということになる。倒しても起き上がるおきあがりこぼしのように、健康な皮膚は、酸性の側へ傾けられても、すぐ元の姿勢に戻る。

ここで「強酸性」という言葉についても触れておく。環境省の鉱泉分析法指針は、湧出時のpHで温泉の液性を分けており、pHが3未満を「酸性」、3以上6未満を「弱酸性」、6以上7.5未満を「中性」、7.5以上8.5未満を「弱アルカリ性」、8.5以上を「アルカリ性」とする。「強酸性」「強アルカリ性」という公式の区分はない。通称である。指針は、水素イオンを1キログラムあたり1ミリグラム以上含む塩類泉の泉質名の頭に「酸性-」を付け、現地のpHが8.5以上の単純温泉を「アルカリ性単純温泉」と呼ぶ、と定めている。pHの低い温泉の例として、玉川温泉はpH1.2(仙北市の観光向け解説の数字)、草津の湯畑源泉はpH2.1(草津温泉観光協会の記載)と紹介される。ただ、同じ草津でも、源泉によって数値は違う。そのため、数字を見るときは、どの源泉の値なのかも見る必要がある。「草津はpH2」とひとことで言えない。

酸が「剥がす」という説明には、裏づけが見つからなかった

強酸性泉の説明として、よく目にするのが、酸が皮膚表面のタンパク質の結合を緩め、古い角質を剥がれやすくする、いわゆるピーリングだ。この説明を、一次情報で確かめようとして、行き当たったのは、向きの合わない話だった。

前節で触れたとおり、角質細胞をつなぐ構造を分解する酵素は、pHが高いほど活発になる。つまり、角質が剥がれやすくなるのは、pHが上がる方向だ。ヘイチェムらが2003年にマウスの皮膚で行った実験では、皮膚の表面をpH中性側に寄せると、20分以内にこの酵素が活性化し、続いて細胞間の接着を担うデスモグレイン1が分解され、角層の結合が弱まって、バリアの回復も遅れた。動物実験で、試薬を使った結果であり、温泉水そのものの研究ではない。それでも、酸が角質を剥がす、とは書きにくい。

ピーリングという言葉の根拠は、別のところにある。α-ヒドロキシ酸(AHA)と呼ばれる物質が、角質細胞どうしの結合を弱める、という1984年のヴァン・スコットらの報告だ。これはAHAという物質の話で、pHが低ければ何でも同じ働きをする、という話ではない。強酸性泉に入ると角質が剥がれる、という一次の研究は、今回の調べでは見つからなかった。ピーリングのような感覚は、あくまで体感の話として扱うのが正確だ。

菌を減らすのは、酸だけではない

もうひとつ、強酸性泉の説明としてよく聞くのが、酸性度の高さが、皮膚の常在菌のうち炎症や痒みに関わる一部の菌を減らす、というものだ。アトピー性皮膚炎の治療に、酸性泉が使われることがあるのも、この作用によると説明される。草津の報告がその根拠として引かれる。

草津の報告の中身を見る。久保田らが1997年に英文誌に発表した、難治性のアトピー性皮膚炎の患者70人に、42度の酸性泉に1回10分、1日2回入ってもらった研究では、76%で皮膚症状が改善した。改善した人のうち、菌を調べた42人中30人では、黄色ブドウ球菌が消えるか減っていた。改善しなかった人のうち、調べた10人中8人では、菌の量が変わらなかった。対照群は置かれていない。1999年に同じグループがまとめた100例の報告では、皮膚症状の有効率が79%、かゆみの有効率が55%で、「湯ただれ(酸性泉浴湯皮膚炎)」はみられなかったとされている。ただし、その手順には、入浴を始めた最初の1〜2週間、温泉水の刺激で痛みを感じた場合は、直ちに淡水のシャワーで洗い流してもらった、と書かれている。保湿剤(ワセリンなど)の併用も、手順に含まれていた。

殺菌作用の中身は、試験管の実験で調べられている。同じグループの先行の実験を、1999年の久保田らの論文が紹介している。硫酸でpH2.0にした水の殺菌作用は、草津の湯より弱く、pH3.0の硫酸水には、殺菌作用がまったくなかった。草津の湯に水酸化ナトリウムを加えてpH3.0にしても、殺菌作用はむしろ強まった。酸だけでは、殺菌は十分ではない。同じ年のイノウエらの論文は、殺菌の主役を、マンガンイオンとヨウ化物イオンと特定した。この二つは、pH2.0〜3.0の酸性の条件下で作用し、両方が揃うと相乗効果があって、1mg/kgほどの低い濃度でも効いたという。

2000年のアキヤマらの研究は、温泉水を50〜60%に薄めた液(pH3.9〜5.4)で、アトピー性皮膚炎の患者から採った黄色ブドウ球菌への作用を見た。50%で菌の増殖が止まり、60%では中程度の殺菌作用があった。温泉水を加えない培地や血漿と比べると、浮遊している菌は10分の1以下に、バイオフィルムの中の菌は約8分の1だった。薄めた水でも作用が出る、という点は意外だが、これは試験管の中の結果で、源泉そのままの話ではない。バイオフィルムとは、菌が表面に張りついて作る膜のことで、薬が効きにくいとされる。著者らは、低いpHと並んで、マンガンなどのイオンが重要だと述べている。ただ、この実験では、同じpHの塩酸でも菌の付着が同じように抑えられた部分があり、酸との切り分けは、この論文だけではつかない。

整理すると、こうなる。酸性度だけで菌が減る、とは言い切れない。草津の湯の殺菌作用は、酸性の条件下で、マンガンとヨウ化物イオンが担っている。どの酸性泉にも当てはまる話ではなく、草津の湯の成分の話だ。しかも臨床の数字は、対照群のない観察研究で、保湿を併用した手順の結果である。

ぴりつきは、肌が荒れているときに強くなる

強酸性泉に入ると肌がぴりつく、という感覚の理由は、酸が皮膚の痛覚受容体を刺激するからだと説明される。この受容体のほうは、はっきりしている。1998年のトミナガらは、唐辛子の辛さの受容体として知られるVR1(現在のTRPV1)が、pH5.9以下の酸で、室温でも活性化し、熱で活性化する温度の閾値も下げることを示した。2002年のウガワらは、人の皮膚に酸性の液を注入すると局所の痛みが出ること、主に働くのは酸感受性のイオンチャネル(ASIC)で、強い酸性の条件ではTRPV1も加わることを報告した。

ただし、これは注入の実験である。傷のない皮膚の表面から、pH2の湯が神経の末端にまで届くかどうかは、今回の調べでは確認できなかった。先ほどの久保田らの実測では、健康な皮膚のpHは4.5までしか下がらなかった。ぴりつきを強く感じるのは、バリアが荒れていて、酸が内側に届きやすいときではないか、と考えるのが、いまの数字には合う。

環境省の2014年の通知は、酸性泉の浴用の適応症として、アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、耐糖能異常(糖尿病)、表皮化膿症を挙げている。その一方で、酸性泉と硫黄泉の浴用の禁忌症に、皮膚や粘膜の過敏な人と、高齢者の皮膚乾燥症を挙げている。入浴後の注意として、肌の弱い人は刺激の強い泉質を温水で洗い流したほうがよいこと、泉質を問わない一般の注意として、療養を始めて3日から1週間前後に、湯あたりや皮膚炎などが出ることがあることも書かれている。玉川温泉の皮膚炎を記録した1953年の報告も、遊離塩酸による刺激を原因に想定していた。ぴりつきは、気のせいではないが、誰にでも同じように起きるわけではない。

化学物質の分類の国際基準(GHS)は、pHが2以下や11.5以上といった極端なpHは、皮膚への作用を示しうるが、pHと皮膚への作用の相関は完全ではないとしている。酸やアルカリを中和する力(緩衝能)も考慮する、とも書かれている。これは化学物質の分類の基準で、温泉の安全性の基準ではない。それでも、pHの数字だけで、湯の強さが決まるわけではない、という注意としては読める。

アルカリ性の湯と、つるつるの正体

反対側の、アルカリ性の湯に移る。強アルカリ性泉の湯上がりに肌がつるつるするのは、アルカリが皮膚表面の脂肪酸と反応して、その場で石鹸のようなものを作る(鹸化)からだ、と説明されることが多い。毛穴の皮脂が乳化して洗い流されやすくなり、角質のタンパク質が膨潤して柔らかくなる、とも言われる。

この「鹸化」と「膨潤」について、一次の研究を探したが、確認できなかった。見つかったのは、入浴剤メーカーの総説に「アルカリ塩類による皮脂乳化作用」「角質層の水和・膨潤」と書かれているのが最も近く、これは二次情報として扱うしかない。つるつるの感覚が、石鹸に近い反応によるものだというのは、もっともらしい説明だ。

確かめられているのは、アルカリ性の洗浄料が皮膚に与える影響のほうだ。1987年のコルティングらは、10人のクロスオーバー試験で、石けんと合成洗剤を4週間ずつ使い、石けんの期間は合成洗剤の期間より、皮膚のpHが平均0.3高かったと報告した。1997年のグファッターらは、乳児を各群10人に分けたランダム化比較試験で、洗浄10分後の皮膚のpHの上昇幅を比べ、水道水の+0.19に対し、pH9.5のアルカリ石けんは+0.45だった。皮脂の減少も、水道水の0.93マイクログラム/平方センチに対して、石けんは4.81だった。角層の水分量には差がなかった。コルティングの試験では、石けんの期間にプロピオン酸菌が増えたことも報告されている。

つるつるの正体が、皮脂が落ちたあとの感触だとすれば、それは肌が潤っている感覚とは別のものかもしれない。強すぎるアルカリがバリアを傷める機序は、ここまでの酵素とpHの話から説明できる。ただ、温泉の湯でそれが起きる強さ(pHや時間)の一次データは、確認できなかった。

では、アルカリ性の温泉に入ったあと、肌の水分は増えるのか。実測の研究もある。1994年の渡邊らの研究は、健常者15人が、重曹を溶かした41度の湯と、さら湯に入るクロスオーバー試験を行った。さら湯を含む全ての群で、角層の水分量は上がり、さら湯と比べた増加率の差は、角層水分量だけに認められた。入浴剤メーカーの研究で、重曹の濃度は療養泉の基準より薄く、数値は使えない。それでも、湯に入るだけで水分量が上がる、という基本線は見える。温かい水に浸かることで、角層が水を含む。これは、アルカリの湯でなくても起きる。ただし、増え方は重曹を多めに溶かした湯のほうが大きかった。柔軟性や粘弾性の指標は、平均ではどの群でも上がったが、入浴前より有意に上がったのは重曹を溶かした群の一部で、さら湯では有意差はなかった。

韓国の温陽温泉で行われた2025年の研究は、40〜64歳の女性58人(各群29人)を、月2回、39〜40度・20分の入浴で16週間追った。角層の水分量は、温泉群で39.08から46.18に上がり、対照群では44.15から37.51に下がった。経皮水分蒸散量は、温泉群で7.93から5.55に減り、対照群では6.45から7.16に増えた。ただし、ランダム化されていない研究で、冬に行われ、開始時点の水分量は対照群のほうが高く(論文はこの差を検定していない)、群が揃っているとは言いにくい。プラセボ対照もない。傾向を示す数字として読むのが妥当だ。なお、この温泉水はpH8.7だが、ナトリウムは1リットルあたり65ミリグラム、塩化物は34.7ミリグラムと、ナトリウムや塩化物はごく薄い。一方、シリカは1リットルあたり53.58ミリグラム含まれている。肌の水分量の変化が、アルカリ性によるものなのか、温かい水に定期的に入ることによるものなのか、この研究だけでは分けられない。

もう一つ、小話のような研究がある。2021年の研究は、pH9.3の温泉に入れたカピバラ9頭の、冬の肌荒れが21日で改善した、と報告した。ただし、健常なカピバラの皮膚のpHは8.26で、もともと弱アルカリ性だ。人の肌の根拠にはならない。

つるつるとぴりぴりを、分けて考える

ここまでの結果を、湯上がりの肌の感覚に戻して、整理してみる。つるつるする、という感覚の候補は三つある。ひとつは、皮脂が落ちたあとの感触。ひとつは、角層が水を含んで柔らかくなった感触。もうひとつは、湯の温度で皮膚の温度が上がった感触。アルカリ性の湯なら、一つ目が加わるが、他の二つは、さら湯でも起きる。強いアルカリ性の湯と、そうでない湯の違いは、皮脂を落とす力の違いかもしれない。

ぴりぴりのほうは、酸の強さだけでなく、皮膚の状態に左右される。バリアが荒れていると、酸は届きやすく、痛みの受容体に届く。健康な肌ならば、皮膚の側がpHを押し戻す。つるつるは湯の性質、ぴりぴりは肌の性質、と言い換えてもいい。もちろん、この整理は、筆者がここまでの研究から組み立てたものにすぎない。湯上がりの肌を、温泉の成分の効能として語る前に、水に浸かること、温度、皮脂、バリアの状態、という要素を、一つずつ分けて眺める余地がある。

「美肌の湯」は、どこまで言えるか

アルカリ性の温泉は、しばしば「美肌の湯」と呼ばれる。この呼び名に、制度上の裏づけはあるのか。2014年の環境省の通知で、適応症に「美肌」は無い。炭酸水素塩泉の浴用の適応症に「皮膚乾燥症」が挙がっているが、アルカリ性単純温泉の適応症に、皮膚に関するものは無い。

試験管の中で調べた研究もある。2003年に化粧品メーカーの研究者が、全国20か所の温泉水を0.3%添加して調べた研究では、5か所に角化を促す作用が見つかり、有効成分としてメタケイ酸とカルシウムイオンが挙げられた。これは細胞の実験である。人の皮膚で、「美肌」を測った一次の研究は、先に挙げた弱い研究のほかには、見つからなかった。「美肌の湯」は、制度ではなく、慣用的な呼び名だと考えるのが、いまの根拠には合っている。

「ホルミシス」という言葉には慎重でいたい

強い刺激を体にあえて与えることで、防御機構が活性化し、結果的に良い方向に働く、という「ホルミシス」の考え方を、強酸性泉の説明に持ち出す記事をよく見かける。低用量の刺激が有益に働くという現象自体は、生物学の用語として存在する。ただ、酸性泉やアルカリ性泉の入浴で、皮膚にホルミシスが起きることを示した一次研究は、確認できなかった。

温泉療法とホルミシスを結びつけた総説は、ある。2018年のガルベスらの論文は、タイトルを疑問形にして、「温泉療法、免疫系、ストレス反応——ホルミシスの戦略か?」と問うた。温熱、硫化水素、ラドンによる反応を、仮説として検討したものだ。ぴりぴりした後になんとなく肌の調子が良い気がする、という体感を、そのまま「自己修復プログラムが起動した」と言い切ってしまうのは、話を大きくしすぎている気がする。

両極端を知ると見えるもの

強酸性の湯とアルカリ性の湯を交互に体験してみると、肌が普段どれだけ中庸な状態に慣らされているかに気づかされる。酸は、荒れた肌にはしみ、健康な肌には、それほど届かない。アルカリは、洗浄料や水道水の実験では、皮脂を落とし、皮膚のpHを数時間上げた。その反対側の端を知ることで、自分の肌が普段どのあたりにいるのか、少しだけ輪郭がはっきりする。

調べて分かったのは、効能の説明が、生理学の側から見ると、思ったより粗かったことだ。「酸が剥がす」には裏づけが見つからず、「酸が菌を減らす」は酸だけではなかった。確かなのは、肌の表面が弱酸性に保たれていて、その範囲を大きく外れると、バリアの仕組みに影響が出ることだ。湯の性質を、その範囲を外れる程度の目盛りとして受け取っておく。それくらいの効能として捉えておくのが、たぶんちょうどいい。ただ、泉質表の数字だけで湯を選ぶのも、少し惜しい。

泉質表のpHの数字は、湯の側の情報だ。同じ湯に入っても、冬に乾燥して粉をふいた脛と、入浴剤の香りが残る腕とでは、感じ方がまるで違う。次に強酸性泉やアルカリ性泉に入るときは、泉質表の数字と並べて、自分の肌がその日どんな状態なのかも、見てみようと思う。数字が教えてくれるのは、湯上がりの肌の体験の半分だけだ。

出典

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