目次▼
強酸性の湯とアルカリの湯、肌には何が起きているのか
pH2の強酸性泉とpH10近いアルカリ性泉、両極端な温泉が肌に与える作用を、興奮せずに追ってみる。角質を落とす酸と、肌をぬるつかせるアルカリ。どちらも「浄化」ではなく、ただの化学反応だ。
温泉を選ぶとき、泉質表のpHの数字を見るようになったのは、ここ数年のことだ。中性の温泉は肌当たりが優しいと言われる一方、強酸性やアルカリ性の湯には、もう少し具体的な、体感としての変化がある。草津や玉川のような強酸性泉に入った後は肌がぴりつくし、逆にアルカリ性の湯から上がると、体を洗い流していないのに肌がやけにつるつるする。あの感覚が何なのか、一度きちんと調べてみたくなった。
酸性の湯でまず起きているのは剥離
強酸性泉、たとえばpH2前後の湯は、皮膚表面のタンパク質の結合を緩め、古い角質を柔らかくして剥がれやすくするとされる。いわゆるピーリング作用に近い。あわせて酸性度の高さそのものが、皮膚の常在菌のうち炎症や痒みに関わるとされる一部の菌を減らす働きを持つらしく、アトピー性皮膚炎の治療にこうした泉質が使われることがあるのも、この作用によると説明される。
ただし、これは「肌が生まれ変わる」というより、表面の汚れと古い角質を物理的に落とす、地味な作用だと捉えたほうが正確な気がする。ぴりつきを感じるのは、酸が皮膚の痛覚受容体を刺激しているからで、それ自体が何かを「浄化」しているわけではない。刺激が強い分、肌が弱い人には向かないし、入りすぎれば単に乾燥する。
アルカリ性の湯で起きているのは鹸化
強アルカリ性泉のぬるつきは、成分が肌を潤しているのではなく、アルカリ成分が皮膚表面の脂肪酸と反応して、その場で石鹸のようなものを作り出しているからだと説明される。鹸化と呼ばれる反応だ。毛穴に詰まった皮脂が乳化して洗い流されやすくなり、角質もタンパク質が膨潤することで柔らかくなる。結果として、湯上がりの肌が妙になめらかに感じられる。
これも「肌がアルカリ性の恩恵を受けて美しくなる」というより、界面活性剤に近い化学反応が起きている、と考えるほうが実態に近いだろう。強すぎるアルカリはむしろ皮膚のバリア機能を壊しかねないので、長湯や連日の入浴には向かないとされている。
「ホルミシス」という言葉には慎重でいたい
強い刺激を体にあえて与えることで、防御機構が活性化し結果的に良い方向に働く、という「ホルミシス」の考え方を、強酸性泉の説明に持ち出す記事をよく見かける。低用量の刺激が有益に働くという現象自体は生物学の用語として存在するが、温泉の一回の入浴でどこまでそれが起きているのかは、正直なところ自分には確かめようがない。ぴりぴりした後になんとなく肌の調子が良い気がする、という体感を、そのまま「自己修復プログラムが起動した」と言い切ってしまうのは、話を大きくしすぎている気がする。
それでも、強酸性の湯とアルカリ性の湯を交互に体験してみると、肌が普段どれだけ中庸な状態に慣らされているかに気づかされる。角質を落とす方向と、油を乳化させて滑らかにする方向。両極端を知ることで、自分の肌が普段どのあたりにいるのか、少しだけ輪郭がはっきりする。それくらいの効能として捉えておくのが、たぶんちょうどいい。
