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分解できないモノを、所有と呼んでいいのか
1932年、ある不動産ブローカーが、あらゆる製品に法律で寿命を割り当て、期限後に使い続ける人へ課税する案を出した。いまモノの寿命を決めているのは誰か。
電気ケトルが、お湯を沸かさなくなったとする。スイッチを入れると赤いランプはつくのに、いつまで待っても熱くならない。サポートセンターに電話すると、型番を尋ねられ、少しの沈黙のあと「修理対応は終了しております」と言われる。壊れているのは、おそらく発熱体か、温度を感知する部品のどちらかだ。中を見ない限り、確信はもてない。ケトルという道具の構造として、壊れる場所はそう多くないからだ。
代金を払い、棚に置き、毎日使ってきたのだから、これは自分のものだ。そう思うのが普通だろう。しかし、中身を知らず、直す手立ても与えられないまま持ち続けることを、「持っている」と呼んでよいのか。ここに書いたケトルの話は、あくまでたとえで、私の体験ではない。この記事の以前の版は、同じ話を体験として語っていたが、体験ではないと確認できたため、外した。かわりに今回は、この問いの周りで言われていることを、原典に当たり直した。法律や統計、企業の文書、規則の条文。確かめられたことと、確かめられなかったことを分けて書く。
期限つきの所有を、法律で決めようとした男がいた
1932年、大恐慌のさなかに、ニューヨークの不動産ブローカー(英語版ウィキペディアの記述による)だったバーナード・ロンドンが、「計画的旧式化によって恐慌を終わらせる」という小冊子を出した。原文はプロジェクト・グーテンベルクで読める(#72003)。全文を通読すると、内容は、よく紹介される要約より、ずっと所有の話だった。
提案はこうだ。政府が、靴、家、機械など、製造業、鉱業、農業のあらゆる産物に、生まれたときに「寿命の賃借期間(a lease of life)」を割り当てる。期限が切れたものは、法的に「死んだ(dead)」ものとなり、政府機関の管理下に置かれ、失業が広がっているときには破棄される。寿命は、有能な技術者、経済学者、数学者が政府に代わって決める。例としては、自動車は5年以内、建物は25年以内。機械は5年ほど動けば、払った人にとっては「死んだ」とみなしてよく、そのあとは国を通じて労働者のものになる。工場がすでに忙しく失業者がいないなら、寿命は延ばしてよい。
古いものを政府の窓口に持ち込むと、受領書がもらえる。受領書は売上税の支払いに使える。たとえば、100ドルのラジオに10パーセントの売上税がかかるとき、10ドル分の受領書で払える。そして、いちばん所有に関わる部分が、続く。期限を過ぎた服、車、建物を使い続ける人には、「法的に死んだもの」を使い続けたとして課税する。相続税との対比で、ロンドンはこう書いている。政府は「持ち主が死んだときではなく、モノが死んだときに徴収する」。
冒頭の時代認識も、読む価値がある。人々は不況に怯え、何でも以前より長く使っている。古い車、古いタイヤ、古いラジオ、古い服を、統計家が予想したより長く使っている。ロンドンはそれを「人々は今、旧式化の法則に背いている」と表現した。戦争では若者を徴兵して前線に送るのだから、不況との戦いでは「死んだモノ」を徴兵して破棄すればよい、という比喩も使っている。
この小冊子は実現しなかった。「計画的旧式化」という言葉の起点だとも言われる。ただ、これには留保がいる。ロンドンを掘り起こした歴史家のジャイルズ・スレイドは、ロンドンが言葉を作ったのか、すでにニューヨークの実業界で流通していたのか、はっきりしないと書いている(英語版ウィキペディアの記述による二次情報で、スレイドの『Made to Break』(2006年)の本文は確認できていない)。1932年より前の用例は、今回の検索では見つからなかったが、見つからなかったことは、なかったことの証明にはならない。
ロンドンの案を所有の側から読むと、奇妙な発見がある。そこでの所有は、最初から期限つきだった。期限が来れば価値は労働者に戻り、期限を過ぎて使い続けるなら、税を払う。決める主体は政府で、今はメーカーだ、という違いはある。けれども、条件つきで使う権利を持っている、という構造は、後で見るソフトウェアのライセンスと似ている。
電球のカルテルと、洗濯機の統計
計画的旧式化は、実際に行われたことがあるのか。最もよく引かれる例は、電球だ。マルクス・クライェフスキが2014年にIEEE Spectrumに書いた記事「The Great Lightbulb Conspiracy」は、ベルリンにあるオスラムの社内文書をもとに、フィーバス・カルテルを描いている。1924年12月23日にジュネーブで設立され、オスラム(ドイツ)、フィリップス(オランダ)、東京電気(日本)などが参加した。1925年初めまでに、家庭用電球の標準寿命を1,000時間と定めた。それまでは、1,500〜2,000時間が普通だった。
驚くのは、罰金の掛け方だ。各工場は電球の見本をスイスの中央試験所に定期的に送り、規定の寿命より「長くても短くても」罰金を払った。短くするだけでなく、揃える仕組みだった。平均寿命は1926年の1,800時間から、1933〜34会計年度には1,205時間に下がり、この時点で1,500時間を超える電球を作る工場はなかった。同じ記事は、電球のフィラメントの電流や電圧を上げると明るく効率がよくなるが寿命が縮む、という技術的なトレードオフがあり、カルテルはそれを理由にしたとも書く。著者は、明るくて長持ちする電球は作れたはずで、それは販売を増やしたい加盟社の都合に合わなかった、と論じる。記事の確認は、ウェブ版の数値の箇所までで、罰金の金額は記事になかった。
時代が下ると、家電の話になる。ドイツ連邦環境庁が2016年にまとめた報告書(Prakashら、TEXTE 11/2016、全文を確認した)は、大型家電の買い替えを、消費者パネルのデータで分析した。5年未満で、故障のために買い替えられた大型家電が、買い替え購入全体に占める割合は、2004年の3.5パーセントから、2012年の8.3パーセントに増えた。標本は2004年が2,712件、2012年が5,664件。この数字は、「家電の8.3パーセントが5年以内に壊れる」という意味ではない。分母は「買い替え購入」だ。
同じ報告書には、反対向きの数字もある。2012/13年には、買い替えの30.5パーセントが、まだ動く機械を、より良い機械が欲しくて替えたものだった。故障による買い替えの割合は、むしろ57.6パーセントから55.6パーセントへ、少し減っている。買い替えられた大型家電の初回の使用年数の平均は、14.1年から13.0年に縮んだ。そして著者たちは、結論の章(9.4)で、「メーカーが加害者、消費者が被害者」という二極の描き方に疑問を呈し、わざと弱点を組み込んだかどうかを立証することも反証することも、この研究の目的ではなかったと断っている。電解コンデンサを熱源の近くに置く設計(テレビの故障原因の分析の章に出てくる)についても、意図的な設計操作という意味での計画的旧式化とは言えない、と書く。製品設計の原則は、「できるだけ長く」ではなく「必要なだけ長く」だ、という。
以前の版は、「接着剤の量、専用ネジの規格、部品供給を打ち切るタイミングといった無数の小さな設計判断の積み重ねが、法律なしに同じ機能を果たしている」と書いていた。報告書は、わざと弱点を組み込んだかどうかを立証することも反証することも研究の目的ではなかったと断り、意図的な弱点の重点を特定できなかった、と書いている。短い寿命が、わざと作られたとは言えない。かといって、短くなっていないとも言えない。確かなのは、買い替えの一部が、故障による早い買い替えに偏ってきたことと、その原因を「わざと」に帰すのは難しいことの、両方だ。
法律で「わざと」を禁じても、証明は難しい。フランスは2015年に計画的旧式化を犯罪とした。Appleの旧機種の性能制限をめぐって、2018年にパリ検察が予備捜査を開いたが、2020年2月に取引罰金2,500万ユーロで決着した際に認定されたのは「不作為による欺瞞的商行為」で、計画的旧式化の容疑は採用されなかったと報じられている(二次情報)。
修理しやすさに、点数を付ける

法律で証明しにくいなら、物差しを作る手がある。米国の修理コミュニティiFixitは、2011年から、製品の修理しやすさを10点満点で採点してきた(同社の2023年の説明による)。基準は、分解の時間だけではない。配分は、サービスマニュアルが10パーセント、交換部品が10パーセント、修理しやすい設計が80パーセントだ。無料の公開マニュアルがなければ、どんな製品でも最高9.0点。設計の80パーセントは、機械を完全に分解して「分解ツリー」を作り、ネジを回す、ケーブルを外す、といった動作ごとに標準の「代理時間」を当てて計る。部品ペアリング(修理にメーカーのソフトによる認証が必要なこと)は、他の項目で稼いだ点を消しうる全体への減点になる。
この点数が、ソフトウェアの方針だけで動いた例がある。iFixitは2023年9月、iPhone 14の点数を、部品ペアリングを理由に、さかのぼって7点から4点に下げた。共同創業者のカイル・ウィーンズは、アップデートひとつで「7点は一晩で戻りうる」と書いた。実際、2024年10月には、iOS 18で、同じ型の別のiPhoneから外した部品を、無料のソフトで端末上で校正できるようになったことを受けて、iPhone 15の点数が4点から7点に上がった。点数を3点動かしたのは、ネジでも接着剤でもなく、ソフトウェアの方針だった。
国も、点数を付けた。フランスは2020年2月の法律(AGEC法)にもとづき、2021年1月から「修理可能性指数」を導入した。10点満点で、基準は5つ(文書、分解のしやすさ・工具・留め具、交換部品の入手性、交換部品の価格、製品分類ごとの基準)、重みは同じだ。ただし、点数はメーカーの自己申告だった。支援団体HOPが2022年に出した報告書(全文を確認した)では、HOPが6製品を計算し直すと、1製品を除いて低くなり、うち3製品は1.3〜1.5点(最大15パーセント)、申告より低かった。2021年に対象の製品を買った762人のうち、購入時に指数を目にしたのは28パーセントだった。目にした人の76パーセントは、選ぶのに役立ったと答えた。HOPは、指数を強めたい側の団体だ。
DGCCRF(競争・消費・不正抑止総局)の監査では、2022年に523事業所(販売店などを含む)を調べて341事業所(65パーセント)が規則を守っていなかった、と報じられている(二次情報。公式ページは確認できなかった)。指数は、2025年に姿を変えた。テレビは2025年1月、洗濯機は4月から、信頼性の基準を含む「耐久性指数」に置き換わり、スマートフォンの指数を定めた省令は、2025年6月に廃止された。EUのエネルギー表示が6月20日から適用されたことと関係すると思われるが、公式ページは理由を書いていない。指数の導入後に製品そのものが直しやすくなったかを、因果的に測った研究は、見つからなかった。
EUの規則は、何を禁じていないのか
EUは2025年6月20日から、スマートフォンとタブレットについて、二つの規則を適用した。エコデザイン規則が2023/1670、エネルギー表示規則が2023/1669だ(条文は欧州連合刊行局のCELLARで確認した)。
主な内容は、こうなる。電池は、スマートフォンで800回の充電サイクルのあとも定格容量の80パーセント以上(タブレットは500サイクル)。交換部品は、販売終了から少なくとも7年間、最初の5年は注文から5営業日以内、残りの2年は10営業日以内に提供する。部品の参考価格はウェブで公開する。落下は、保護フィルムやケースなしで45回に耐える。OSの更新は、メーカーが出すなら、販売終了から少なくとも5年間、同じ機種のすべての個体に無料で出す。機能更新で性能が落ちた場合は、利用者が事前に明示的に同意していない限り、メーカーは無料で元の性能に戻す。
そして、規則が部品の組み合わせをソフトウェアで固定することを禁じている、という理解は、条文と合わない。規則が部品の「シリアル化」(個々の端末と結び付いた固有のコードで、ソフトウェアによるペアリングが必要な部品)について求めているのは、ペアリングを禁止することではない。交換に必要なソフトウェアなどへの、差別のないアクセスを提供することだ。メーカーが求めてよいのは、持ち主からの交換の通知と承認だけで、依頼と承認を受けてから3営業日以内にアクセスを提供する。ペアリングを禁止するかどうかは、2027年9月20日までの見直しで検討することになっている。
エネルギー表示のラベルには、修理可能性クラス(AからE)が載る。その計算式は、分解の深さ、留め具の種類、工具の種類、交換部品、修理情報に、それぞれ0.15から0.25の重みがつき、同じ0.15の重みで、ソフトウェア更新の期間が入る。EUの物差しでは、ソフトウェアが何年更新されるかは、「修理しやすさ」の一部だ。
欧州委員会は、この規則で「消費者が2030年に200億ユーロの支出を節約する」と発表した。この記事の以前の版は、これを「2030年までに」と書き、「それだけの金額がこれまで『直せないこと』を通じて企業側に流れ続けていた」ことの裏返しだ、と解釈していた。公式の製品ページ(Ecodesign Impact Accounting Overview Report 2024にもとづくと書かれている)を確認すると、200億ユーロは、2030年の1年間の推計で、対策なしと比べて24パーセントの減にあたる。この節約は、主に販売台数が減って購入費が下がることによる。エネルギー費は6億ユーロ減るが、修理・保守の費用は8億ユーロ増える。差し引きの支出の節約は198億ユーロ、一世帯あたり98ユーロだ。製品ページの説明は、修理しやすくなって寿命が延びると、販売台数が減って購入費が下がる、という順序だ。修理費が増えるのは、修理が増える想定だからである。つまり、節約の中心は、修理そのものの費用ではなく、買い替えが減ることだ。「企業に流れていた額の裏返し」とは、公式の推計から言えない。
ペアリングを禁じた州、機能を止めた会社
部品ペアリングを禁じる法律を作ったのは、EUではなく、米国の州だった。オレゴン州のSB 1596(2024年3月署名)は、2025年1月1日以降に製造された機器について禁じた、と報じられている。コロラド州のHB24-1121(2024年5月署名、2026年1月1日施行)は、2026年1月1日以降に初めて販売または使用された機器で、ペアリングを使って、修理者や持ち主が交換部品を取り付け、有効にすることを妨げることなどを禁じる(州議会の公式要約で確認した)。ニューヨーク州(2022年12月署名)とカリフォルニア州のSB 244(2023年10月、2024年7月1日施行)は、部品、工具、文書の提供を求めるが、ペアリングについては定めていないとされる(州消費者局のガイドと報道による)。
法律が、予想外の結果を生むこともある。マサチューセッツ州では、2020年の住民投票(約75パーセントで可決とAPが集計した)で、自動車のテレマティクスのデータを、独立系の修理業者にも開放する法律が成立した。スバルは2022年モデル以降、同州で売る車のテレマティクス(StarLink)を止め、起亜もKia Connectを止めたと報じられている。法律が求める「標準化された公開のデータ基盤」がまだ存在しないので従えない、という理由だった(二次情報)。「直せる自由」を命じられた会社が、データを渡す代わりに機能そのものを止める。所有者が受け取るのは、直せる自由か、機能か。
この争いの根にある文書が、一つある。ジョン・ディアが2015年、米国著作権局に出した意見書(全文を確認した)だ。明示の書面ライセンスがなければ、車両の所有者は「車両の寿命の間、車両を動かすための黙示のライセンス」を受け取る。このライセンスに反してソフトウェアにアクセスすれば、技術的保護手段がなくても、著作権、営業秘密、契約上の権利を侵しうる、と書いている。同じ意見書は、本を買っても本の中身の著作権は手に入らない、というたとえも使う。トラクターを買った農家が手に入れるのは、トラクターの所有と、その中のソフトウェアの使用許諾、に分かれる、という論理だ。
米国の著作権法は、この論理に例外を設けてきた。著作権局は3年ごとに、技術的保護手段を回避してよい場合を定める。2015年に自動車、業務用車両、農業機械の制御プログラム、2018年にも対象が広がったと報じられている(この2018年の規則の本文は未確認)。2021年には「主に消費者が使うために設計された、正当に入手した機器」全般の診断、保守、修理が、2024年には小売の業務用調理機器(アイスクリーム機など)が加わった(2015年、2021年、2024年の規則は連邦官報で確認した)。ただし、認められるのは「回避すること」の例外だけで、回避の道具を配ったり売ったりすることの禁止は外せない、と2021年の最終規則が明記している。直す自由は、道具の手に入らない自由でもありうる。
FTC(連邦取引委員会)は2021年に議会への報告書「Nixing the Fix」を出した(全文を確認した)。修理の制限の種類として、修理を難しくする設計、部品と情報の不在、特許と商標、ソフトウェアのロックとファームウェア更新、エンドユーザー・ライセンス契約(EULA)などを挙げ、メーカーが挙げる修理制限の正当化を支える証拠は乏しい、と結論した。Repair Associationが52製品(携帯電話、パソコン、スマートTV、農業機械など)のEULAを調べて、修理を制限していると報告した、という記述もある。2025年1月には、FTCと州がディアを提訴した。2026年7月8日に和解が発表され、ディアは10年間、正規ディーラーと同じ修理用の資源を、農家と独立系修理業者に提供する(FTCのプレスリリースによる。提出されたのは裁判所の承認が必要な合意命令案で、承認されたかは確認できなかった)。
所有は、買ったものに付いてくるのか

日本の民法は、所有権をどう定めているのか。第206条は、「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する」と書く。第85条は、この法律で「物」とは有体物をいう、と定める。民法の所有権の対象は、形のあるものだ。電子書籍のデータそのものは、民法上の「物」ではない。ケトルの中の制御プログラムも、同じ位置に置かれる。
著作権法には、所有者に関わる規定がある。第47条の3は、プログラムの複製物の所有者が、自分で実行するのに必要な限度で複製できると定める。第47条の4第2項は(所有者に限った規定ではない)、記録媒体を内蔵する機器の保守または修理のために、内蔵記録媒体の著作物を一時的に別の媒体に記録し、修理のあとに戻すことを認める。ただし書きとして、著作権者の利益を不当に害する場合は除く。アクセスを制限する技術的な手段を回避して修理することを、正面から認める規定があるかは、今回確認できなかった。
デジタル製品では、「買った」と「持っている」が、はっきり分かれる。2009年7月、Amazonは、権利のない第三者が出品していたとして、オーウェルの『1984』を、販売サイトだけでなく、利用者の端末からも遠隔で消し、返金した。創業者のベゾスは、この対応を「愚かで、軽率で、私たちの原則からひどく外れていた」と謝罪した。授業の課題で読んでいて、書き込みごと消えた高校生らが提訴し、15万ドルで和解した。和解では、米国の利用者の端末から本を遠隔で消すのは、本人の同意、未払い、返金請求、裁判所の命令などの場合に限ると約束した(二次情報)。
端末も止まる。Spotifyの車載端末Car Thingは、2024年12月9日に全台が使えなくなった。当初は返金されず、提訴を受けて返金に応じたと報じられている(二次情報)。Humane AI Pinは、HPが資産を1億1,600万ドルで取得するのに伴い、2025年2月28日に通話、メッセージ、AI機能が止まり、返金は出荷から90日以内の購入者だけだった(二次情報)。
法律も動いている。カリフォルニア州のAB 2426(2024年9月署名、2025年1月1日施行)は、購入後にアクセスを取り消されうるデジタル商品を「購入」という語で売るなら、それがライセンスにすぎないことを購入時に確認させるか、目立つ形で表示しなければならないと定める(法案提出者の発表と法律事務所の解説による。条文は未読)。ペルザノウスキとフーフナーゲルが2017年に発表した研究は、模擬のオンラインストアで、約1,300人のインターネット利用者に調べて、「今すぐ購入」で買ったデジタル商品を、多くの人が、持ち続けられる、貸せる、譲れる、売れると誤解していたと報告した。ボタンの横に短い注記を置くと、「所有している」と答える人が、電子書籍で23パーセント、mp3で20パーセント、映画で13パーセント減ったという(著者のブログの表記で、ポイントの差か割合の変化かは分からない。論文本文は確認できなかった)。
所有とは何か。ペルザノウスキの『The Right to Repair』(ケンブリッジ大学出版局、2022年)は、企業が知的財産法、ハードウェアの設計、ソフトウェアの制限、価格戦略、宣伝文句を組み合わせて、消費者が自分の持ち物を直すのを妨げてきた、と論じる(出版社の紹介文と目次による。本文は未読)。FTCの報告書の中で、消費者技術協会の担当者は、ソフトウェアが組み込まれる前は所有ははっきりしていた、持っているか、持っていないか。ソフトウェアで少し複雑になった、と述べた。「少し複雑」という表現は、かなり控えめに見える。
直せることは、誰にでも平等ではない
ここまでの話は、制度の側の話だった。使う側の話も、書いておく。分解し、部品表を読み、必要な工具を揃え、実際にドライバーを握る。それができるのは、時間と、多少の失敗を許容できる余裕がある人に限られる。忙しい人にとっては、修理に費やす数時間より、新しいケトルを買いに行く数十分のほうが、安い買い物だ。
意識の調査にも、望ましいと考えることと、行動のあいだの距離が見える。2020年の特別ユーロバロメーター503(欧州委員会のプレスリリースによる。報告書本体は未読)では、ほぼ10人に8人が、メーカーはデジタル機器を直しやすくするよう義務づけられるべきだと考えた。一方、フランスの調査(HOP、2021年12月)では、指数を知っている人が回答者1,206人の55パーセントいたが、2021年に対象の製品を買った762人のうち、購入時に指数を目にしたのは28パーセントだった。分母は違う。「直せるほうがいい」と考えることと、直せるかどうかを買うときに確かめることと、実際に直すことのあいだには、距離がある。日本については、「修理して長く使う」人の割合を示す、最近の公的調査を見つけられなかった。
修理可能性の指数が、安心材料として働く面は、あるかもしれない。分解の手順が公開されている、部品が買える、というだけで、壊れたときに為す術がない状態と、為す術はあるが今回は選ばなかった状態の、どちらに立つかが変わる。後者には、少なくとも自分で下した判断だという実感が残る。ただ、これは私の読みで、実験で確かめた話ではない。調べた範囲に、そのことを測った研究は見つからなかった。
身の回りのすべてのモノの構造を把握しておくことは、それ自体が労働だ。すべてを「透明化」する理想を追えば、新しい種類の疲労を生むだろう。何かを知らないままにしておく自由、中を見ないと決める自由も、正当な選択のはずだ。修理可能性を誇らしげに語ることにも、距離を置きたい。分解を楽しめるのは、失敗しても大きく困らない余裕があるからで、それは美徳というより、条件のよさかもしれない。
モノの一生を決める力は、誰の手にあるのか
ロンドンは、モノの一生を決める力を政府に置こうとした。いまその力は、設計の判断、部品の供給、ソフトウェアの更新、ライセンスの文言のどれかに、分散して置かれている。iFixitの点数、フランスの指数、EUの規則、州法、FTCの訴訟は、その力の一部を、持ち主の側に取り戻そうとする試みだ。それぞれに、穴がある。EUの規則はペアリングを禁じておらず、フランスの指数は自己申告で、米国の例外は道具の頒布を許さない。
ケトルに戻る。次に何かを買うとき、値札の横にあるかもしれない修理可能性の表示や、部品表が公開されているかどうかを、確かめることはできる。確かめたところで何が変わるのかは、試してみないと分からない。少なくとも、値段と見た目だけでモノを選んでいたときには存在しなかった問いが、そこに生まれる。モノの底に小さなネジが見えるとして、それを開けるかどうかを決める権利が、自分の側に残っているのか、残っていないのか。それを買うときに知っておく、というのが、所有と呼べるものの、最低限の手触りなのだと私は思う。
出典
- Bernard London (1932). Ending the Depression Through Planned Obsolescence. New York.(プロジェクト・グーテンベルク #72003。全文を確認した)
- (二次情報)英語版 Wikipedia, “Bernard London”(ロンドンの職業と、「計画的旧式化」の起点についてのスレイドの留保)。Giles Slade (2006). Made to Break: Technology and Obsolescence in America. Harvard University Press.(本文は未確認)
- Markus Krajewski (2014). The great lightbulb conspiracy. IEEE Spectrum, 51(10), 56–61.(ウェブ版の本文の数値の箇所を確認した)。https://spectrum.ieee.org/the-great-lightbulb-conspiracy
- Prakash S, Dehoust G, Gsell M, Schleicher T, Stamminger R (2016). Einfluss der Nutzungsdauer von Produkten auf ihre Umweltwirkung: Schaffung einer Informationsgrundlage und Entwicklung von Strategien gegen „Obsoleszenz“. Umweltbundesamt, TEXTE 11/2016.
- (二次情報)フランスのAppleをめぐる予備捜査と取引罰金(2018年〜2020年)の報道。
- Jeff Suovanen (2023). How iFixit scores repairability. iFixit News, 2023年5月18日。 / Kyle Wiens (2023). We are retroactively dropping the iPhone's repairability score. iFixit News, 2023年9月19日。 / Jeff Suovanen (2024). An update on iPhone repairability scores. iFixit News, 2024年10月9日。
- フランス環境移行省「Indice de réparabilité」。Loi n° 2020-105 du 10 février 2020(AGEC法)。計画的旧式化を犯罪とした2015年のフランスの法律(Loi n° 2015-992。当時の条番号は L213-4-1 で、現在の消費法典では L441-2 とされる。二次情報による)。 / HOP (Halte à l'Obsolescence Programmée) (2022). French Repairability Index: an investigation report.(支援団体による報告書)
- (二次情報)DGCCRF の監査(2022年、523事業所)の報道。公式ページは確認できなかった。
- Commission Regulation (EU) 2023/1670 of 16 June 2023(スマートフォン等のエコデザイン)、Commission Delegated Regulation (EU) 2023/1669 of 16 June 2023(エネルギー表示)。欧州連合刊行局 CELLAR の官報テキスト。
- 欧州委員会「New EU rules for durable, energy-efficient and repairable smartphones and tablets start applying」(2025年6月20日)、および同委員会のエネルギー効率製品ページ「Smartphones and tablets」(Ecodesign Impact Accounting Overview Report 2024 にもとづく推計。報告書本体は未読)。
- コロラド州 HB24-1121 の州議会の公式要約。(二次情報)オレゴン州 SB 1596、ニューヨーク州 Digital Fair Repair Act、カリフォルニア州 SB 244、マサチューセッツ州の自動車データ法とスバル・起亜の対応についての報道・解説。
- Deere & Company (2015). Comments to the U.S. Copyright Office, Class 21 (Vehicle Software).(全文を確認した)。https://www.copyright.gov/1201/2015/comments-032715/class%2021/John_Deere_Class21_1201_2014.pdf
- 米国連邦官報: 80 FR 65944(2015年)、86 FR 59627(2021年)、89 FR 85437(2024年)。(技術的保護手段の回避の例外)2018年の規則(83 FR 54010)は本文を未確認。
- Federal Trade Commission (2021). Nixing the Fix: An FTC Report to Congress on Repair Restrictions.(全文を確認した)/ FTC プレスリリース(2026年7月)。提出されたのは裁判所の承認が必要な合意命令案。https://www.ftc.gov/news-events/news/press-releases/2026/07/ftc-states-secure-settlement-deere-company-advancing-farmers-right-repair [裁判所の承認が必要な合意命令案。承認されたかは未確認]
- 欧州委員会プレスリリース IP/20/383(2020年3月5日)。特別ユーロバロメーター503の紹介。報告書本体は未読。
- 日本の民法第85条・第206条、著作権法第47条の3・第47条の4(e-Gov 法令検索)。
- (二次情報)Kindle『1984』の遠隔削除(2009年)、Spotify Car Thing(2024年)、Humane AI Pin(2025年)の報道(TechCrunch ほか)。カリフォルニア州 AB 2426 の法案提出者の発表と法律事務所の解説。
- Perzanowski A, Hoofnagle CJ (2017). What we buy when we “buy now”. University of Pennsylvania Law Review, 165(2), 315.(著者のブログによる。論文本文は未確認)/ Perzanowski A (2022). The Right to Repair: Reclaiming the Things We Own. Cambridge University Press.(出版社の紹介文と目次による。本文は未読)
